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ありきたりな話です。
※指摘を参考に少し編集しました。
「ねぇ〜サトコ〜、この話面白いから見てよ〜」
下校の準備をしていたサトコに、親友のユミが携帯を見せながら話しかけた。ユミがサトコにこの手の話を薦めてくるのはもう5度目。なのでサトコは特別興味を示すわけでもなく淡々と教科書を鞄に詰めた。
「またなの〜? ユミがオカルト話好きなのは分かるけど、私は別に興味ないんだってば」
ユミが面白いと言う話は、だいたいいつも胡散臭いオカルト話だった。サトコとしても友達のお薦めを無視するのも気が引けるので毎回読んではいたが、妖怪だのお化けだの都市伝説などとどれもこれも怖くもなんと無い物ばかりだったのだ。さすがのサトコも今回は明らかにめんどくさそうな顔を覗かせた。
「今回は本当面白いんだって! それに良くある話なんだけどこれを読んだ人は、誰かに読ませないと殺されちゃうんだって! 私もまだ半分しか読んでないから、サトコ私のためだと思って読んで! お願いっ!」
ユミの付け加えたありきたりな設定が、サトコの興味をより一層冷めさせる。サトコは鞄を手に取り、イスから立ち上がる。ユミの言葉を流すかの様に教室の出口へ向った。
「ほらほら、ユミもいつまでも変な話してないで帰るわよ」
サトコの態度を察したのか、ユミもしぶしぶこの日は諦める事にした。
帰り道、ユミはなんとかサトコにオカルト話を見てもらおうと、遠まわしに話を進めだした。だけど付き合いの長いサトコにとっては、ユミのその行動もバレバレでその姿が子供のようで可愛くも見えていた。
「それがさ、いきなりネットのオカルト仲間からこの物語を貰ってさ。なんか夜道で誰かに付けられてると感じた女性の話っていうから面白そうでさ〜、ってサトコ真面目に聞いてるの?」
「はいはい、真面目に聞いてますよ〜」
「あ〜! また信じてないでしょ〜! 読んでみないとわからないじゃんよ〜!」
「そんな、夜道で付けられるとかストーカーか何かでしょ? それにあの誰かに読ませないと死ぬって奴? それって、結局作者がいろんな人に読ませたいから作った嘘の設定に決まってるじゃん」
「そんな〜! サトコは私が死んじゃってもいいの?」
今日のユミは必要以上にサトコに食い下がった。いつもなら大体のあらすじを話して、それでサトコが読んでもいいかと判断したのだけ読んで貰っていたのだ。それなのに今日は乗り気じゃないサトコに対し、どうしても読んで欲しいというユミ勢いが違っていた。サトコとしてもいつもより必死に薦めて来るユミの様子から、もしかしたら本当に面白いのかと少し興味を示し始める。
「それじゃユミは、私がその話読んで死んでもいいの?」
サトコがユミの揚げ足をとるかの様にからかった。しかし、ユミの反応は予想以上に真面目な反応だったのだ。
「それはヤダよ……。私だってサトコに薦めたくはないんだけど、私のお話真面目に聞いてくれるのってサトコしかいないしさ……。サトコは友達多いから、きっと誰かに薦めるから安全だとも思ったし……。ごめん、やっぱいいよ。これは友達には頼んじゃダメだったよね」
ユミはものすごく神妙な面持ちを見せ、何かに怯えているようにも見えた。目には今にも溢れんばかりの涙がたまっていて、それを必死にこらえている。サトコもその様子に気付き、なにか奇妙な感覚を覚える。
「ユミ……」
サトコが声を掛けようとすると、ユミは一転して笑顔で答えた。
「いや、忘れて〜! また今度さ、すっごい面白くて怖い話持ってくるからね」
ユミの一転した態度がより一層サトコの不安を煽った。付き合いが長いからこそ分かる様子の変化をサトコは見逃さなかった。
「そのネットのオカルト友達ってのに薦めるのは出来ないの?」
「え? いや、それがね……」
ユミがそれ以上をサトコに教える事は無かった。ユミの俯いた表情を見たサトコも、必要以上に問う事もなくこの日は帰宅する事にした。
駅に着き、それぞれのホームへと向っていく。
「じゃ、また明日ねユミ」
「うん……、また明日ねサトコ」
2人の家はちょうど反対方向なので、ホームが向かい合わせになっている。サトコが向かいのホームに目をやると、やはり浮かない表情のユミが立っていた。ユミはふらふらとホームを歩き出し、それを見ているサトコも自然と「もしかして」の状況を考えてしまう程だ。まさかとは思っているサトコがユミに声をかけた。
「ユミー! 本当に困ってるなら後でメールで送っていいからね!」
