思いひとつで変われます
奈津子はコーナーに戻ってくる亮を笑顔で迎えた。
亮は、淳史が出した椅子にふらつきながら沈みこんだ。
奈津子は腫れ上がる頬に手を添え、顔を近づけた。
「亮、よく戻ってきたね」
近くには淳史や伝次郎、ヤマさんの顔もある。
奈津子は亮を見つめたまま、
「みんな。もしも、ジムが無くなっても、おばあちゃんとの想い出は消えない。おばあちゃん言ってた。大好きで想い続けるなら、想い出はいつまでも胸の中に広がっている、って」
見まわすように、ひとり、ひとりに視線を送りながら、「みんな、おばあちゃんのこと大好きでしょ?」
奈津子の言葉に伝次郎の表情が緩み、淳史とヤマさんがうなずき、亮も微笑んだ。
「それなら大丈夫! ジムが無くなろうが、おばあちゃんの想い出は〝永遠〟よ」
奈津子が微笑むと笑顔が返ってきた。おばちゃんが大好きだったみんなの本物の笑顔が。
「さあ、これからよ」
奈津子はそう言いながら、気持ちを入れる直すために、両手で自分でほほをポンポンと叩いた。
すると、淳史から声が、
「奈津子! 俺を殴ってくれ」
真剣な顔を向けてくる。
「ちょっと突然何?」
「なんか変なもんが胸につかっえちまって、気合いが足りなかった。亮を集中して応援できてなかった。だから」
奈津子へと顔を突き出してくる。
その気持ちのこもった目に、奈津子は「分かった」と言い、想いをこめて両手を淳史の顔に〝軽―く〟ぶつけた。そして、ぎゅっと挟みこんだ。
ひとつうなずいて見せると、つぶれた顔からうなずきが返ってくる。
横からヤマさんが「俺も」と顔を突き出してくる。
奈津子は一瞬ためらったが、両手でヤマさんの顔もぎゅっぎゅっと挟み込んだ。
「奈津子! 俺もだ。俺が一番、うだうだしていた。だから頼む」
奈津子は「おじいちゃん」と呟き、伝次郎を見つめた。そして、熱い眼差しを受け止め、うなずくと片手でちょっと強めに伝次郎のおでこを弾いた。
小気味いい音がし、亮からも声が、
「奈津子、俺にもやってくれ」
奈津子はうなずくと、亮に顔を寄せて、自分のおでこを亮のおでこに合わせた。そして、囁いた――「亮、勝って」
そこにゴングが響き渡った。
ヤマさんが「行け! 亮」と力を込めてマウスピースをはめ、伝次郎や淳史の声を受けて、亮が歩み出していく。




