ボクシングは最高です
退場となった時、亮は奈津子に耳打ちした。
奈津子はにっこりほほ笑むと、素早く動き、淳史に〝あれを〟手渡した。
「淳史、吹いてくれ。みんなのために!」
戸惑う淳史に、亮は声をかけて、にっこり笑いかけた。
淳史の頭が力強く縦に動いてくれた。
リングをおりる亮に歓声が上がっている。だが、音が鳴り始めた瞬間、会場が静まりかえった。
淳史のトランペットが会場に響きわたっている。
試合を見ている時とは違う、優しく、楽しい興奮が広がっていく。
演奏が終わると、観客は立ち上がって拍手をしてくれていた。
先頭で花道を歩き出した淳史の肩が揺れている。かすかに嗚咽も聞こえてくる。それは亮の後ろからも伝わってくる。
奈津子、ヤマさん、伝次郎。亮自身だって。
――観客席で目を潤ませる女性がいる。青い集団の横で、ひと際は大きな拍手をしている。
青年よ! ばあさんは何だか楽しくて、うれしくて涙が止まらんよ。この歳になってこんないい思いをさせてくれて、あんたたちは〝最高〟だよ!
そうそう。浦田をどこか小ばかにした感じだったアナウンサー。
いつしか、浦田ワールドに飲まれたのか。放送最後の締めでは叫んでいた。
「それでは最後に永井選手のKOシーンでお別れとなります」、真面目なトーンの後、「これが永井亮の必殺、イノシシフラッシュだ!」
続いて、浦田の叫びも、「ボクシング最高!」