サトコの声に気付いたユミが虚ろな表情でサトコを見つめた。目があったサトコが見たのは、学校の帰り際に自分を呼び止めたユミの表情からは想像も出来ないほどの暗い顔だった。そして、ユミも何かをサトコに告げようと口を開く。
「サトコ! 私ね」
ガッタン、シューーーーー……。
サトコはユミの事を気にして気付いていなかった、反対のホームにちょうど電車が来ていたことに。ユミが最後に何を言いかけたのかわからないサトコであったが、もしかしての状況が起こらずにほっとした気持ちが強かった。ユミがメールをしてくるとも核心しているし、読ませようとしたありきたりなオカルト話がどんな物なのか、サトコ自信も少し気になりだしていた。
家に帰ったサトコは、部屋着に着替えるなりパソコンの電源を入れた。ユミの話してた話がどんなのかを調べようと思っているようだ。
「なんて検索すればいいんだろ〜」
ユミから聞いたキーワードを思い出しつつ、サトコは何度も検索をかけた。しかし、その手の話はネット上には5万と存在しており、ユミの話がどれを言っているのかはわからなかった。それと同時にネットで簡単に見れてしまうので、もしも本当に呪い的な物が存在するならもっと大騒ぎになってるはずとサトコは自分のやってることがバカバカしく思えた。そして日課であるブログに日記をつける。サトコは高校に入ってから毎日ブログをつけていた。毎日のささいな事やユミとのやり取りなどまさに平凡な日記帳。最初は手書きのを使っていたが、学校のパソコンの授業でブログの事を知り、サトコは楽なブログを選んだ。ブログとはいってもインターネットで誰かに見てもらうためではなく、ただ自分の日記を書いているだけなのでアクセス数は自分の分しかない。このブログはユミにさえ教えていない場所なので、サトコの本音もいろいろ書かれている。そしてこの日の日記には「ユミがいつものオカルト話を薦めてきた。またかとは思ったけど、今日のユミはなんか様子がおかしかった。まあ、私はオカルトとか信じてないからユミがどうしてもって言うなら呪いの話みたいなのも読んであげてもいいんだけどね〜。あ〜、今日は体育頑張りすぎたのかすごい眠いや。ご飯食べて寝るかな〜」と書かれていた。
夕食を食べ終え風呂にも入ったサトコだったが、その間ユミからのメールが来る事はなかった。長い付き合いなのでユミがメールをしてくるのはわかっていたはずなのに、なぜかこの日は来ない事をサトコは不思議に思っていた。自分からメールを出そうとも思ったが、眠気が襲ってきたのでこの日は早く寝る事にした。
――チャンチャンチャン〜チャンチャンチャン〜。
サトコは携帯のメール着信音で目を覚ました。携帯の時計を見ると時刻は夜中の1時と表示されている。
「誰よ、こんな時間に……ふぁああ〜」
大きなあくびに涙目になりながらメールの相手を確認するとユミからだった。メールを開くと、何の文章もなくどこかのアドレスが貼ってあるだけの物だった。
「ミスったのかな」
ユミのミスだと思ったサトコは、返信で『どうしたの〜?』と送り返す。そして、ユミの返事を待ってる間に再び眠りについていた……。
翌朝サトコが目を覚ますと、携帯がメールを1通着信していた。相手はもちろんユミで、時間は返信してから十分後だった。
「あちゃ〜、寝ちゃったんだったそういえば。えっと『すぐに話を読んで』ってこれだけかい。あ〜、これが例の話が載ってるサイトなのね〜。まあ、授業中暇だし後でいっか」
サトコはとりあえず寝てしまった事を謝るメールを一通送り学校へ向った。だけどユミからは返事はなく、サトコは学校で直接謝る事にした。
学校へ着いたが、ユミは来ていなかった……。
ホームルームの時間になり、担任の教師が教室に入ってくる。今まで遅刻などしなかったユミが、なぜかこの日はまだ学校に来ていなかった。サトコはユミが遅刻をしない事を知っていたので、今日は風邪かなにかで休んでいるのだと思っていた。しかし、次に担任の口から出た言葉を聴いてショックを受ける事になる。
「実は、今日はとても悲しい事があった……。みんな驚かずに聞いてほしい。この後集会を開く事になって、そこで校長から詳しく聞くと思うが、昨日……、市川ユミが亡くなった」
クラスのみんなが騒ぎだす。話を聞いたサトコも目を点にしながら勢いよく立ち上がった。そして担任の元へ詰め寄る。
「どういう事ですか! 昨日の夜までユミは元気だったのに!」
