反撃の開始です
「何だ!」
浦田は思わず立ち上がっていた。隣りではアナウンサーが仕事をまっとうするように実況しながら、どうした、という顔を向けてくる。
あのダウンから立ち上がったことにも驚いたが、今の亮の動きにはもっと驚き、思わず解説者という立場を忘れて、マイクなど無視するように立ち上がっていた。
亮はまるで別人のように動いている。いや、舞っている。和人も舞っていたが、それとは違う。
いうなれば、ボクサーとして舞う和人に対し、亮は生き物の本能で舞っているように見える。昔のボクサーに蝶のようにと表現された有名なボクサーがいた。でも、優雅に舞いながら、何かを狙っている姿は、蝶などといった可愛らしさではなく――鷹だ。
大空を舞う鷹のようだ。
突っ込んでいった和人のパンチが空をきった。次々と繰り出すパンチがことごとく空をきっている。
空を舞う鷹は旋回しながら、その時を待っている。
いつのまにか、攻めていたはずの和人が怯えた獲物のように後退していた。
今までとは比べものにならない、バネの効いた力強い踏み込みと、柔らかい筋肉から生み出される回転の速いパンチで和人を追い込んでいる。
――伝次郎の背中に衝撃が走った。いつかテレビで見た亮の姿が頭の中に浮かんできた。惚れ込んだ姿を、今、目の当たりにしている。
「これだ! これだよ亮。行け!」
――わき上がる青い集団の中、靴屋の老店主も叫んでいた。
会長。あんたが言っていたのはこれか! まさにエンジン全開じゃ。
浦田が見つめる先では、亮が和人をロープまで追い込んでいる。そして、体を沈めながら、左フックからのボディーを放った。さらに右を振りかぶった。
少し前と同じ光景がそこにある。
「くるぞ!」
浦田は叫んだ。頭の中では、和人の強烈な左カウンターが蘇っている。
それが再び。
閃光のような和人の左カウンターが――




