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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第1章 「異世界へ来たらチート魔力を手に入れてたんだけどwww 」大間当司
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1-8

 冒険者ギルド「エンデ」。その一角に構える「対転生者特別防衛機関」。そこには「対転生者」に特化した様々な技術が導入されている。そのうちの一つ、「対転生者用防衛壁」、通称「フィールド」もその一つだ。

 基本対転生者戦において、戦場となる場所のカスタマイズは基本である。単純な戦闘力で劣る彼らは、地の利を最大限に利用すること、そしてそれをある程度自由に操作できることが重要である。

 ところが、今回のように環境に及ぼす被害が甚大な事例の場合や、やむを得ず民間人を巻き込みかねない場所での戦闘を余儀なくされた場合において、その被害を最小限に抑える必要がある。その場合には、「フィールド」を展開し、周囲への被害の拡散を防ぐことができる。

 しかし、「対転生者」と銘打っているのにもかかわらず、その強度は未だ十分とはいえない。技術不足なのではなく、単純に転生者の出す被害にスペックが追いついていけていないのだ。そのため、その強度が限界に達する前に片をつけなくてはならない。

 そしてその「フィールド」の内側で、二人の少年が死闘を繰り広げている。

「“ファイアショット”!!」

 今回討伐対象となった少年_____大間当司は、掌から無数の火球を撃ちだした。これまでの強大なモンスターを、葬ってきたその理不尽な火力。それを少年は、目の前の普通の人間に向かって放つ。

 それを、当司と対峙する少年_____トーヤ・グラシアルケイプは自慢の機動力ですべて躱す。キュン!!キュン!!と空気を切り裂く音を奏でながら、トーヤはその弾道、爆発を縫って当司に接近する。

「ならば・・・・・“ライトニング”!!」

 当司は右手をかざして、掌から無数の電撃の矢を放つ。それは彼の魔法の中でも随一の速度とホーミング性に優れるものだ。代わりに威力は最低クラスだが、それを膨大な魔力が強引に帳消しにする。

「(来たな)」

 トーヤは当司が唱えた魔法の名前から、瞬時に判断する。すると彼は一転してマントで身を包んだ。漆黒のマントに身を包み、白い羽毛が頭部をカバーする形になり、さながら翼で自身を覆い隠す鳥のようだ。

 そんな彼にズババババババッ!!と電撃の矢が殺到し、その閃光でトーヤの姿を包み込む。

「きゃぁああああああああああああ?!」

 展開された「フィールド」を取り囲む騎士たち、そしてそれを外から囲む村人たちが悲鳴を上げた。目の前の壮絶な光景に、村人たちはただただ恐れおののくだけだった。

 そんな中で、マナは手に汗握りその死闘を見守っていた。

「(トーヤさん・・・・・・・・・!!)」

 マナはトーヤがここに居ることに驚きを隠せなかったが、それ以上に彼が自分たちの住む村で戦闘を繰り広げたことに驚いていた。

「(本当に、転生者さんと戦っているんですか・・・・・・!?)」

 そのあまりにも違いすぎる世界に、マナはただただ必至に食らいついて見ていることしかできなかった。

「うわっ!?すごいな!!俺の魔法を無効化しちまったよ!」

 と、憎きぴよちゃんたちの敵・・・・・当司が感嘆した。当然だろう。彼にとって魔法を放つことは倒すことと同義であり、これまで一度もまともに耐えられたことも、ましてや無効化されたこともないのだから。

「なら、コイツはどうだ!!“フレイムスロワー”!!」

 少年の掌から、ボゥッ!!と炎が吹き出した。しかも先ほどのように火球のように放つのではなく、火炎放射としてトーヤめがけて浴びせられている。

「・・・・・・・・・っ!!」

 トーヤはすぐさまその場から飛び退き、当司の左手側に回るように駆けだした。伸びた炎は人一人楽に包めるほどの太さを保ったまま、フィールドの壁にまで楽に到達する。圧倒的な炎属性魔力を喰らい、フィールドがバリバリバリィッ!!と激しい音を立てて波打つ。その様子に、村人たちはおろか、その場に居た騎士たちでさえ「うぉおおおお!!」とどよめく。