担任は俯きながら、悲しい表情をしている。サトコも強い口調ながら目からは自然と大量の涙がこぼれていた。その場で座り込み、大きな声を上げながら泣いた。それを見ていたクラスの一部も、もらい泣きのように連鎖的に泣き始めている。さっきまで騒がしかった教室は、一転してみんなの泣き声に包まれた。
「昨日の夜中メール着たんです、ユミからメールが着たんですよ……。なんでユミ、なんでユミは死んじゃったんですか」
何度も呼吸を苦しくさせながら両手で涙を拭っているが、止め処なくあふれ出てくる。担任は「校長が詳しく言うから」としか教えてくれなかった。
体育館に移動し、緊急集会が開かれる事になった。サトコ達の泣き顔を見たほかのクラスや学年の生徒は「何事だ?」と言わんばかりの不思議そうな顔をしている。集会が始り、校長が真剣な顔をしながら文章を読み始めた。
「え〜、もう知っている生徒もいるかもしれませんが、昨日の深夜に2年4組の市川ユミさんが亡くなられました……」
その後も校長の話は続いた。悲しいだとか、同学年のみなさんは一緒に卒業できなくてとか、この学校から不幸な事がどうのこうのとかいろいろ言っていたが、サトコの耳にはほとんど入ってこなかった。そして最後に全校生徒で黙祷を捧げた。静まり返った広い体育館には、2年4組の生徒達の泣き声だけが響き渡っている。この日、この後の授業は臨時休校という事でなくなり、全校生徒が帰宅する事になった。サトコはもう出なくなった涙を擦り、目を赤く腫れあがらせながらふらふらと歩いた。突然立ち止まったサトコは家には戻らずに、急いでユミの家に向う事にした。
昨日ユミと最後にあった駅に着き、いつもとは逆のホームにサトコは立った。そこから昨日自分が立っていた位置を見ながら、昨日のユミのいつもと違う雰囲気を思い出した。そしてさっき枯れたはずの涙が再びサトコの頬を伝う。そしてサトコは声を上げて泣きそうになった時、電車がホームに入ってきた。
「ユミは昨日、最後私に何を伝えたかったの……」
ユミの家があるのは学校の最寄り駅から4駅先の場所だった。電車に揺られながらサトコは外を見ているが、目からは涙がずっと流れ続けている。幸いだったのがまだ早い時間という事もあり、サトコの車両には他に客がいないという事だけだった。何かを思い出したようにサトコが携帯電話を鞄から出し、昨日の夜ユミから来たメールを開いた。そしてそこにたった一つ書かれている何かのアドレスをクリックする。
「これって……」
誰もいない車両からか、思わずサトコが独り言を呟いた。
「これってユミのブログ……? なんでユミは私にこれを送ったの?」
そのアドレスはユミが書いたと思われるブログだった。そして最後に書かれた日記を見て、再びサトコの感情が悲しみの底へと落ちていく。昨日の深夜書かれた日記には「どうしよう。どうしてもこの話の真実を確かめたい。でも、もし本当だったら私は死んでしまう……。サトコにお願いしたけどまともに聞いてくれなかったし、私自身こんなに危険な物を親友のサトコに薦めてたと思うと自分が恐ろしくなるよ。でも、もう時間がない。ごめんねサトコ。やっぱ私が頼れるのはもうサトコしかいないの。ごめんね、ごめんね、ごめんね。お願い、このブログの1週間前の日記から例の話が書いてあるから読んで。もう、私には時間がないの……。ごめんね。」と書かれていた。そして数行空けたあと、最後に「私の後ろにいるのは誰?」と。その日記を読んだサトコは、本当にユミが悩んだ末に自分を頼った事を知った。それと同時にかなりの疑問も浮かび、自分が昨日寝てしまった事を後悔した。
サトコが悲しみから立ち直れないまま電車は目的の駅への到着を知らせる。ユミの事を知りたいサトコはなんとか立ち上がり、駅のホームに降り立った。空を見上げると先程まで晴れていた空が影を潜め、やがて小粒の雨が降り注いできていた。
サトコはユミの家の前に着いた。家の前にいても聞こえる声でユミの母親の物と思われる泣き声が聞こえてきた。改めてユミが死んでしまった事実をサトコは思い知らされるのだった。ユミの家はとてもお金持ちの家で、外から見たら本当にテレビや映画で出てきそうな豪邸である。そんな家で大事に育てられた一人っ子のユミが突然の死を迎え、きっと両親は想像もできないほどの悲しみに溺れているのだろうとサトコは思った。しかしサトコにも気になる事があったし、一番の親友であったユミに起こった不幸をちゃんと聞きたかった。きっとユミを前にしたら涙が止まらなくなる事もわかっている。サトコは今にも零れ落ちそうな涙を堪え、勇気を振り絞ってインターホンを押した。
――ピンポーン。
