もどかしいです
祝杯は亮を中心に大いに盛り上がった。そして、一段落すると亮の仲間たちは、ほんのり顔を赤らめ、楽しそうに帰っていった。
明子は、そんな彼らを感謝いっぱいの思いで見送った。彼らはみんな、本当は朝までだって祝ってあげたいと思ってくれているはずだ。でも、誰もが激戦を戦い抜いた亮を気遣ってくれている。
やがて、美貴も立ち上がり、亮に声をかけている。
「亮くん、本当におめでとう」
微笑みながらの声に、亮も笑顔でうなずいている。
「じゃー、私たちはそろそろ」
美貴が、亮やみんなに向かってそう言った。
すかさず亮が、「じゃあ、送りますよ」と声をあげた。
美貴はすぐに、「亮くん、疲れているんだからゆっくりして。それに今日は大丈夫よ。あの子もあんなに元気だから」
前回の祝勝会では、拓也が眠ってしまっていたが、今日はユイと、はしゃぎ合っている。
明子はそんな様子を眺めながら口を開いた。
「興奮して、今日はなかなか眠れないかもね」、そう言いながら、あえて苦笑いを作って視線を後ろに、「こっちは、すぐに寝ちゃったけどね」
明子の後ろには真っ赤な顔をし、幸せそうな顔で眠る大作の姿がある。
「大ちゃん、普段はまったく飲まないし、コップ一杯だって飲めないのにな。相当嬉しかったんだな」
その武史の言葉に、みんなが優しく微笑むように大作を見つめている。
いつもは表情をあまり顔に出さない大作が、今日は本当にうれしそうな顔で眠っている。
「まだ帰りたくない」と言う拓也を美貴が宥めて手を引くと、「じゃー、外まで」と言って亮まで出て行ってしまった。
明子は出入り口のところまでいって、拓也に手を振りながら見送った。
外って、会館の外までじゃないの。
亮は一緒に駅のほうへと向かってしまった。
明子はため息をつきつつ向きを変え、会館の引き戸を開けた。
会館の中は主役がいなくなっても、あいかわらず飲みが続いている。
引き戸の音に奈津子が顔を向けてきた。戻ってきたのが明子ひとりだったからか、寂しげな表情が浮かんだ。ほんの一瞬だけ。
「明おばちゃんも飲もうよ」
笑顔を作って、そんな言葉をかけてくる。
その姿に、明子の胸がちくりと痛む。
奈津子を見つめる淳史の眼差しにも。
奈津子は笑顔で話の輪に入っていっている。
ぎこちない笑顔と大きめの声の奈津子。いつも以上に盛り上げようと笑い声を上げている淳史。
明子は浮かんでくる涙を払い飛ばし、話へと加わっていった。
このバカ息子が!
胸の中でそう叫びながら。




