閑話休題2-3 ※閲覧注意
※やはり直接的な描写はありませんが、割とえげつない内容なのでご注意ください。
「甘~い!!な、何ですかこれ!?」
「すごいでしょ?!向こう(異世界)にはこう言う食べ物が一杯あるんだよ!!」
「これ、マナにマウントとるのはやめなさい・・・・・・・もむもむ」
エンデの繁華街のスイーツ専門店「Slime・Smily」に入店した一行は、それぞれ気に入ったゼリーを嗜んでいた。マナは赤、メグミは緑、トーヤは透明なゼリーを頬張っている。紅いゼリーは「ヒートストロベリー(熱イチゴ)」、緑のゼリーは「ウォーターメロン(奔流メロン)」、透明なゼリーは「フローズンアップル(こおりんご)」の味を再現した物だ。
「(それにしても・・・・・・)」
「(おいしそうに食べるなぁ・・・・・)」
「?」
マナとメグミは、こおりんごのゼリーをおいしそうに咀嚼するトーヤを見ていた。その食感と味覚に目を細め、頬に手を当てる彼は幸せそのものだ。普段険しい顔つきをしている彼の意外な一面を見て、やっぱりこの人も少年なんだなぁ、と感じさせる。いや、仕草を見る限りは寧ろ少女にも見えるが・・・・・・
んごっく、と嚥下すると、やがてトーヤは話を切り出した。
「・・・・・・で、転生者殺しの筆頭が転生者だと解った気分はどうだ?」
「え、何?ど、どういうこと?」
突然話を振られたマナは、始めは何のことだか解らず戸惑った。そんな彼女を見て、トーヤは何かを見定めるような視線を彼女に投げかけた。
「とぼけるなよ。俺のことだ。どうせエミリアから聞いたんだろ?」
「!!」
「え・・・・・トーヤって元々向こうの人だったの?」
トーヤは目を見開く彼女たちのことなどお構いなしに、かかりそうになる横の髪を指でのけながら、ゼリーを掬って口に運ぶ。
「・・・・・・・こっちの世界に来る大抵の奴は、元の世界のことなど忘れたように振る舞う。そのくせ、思い出したように元の世界の知識を掲げて、自慢したがるんだ」
うっ、とメグミはばつの悪そうな顔をした。マナに先ほどマウントを取ろうとした手前、彼の言葉が刺さったのだろう。
「・・・・・・俺は短い間だったが、中学には電車で通っていたんだ。電車に揺られている間、俺は寿司詰めの中、押しつぶされそうになりながら通っていたんだ。・・・・・まあ、それはいい」
もぐもぐ、と咀嚼し、飲み込む。そしてその次の一口の間に、言葉を挟む。
「はっきり言って醜いものだったよ。電車の中はもう人で一杯だってのに、まだ無理矢理にでも乗ろうとするバカな親父やババアがいるんだよ。グイグイグイグイ、テメェのケツで押し込んでさ。まるで乗っている奴らの事なんざ考えもしねぇ。そんな自分勝手な奴らばっかりだ」
「あー・・・・でもその気持ちはわかるわ・・・・・」
トーヤの言葉に、メグミは相槌を打つ。電車という物を知らないマナは兎も角、メグミはその実態を知っているのだ。そして、それが如何に見苦しく、醜悪なものなのかも。
「・・・・・・・・正直言って、俺は元の世界に帰るつもりはない。テメェのことしか考えない様な連中の居る世界なんて、俺はまっぴらご免だね」
ちゅるん、とスプーンをくわえ、ゼリーを濾しとる。その仕草は女性にも勝るとも劣らない妖艶さを醸し出していた。
「俺はこの世界に来て、本当に良かったと思う。“システム”の恩恵を受けられないって言われたときはどうしようかと思ったが・・・・それでも俺を受け入れてくれる場所ができたし、俺も初めて誰かの貯めに役立ちたいって思ったんだ。・・・・・・・それに」
そこで、カチャン、とトーヤはスプーンを皿に置いた。
「向こうの世界には、俺の帰りを待つ人はもういない。」
トーヤの言葉が、二人の胸に刺さった。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
事情を知っているマナは兎も角、メグミもその雰囲気で彼に家族が居ないことを悟った。
「厳密には、いるんだ。いるんだが、もう土の中だ。俺はその二人には、花を手向けることぐらいしかできない。言葉を交わすことも、ふれあうことも、体温を感じることも、もう二度とできないんだ」
そう語るトーヤの瞳は、悲しげに揺れている。今でも、そのことだけが心残りなのだ。
「・・・・・・だけど、それでも俺はこの世界に残ることを決めた。単純に向こうの世界に戻りたくないってのもあるが・・・・・それ以上に、そんな向こうの世界にはびこるようなクソ野郎共が、こっちの世界にまで出しゃばってやがるのが許せないんだ」
トーヤは深刻な顔つきでそう告げる。
「ご、ごめんね・・・・・なんか・・・・・その・・・・・」