いつもと変わらないはずのインターホンの音が、サトコにとってはいつよもり一段と響いたように思えた。数秒の間を置き、玄関の扉が開いた。
「やあ、サトコちゃんか。来てくれたんだね、ありがとう……」
玄関から現れたのはユミの父親だった。笑顔でサトコに対応はしていたが、目は赤く腫れ上がりとても疲れた顔をしている。サトコに対しての言葉も、最後の所は今にも泣きそうな雰囲気が伝わってくる。サトコは家の中へ招き入れられ、広い廊下を行くユミの父親の後を着いて行く。ある部屋の前でユミの父親が止まった。中から聞こえてくる泣き声でサトコはわかった。ここにユミが眠っている事を……。
「サトコちゃん……。ごめんなさいね、こんなみっともない姿で……。ほら、ユミ、サトコちゃんがお前に会いに来てくれたよ……」
ユミの母親が再び泣き崩れた。その姿を見ていたサトコの目頭も自然と熱くなっていく。その部屋には線香の香りが漂い、一番奥にはユミの写真と花と線香、そして白い布を顔に掛けて眠っているユミがいた。サトコはまだユミの顔を見たわけではないが、すぐさま眠っているのがユミだという事がわかった。飾られた写真の中のユミはとても笑顔で、それを見たサトコは堪えていた涙を解き放った。
「ゆ、ユミ……。なんで、なんで死んじゃったの」
ユミの父親が顔に乗せていた白い布を取り払った。それを見たサトコは声にならない声で泣き崩れる。我慢していたであろう父親も静かに泣き始め、その部屋には3人の泣き声が響き渡った……。何分間そんな状態が続いたのか3人とも分からないが、ユミの母親が口を開いた。
「昨日ね、ユミがなかなかお風呂に下りてこないからね、0時過ぎに呼びに行ったのよ……。そしたら、ユミが倒れてて……。すぐに救急車を呼んで病院に行ったんだけどね、もう遅かった……。原因不明の突発性心筋梗塞らしいわ……。でもねサトコちゃん、ユミは最後までサトコちゃんにメールを送ろうとしてたのよ。ユミと本当に仲良くしてくれたのはサトコちゃんだけだったからね……。本当にいつもありがとうね。今日だってサトコちゃんが来てくれて、ユミもきっと喜んでるわ……。もしよかったら、これからも好きな時に遊びに来ていいからね。あと、ユミのお墓参りもしてくれるときっと喜ぶと思う。本当、ありがとうね……」
サトコの頭には昨日のメールの事やオカルト話の事などが浮かんだが、悲しみの前ではその思考は無意味だった。さらに、ユミの母親の話に疑問もあったがとてもそんな事を冷静に考えられる状態でもなかった。サトコの口からは泣き声以外の物は出てこなかった。泣き声と沈黙が何度も繰り返され、いつの間にか数時間が経過していた。ユミの父親が一瞬腕時計に目をやり、空気を変えるかのように口を開く。
「サトコちゃん、そろそろ帰らないと家の人が心配するよ。おじさんが家まで送ってってあげるね。お葬式などの詳しい事はまた連絡するから、今日は本当にありがとうね」
サトコはその言葉に対し軽い会釈しかできなかった。結局それ以上眠っているユミに対しなんの言葉も掛けられないまま、この日は家まで送ってもらう事にした。
「それじゃ、ありがとねサトコちゃん。家の人にもよろしく言っておいてくれるかな」
サトコの家の前に着いた。車の中では移動中もお互いなんの会話もなく、暗い空気が漂っていた。最後に一言残し、ユミの父親は帰っていった。その顔からは悲しみが伝わってくる。
家の中に入ったサトコはさっそく母親にユミの事を話し、部屋へと駆け上がっていった。静まり返った部屋で改めてユミの事を考えたサトコは、今まで当たり前のように隣にいた存在がいなくなる孤独感を噛締めている。昨日の夜最後にユミから来たメールを開き、再び悲しみが襲ってきたが、不思議と涙は流れなくなっていた。
「やっぱり、メールの時間は1時だ」
少し冷静になったサトコはユミの母親の話を思い出し、メールの着信時間の矛盾を考えていた。昨日の1時に来たメールだが、ユミは昨日の0時に病院に運ばれている。しかもユミの母親の話では「メールを送ろうとしていた」と言っていたのだ。オカルト話はいまだに信じられないサトコだったが、少し気になっていたのも事実。パソコンの電源を付け、ユミから送られてきたブログのアドレスを開く事にした。
「やっぱりこれはユミのブログ……」
文章を見るとやはりユミの書いた物だった。付き合いの長さからか、文章からもユミのクセみたいなものがサトコには見て取れた。ブログの記事は全部で7件。ちょうど1週間前から書き始めたブログだった。ユミ何が起こっていたのか知りたかったサトコは、少し不気味な雰囲気を感じながらもブログを最初から読んでみる事にした……。