「っと危ねぇ!!“サンダーショット”!!」

 当司は向かってきたトーヤに、慌てて電撃の矢を放った。「ライトニング」との違いはその威力で、当司の理不尽なほどの魔力で強化されたそれは雷にも匹敵する。その代わり本当に一直線しか飛ばないこと、発射速度自体はライトニングよりは遅いことだ。それでもトーヤは瞬時に察知して素早く宙返りでフレイムスロワーごと飛び越え、距離をとる。そんな彼の後を追うように、電撃の矢が二発、三発と飛んでくるが、いずれも虚空をよぎるだけで終わり、フィールドの壁をバリバリバリィッ!!と波打たせただけに終わった。

「くっそ~~~!!コイツ、全然あたらねぇ!!」

 全く攻撃が当たらないトーヤに対し、当司はかなりいらだっていた。実は当司本人も機動力の高い相手は苦手としており、そのために「ライトニング」を搭載しているのもあった。そんな彼が「ライトニング」を封印され、その他の攻撃もよけられる状況になるなど、本人も思っていなかったのだろう。

 だがそんな彼とは真逆に、トーヤは追い詰められていた。







「(まずい・・・・・・予想以上に魔力の消費が激しい・・・・・・)」





 これだけ回避と無効化を繰り返しておきながら、トーヤはほとんど当司に接近できずに居た。

 実はトーヤの高機動回避の戦法には「機動力の向上のための脚力強化」ほかに「敵の予備動作をいち早く察知し、攻撃を喰らわないようにする五感強化」を併用している。そのため、非常に魔力の消耗が激しいという重大な欠点がある。自身の魔力のなさを考慮して可能な限り燃費を抑えるようにはしているが、これだけの回避を長時間行うとさすがに疲労がたまってくる。幸い「ライトニング」を放ってくれるため「トワイライトナイト」の「雷属性魔力吸収」でどうにか補給を行えているが、それを帳消しにしかねないほど消費が激しいのだ。しかも当司は自身の魔力にかまけてやたらめったらに撃ちまくるので、その攻撃範囲が尋常ではない。「ファイアショット」一つにとっても一般的なサイズを大幅に上回っているので、最小限な動作での回避も困難となっている。

 そしてこの戦法の最大の弱点。それは「魔力の制御に精通する」トーヤだからこそ可能な戦法であるため、彼以外の人物では真似できない点だ。この戦法自体が「一般的な冒険者にも劣る耐久力をカバーするための戦法」であるため、並の騎士や冒険者では真似ることもできない、つまり「トーヤ以外に当司と対抗できる人間がいない」ということだ。

「“ライトニング”!!」

 当司の右掌から、再び電光がほとばしる。それは彼の機動力であっても回避が困難な代物だ。

「(仕方がない・・・・一か八か、突っ込むか)」

 トーヤはこれまではその場でマントに吸収させてきた魔法を、今度は突っ込みながら受けようというのだ。

「シッ!!」

 トーヤは意を決すると、自身の視界をマントで覆い、そのまま当司の方に突っ込んだ。

「ううぉお!?」

 と、当司が驚く声がマント越しに聞こえる。「五感強化」をしているトーヤからすれば、方向も距離も教えてくれる道しるべだ。バチバチバチィ!!とマントが震えるたびに、自身の中に魔力が充填されていくのが感じられる。

「(さあ、こっからが修羅場だ!!)」

 そう一層気を引き締め、マントを視界から取り払うと同時に突き出した、剣の一撃。その切っ先は・・・・・・・







「うわっ!!あっぶねぇ!!」

 当司の右手につかまれ、あらぬ方向に伸びていた。







「(しまった・・・・・“魔力武装”!!)」

 トーヤは一撃入れるつもりで「うっかり」剣と自身の右腕に魔力を集中させていた。それはつまり「がっしり握っていた」ことを意味し、同時に「手放す」選択肢を頭の隅に追いやってしまっていたことを表わす。

