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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第2章 「勇者よりTUEEEEE俺はなんやかんやで暗部に身をやつしました」浅倉忍
16/110

2-4

「既存搭載型・・・・・・?」

 マナは、トーヤの口にした単語を繰り返した。

「隊長さん。それは一体どういうことですしょうか?」

 モーガンも、トーヤの様子が心配なようだ。周りの騎士達も、予想だにしない事態に戸惑っている。

「既存搭載型っていうのは俺が勝手に呼んでいるスキルの形態の一つだ。転生者にスキルが与えられた際は、普通は本来の能力とは関係ないものが付加される傾向にある。だが“既存搭載型”は“元々本来備わっている、または身につけている能力を無理矢理スキルに落とし込んだ結果”付与されたものだ。それはオリジナルのスキルだったり、既存のスキルに内包されたりするが、今回のは大方後者だろうな」

 トーヤは頭を抱えて大きくため息を吐いた。

「そして厄介なのは、このタイプは“本人の持つ素質や能力を反映している”故に“実質的にシステムの枠組みから外れている”ってところだ。これのせいで、俺の体質による無効化ができないんだ」

「待ってください!ということは、奴を捕捉することは不可能ということですか!?」

 声を荒げたのは、ゲイボルグだった。普段冷静な彼女が取り乱すのは、かなり珍しいことだ。

「厳密には完全に手が出せないっていうのは無いだろう。もし本当に無効化されるなら、天井裏での待ち伏せは通じなかった」

 といって、トーヤは天井を見上げる。未だに天井からは氷柱がいくつも垂れ下がっており、ゲイボルグの放った斬撃によりパックリと切り裂かれている。

忍があの出入り口を故意に開けるまで、トーヤは完全に目が見えない中で奴を待ち伏せなければ無かった。そのため、トーヤは氷属性の魔力を放出し、その魔力にうねりが生じたり、獲物が凍り付く反応を察知することで、「生命探知」の換わりを行っているのだ。

一方の忍も寒さを感じると言った異常は感じたものの、トーヤの気配にすら気づかなかったことから、忍の持つ「生命探知」は後から付加されたスキルであると言える。

だが、結局取り逃がした忍を発見できないと話にならない。このミスを挽回するための策を、今すぐに出さなければならない。

「・・・・・・トーヤ様、“防衛システム”を用いるのはどうでしょうか」

 いったん落ち着きを取り戻したゲイボルグが、恐る恐るといった表情で提案した。実際に忍の侵入を観測したこのシステムなら、邸内の奴を見つけられるかもしれない。

「お嬢さん・・・・その提案はありがたいのですが、難しいですね」

「え・・・・・・・・・・」

 だが、モーガンはそのアイデアを否定した。

「 “草木が不自然に踏み倒されたこと”を観測したからこそ、侵入者を発見できたのです。屋内で運用するのはさすがに厳しいかと思います」

 実際、忍を発見できたのは、森林に生えていた草が倒れたことから発覚したことなのだ。揺れるものがない屋内では全くの無意味なのだ。

「ならば、トーヤ隊長の魔力で片っ端から探ってゆくのはいかがでしょうか!?」

 話を聞いていた騎士の一人が提案した。確かに、「生命探知」が効かない以上、忍の「隠密」「偽装」を貫通して察知することができる。理にはかなっているだろう。

 だが。

「そう言ってくれるのは嬉しいが、そうなると魔力を放出しながら邸内を駆け回るか、邸内を包み込むほどの魔力で包み込む必要がある。正直そんな魔力は無い」

「ぐっ・・・・・・」

 いくら先日の大間当司の魔力で大幅に底上げされているとは言え、さすがに人一人の魔力で屋敷一つを探知することはできない。そんなことをすれば、実際に戦闘になる前に魔力が底を突いてしまう。それでは本末転倒だ。

「・・・・・Mr.モーガン。一度ここを離れましょう。相手があまりにも悪すぎます」

 トーヤはモーガンに脱出を促す。屋内では部屋が無数にあるため、隠密行動をする身からすれば非常に都合のいい地形だ。森の中では暗闇こそ多いが、壁のような極端に大きい障害物も存在せず、モーガンを中心に騎士達で取り囲む人海戦術がとることができる。空間の限られた屋内で無理に対処するよりも、慎重に移動しながら撤退するのがいいだろう。