――1日目。
「今更だけどブログ開設! 日記とかはいつも挫折しちゃうタイプだけど、今回は続くといいな〜! さっそくだけど私はオカルト話が大好きで、ちょうど今日ネットのオカルト友達から新しい話をゲットしたよ! その人のブログに載ってた話なんだけど、夜道で誰かにつけられてると感じた男の話で、なんとこの話を最後まで読んだ人は1週間以内に誰かに同じ話をしないと……死んじゃうらしいの! って、まあよくある話なんだけどね。でもやっぱり絶対嘘とも言えないから慎重に読まないと! 本当はその話を全部ここに書きたいんだけど、そうしたら読んだ人が死んじゃうからね、だから書けないんだ〜残念! と、今日はこの位にしとくかな。さっそく私は話を読み進めようと思います〜、それではまたね!」
サトコはユミのブログの1日目を読み終えた。いつもと変わらないオカルト話を楽しそうに話すユミの姿が思い浮かぶ文章だった。電車の中で読んだ最後の日のブログの「時間がない」は、この記事を見る限り1週間の時間制限の事を指しているのだという事がわかった。しかし、1つのおかしな点をサトコは見つけた。それはユミから聞いた話とこのブログの相違点である。ユミの話しでは「誰かにつけられていると感じた女性の話」だったが、このブログには男と書かれていた。サトコは何か興味がすごい沸いて来るのを感じ、次の日の記事へと読み進む。
――2日目。
「2回目のブログだよ〜! 昨日記事に書いたオカルト話だけど、結局昨日のうちに全部読み終えました〜! ん〜、あんまり怖くないかもしれないけど少し気になるお話って所かな? そういえば、私にこの話を教えてくれたネットのオカルト友達は、この話を読んでから何日経ったんだろ? 実はこの話聞いたのが一昨日で、読んだのが昨日だったんだよね。 まさか教えてくれた人もぎりぎりだったって事はないよね? って、それよりも私も1週間以内に誰かに教えないと死んじゃうのかな?」
2日目の記事から、ユミはすでに1週間前にこの話を読み終えてた事がわかった。サトコに執拗に話を薦めてたのは、やはりこのことが原因であったのだろう。サトコは少なからず不安を感じ始めていた。ありえないとは思いつつも、もしも本当にこの話が事実なら自分のせいかもしれないと考えたのだ。さらにサトコはブログを読み進める。
――3日目。
「おかしいな〜、オカルト友達と連絡が取れないや。ネット上での知り合いでしかないから、メールアドレス以外知らないしどうしたものか! まさかね〜、ちょっと今回のお話を気にしすぎたのか、夜トイレ行くのとか恐いよ〜って子供みたいだね私(笑)とにかくこのお話についての情報収集でも始めるかな。でも一応誰かに読んで貰いたいな……。サトコなら読んでくれるかな〜、でも大事な友達にこんな危ない話進めるわけにも行かないや!」
3日目の記事を読み終えたサトコの目から大粒の涙が音も無く落ちていた。泣き声をあげるわけでもなく、部屋の中にはパソコンのファンの音が止まることなく響いている。オカルト話を信じていない自分とは違い、ユミはありえないような話の事で友達のサトコを気遣っていたという事実を知っての事だった。サトコは涙を拭った。オカルトを信じてるユミが自分を気遣っていたのに対し、まったく信じてない自分がなんで読む位の事をしてあげられなかったのかと自分に苛立ちを感じていた。もちろんサトコはいまだにオカルト話を信じたわけではないが、ユミの最後のお願いを聞いてあげられなかったことに対し悔いが残っていたのだ。とにかく今はユミの事を少しでも知りたいサトコは、再びブログのページを進めだす。
――4日目。
「どうしよ……他のオカルト友達も全員連絡取れなくなっちゃった。それに最近どうも誰かに見られている気がしてならないの。朝の電車、学校の教室、帰り道の人気のない道路、お風呂入っている時、部屋でパソコンを見ている時、寝ている時。なんかいつも誰かに監視されている気がする……。これじゃ、連絡の取れなくなったオカルト友達のブログに書いてあった話と同じじゃない……。まさかね〜、やっぱ心のどこかで気にしてるのかな? とにかくこの話は早く忘れないと! そうだ、今日は帰りにサトコとハンバーガー食べたよ〜美味しかった〜! サトコは痩せてるくせにやたらいっぱい食べるんだよね、しかもそれでもスタイルが変わらないっていう変人! その体質わけてくれー! そういえばブログってあまり詳しくないんだけど、作ったときに設置したカウンターってのがなぜか全然増えないの。今のところ私が見た4回しかカウントされてないし、何か特別な設定でもいるのかな? この間の学校の授業ちゃんと聞いておけばよかった〜……」
