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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第1章 「異世界へ来たらチート魔力を手に入れてたんだけどwww 」大間当司
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1-1

 この世界には人類が治める「天界」と魔族が治める「魔界」の二つの領土で分かれている。

 天界は太陽の光が差し、穏やかな気候が目立つのが特徴で、人間にとっては非常に生きやすい環境である。逆に魔界は極端な気候が多く、極寒の土地の隣に灼熱の土地があることなどざらで、人間には非常に生きにくい環境である。

 そんな天界の中でも最も大きな国家、それがナーリャガーリ大帝国だ。この王国には様々な「世界最大級」が集まっており、「天界で最も反映している国」という事実を裏付けている。

 その「世界最大級」の一つに、冒険者ギルド「エンデ」がある。この世界にある無数の冒険者ギルドの総本山であり、最も権力を持つ拠点になっている。有事の際には迅速に人員の手配を行ったり、無用な殺生を避けようとするなど、モンスターと人類の繋がりをコントロールする重要な役割を担っている。

 そしてそんなギルドの本拠地である「エンデ」。その一角に「対転生者特別防衛機関」、通称「転生者殺し(ヴィジターキラー)」が設けられているのだ。





「それにしても、最近多いよなぁ」

 ギルドの受付の男性が、何気なくつぶやいた。

「ああ。まったくだぜ。冒険者志望者はなんでこう、読みにくい名前の奴ばっかりなんだろうなぁ」

 ここでの読みにくい名前、というのは転生者のことである。異世界からの転生者は大半が「ニホン」という帝国からやってきているのだという。噂によれば、自分たちとは異なる物理法則を生かした、目玉の飛び出るような技術があふれかえっていたり、見たこともない美しい景色が広がっていたりと、かなり魅力的な場所のようだ。

 しかし一方で、彼らが舞い込んでくることに少なからず弊害が出始めているのも事実だ。

「名前もそうなんだけど、なんでかみんな英雄視するんだよなぁ・・・・・大した成果も出してやがらねぇで」

「どいつもこいつも、やれチートだ、やれ世界最強だ、好き勝手言いやがってほんとにやってられねぇよ!!」

 バシィン、と男性の一人は万年筆をカウンターにたたきつけた。

「異世界から来た奴は努力ってもんを知らねぇ!!モンスターばっかりテキトーに倒してりゃ、いろんな特技が覚えられるって思いやがって!しかもでかい面して”僕は異世界から来ました~”って、顔しやがって!!結局テメェらの力なんて、貰い物(もらいもん)じゃねぇか!!」

「・・・・必死に頑張ってるやつもいるけど、そういう奴に限って全く出しゃばらないから目立たないんだよな~・・・・・あるいは、目立ち方がうまい、とかな」

 などと愚痴り合っていると、何やら玄関先が騒がしい。誰か有名人でも帰ってきたようだ。

「・・・・・まあ、そんな奴ばっかりいるから、こんな機関が出来ちまうんだよな」

「・・・・・ああ。無理だろうなとは思いつつも、期待しちまうよ」

 そういうと、二人の職員は立ち上がった。その騒ぎの根源を探るのではなく、姿勢と服装を正して、いつでもお辞儀できる体勢に整える。

 そして、その騒ぎの元は足音の塊としてやってきた。ガチャン、ガチャン、ガチャン、と鎧がカーペットの床を叩く金属質の音の塊。その中に、かすかにに革靴の足音がコツ、コツ、コツ、と鳴り響く。

 そしてその集団が姿を見せた。大勢の甲冑をまとった騎士たち。その戦闘に居るのは、色あせた様な長い金髪の、青い瞳の少年だった。トレードマークである白いコートは鮮血で汚れていて、彼の一歩後を歩く騎士が抱えている。その後ろに何人も騎士がついており、さらには「人ひとり包んだようなもの」を抱えた集団も後に続いた。

「「お疲れ様です!!トーヤ執行部隊隊長!!」」

 先ほどの様子と打って変わって、心から歓迎するような腹の底からの大声で、少年にお辞儀した。少年はこちらを見向きもせず軽く手を上げるだけだが、それでも挨拶には十分返してくれた、と思う。