「・・・・・・・・・・・いや、私はここを動きません」

「!!」

 しかし、モーガンはこれを拒否した。あろうことか腕を組んで、どっかりとかまえた。

「ここで私が動けば、皆さんの作戦が失敗に終わります。侵入者を迎撃するならば、確保も視野に入れる必要があります」

「し、しかし!!」

 ガタッ!!とゲイボルグが身を乗り出し、鬼気迫る表情でモーガンに食ってかかった。

「モーガン様は命を狙われている身です!このままここに居ては、確実に奴の兇刃に晒されます!!」

「・・・・・・・・・・・」

 ゲイボルグの言葉に、モーガンは何も言わない。

「モーガン様、ご自覚を!!あなたは今、転生者に狙われているのです!!私たちは貴方様のお命を守ることを目的としています!!そんなあなたが」

「ゲイボルグ」

 モーガンに説得を試みるゲイボルグの言葉を、トーヤは遮った。






「クライアントの顔色が悪い」







「「・・・・・・・・・・・・・」」

 トーヤの言葉に、ゲイボルグは黙らざるを得なかった。騎士達にも、彼の一言で明確に緊張が走る。

「・・・・・・・・・・・・・」

 腕を組んでどっしりと構えるモーガン。その膝は、わずかに震えていた。トーヤは昨日彼と握手した時点で、その手が震えているのを感じ取っていたのだ。

「お前達は解っていない。ここで奴を迎え撃つ、ということの意味を。・・・・・・・最初こそ脱出を提案したのは俺だが、実のところ苦肉の策でそう言っただけだ。・・・・・・・できることなら、嫌、必ず奴をここで仕留めたい」

 トーヤは、モーガンの方を見た。

「Mr.モーガン。今一度、貴方様の言葉聞きたい。今、どんなお気持ちでしょうか」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 トーヤが問いかけると、モーガンはうつむき、やがて顔を上げて話し始めた。

「・・・・・・・・・私も、ここを逃げ出した方がいいのは解っています。ですが、だからといって逃げ切れるかといいますと、それは難しいことは承知です」

 机に肘を突き、手を組んだモーガンは、うっすらと冷や汗をかいている。

「正直なところ、私もこんなところで幅をきかせずに、若い世代に活躍させたいのも事実です。ですが、私は“ナーリャガーリ大帝国”の技術を支える者。まだ死ぬわけには行かないのです」

 誰だって怖いのだ。自分が殺される、というのが。前もって襲撃を知ることができる、というのは大きなアドバンテージではある。だが、それは自分の命日を前もって知らされるようなものだ。端的に言えば「明日、あなたは殺されます」と予言されるのも同じだ。よほどの命知らずか、すでに自分の命に関心が無いなど、よほどなメンタルがなければ恐れるのも当然だろう。

「皆さんがこうして集まってくださっている以上、私は“標的”であり“囮”としての役目を全うしたい。故に私は()()()()()()()()。・・・・・・こんな老いぼれの我が儘を許してください」

 だからこそ、彼はここを離れないことを選んだのだ。命を賭して守ってくれているものが居るのに、自分がのうのうとしいていいわけがない、と考えているのだろう。

 これが「鋳神」モーガン。彼の覚悟は並大抵ではない。

「わかりました。奴をここで迎え撃ちましょう・・・・・・しかし・・・・・・」

 トーヤは頭を抱えた。「生命探知」も効かない、「防衛システム」も当てにできない。奴の居場所を探れるのはトーヤだけ、でも彼だけでは到底間に合わない。八方塞がりだ。

 皆が万事休すか、と考えていた、そのとき。

「あ、あの・・・・・・・・・・も、モーガンさん・・・・・・・・・」

 おずおず、とマナが小さく手を挙げた。これまで置いてけぼりを喰らっていた彼女だが、どうにか打開できないかと思案し、このタイミングで申し出ることにした。

「あの、こ、今回の作戦で・・・・・・これはやめてほしい、というのはありますか・・・・・?」

「お嬢さん安心なさい。そんなことは言いませんよ・・・・・可能であれば、できる手はすべて打ちたいものです」

 実際、打つ手がない現状では、猫の手も借りたい、という状況だ。こんなところで、あれこれ制限するのはもはや愚の骨頂だろう。

「解りました。では、お願いがあるんですけれど・・・・・・・・・・・・」




トーヤは彼女の提案に、目を見開くこととなった。









「(さて、逃げ切ったはいいがどうするか・・・・・・・)」

 屋敷の中の、どこかのクローゼット。その中に「不可視の兇刃」は潜んでいた。先ほどの戦闘のとおり、忍は屋根裏を伝ってモーガンの部屋にたどり着いた。そうすれば見張りは自然と屋根裏部屋にも注意を向けなければならない。そうすれば屋内は手薄になり、攻略しやすくなる。無論、天井裏よりも戦力が集結しているのは解っているが、こんなガバガバな作戦でも忍の「ステータス」は成功させてしまうのが恐ろしい。