 結果、どうなるか。

「こういうときは・・・・・こうする!!」

 当司はつかんだ剣ごとトーヤの右腕を引っ張り、体勢を崩す。「魔力武装」で強引に受け止めた剣が無理矢理引っ張られ、トーヤは当司の右半身側につんのめる。

そこに。

「そうら、よッ!!」

「ガッ・・・・・!!」

 当司から放たれた左フックが、トーヤの脇腹に直撃する。腰を入れた一撃ではないのでとっさの「魔力強化」でなんとか威力を殺すことはできた。

 しかし、トーヤの少なすぎる魔力では、それが限界だった。そして、それでも決して少なくはないダメージを負ってしまった。そこに。

「一発どでかいのを・・・・・そーれっ!!」

 と、強烈な右ストレートが襲いかかる。左フックを放った時点ですでに剣は手放されている。それによって一旦は距離が離れたトーヤだが、もはや離脱するだけの魔力はおろか、体力もなかった。

「グフッ・・・・・!!」

 咳き込みながら、「トワイライトナイト」で防御姿勢をとる。そこが限界だった。






「どっせーい!!」

 間抜けなかけ声とともに放たれた右ストレートが、トーヤの左脇腹を捉えた。








「・・・・・・・・・・・!!」

 喰らった瞬間、ゴキゴキゴキ!!と嫌な音が左脇から鳴り、自分の皮膚を骨が貫く嫌な感覚を覚える。不思議と、この時点では痛みはない。

 その刹那、すさまじい勢いで後方にに吹き飛ばされ、遙か10メートルもの後ろの壁に激突した。

「ぎゃああああああああああああああ!!」

「うわぁあああああああああああああ!!」

 バジジジジジィッ!!と一際激しく波打つフィールドの壁に騎士や村人が悲鳴を上げ、どよめく。そしてトーヤの体はフィールドの壁に当たっても名衝撃を殺しきれず、ゴムボールのように反射して、「後ろに跳ね飛ばされたのに前に転がり出る」という、一見あり得ない挙動で地面に転がり込む。そんな彼の傍らに、吹き飛ばされて宙を舞った剣が、ザシュッ!!と突き刺さった。

 そして、トーヤが大量の血をゴボッ・・・・と吐き出したかと思うと、







「ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ッ!!!」

すさまじい絶叫を挙げた。








「どうだ!!ドラゴンの土手っ腹に穴を開ける一撃だぜ!!思い知ったか!!」

 と、当司は勝ち誇る。まるで悪党を打ちのめしたかのような台詞だ。

 否、実際に彼はそう思っているのだろう。難癖つけて自分に突っかかってきた、自分の才能を疎く思う連中の、坂恨みからの復讐。彼は結局ただそう思っているだけなのだろう。

 だが、端から見たら、まさしく彼は「弱い者いじめ」を行っている、まさにそういう現場だろう。しかも本人は「自分は間違ったことをしていない」という認識なのだから、余計にたちが悪い。

「は・・・・は・・・・・ほら、な?勇者様にたてつくから、わ、悪いんだよ!?」

「さっさと、ま、負けを認めて、解放した方がいいんじゃないか?!」

 と、村人が野次を飛ばす。だが、その口調は勢いのよいものではなく、迷いの色を含んでいる。当然だ。モンスターを圧倒的な力で蹂躙するのと、その力でたった一人の人間を蹂躙すること。加えてその現場を目の前で見させられたこと。村人の認識が人間贔屓であることを鑑みても、彼の行動に正直幻滅している部分もあるはずだ。

 そんな彼らをよそに、当司はトーヤに侮蔑(本人は特に普通のことだと思っている)の言葉を投げかける。

「おー・・・・・すげぇな・・・・アレ喰らって、まだ立てるんだ」

 彼の目の前では、突き刺さった剣に手をかけて、なんとか立ち上がろうとするトーヤの姿があった。

「ぐ・・・・・・・ああああッ・・・・・・・・!!」

 歯を食いしばりながら、ガクガクと脚を震わせて少年は立ち上がる。そんな彼の白いコートの内側から、ドロリ・・・・・と決して少なくない血が一気にあふれ出し、その足下に血だまりを作った。