サトコはこの日の記事を見て、思わず思い出し笑いしてしまった。あの日一生懸命悟られないように、ユミがブログの事をいろいろ聞いてたのを思い出したからだった。それと、自分の事もいろいろブログに書いてくれていたのが少し嬉しかったのだ。記事の内容を見てサトコはブログのカウンターに目をやった。ユミがどんな設定をしたかは知らないが、カウンターには「10」という数字が表示されている。これを見たサトコは小声で「誰かに見てもらえたんだね」と呟いた。今日の突然の不幸の知らせからまだあまり時間が立ってないが、サトコはブログの内容が気になってしかたなかった。最初に書かれている「誰かに見られている」がなんなのか気になっていたのだ。
――5日目。
「昨日サトコにブログの設定の事聞いたんだけど、さっぱりわからなかったよ〜……。まあいいや、このブログは日記代わりに使おう! 今日であの話を読んでから5日経ったのか……信じられない話なんだけど、あれから毎日誰かの目線を感じるのは変わってないの。夜一人で歩いていると、誰かの気配を後ろから感じるの。でもね、足音は一切しないし、後ろを見ても影も形もないの。しかも、この状態がまさにこのオカルト話とそっくりなんだよね……。なんなんだろ、本当に不気味だしやめればよかったな読むの。どうしよ、サトコに事情はなして話読んでもらおうかな、サトコは友達多いしきっとすぐ誰かに読んでもらえると思うの。って、私友達にこんな事押し付けようとするなんて最低だよね……」
再び自分の事を友達ととして大切にしてくれているユミの記事を見て、サトコは悲しみとともに嬉しさを覚えた。それと同時に、本当にユミは困っていたという事も見て取れた。
「ユミ……会いたいよ……。なんで死んじゃったの……」
電気もついていない真っ暗な部屋で、パソコンのディスプレイの光を顔に浴びながらサトコが言った。真っ暗な部屋の空間のどこを見てもユミの顔が思い浮かぶサトコ。空間に浮かぶユミを掴むかの様に手を伸ばすが、当然何も掴む事もできず現実の悲しみに戻される。
「ユミが感じていた気配はなんなのかな……考えすぎなのか、本当にお化けかなにかなのか……。ユミの奴、せっかく人が教えてあげたのに結局ブログの設定できなかったんだね。言ってくれればもっと詳しく教えたのに、もっと早くこのブログを教えてくれれば真剣に話を聞いたのに……」
――6日目。
「もうだめ! 明日絶対サトコにお願いする! 絶対誰かに着けられてるよ! それが幽霊なのか怪物なのかはたまた人間なのかわからないけど、これだけは絶対と言えるもん! サトコならきっと分かってくれるはず、だって私たち親友だもん! って、サトコも私の事親友と思ってくれてるのかな……。そうだ、このブログはもう日記状態で誰にも見られてないんだよね。それならあの話をここに書いても誰にも迷惑かからないよね。あ、でも何かの手違いで誰か見たら危ないから軽く内容だけ書いとこうかな。そのオカルト友達のブログによると、その人も誰かのブログでこの話を知ったらしいの。でね、その話のラストに1週間以内ってルールが書かれてるのを見たオカルト友達は、すぐにブログを作ってそこに話を載せたんだって。それで私のとこに情報が来て面白そうだったから見てみたの。最初の記事にその話が書いてあって、その後の記事にはまるで本人が話と同じ状況にあるんじゃないかっていう日記が綴られてたの。でもそのオカルト友達もオカルト大好き人間だから、きっと作り話なんだな〜っと思ってたの。だけど、今実際に私の後ろにいる何かの気配。これを経験したらこの話が本当に呪いかなにか掛かってるんじゃないかって思えてきたよ……。だから私はその「話」をここには載せないよ! でも、サトコお願い信じて私の話を聞いて! お願い!」
この後に、サトコが最初に見た7日目の記事が載っていた。
すべての記事を読み終えたサトコは「このオカルト話が本当であって、ユミに不幸が起きたのももしかしたらこのせいなんじゃ……」と思えてきた。ユミはオカルト好きでよく胡散臭い話をサトコにしていたが、今まで嘘を付いたことがない事をサトコは知っていたからだ。そう思えてきたサトコは、なぜあの日の学校の帰り道で、ユミのおかしな態度に気づいてながらも気づいてあげられなかったのだ、と自分を責めた。しかし、いまさら何かが変わるわけではない。そう思ったサトコは、悲しみをこらえつつこの話の真相を調べる事にした。この話が本当かどうかを調べる事によって、それがユミの死への何かの情報を得られると思ったからだ。サトコの心の中では、もしかしたらこの話が嘘であって欲しいと願っていたのかもしれない。もし本当だった場合は、きっとサトコは自分の事をすごく攻めるであろう。それをサトコは自分の心の中で分かっていたが、認めるとなんとも自分がやましい人間に思えてくるので認める事ができなかった。
