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信じています
観客席の青い集団が、今日初めてといっていいくらい沸いた。それだけ今日の亮は何も出来ていなかった。
その中で明子は両手を組み、「りょう、りょう」と呟きながら祈っていた。
いつもなら負ける時でも、しっかりと目を向けることが出来ていたのに、今日は何度も目をそむけてしまっていた。
そうさせていたのは、入場の時から感じていた嫌な緊迫と嫌な予感。そして、それが当たったかのような展開だった。
横の武史が声をかけてくる。
「明ちゃん。まだまだ大丈夫だ。大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように声を発しながらうなずいている。
もう何度も試合を見てきたのだから、武史だって分かっている。どれだけ厳しい状況なのかは。
たかが一発いいパンチが入っただけだ。現に竹山和人は何事もなかったようにパンチを打ち返している。
「亮! 行け」
武史が大声を張り上げた。
どんなに厳しい状況でも亮を信じている。
明子も同じ気持ちだった。握り合わせる両手に力を込めた。