申し訳なさそうに視線を泳がせ、メグミは謝った。きっと彼女自身、その「クソ野郎」に入っているのだろうと思ったのだろう。
「槌田。お前が謝る必要は無い。お前はその“怪力”のスキルを使って、必要以上に暴れたりしたか?」
「いや、そんな事は・・・・・」
「じゃあ、いいじゃないか」
トーヤはスプーンを手に取ると、再びゼリーを穿ち始めた。
「こういうときにすぐに謝れるのは、“安全”な奴ばかりだ。もしも本当にお前がなんかやらかしてたら、そもそもこうして一緒には居ないはずだ」
もぐもぐと口に含みつつ、トーヤは語る。
「それに俺はアイツらを唾棄しているが、実のところこっちの世界の発展にも役に立っている。例えばこのゼリーなんかも、元々は向こうの食文化を模倣して作った物なんだ」
「そうなんですね・・・・・・」
マナは、先ほどメグミが誇らしげに語っていたことを思い起こす。
「槌田は、帰りたいと思うのか?」
「え?あ、あたし?!」
トーヤに指名されたメグミは、自分の顔を指さしてきょとんとする。
「あたしは・・・・・うーん、どうなんだろ・・・・まだこっちの生活を満喫していたいとは思うけど・・・・・・」
「お前の親は、どうなんだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
メグミはトーヤに迫られ、しばし考え込む。
「やっぱり・・・・心配しているのかな・・・・・あたしがこうしてこっちの世界で暮らしているときも、向こうの世界は時間が経ってるんだよね・・・・・」
「・・・・・・俺はどんな風に時間が向こうで立っているのかは解らん。だが、いずれ決断するときは来る。特にお前みたいに、“異世界転移”してきた奴はな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
メグミはトーヤの厳しい言葉に、答えを窮した。しばしテーブルに沈黙が訪れる。重苦しい雰囲気が漂い始めたそのとき、トーヤはメグミのスプーンを強奪した。
「と、トーヤ・・・・なにをし・・・・むぐっ!?」
トーヤはメグミの食べていたゼリーを掬うと、メグミの口の中に強引に突っ込んだ。
「そう、暗くなるな。こう言う選択肢ができる時点で、向こうにお前の場所があると思え。俺は今すぐ決めろとは言っていない。何も被害を出してない奴を無理矢理向こうに送り返すのは条例違反になるからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
マナとメグミは、トーヤの突然の行動に驚きを隠せなかった。
「それに、こうやって答えに困るって言うのは元の世界のことを忘れては居ない証拠だ。こっちの世界で好き勝手しやがる奴は、決まって向こうの世界のことなど気にも留めなくなる。俺はそうならないために、名前を捨てたんだ・・・・・・・さあ、食べるといい。邪魔して悪かったな」
「あ、うん・・・・・・・」
「ん・・・・・・・・・・」
トーヤに促され、マナとメグミもゼリーを口にする。
「(私にとって、転生者さんってなんだろう・・・・)」
マナはまだ、「転生者」に対する自分の気持ちがわからない。好きなのか嫌いなのか。良いのか悪いのか。あまり触れてこなかったがために、いまいち解りかねている。
しかし、一つ確実に言えることは、
「(やっぱり、別の世界で暮らすって事は、軽いことじゃないんだよね・・・・・)」
目の前に居る「転生者を狩る転生者」。彼の抱いている志は、そしてそこから紡がれる言葉は、マナの心に強く刻みつけられた。
「それにしても、おいしかったぁ!!」
「私も、あんな食べ物があったなんて初めて知りました!!」
帰り道、メグミとマナはそのスイーツの味に感動していた。全くの未知の体験をしたマナは言わずもがな、こっちの世界に来てからは食べられないと思っていたメグミも、斬新な体験となっただろう。
「でも、ホントはスライムゼリーって食べられないらしいんだけど、なんでお菓子にできるんだろう・・・・・・」
「え・・・・・・・・私たち食べちゃったんですけど、大丈夫ですか・・・・・?」
メグミの言葉に顔を引きつらせるマナ。食べちゃいけないもの食べてしまった自分は、一体どうなるのだろう、と思ったのだろう。
それに対して、トーヤは答える。
「いいや、あの店のは食べられるように“加工”してあるから大丈夫だ」
「か、加工?」
「ああ。元々スライムからとれる“スライムゼリー”っていうのは、別名で“生スライム”って呼ばれているんだ」
トーヤは、ここでスライムにまつわる雑学(というか豆知識)を二人に語る。