 ただでさえかなり賛否の激しい「執行」という仕事だ。しかも相手が「転生者」だけあって、否が応でも悪目立ちしてしまう。だからこそ自分たちのような一般職員とは極力接触を絶たなくてはならない。たとえ本人がそれを気にしていようがいまいが、彼らには大した問題ではなかった。

 それだけ「転生者に対する抑止力」という存在であることの期待と、ある秘密に対する尊敬の念が強いということだ。

「A班はこのまま解析棟へ”検体”を搬入しろ。B班は心療部隊へ連絡、取り急ぎパーティメンバーの状態確認しろ。俺はこのまま上へ報告しにいく。あとは各自指示を仰げ。いいな?」

「「「ハッ!!」」」

 少年の言葉に、騎士たちは返事をそろえた。「急げ!!鮮度が命だ!!」とか「自害はしていないか?!」などと不穏な言葉が飛び交うが、かなり迅速な動きだ。騎士たちがこういった団体行動を中心に訓練しているというのもあるだろうが、ここまで的確に指示できる、弱冠15歳とは思えない指揮能力も大きいだろう。それだけ彼は様々な「経験」を積んだのだろう。

「彼が来てから2年か・・・・・・本当に強くなったと思うよ」

「ああ。最初はどうなることかと思ったが・・・・・なんでも物は考えようなんだな・・・・・・」

 受付の男性二人は、感慨深そうにその後ろ姿を見送った。








 カッ、カッ、カッ、と靴音を鳴らして、トーヤはギルドの建造物の中を早足で歩いた。急ぐ必要などはないのだが、上に報告して初めて任務が完遂される。それまではまだ彼の心は戦場だ。

 と。

「おかえりなさいませ、トーヤ様」

 少年を出迎えたのは、メイド姿の少女だった。昨今にありがちなフリフリのミニスカートではなく、標準的なスタイルのものだ。クリーム色のボブカットにトーヤと同じくらい色白の肌。そして赤い瞳に尖った耳。一目見て、明らかに人間とは異なる雰囲気を漂わせていた。

 彼女の名は「ゲイボルグ」。元々はどこかの魔王の「戦乙女」という使い魔だそうだが、戦力外通告されたところで処分されかけ、瀕死の重傷を負っていたところを「転生者殺し」に拾われ、その出自と実力を買われてここに加入したという。

 使い魔というのは普通のモンスターとは異なり、魔力で構成された肉体に魂を宿らせた、ミシェルようなの自動人形の一種である。異世界では「シキガミ」などと呼ばれているとか。

「ゲイボルグ。総帥がお呼びか?」

「いえ、ただ貴方様のことですから、戻られたらそのまま報告にいらっしゃるものかと・・・・・・こちら、お召し物です」

「ありがとう」

 ゲイボルグはきれいにたたんだ白地に金のロングコートをトーヤに差し出す。少年はそれを受け取るとすかさず広げ、バサリ、と白鳥が羽ばたくように翻しながら手慣れた動きで瞬時に羽織った。

「よく似合っています。・・・・・ではこちらへ」

「とんだお世辞を・・・・・失礼します」

 ゲイボルグに促され、トーヤは総帥室のドアを開く。

 中に入ると重苦しい雰囲気が立ち込めた空間が立ち込めていた。部屋の中央にはテーブルと2脚のソファが備え付けられ、その奥に総帥が座っている少々豪華な椅子とだだっ広い机が置いてる。

「トーヤか。お疲れ様だな。まずはこっちに」

「はい」

 バタン、と扉を閉めながらトーヤは返事する。入るときもそうだが、トーヤは総帥という立場の相手にしてはいささか無遠慮な態度を示している。

 しかし、その理由もすぐにわかる。

「いや、本当にお疲れ。まずは一杯やろうか」

「遠慮します」

 いきなり酒を勧められたトーヤは、一切の遠慮もなしに切り伏せた。

「なんだ・・・・つれない奴め・・・・・・」

 やれやれ、とわざとらしく肩をすくめて見せている目の前の男性こそが、「転生者殺し」の総帥なのだ。

 墨を塗りたくったような黒い髪に、襟足だけ長く伸ばして束ねた特徴的な髪形。血のような瞳に三日月形の虹彩を持ち、頭には側頭部からほぼ直角に折れ曲がり天を指す角が生えている。漆黒のマントを羽織ったその下は、二列ボタンのタキシードを着込んでいる。指先には長い鉤爪が生えており、人外的な雰囲気を漂わせる。