 とは言え、それもタイミングを間違えれば一気に不利になる。「現れ時」を考えなければならない。

「(さて・・・・・このまま目標があの部屋にとどまっててくれればいいが・・・・・)」

と、忍は「マップオープン」と小さく唱えた。虚空に青く光る「屋敷の間取り」が浮かび上がる。暗いクローゼットの中では目立ちまくるが、それも「隠密」でごまかせる。

「うーん・・・・・・少々離れてしまったが・・・・・手薄なルートがいくつか存在するな」

 そのマップに、忍は「生命探知」で見張りのビーコンを追加する。本来屋敷一つ包むような魔力はよほどな才能を持っている者で無い限り発揮できないが、忍は当司ほどではなくとも、忍は十分可能な魔力量を持っている。

 と、

「(なんだ?すげースピードで走ってくるのが居るが・・・・・・・・)」

 一般的な冒険者や騎士ではまずあり得ないようなスピードで、邸内を駆け抜けるビーコンが、1つ。しかもそれが、自分の潜んでいる部屋に向かっている。

「(いや、まさかな・・・・・・・“隠密”も発動しているし・・・・・・・)」

 といいつつも、忍は嫌な予感がし、心臓が脈打つ。そして、そのビーコンが部屋に到達し、ドアを開けて入ってきた。

 すると、

「ガウッ!!ガウッ!!」

 と、漆黒のボディに白いラインの入った体毛の「ドレッドファング」が飛び込んできた。

「(嘘だろッ!?こんな時にドレッドファング・・・・・・!?)」

 忍は危うく変な声を出しそうになった。ここに来て、まさかのモンスターの襲来。予想外の乱入者に、忍は動揺を隠せる。

「(どうする・・・・・?奴が立ち去るまで待つか・・・・・?)」

 彼の手腕なら、ドレッドファング一頭を下すなど朝飯前だが、今は潜入中の身。下手に行動すれば居場所を知らせてしまう。

 はずだった。

「フンフンフン・・・・・・」

 目の前のドレッドファングは、ふんふんと床の臭いを嗅いでいた。そしてそれは自分の潜むクローゼットまで近寄り、やがて

「ヴォウッ!!ヴォウヴォウッ!!」

 と、激しく吠えだした。その目は、明らかにクローゼットの戸の隙間からのぞき込んでいる、自分の目を見据えている。

「(・・・・・・!?なんだか寒くなってきたぞ・・・・・?!)」

 にわかに、クローゼットの中に冷気が立ちこめ始めた。何事か、と忍は身構えたが、ここで屋根裏部屋で起きた出来事を思い出す。

_________あのとき、やたら寒くなかったか?

_________あのとき、自分の「生命探知」が通じたか?

 そして、あのとき背後から聞こえた声が、部屋の中で聞こえた。

「シロ、良くやった。確かにコイツがここに居る」

「!!」

 彼の声が聞こえた瞬間、パキパキパキ・・・・・と、“数多の衣類をかいくぐり、忍だけを凍らせた”。

「(まずい、“リフレッシュ”______)」

 状態異常を解除する魔法を発動しようとした忍。しかし、その目がクローゼットの隙間からのぞき込む青い目を捉えた。その瞬間。

 ガバァ!と戸が大きく開かれ、光り輝く部屋の照明に晒される。それとほぼ同時に、少年の細い指が忍の首をガシッ!!と捉えた。




「さあ、鬼ごっこはおしまいだ!!お縄につきやがれ!!」

トーヤは叫びながら、クローゼットから忍を引きずり出し、その勢いでカーペットにたたきつけた。





「ガッ・・・・・・・!!」

 引き剥がされるギリギリで「リフレッシュ」を発動させたため、氷に自分の皮膚や四肢が持って行かれることはなかったが、ダイレクトに背中から打ち付けられて、肺の中の空気を絞り出される。そこを。