サトコは日課であるブログに、今日のユミの不幸の事やこのオカルト話の事を書こうと思い自分のブログのページを開いた。しかし、そのブログにおかしな事が起こっていた。
「あれ? 今まで書いた日記が全部消えてるし、それにカウンターも1になってる……」
きっとサーバーのバグか何かだろうと思ったサトコは、すぐにブログのサーバーの会社にメールで問い合わせをした。しかし、心の中で「まあいっか」程度にしか感じていない。今まで書いた日記が消えたとこでたいした問題でもないし、今使っているブログのサーバーは無料でできるとこなのでそこまで期待はしていなかった。すぐにメールは来ないと思い、サトコはパソコンの電源を消した。
あまりの突然の悲しい出来事で、深い悲しみの後に襲ってきたのは「心の空白」だった。サトコはとても悲しいはずなのに、なぜか何も考えたくないような虚無感に襲われていた。それに不思議に思えたのが、悲しくてご飯が喉を通らないと思っていたのだが、母の作る夕食の匂いを嗅いだサトコはすごく空腹感に襲われていた。この時すでに時刻は夜の7時、この日サトコは朝からいまだに何も口にしていなかったのだ。空腹も相まって母親の作るご飯がとても美味しく感じたサトコだが、こんな悲しい事があっても食欲はなくならない人間という生き物に少し嫌気が差したと感じたようだ。食後に風呂に入ったサトコは、部屋に戻りパソコンの電源を入れた。メールを確認するが、やはりブログのサーバーからの返答はなかった。サトコはあきらめて新しく記事を書き始める事にした。
「今日はとても悲しい事がありました。私の一番の親友だったユミが、突然の不幸に見舞われてこの世を去りました。学校の帰りに冷たくなったユミに会ってきましたが、とても死んでる人とは思えないような穏やかな顔をしていました。こんな時になんて表現すればいいか分からない自分が嫌いになりそうです……。それと、ユミが私に最後に送ってくれたメールがあります。このメールにはユミのブログのアドレスが書いてありました。それとこのメールの着信時間がなぜかユミの死亡時刻より後なのが気になります……。そして何よりも気になるのが、ユミが最後に私に教えてくれた『オカルト話』です。私はこの話を調べて、少しでもユミのやりたかった事を叶えてあげたいと思います。このブログは私にもしもの事があったときのため、調べた情報などを載せてネット上に公表しておきます。ユミ、絶対にオカルト話の真相確かめるからね!」
サトコは何か決意のような物をした。手始めにネットで再びオカルト話を調べる事にしたのだった。
「ブログ2日目! 三日坊主で有名な私の事だから、明日あたりが山場かな! そうそう、オカルト話なんだけど、いろいろ調べて少しだけ情報ゲットしました! 何かユミが書いていた話に似たような話をいくつか見つけたんだけど、どれもこれも少しずつ内容が違うんだよね。男だったり女だったり、ブログだったり手紙だったりメールだったりとね。でも全部の話に共通してる事は2つあって、それは教えてくれた人と連絡が取れなくなるのと誰かに見られてる気配を感じる事。ん〜、こういった話は派生してどんどんいろんな話になっていくらしいから、特別不思議な事ではないみたいだけどね。とりあえず今日分かったのはここまで。これからユミのお通夜に行ってきます。ユミに早く会いたい」
「ブログ3日目! 今日はユミのお葬式があるから調べたりはできないと思う。ユミとの最後のお別れをしてきます。それと、なかなかカウンター増えないんだけど、やっぱり設定間違ってるのかな?」
「ブログ4日目。昨日はユミとの最後のお別れしてきました。このオカルト話は本当の話かもしれません。なぜなら、私自身昨日の夜から誰かに見られている気がするからです。私はそういうの元々信じないタイプなのできっと気のせいだとは思っていますが、あまりいい気はしませんねこれは。夜のトイレはユミが書いていたようになぜか恐く感じますし、人気のない場所がとても恐いです。明日はネットで見つけたオカルト好きの集まりに行ってみようと思います」