「なあ、もうやめといた方がいいぞー。それ以上だと死ぬかもしれねぇぞー」

 と、当司は少々心配しながらトーヤに言葉を投げかける。本人はただの気遣いのつもりだろうが、このシチュエーションではさながら「死にたくなきゃこの場から去れ」と言って居る悪役にしか見えない。

「(隊長・・・・・・なぜ、“体質”に頼らないのだ・・・・?!)」

 エミリアはその様子を見て、そう思わざるを得なかった。

 おそらく今回の作戦での最大の失敗、それはトーヤがあまりに「正攻法」に固執していたことだろう。彼はありとあらゆる意味で「対転生者」といえるような「体質」を持っている。これまでの転生者討伐でも、その体質あってこそ成し遂げられたことも多い。にもかかわらず、否、だからこそ、彼はその体質に頼らない「正攻法」に固執する。並外れた「力」に頼る転生者と同じことをしないためにも、彼はそうこだわり続ける。彼の成り行きを考えれば、エミリアといえど、黙らざるを得なかった。

「(やはり・・・・・・トーヤ隊長でもダメなのか・・・・・・!?)」

 彼女だけでなく、この場に居た「転生者殺し」のメンバーもそう考えていた、そのときだった。





「やめて!!死なないで!!トーヤさん!!」

 群衆の中に居た少女、マナの叫びが、村全体に響き渡った。






「ま・・・・・・・・」

「マナ・・・・・・・・!?」

 彼女の父親も、母親も、村人も、騎士たちも、彼女の方に注目する。無論、エミリアも。

「(彼女は・・・・・・・フンワリキシチョウたちを介抱していたという少女・・・・!?)」

 そんな彼らの視線には気づかず、マナはフィールドの壁に手をかける。彼女の触れているところから、ハニカムが波打つように輝く。

「あなたはぴよちゃんたちを助けてくれたじゃないですか!!“この世界の命がこんなに虐げられなきゃいけなくちゃいけないんだ”って、言っていたじゃないですか!!そんなあなたが、なんでこんなところで死ななくてはいけないんですか!!」

 マナは涙を流しながら、フィールド中に向かって叫び続ける。

「モンスターさんだってみんな生きています!!その命をむやみに奪う人が許せないと、そんなことを言うあなたが、そんな人に負けて死ぬなんて、そんなの嫌です!!」

 誰もが、彼女の言葉に聞き入っていた。フィールドの中に居る当司でさえ、彼女の方を見ている。

「お願いです!!」

 マナは大きく息を吸い、自身の出せる限りの声で、トーヤに呼びかける。











「トーヤさん!!死なないで!!」








 そして、その声に応えるように。少年は立ち上がり、








「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 腹の底から叫び、突き刺さった剣を抜いた。









「・・・・・・・・・・・・・・・!!」

 当司は、その迫力のある咆哮に、ただただ気圧されていた。左の肋骨が折れ、皮膚を突き破っているとは思えない声量だ。

 しかし、彼はもはや虫の息だ。立っていることさえやっとの状態だ。今ならば魔法の一発で簡単にとどめを刺せるだろう。

 だというのに、当司はなぜか勝てる気がしなかった。

「そうだよ・・・・・・・ハァ・・・・・・俺が死んだら・・・・・・奴を止める奴が・・・・・いなくなっちまう・・・・・・・・そいつはダメだ・・・・・・」

 そういった、トーヤはなんと、剣を納めた。キン・・・・・・と、鞘の口と鍔が触れる音がすると、トーヤは当司を左手で指さす。

「“宣言する”」

 息も絶え絶えだが、それでもしっかりした口調で、当司に告げる。

「“お前は自慢の魔法を悉く無効化され、あまつさえ相手を治癒させ、近接戦で腕をもぎ取られ、無様に地面に這いつくばったまま斬首される”」

 ゴフッ・・・・と咳き込んだが、トーヤは不敵に笑いながら、こう言い放った。













「お前の“中身のない偽英雄譚ライトノベル”、ここで打ち切りにしてやる」


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