「死ね」

 トーヤが手にし剣で串刺しにしようと突き出す。

「させるかよッ!!」

 とっさに体をひねり、トーヤの拘束から逃れる。彼はあまり力が強くないらしく、すぐに抜け出せた。

 だが。

「ゴルルルルッ!!」

 と、先ほどのドレッドファング______シロが飛びついてきた。それに反応した忍は、とっさに裏拳を放った。

「キャンッ!!」

 アサシン離れした腕力から放たれた一撃はシロの側頭部にヒットし、いとも簡単にひるませた。

「逃がさねぇよ」

 トーヤの冷徹な一言が菜那たれると同時、忍の背中に氷塊が命中する。決して強力な一撃はないが、「精神」のステータスが高めなはずの忍のステータスなど無視して、凍てつかせる。

「クソッ!!」

 転がり出るように部屋を飛び出した忍だが、その先で肝を潰すことになる。

「いたぞ!!今度こそ取り逃がすな!!」

「絶対にこっちに寄越すな!!」

 と、騎士達がやってくるのが見えた。

「(やばい・・・・・あの数、裁き切れねぇ・・・・・・・)」

 いくら忍が「転生者」といえど、ほかの者達の様に「チート能力」があるわけではない。持ち前の「ステータス」で「俺TUEEEEEE!」するタイプなのだ。しかもそれを振るうには、いくら何でも狭すぎる。得意の高機動戦法も、岩や木々の生い茂るダンジョンなどだからこそ存分に発揮できる。何よりも彼自身が「目標の暗殺」が目的であり、それ以外の人物には手出ししないと決めている。これが何かしらの因縁をつけて襲ってくるような輩だったら躊躇鳴く振るっていたかもしれないが、今回は自分がアウトローであることを自覚している。無条件で無双できるほど彼は図太くはなかった。

「逃げるか!!」

 と、きびすを返し、騎士達に背を向けて逃げ出す。単純な機動力なら圧倒的に忍ぶの方が上だ。逃げ切るのは難しくない。しかし。

「くそっ!!“バリア”張られた!!」

 丁字路にさしかかると、真正面の廊下を真っ赤な「フィールド」が封鎖しており、仕方が無く左に向かう廊下を走ることとなる。その先にも、至る道に「フィールド」が張られており、まともに進むことができない。

さらに。

「来たぞ!!迎え撃て!!」

 と、部屋から騎士や使用人と思しき者達が出てくる。皆が剣や槍、使用人はナイフや弓を持ってこちらを狙ってくる。

「悪ぃが、捕まる気は無いんでね!!」

 といって、神速で彼らの隙間を縫うように駆け抜けた。そしてその背後から、

「コソコソ逃げてんじゃねぇ!!このゴキブリが!!」

 と罵声を浴びせながら、トーヤが駆け寄ってくる。彼は騎士達の鎧に包まれた肩を足場にしながら、こちらに猛スピードで迫ってくる。いくら忍が「人波の隙間を縫う」様な進み方をしているとは言え、少年の機動力は忍に迫る・・・・・どころか、上回ってさえ居るように感じた。

「クソッ!!どうにか逃げかくれるところはねぇか・・・・・!!」

 巨大な階段にさしかかり、忍は一息に跳び上がり、踊り場に直接降り立つ。その後ろをトーヤが手すりを凍らせ、その上を滑りながらなおも追い詰める。

「そうら、凍れ!!」

 と、トーヤはアクロバティックに跳び上がり、その際に振り上げられた蹴脚に乗せて氷塊を放つ。それは忍が進むはずの道を塞ぎ、一本道にしてしまった。

「ヤベェ・・・・・・このままじゃ追いつかれる・・・・・」

 直感的にそう感じた忍は、とっさに()()()()()()()()()()()()()部屋に飛び込んだ。ドガァン!!と乱暴にドアを蹴破った先は、レンガが丸出しの壁の部屋だった。煌びやかな内装の廊下やその他の部屋とは異なり、少々陰惨なイメージを与える。そしてその部屋には大きな扉があり、「社長執務室直通連絡路」と札が下げられていた。

「占めたっ!!」

 先日の「事前調査」では見つからなかった隠し通路を見つけた忍は、思わず手を打って喜んだ。何の躊躇もなくその扉を蹴破り、その奥に駆け込む。仮に「標的」があの部屋を離れていなければ、そのまま近道してとどめをさしにいける。後は「隠密」「偽装」のスキルを駆使して逃げるなり、立ち向かうなりすればいい。