 対転生者特別防衛機関総帥「アーサー」。それが彼の名前だ。彼は魔族の一人である「リザードマン」であり、三日月形の虹彩と指先の鉤爪がそれを物語っている。

「さて、まずは任務の達成おめでとう。調査部隊から話は聞いているよ」

「有難う御座います」

 調査部隊というのは、「転生者殺し」の部署の一つで、主に各地で起こる転生者の起こす事件を収集・管理する。現地調査も執り行っており、現場での被害の状況や転生者の来歴など、必要な情報をあらゆる手を尽くして手に入れる、組織の要でもある部署だ。

「で、今回の相手はどうだったか?」

「今回の相手ですか・・・・・」

 うーん、とトーヤはあごに手を当てて少し考えたのち、

「まあ、かなり御しやすい相手でしたね。私の特異体質をさほど生かす必要性もありませんでしたし・・・・・」

「半ば不死の存在を”御しやすい”なんていうとは、俺は全く恐ろしい戦力を得たものだよ」

「・・・・私は客観的に見た感想を述べているだけです。それに私はめちゃくちゃ弱いですからね」

「まーたそんなことを言って。お前は”めちゃくちゃ弱い”が武器になっているんだから、そういうことを言うな」

 などと、しばし互いに軽口をたたいた。

「さて、かえって来て早々で悪いが、調査部隊から気になる報告があった」

「・・・・・・・・・なんでしょう?」

 先ほどまで軽かった雰囲気が、一気に重くなった。

「詳しい話は調査部隊に聞いてほしいが・・・・カーム村周辺の山地で、大規模な爆発が複数観測された。その中心にはいずれも”タツモドキ”の死骸が残されていたそうだ」

「”タツモドキ”・・・・・一般的に”ドラゴン”と呼ばれている種族ですね」

 「転生者殺し」に限らず「エンデ」では、近年「これまでドラゴンと呼ばれてきた種には、実は全くの別の種が含まれていた」ということが明らかになった(異世界でいうイモリとヤモリの関係である)。これまで人類が討伐してきた「ドラゴン」というモンスターは「タツモドキ」という全く別の種類であり、本来の人里離れたところで暮らす天災級の力を持つ者、それこそが本来の「ドラゴン」である。先日優太たちが討伐し(てしまっ)た「クラヤミマモリドラゴン」も、実際には「クラヤミマモリタツモドキ」という名前であることもすでに把握している(ただし希少性は事実であり、現状「絶滅種」に指定することも検討している)。

 しかしなぜそれを公表しないのか。というのも、これまで様々な英雄譚が生まれてきたこのご時世に、「これまで我々が相手してきたのは、実は本当の意味でのドラゴンではなかった」と言ってしまえば、そういった御伽噺もすべて無為にされるも同然である。そのような混乱を防ぐため、現状ではあえて「ドラゴン」のままにしてあるのだ。

「今回の件以外にも、様々なモンスターの命が無差別に刈り取られる事件が発生している。いずれも高威力の炎属性魔法で焼き払われたものだ。俺はコイツが同一犯だと踏んでいる」

「モンスターの仕業だとは?」

トーヤはアーサーの見解に反対意見を述べた。この件が転生者の仕業ではなく、強力なモンスターによる被害である可能性も捨てきれない。

だが、アーサーは否定した。

「調査班の解析によれば、その魔力の波長は人間特有のものだそうだ。モンスターの可能性は100%あり得ない」

「なるほど。そういうことですか」

 実は魔力と言っても、それの持つ波長は種族によって異なる。人間と猫で発する声の波形が異なるように、それらの持つ魔力も種族によって異なるのだ。

「ということだ。立て続けで申し訳ないが、お前にはその調査を補佐してほしい。可能であればその後の対策や対応も一任したい」

「解りました」

 トーヤは深々とお辞儀をした。

「このトーヤ・グラシアルケイプ。転生者の横暴から民を守るため、この身を戦に投じましょう」


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