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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第4.5章 冥府の陸海淵
52/110

4.5-2

「おっとっと・・・・・・・」

「大丈夫か?ずっと研究室にいてなまっているんじゃないのか?」

「ひどいなぁ・・・・・ボクの専門は“分析・解析”だよ?フィールドワークならまだしも、こんな魔界のダンジョンに入るなんて、するわけ無いじゃん」

 骸珊瑚を飛び移ったときによろけたネロに、エミリアが軽口を叩く。典型的なインドア派の彼にとっては、この「冥府の陸海淵」を渡るのは苦難そのものだ。

「マナ、大丈夫か?」

「はい!一応森の中を歩き回ってたんで、大丈夫です!」

「ガル!!」

 もこもこしたコートを着込んだマナは、トーヤの言葉に元気よく返事した。彼女の隣にはシロも突いてきているし、いざとなったら彼が彼女を守るだろう。

「(それにしても連れてきて大丈夫だったか心配だったが・・・・・その必要は無さそうだな)」

 今回は魔界を進むため、「モンスターと心通わせる能力」をもつ彼女が必要だと感じたのだ。その肝心の彼女自身が魔界の特殊な環境に対応できるか不安だったのだ。しかし以外と彼女はたくましく、骸珊瑚を遅れ気味とは言えきちんとついて行けているだけで上出来だと思った。

「隊長!そろそろ休憩を挟みましょう!!」

 後続の隊員達が訴えた。彼らも魔力で身体能力を補強してはいるものの、やはり足場が不安定な場所を通るのは精神力を大きく消耗する。さらに「冥府の陸海淵」は常時雪が降り積もる極寒のダンジョンだ。体温を奪われ続けては、体力を消耗してしまう。

「トーヤ様!この先に“踊り場”がございます!!そちらで休憩をなさってはいかがでしょう?!」

「見た感じ、あそこなら安全そうだ!」

 先陣を切るゲイボルグが手を振りながら叫んだ。グーフォも一度先に進んだらしく、飛びながらこちらに向かってきている。

「わかった。オマエら!!この先に“踊り場”がある!もう少しの辛抱だ!!」

 トーヤは後ろの隊員達に向かって叫んだ。少々頼りなさげだが、おおー・・・・と、かけ声が上がる。








「あ、あったかいですね~・・・・・・」

「ハフ!!ハフハフ!!」

「ほれ、寒いから食っとけ。ここから結構大変だからな」

 マナやトーヤはスープを飲み、シロは焼きたての肉を食べて暖を取っている。エミリアやゲイボルグ、そのほか騎士などの隊員達も、思い思いに羽を伸ばしている。

 トーヤ達一行は、冥府の陸海淵の「踊り場」と呼ばれる場所にたどり着き休息を取っている。しんしんと雪が降り積もる冥府の陸海淵において、数少ない雪のない場所であり、第一層に戻れる蔦や第四層に降りる足場がある。今、彼らは比較的温かいこの場所で暖を取り、第一層に上がる準備をしているのだ。

「そういえば、なんでここはこんなに寒いんですか?」

「うーん・・・・・ここは魔界だから、説明のしようが無いんだよな・・・・」

 魔界というのは天界に比べて魔力の濃度が非常に高く、故にあり得ないような気候が隣接していることも珍しくない。そのため、地理的な観点から魔界の機構を語るのは難しい。

 だが、この地にはこの地ならではの伝承がある。

「まあ、強いて言えば“冥府の(レギーナ・デア・)女王(コキュートス)”の存在かな」

「“冥府の女王”?何ですか?」

 マナは小首をかしげた。

「そもそもこの“冥府の陸海淵”が最難関のダンジョンとして数えられている理由の一つに“最下層からの生還者がいない”っていう話があるんだが・・・・・一説によると、“冥府の女王”の住処が最下層らしいんだ。そいつは“時間を凍らせる龍”として崇められていて、そいつが発する膨大な氷属性魔力がこの“冥府の陸海淵”を凍てつかせているっていう話だ。おそらく並大抵の冒険者は、第九層に突いた時点で氷漬けだろうな」

「“時を凍らせる龍”・・・・・・!!」

 マナはとんでもない伝承に目を見開いた。そばで聞いていたシロも、耳を震わせてトーヤを見上げる。

「そいつの名は“氷獄龍ひょうごくりゅうヘル”。“時を凍らせる龍”、“冥府の女王”、そんな風に呼ばれている・・・・・とは言え、本当にそいつがいるのかは解りかねるがな」

 そもそもこれは単なる「伝承」だ。こちらの世界における「伝承」はバカにできないものが多いが、こういった存在を確証するものではない。実際に見たこともないため、確認のしようが無いのである。

 でも、だからこそこういった逸話には、一種の「ロマン」があるとも言える。こういった「ロマン」を求めるのも「冒険者」なのだろう。故に、どれだけ過酷であろうとここを訪れる冒険者は少なくない。

