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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第3章 「異世界転生したので錬成スキルで裏社会を牛耳る件について」秋山利人
30/110

3-5

 オーレッツェーの町の建物から「アスベスト」が発見されてから、数日が経過した。

「恐れ入ります。私たちは“対転生者特別防衛機関”のものです。あなた方のお話を少々お伺いさせていただきたいと思いまして」

 トーヤとネロは、オーレッツェーの絢爛豪華な豪邸を訪れていた。屋敷の規模はモーガンのものよりも小さいが、屋敷全体に金ピカの装飾が施されている。モーガンの場合は「高貴」というイメージが強かったが、ここまで来ると寧ろ「下品」に見える。

「はい、どのようなご用件でしょうか」

 屋敷の大きな扉を開けたのは、年齢的には14、5歳ぐらいの少女だった。無表情の彼女は黒のレオタードを着用しており、メイドのようなエプロンを掛けている。そのすらりと伸びた脚はタイツに覆われていて、魅惑的な色気を漂わせている。

 しかし、その瞳には虹彩が無く、見識のあるものなら「自動人形オートマタ」であると見抜ける。

「私たちは“秋山利人”という人物について調査しておりまして・・・・・こちらがその当人のご自宅と言うことなので、彼について情報をいただけたらと」

「!!」

 ギルドでは利人の行方を見失っていたが、先ほどの商人の話と、その他の町の住人の話からここに利人が在住していることは容易に捕捉できた。そしてそこにはかつて冒険者時代でパーティメンバーだったものも住んでいることも把握して居る。

 そんなトーヤ達に対し、その少女_____ラフィは一瞬身構え、

「申し訳ございませんが、取材の方は受け付けておりませんので」

 といって、ぴしゃりと扉を閉めてしまった。利人からは「なにか探りを入れようとする奴がいたら、そいつとは関わんないで」と指示を受けている。

 そんな命令を遂行し、いかがわしい余所者を閉め出した、と油断したラフィは

「・・・・・・そんな反応をするってことは、後ろ暗いことがあるんだな」

「!!」

 いつの間にか背後に立っていたトーヤの声に、身をこわばらせた。ラフィの反応を見たトーヤは「営業モード」から「強制捜査モード」に移行し、敬語を捨て去る。

「ど、どうやって・・・・・・・」

「企業秘密だ」

「と、トーヤ君・・・・もっと優しく運んでくれよ・・・・・」

 足下でネロが目を回している。実際はラフィが扉を閉める一瞬の隙に、ネロを担いだトーヤが彼女の頭上を飛び越えて、音も立てずにラフィの背後に着地したのだ。「扉抜け」と呼ばれる「アサシン」ではある意味必須級のテクニックだが、悲しいかな、それを実戦する本職はほとんど居ない。

「・・・・・・・何のようですか」

 ラフィは嫌そうな顔をしたが、それでも今度こそ「接客」する。中に入り込まれてはどうしようもない。

「そうだね・・・・・まずはこの屋敷にいる“彼”の仲間を呼んでもらおうか」

「!!」

 よろよろと立ち上がるネロの申し出に、ラフィは目を見開く。





「秋山利人・・・・・・彼が普段何をしているのか、聞かせてくれないかな」








 同時刻。オーレッツェーの広場では町民が集まっていた。町長により緊急で集会が行われるのだ。そしてこれまでの集会と異なるのは、町長自身も「聴衆」であると言うことだ。

「町長!!一体何事なのでしょうか!?」

「我々に教えてください!!」

「わ、私も一体何が起きているのか把握しかねてまして・・・・・」

 小太りの如何にもいい暮らしをしているであろう体型の男性が、町民に囲まれてしどろもどろしている。

「はい、皆様!!静粛にお願いいたします!!」

 と、エミリアが広場で注意を引いた。彼女の声に合わせ、一斉に町民全体がそちらを向く。

「皆様には重大なことをお知らせいたします。本来ならば町長に真っ先にお話ししなければならないことでしたが・・・・・やむを得ず、この場でご説明とさせていただきます」

 ふう・・・・・・と深呼吸をしたのち、話を切り出す。

「先日我々がこちらを訪れた際に、この町の建造物の素材を調査する機会がございました。その際に、とんでもないことが解ったのです」

 ゴクリ・・・・・と町民全体が息をのんだ。緊張の中、エミリアは「それ」を口にした。

「皆様の住まわれている建造物・・・・・・それを形作っているものは“アスベスト”、“呪い”を引き起こす素材でできていることが解ったのです」

 どよっ!!と、町民が一斉にどよめきだつ。無理もない。自分たちが信じてきた「異世界の英雄」「産業を切り拓く者」の造り出したものが自分たちに害を及ぼすという話を聞いて、動揺しない方が難しいだろう。

