くまさんはいつだってヒーローです
亮は暗闇の中にいた。
音もしない真っ暗な世界をぼんやりと眺めながら、ひとり転がっていた。
あぁ、俺は何をしているんだろう。とにかく疲れた。何だかこうしていると気持ちがいい。
そう思い、目を閉じようとしたその時、眠りを邪魔するようなひと筋の光が差し込んできた。
邪魔するなよ。
目を向ければ、暗闇の中にある小さな穴から光が差している。
それが何かによって広がっていく。
声?
しだいにはっきりとしていく声。叫び声――「くまさーん!」
亮はゆっくりと目を開いた。耳には大歓声が届いている。リングサイドから伝次郎たちが「立て!」と叫んでいる。
俺は倒されたのか?
亮はすぐに立とうしたが、体が動かなかい。必死に力を入れようとするが、どうしても体に伝わらない。
「くまさーん! 勝って!」
大歓声を切り裂くような声が心に届いてきた。引き寄せられるように視線が動く。そして、亮の目はいつかのようにその姿をしっかりと捉えた。
真っ赤な顔で立ち上がっている拓也の顔がそこにある。
最近は、亮くん、と呼ぶようになっていた拓也が、あの時のように叫んでいる。
あの時のようにヒーローを呼んでいる。
亮はロープへと手を伸ばし、つたいながら立ち上がった。
ばあちゃん。ヒーローは最後には絶対に勝つんだったよな!
立ち上がった亮にレフェリーが近づいてきた。グローブをもちながら「大丈夫か? いけるか?」と問いかけてくる。
亮はうなずき、ファイティングポーズを取った。見つめてくるレフェリーをしっかりと見返す。
こんなところで終わらせてたまるか。
レフェリーはうなずき、亮と和人の顔を見て「ファイット」と声をかけてきた。
亮はその声とともに前へと踏み出そうとしたが……体が反応しない。自分の足ではないかのように、足は亮を無視し続けている。
和人が猛然と向かってきた。