「ブログ5日目。やはりオカルト好きの人の話はためになりました。私の話も真剣に聞いてくれたし、この話の事も知っていたようです。その話を聞いた人曰く「本当に呪われる話」とのことです。なぜならその人たちも同じ話を見てしまって調べていたようです。その話を普通なら信じられませんが、今の私なら信じれます。これのせいでユミが死んでしまったとはまだ言い切れませんが、この話の真相を確かめる事で少しでもユミに謝ることができるのではないかと思っています。今日の帰り道、誰もいない住宅街の通路で誰かに追われてる気配がしました。きっとユミもこんな恐怖をずっと一人で抱え込んでいたのだなと思うと胸が苦しくなります。街灯が青く光っているのも余計に不気味に感じ、家の外灯などと混ざって影が何重にも広がり伸びていくのはとても恐いと思いました。一歩私が足を進めるたびに後ろの何者かも一歩進めている気がして、でも音もなにもしないし後ろを見てももちろん誰もいない……。視線って不思議だよね。特に意識しなくても、前から歩いてくる人が自分を見たかどうかもなんとなくわかるし、誰かが見ているとなぜか分かる。逆に私が誰かを見ていたときに、急にその人が振り返って目線が合う事もよくある事。だから言えるのかも。私は誰かに見られていると……」
「ブログ6日目。この間あったオカルト好きの人達に再び連絡を取ろうと思ったら、なぜかダレも応答がなかった。メールだから無視されているって事も考えられるけど、4人全員から返事がないってのはおかしい。私がネットでこの話を見てから今日で5日。もしも本当に1週間以内に誰かに話さないと死ぬという事なら、私はあと2日で死んでしまう。その時のために作ったブログなのに、いまだにカウンターには『6』という数字が表示されている。誰も見てくれてないんだね……。背後にある気配も日に日に強くなっている気がするし、視線も強くなっている気がする。学校ではもうユミの話をする人はいないし、私がいなくなったら誰がユミの事を思い出してくれるの? どうしよう、時間がない。あと2日以内に何か解決策を見つけないと。期限がせまって思うのは、ユミが思ってたのと同じような気持ちかな。誰かに話せば自分は助かるかもしれないけど、こんな胡散臭い話をきっと誰も信じないはず。だからこの話を誰かにしたら、その誰かはきっと誰にも話さずに死んでしまうかもしれない。そう考えると知り合いなどに話す事なんて私には出来ない。ユミも最後の最後までこういう風に私のこと思っててくれたのかな……。ユミ、私はどうすればいいの……?」
「ブログ7日目。今日やっとカウンターが私以外の人のアクセスを確認したみたいで、『9』と表示されている。やっとネット上で誰かに見てもらえるようになったのかな。そういえばユミのブログのカウンターの数字は『10』だったけど、あれって今思えば私が携帯とパソコンで見たから、結局私たち以外で見たのは1人だけなんだよね。そして今日ずっと調べてたんだけど、さっきこの話の真実がわかりました。それをあえてここには書きませんが、やはりこの話は本当に呪いか何かの類だという事が分かりました。なのでこのブログを書くのは今日で最後にしようと思います。ユミの死はやはりこの話のせいだったという事がわかりました。でも、私はなんとか死を回避する事に成功しました! ユミも喜んでくれています。ね、ユミ、これでいいんだよね? いまさら謝っても遅いけど、ユミは私を死なせたくはなかったんだよね? このブログを見ている、私とユミともう一人のあなた。このオカルト話は何種類かあったけど、結局どれも大元の話ではなかった。要するにこの話をブログに書く事によって人から人へと移って行くという事だったの。だから、私は死なない。だって、もう一人がこのブログを最後まで見てくれたから。ごめんね、ごめんね……」
サトコはブログを閉じ、パソコンの電源を消した。机の椅子から立ち上がり、後ろを振り返る。そして誰もいないはずの部屋で、小さな声で語りかけた。
「ユミ、ごめんね。あの時私が信じてればこんな事には……」
サトコの目にはうっすらと涙が浮かび上がっている。ゆっくりと右手を上げ、大きく手を振った。
「私の後ろにいたのはユミ、バイバイ、ユミ……。そして私のブログを見たあなたの後ろにいるのもユミ・・・・・・」
サトコは自分の部屋を出て、母親が料理を並べて待っている台所へ向かって行った。
無駄に長い文章でしたが読んでいただいてありがとうございます。
ありきたりな話ですが、なんとなく書いてみました。
よくある「あなたの後ろにいるの、誰?」って驚かす奴ですね。