 否、それ以前の問題でもあった。

「おい、ふざけんじゃねぇぞ!!リヒト様がそんなコトするわけ無いだろ!!」

 と、怒号が飛び出した。それを皮切りとして次々と野次が飛んでくる。

「“異世界の英雄”様になんてことをいうのよ!!」

「テメェらが無能だからって、人の所為にしてんじゃねぇぞ!!」

 やがて町民全体から怒りの声が上がり出す。これまでに何度も、こういった人々の怒りや悲しみをぶつけられてきた。それは妄信的な「異世界の英雄」に対する期待が根底にあり、「異世界の英雄」を愚弄している、と非難され続けてきたのだ。

 そしてそんなプレッシャーを一身に引き受けるのはエミリアだ。いわばコミュニティ全体から指を指されるプレッシャーに耐えられるのは、彼女をのぞき誰一人として居なかった。

「落ち着いてください!!これは皆様の“秋山利人”その人を陥れるものではありません!!皆様の健康を鑑みて・・・・・・」

「何を根拠に言ってるのか知らねーが、大きなお世話だ!!」

「偉大なリヒト様の愚弄に当たるのよ!?貴方の発言を撤回してください!!」

 エミリアの言葉に町民の怒りは収まるばかりか、さらに膨れ上がる。こうなってはもはやどうしようもない。これまで通りしらを切り通して強引に事を進めるしかない。

「(・・・・・・・・・・・仕方が無い)」

 エミリアはすでに諦めの境地に至っていた。結局のところ、「異世界の英雄」を盲目的に崇拝する風潮は未だ根付いている。それに彼女らは「執行部隊」だ。汚れ仕事だととうの昔に自覚している。

 もうここで集会を終えようか、と思った、そのときだった。




「皆さん!!いい加減にしてください!!」

 さっきまでエミリアの隣で押し黙っていたマナが、突然声を張り上げた。




「なんで皆さんはそんなに“転生者”さんに期待を寄せているんですか!!」

「そりゃ決まって_______」

「確かに、皆さんの生活を豊かにはしてくれています!!」

 聴衆から飛んでくる怒号など一切耳に入れず、マナは叫び続ける。

「見たこともないものをたくさん見せてくれたでしょうし、どんなに苦労して作っていたものでも一瞬で成し遂げてしまうその力は、素直にすごいと思います!!でも!!」

 すう、と大きく息を吸い込んで、

「その裏で、苦しんでいる人が居るんです!!」

「・・・・!!」

 今回の件で、ある意味最も闇が深く根深い話題に切り込んだ。

「皆さんのおうちを作ってくれている大工さんも、たった一つの“力”でお仕事を奪われて居るんです!!一生懸命鎧とか作ってくれている鍛冶屋さんだって、誇りに思っていた仕事をとられちゃってるんです!!皆さんには、誇りに思っていたことを簡単に無為にされることが!!どんなにつらいことなのか、解るんですか!?」

「それに!!皆さんはこのおうちにずっと住んでると、死んじゃうんですよ!!今は平気かもしれませんが!!そのときにみんな死んじゃっても、まだ“リヒト様は悪くない”って言えるんですか!?」





「いい加減、目を覚ましてください!!異世界の英雄様は万能じゃないんです!!すべてが善行じゃないんです!!あの人たちの行いについて、ちゃんと向き合ってください!!」





「・・・・・・・・・・・・・・」

 マナの魂の叫びを聞いて、町民は、エミリアは、全員が、押し黙ってしまった。

「ハー・・・・・・ハー・・・・・・・」

 マナは普段滅多に出さない大声で、軽く酸欠状態になっていた。

「(やっちゃった・・・・・とうとうやっちゃった・・・・・・)」

 マナは言い終わってから、後悔していた。ついに、誰もが触れてはいけない禁忌に、踏み込むような真似をしてしまった。きっと自分はこれから、石を投げ続けられるだろう。そう思っていた。