 だが、マナの一言でこの空間が不穏な空気に染まる。

「そっかあ・・・・そんなモンスターさんが居たら、確かにみんな逃げちゃいますよね」

「・・・・・・・・・・・?」

 トーヤは、マナの言葉に眉をひそめた。

「なあ、お前何を言っているんだ?」

「え?だって・・・・・・ここを通っているとき、モンスターさんに会わなかったじゃないですか。そんなモンスターさんがもしも来ていたら、みんな怖くて逃げちゃうだろうなーって・・・・」

「!!」

 トーヤはマナの言葉にハッとした。思えば、ここに来る道中があまりにも「平和」だった。いくら比較的安全な第三層だからといえど、モンスターに遭遇エンカウントさえしなかった。

「いやー・・・・最初“冥府の陸海淵”を通るって聞いたときは肝を冷やしたが・・・・今日はなんだか平和で、ラッキーだったな!」

「ああ。モンスターに出会わない日なんてあるんだな」

「それなら、第一層も楽だろうな~」

 などと、騎士達も口々にそれを語っている。ここが最難関ダンジョンと呼ばれている事を考えれば、あまりにも異常な事態だ。

「マナ。シロに“モンスターの臭いがしたか”聞いてみてくれるか?」

「え?はい・・・・?シロちゃん。モンスターさんの臭い、した?」

 マナはシロに問いかけるが、シロは目を細めてブルブルと頭を揺らすだけだった。

「しなかったみたいです・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・!!」

 トーヤは、汗をかいていた。冥府の陸海淵では比較的穏やかとは言え、お世辞にも暖かいとは言えないその場所で。

「トーヤ君!!」

「トーヤ隊長!!」

 ネロとエミリアがトーヤの方に駆けてきた。その表情を見る限り、彼らもこの異常事態に気づいたようだ。

「やっぱり、これはおかしいよね。この最難関ダンジョンで、モンスターに出会わないなんて・・・・・・」

「どうするか?このまま目的地に向かってもいいが・・・・・・」

 実際、今回彼らが目指しているのは「クロガネ王国」であって、この「冥府の陸海淵」の調査ではない。ここの探索は、本筋から大きく外れてしまう。

 だが。

「・・・・・・・・・環境の保護も、ギルドの仕事の一つだ。ここは無視すべきではない。・・・・・マナ、シロ。悪いが少し付き合ってくれるか?」

「は、はい・・・・・・」

「・・・・・・・・フンッ!」

 なんとなく状況を察したマナは、トーヤの申し出に首肯する。シロも問題ない、と言わんばかりに鼻を鳴らす。

「みんな、聞いてくれ!」

 トーヤは立ち上がり、注目を集める。

「皆が感じているとおり、このダンジョンのモンスターが一向に見当たらない!これを異常事態と受け取り、俺たちは“第四層以下への緊急探索”を行うつもりだ!」

 どよっ!と、その場の騎士達に一斉にどよめきが走る。それは当然だろう。この世界最高峰とも言える難易度の「冥府の陸海淵」。それが本格的に牙を剥く階層に今から行くというのだ。

「だが、お前達に調査を頼むつもりはない。生半可な実力では第四層すら踏破するのは難しい。だから、お前達はしばしここで待機していてもらう!下に向かうメンバーは俺とエミリア、マナ、ネロの四人だ!ゲイボルグとグーフォはここで待機していてほしい!」

「ま、待ってください!!それでは、隊長は・・・・・」

 騎士の一人が、拘泥した。このダンジョンの第四層以下が、どれほどの危険を伴うのか、それを理解しているからだ。

「・・・・・・・解っている。だが、ここで俺たちが行かなければ誰が行くんだ。お前達の中で、第四層でもクリアできた者は居るのか?」

「!!」

 ここで名乗り出る者は現れなかった。居るはずもない。「転生者殺し」で主に最前線に出るのは、副隊長以上の階級の者だけだ。彼らよりも明らかに実力で劣る騎士達に、務まるわけがない。

「・・・・・・・何かあったら、すぐに引き返す。絶対に深入りはしない。・・・・・すまない」

「・・・・・・・・・・・・・」

 騎士達は、完全に黙り込んだ。トーヤだけではない。エミリアやネロからも、その覚悟がにじみ出ているからだ。

「・・・・・・・・・・無茶はしないでくださいませ。皆様方」

「・・・・・・・・・・俺様は目がいいからな。こっから見張ってるよ。いざとなったら俺様が華麗に助けに来てやる」

「・・・・・・・・・・ありがとう。・・・・・・・行くぞ」

「はい・・・・・」

「ガル!!」

「ああ。」

「うん」

 トーヤの言葉に、3人と1匹は応える。そして・・・・・・・・







タンッ、と、骸珊瑚の「踊り場」から一斉に飛び降りた。


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