「そもそもスライムっていうのは厳密には“小さな生物が群れを成した群体”なんだ。その生物一体一体が粘性のある液体に身を包んで、寄り集まったのが普段俺たちが見ている“スライム”の姿だって訳だ。俺たちが“倒した”って言っているのは、その群れを“追い散らした”って言った方が正しくて、そうして散り散りになったうちの一部が“生スライム”として手に入る」
「そいつを、どうやって食べられるようにしているの?」
「さあな。そこのところは企業秘密だから知らん。だが何かしらの方法でその生物を死滅させつつ、流動性のある体液を凝固させ、さっき俺たちが食べた“ゼリー”にしているのは確かだ」
「・・・・・・・トーヤさん。もしもその“生スライム”を食べちゃったら、どうなるんですか?」
マナの素朴な質問に、トーヤは言葉を詰まらせた。なんだか苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「・・・・・・トーヤさん?」
「・・・・・・トーヤ?」
「・・・・・・・・・正直言いたくない。しかもゼリー食った後なら、余計に」
「えー?教えてよ!教えてくれたら、今度から気をつけるからさ!」
「そうですよ!!どんな風になるのか解ったら、誰も食べたりしないと思うんです!!」
「つってもなぁ・・・・・・」
と、拘泥していた時だった。
「あれ?なんか宿舎が騒がしいね?」
「な、なんでしょう・・・・・・」
冒険者達が活動の拠点にしている「宿舎」。その周囲に人だかりができている。まるで火災を見に来た野次馬のようだ。しかも、宿舎に近づくにつれて生ゴミが腐ったような鼻につく異臭が漂ってくる。
「みなさーん!これ以上近寄らないでください!現在冒険者用宿舎は清掃活動中につき、立入禁止です!!」
と、ギルドの男性が現場を整理していた。不審に思ったトーヤは、男性の元に向かい、事情を伺った。
「そこのあんた、俺は“対転生者特別防衛機関 執行部隊隊長”トーヤ・グラシアルケイプだ。ここで何があった?」
「ああ、トーヤさん。こんなところで遭うなんて!」
男性は困ったようにその事情を話し始めた。
「実はこの宿舎にいた“女性4人組のパーティ”が、なんだか胡散臭い製品を開発しようとしていたみたいなんです。なんでも、“便秘に効くドリンク”だとかを作るために、自分たちで自ら実験していたようで・・・・」
「そんなバカなことをするバカがいたもんだな・・・・・・・で、なにをしていたんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
トーヤが尋ねると、男性は視線をしばし泳がせた。男性は伝えるか伝えまいか迷いに迷った果てに、口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・・・“生スライム”です」
「「「・・・・・・・・・・・・は?」」」
トーヤ、マナ、メグミの三人の間抜けな声が重なった。
「彼女たち、どうも“スライムが”老廃物を分解する“という食性に着目して、”体内の老廃物を除去する“薬を作ろうとしていたみたいなんです。その効果を確かめるべく、あろうことか”生スライム“を飲んで・・・・・・・・」
「飲んで、こうなった訳か?」
「はい。彼女たちの部屋は大変なことになっておりました。トイレや風呂場を中心に“異臭を大量の放つ粘液”が辺りに流れ出ていて、今はそれを除去する作業に取りかかっています」
「・・・・・・・・・・ちなみに、そのスライムの種類は?」
「・・・・・・・・・・“スカヴェンジャー”です」
「・・・・・・・・あぁ・・・・・・・・・」
それを聞いたトーヤは、額に手を当てて、何かを察したような声を漏らした。
「・・・・・・・・・トーヤさん。もしかして“スライムゼリー”を加工する理由って・・・・」
「・・・・・・・・・“消化できるようにするため”だ」
トーヤは先ほどに輪を掛けて顔を真っ青にさせながら、そのおぞましい事実を口にした。
「元々スライムゼリーを消化する酵素を、人間は持っていないんだ。だからスライムの元となっている生物を死滅させて、粘液を凝固させつつ、消化できるようにしているんだ。・・・・・・それを怠ると、“尻から何の前触れもなく未消化の粘液が流れ出る”。しかも、よりによって“モンスターの排泄物を分解する種類の生スライム”だ。・・・・・・・言いたいこと、解るよな?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
三人はしばし沈黙した後、宿舎の方に向かって手を合わせた。おそらく既に部屋の主は既に病院だろう。
このように、食用にできているものでも、一歩間違えば大惨事になる。ものを口にするときは最低限の知識、できれば専門家の知識を得た上で実践してください。