 しかし、現実というのは思い通りには行かないものだ。

「おれは!!1年前鍜治屋だった!!」

 そう叫んだのは、「盗賊」と思われる男性だった。おそらくエミリア達が制圧する前にすでにアジトを後にしていたものだろう。そんな彼は目に涙をためていた。

「俺の師匠はこの町が“防衛拠点”だった頃からの鍜治屋だった!!とっても厳しいけど、鎚に込める情熱は本物だった!!おれはそんな師匠と一緒に鎚を振るって!!みんなに強い武器だって!!優秀な防具だって!!そういう声を聞くのが好きだった!!だけどアイツが来てから、おれたちはお払い箱になっちまった!!アイツに、おれの誇りを奪われちまったんだ!!」

 男性は、ボロボロと涙を流しながら、その場に崩れ落ちた。

「もう一度、もう一度鎚を振るいてェ!!おれはあの身を焦がすような熱気の中、極限まで集中して鉄をたたくのが、最高なんだ!!みんなの身を守るための道具を、もう一度作りてェんだよ!!」

 男性のその痛切な叫びは、やがて人々の心を揺り動かす。

「私も、もう一度育てたい!!みんなのお腹の中に入るものを作るための、小さな花を咲かせたい!!」

「掘りたいんだ!!目当ての手応えが合ったときの興奮が!!まだ残っているんだ!!」

 町民の間から、次々とその「願い」が上がってくる。「異世界の英雄」を盲信する者達に押さえつけられて、彼らのような者達は皆黙らざるを得なかったのだ。

 そして今、その思いは爆発したのだ。

「・・・・・・・・・よく言ってくれた」

「エミリア・・・・・さん・・・・!?」

 ぽん、とエミリアはマナの肩をたたいた。その目には光が戻っていて、自信に満ちあふれている。

「彼女のいうとおり、“私たち”は今一度、立ち返って見てはいかがでしょうか!!今自分たちがとるべき行動は何なのか、考えてみてほしいのです!!」

 しばし町民がざわめいた後、町長が前に出てきて、指をあげて叫んだ。

「愛しき町民の皆さん!!“指定文化遺産”の“練兵宿舎跡地”を解放します!!なるべく早く住居を後にし、そこでしばし過ごしましょう!!その間の対処は、私の方で検討いたします!!」

 町長が声を上げると、町民は一斉に駆けだし、各々の家に飛び込んでいく。もはや集会も何もあったものではない。

 だが、少なくともこの町の「洗脳」は解けた。後は件の転生者「秋山利人」をどうにかするだけだ。







そして、トーヤ達の方でも事態が進んでいた。

「嘘・・・・・でしょ・・・・・」

「リヒト・・・・・なぜだ・・・・」

「マスター・・・・貴方はなんということを・・・・!!」

 シスターの「リラ」、サムライの「リリィ」、自動人形の「ラフィ」は、絶望の表情を浮かべていた。

 半ば押し入る形で利人の屋敷を家宅捜索していたが、彼のパーティーメンバー・・・・・否、「配下」の彼女たちも知り得ない隠し扉があったのだ。「スキル」で隠蔽していたらしく、トーヤ以外の人物にはその扉の存在さえ認識できなかったが、「システム」を受け付けない彼からすれば、彼女たちが目の前の扉をスルーしている様は非常に不自然に映った。

 そしてその扉をくぐった先には、利人が秘密裏に取引していた情報が山のように残されていたのだ。

「成る程な・・・・・・あの盗賊共だけじゃない。“魔王トール”・・・・・奴の元に精力的に武器を売りつけていた訳だ」

「トーヤ君。“浅倉忍”を仕向けたクライアントも“ピースマン”だ。奴は“魔王トール”の配下でもある・・・・・・点と点がつながったね」

 ピースマン。それは以前「浅倉忍」にモーガンの暗殺を依頼した男だ。彼はどうやら利人とも取引をしており、盗賊共に売りつけていたものよりも遙かな物量の「銃」を売りつけていた。しかも盗賊共と異なり銃弾の取引も明確に行っており、相手に正しい「銃」の使い方を教えていることはほぼ確実だ。

そして、利人は討伐対象となることはほぼ確定となった。

「嘘でしょ・・・・・そんな・・・・・・」

「マスター・・・・・・貴方こそ“英雄の居城”の主にふさわしいと思っていたのに・・・・」

 さめざめと無く彼女らをよそに、ネロは舌舐めずりしてつぶやいた。






「秋山利人・・・・・・・キミの偽英雄譚ライトノベルはここで終わりだよ」


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