「いやー、なんて俺は運がいいんだ」

 といって、意気揚々と暗闇の中を駆け抜ける。







 そして、暗闇に飛び込んだ姿を見届けたトーヤは、すぐさま

「奴が“連絡路”に入ったぞ!!急いで塞げ!!」

 と廊下に残った騎士達に叫んだ。すかさず騎士達は「フィールド」を発生する器具を持ち出し、扉があった壁に差し込んでいく。そして新しいドアの代わりに「フィールド」が展開された。

「お前達、第一フェイズはクリアだ!!第三フェイズの準備をしろ!!」

「「ハッ!!」」

 騎士達はすかさず部屋を後にし、階段を駆け上がっていく。そうしてひとしきり指示を出したトーヤは、その場に座り込んだ。

「ふう・・・・・やっと一段落、か」

 汗を拭きながら、トーヤは深くため息を吐く。その表情は安堵に満ちている。

「トーヤさん!!」

「ヴォウ!!」

 階段を駆け下りてきた、マナとシロがトーヤに駆け寄ってくる。

「マナ、素晴らしいアイデアをありがとう。シロも、力を貸してくれてありがとうな」

「キューン」

 トーヤはシロの顎をなでながら、感謝を口にした。

 行き詰まった状況を打開したのは、マナが提案した「シロの嗅覚を生かす」という戦法だ。本来、「隠密」はこういった「魔力探知」に類するスキルさえ無効化してしまう。そのため、本来は忍を追跡する手段は皆無に等しい者だった。

 だが、トーヤが持ち帰った「マフラーの切れ端」の持つ「臭い」をシロに覚えさせ、その臭いのする方をシロに教えてもらったのだ。どうやら「追跡用の魔力」はシャットアウトすることはできても、人の発する「臭い」厳密に言えばその「成分」までは隠せないようだ。こうすることで、忍の居場所を難なく突き止めてしまったのだ。

 そしてトーヤ達がとった戦法、それが「連絡路にあえて誘導する」というものだ。暗殺者の厄介な点は、屋内のような入り組んだ場所で真価を発揮することだ。様々な部屋に逃げ込まれ、そのたびに行方をくらまされて・・・・という泥仕合に持ち込まれかねない。

 だから、文字通りの「一本道」に誘導する必要があったのだ。

「でも・・・・・本当に大丈夫だったんでしょうか・・・・・・」

 マナが心配そうにトーヤをのぞき込む。

「相手は“転生者”さんなんですよね・・・・・?本当に一人で立ち向かえるのでしょうか・・・・」

「ああ、安心しろ。“あの人”は狭い場所での防衛戦、特に1VS1(サシ)での勝負ではまず負けない」

 座り込んで少しスタミナを回復させたトーヤは、ゆっくりと立ち上がった。そして、トーヤは先ほど忍が飛び込んだ通路の方を向いて、つぶやいた。

「うちのNo.2、なめんじゃねぇよ」







「しかし・・・・・こっちに来て本当に正解だったのか・・・・・?」

 隠し通路を進む忍は、ふと疑問を口にした。先ほどは逃れるために暗闇の通路に逃げ込んでしまったが、よくよく考えればモーガンはあの部屋に居座っているとは限らない。自分の部屋の上から物騒な音がすれば、普通はそこを後にするだろう。

そもそもここに来るときも「誘導されていた」様に感じた。でなければ、わざわざ行く先を用意しないだろう。何しろ「フィールド」で行く手を塞ぐことができるぐらいなのだから。

と、思案していたときだった。

バッ!!と、通路の壁に備え付けられた照明が、一斉に付いたのだ。

「?!」

 突然の出来事に、忍は身構える。忍は連絡通路の中程におり、目の前に金属製の引き戸がある。その扉の前に、その「騎士」はいた。

「・・・・・・・ここに貴様が居ると言うことは、隊長の誘導は成功したと言うことだな」

 しゃき、とその騎士は剣を構える。身の丈にもなる両手剣を持ち、黄金色の甲冑に身を包む、その少女。炎のように赤い神をポニーテールにした、同年代の女性の中ではかなり長身な彼女は、普段の勇ましく暑苦しい雰囲気から、苛烈でありながら鋭い雰囲気を放っていた。








「貴様の偽英雄譚ライトノベルは、ここで終わりだ」

彼女は「対転生者特別防衛機関 執行部隊副隊長:エミリア・ゼッケンドルフ」。彼女のギルド内での通り名は「反射要塞」。


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