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タッツミー  作者: ゆらゆらゆらり
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スターは何事にもパーフェクトです

 街の中の緑が赤や黄色へと変わり始めている。

 日が暮れて冷たさを感じる風の中をピンクの軽自動車が走り抜けていく。


「ねぇ、何で今日もその格好なわけ。恥ずかしいんですけど」

 奈津子はバックミラーに映るダークスーツにサングラスの2人へと声をかけた。

「俺だってこの格好はちょっと……でも、会長が前回これで行って勝ったんだから、今回もこれで行くっていうし……」

 ヤマさんは練習の時の鬼顔からは想像出来ない、かわいい表情で、はにかんだ。

 狭い後ろ座席でごっつい体を縮こませながら、はにかむ姿はとても愛らしい。


「それにしても、なんで計量日の今日がその格好なわけ?」

 今日は試合の前日計量があり、今は、その帰りの車内である。

「俺だってそう思うよ。でも、会長が、計量から試合は始まっている。だから今日からこれで行くって、準備までされたら……」

 ヤマさんがチラッと視線を動かした先をバックミラーで覗き見ると、伝次郎は話しなど聞こえていないかのように、口を結んだまま流れる風景を眺めている。


「ほら、計量後の記者会見、亮の後ろの2人を見て、記者の人が何かコソコソ言っていたの知ってる?」

「あぁ、近くの女記者だろ。こわーい、って言うのが聞こえたよ。俺が顔を向けたら、下向いちゃってたよ」

「そりゃそうよ。ヤマさんがそんな格好でいたら、ハリウッドスターについている強面のSPみたいで恐いもん」

「そうかなぁ」

「そうよ。私たちだって子供の頃、恐くて近寄れなかったもん。特にジムで見るヤマさんなんて怖すぎて、3人で〝くろオニ〟って呼んでたもん。ねっ、亮」

 奈津子は半分笑いながら、前を向いたまま助手席に問いかけた。

「……」

 何も声は返ってこない。


 チラッと視線を向けると、亮は腕を組んで目を瞑っている。亮はいつもと変わらぬ、上下黒のシンプルなスポーツウエア姿だ。


 車に乗り込むとすぐに、減量で絞りきられた体に、特製ハチミツ入り野菜&果物ドリンクとスポーツドリンクの両方を流しこんで、その後は、ずっと目を閉じたままだ。

 きっと、対戦相手と直面したことで、何か思うことがあったのかもしれない。少し眉間にしわが寄った感じからも、寝てはいないだろう。

 前日の今でさえ、もうすでに緊張が始まっているようだ。


 奈津子はそんな亮の気持ちを、少しでもほぐそうと話しを続けた。

「ほら、タッくんだって今でもヤマさん見ると下を向いちゃうし、ユイちゃんだって、ユイちゃんは違うか。赤ちゃんの時から泣きもしないし、その後も仲良しさんだもんね」

 バックミラーを見れば、ヤマさんが照れたように微笑んでいる。

「ユイちゃんは凄いね。本能で見極めてたんだね。ヤマさんって人間を」

「よせよー」

 ヤマさんの照れ笑い混じりの声が聞こえてくる。


 ヤマさんは褒められるのが苦手で、あまり言うと嫌がるので、奈津子はあえて話題を変えて話し始めた。


「それにしても、めちゃくちゃ〝さわやか君〟だったね。記者の質問にもすらすら答えて、それ最後には」


 奈津子は、その時の記者会見のまねをするように、かしこまった口調で、

「永井選手は最高の選手です。そんな選手と対戦出来る事に感謝し、自分の全てをぶつけて戦いたいです。そして、ファンの皆様が喜んでいただけるそんな試合をしますので、よろしくお願いします」


 奈津子は前方を見たまま、お辞儀をした武山和人をまねて、ちょこんと頭を下げ、

「それで頭を下げるんだもん。あの顔であの笑顔だもん。女性にも人気が出るわけよね」

「そうだな。あれはまさに〝生まれもってのスター〟だな。もっているオーラが違うな。亮も人気が出てきたけど、人気のレベルと種類が違うな」

「確かに【野太い声】と【きいろい声援】だもんね。それに小さい頃からのスターは大勢の人に囲まれることも、光り輝くフラッシュにも慣れているけど、亮はダメね。緊張して質問にもうなずくだけだし、最後も小さい声で、がんばります、だけだもん」

「今度ばかりは亮も悪役だな」

「そうよ。サングラス姿のおじいちゃんとヤマさんが後ろにデ―ンと立ってるんだもん。本当に悪役よ」


 奈津子は笑い、ヤマさんも笑っていた。しかし、亮は目を閉じたままだし、伝次郎は無言で外を見つめている。

 亮の緊張に関しては、強敵を目の前にしたこともあるし、慣れない会見もあった後だから、たいして気にはしていなかった。

 でも、いつもなら、あまりしゃべらなくても話しには乗ってくる伝次郎が、外を見つめたまま黙り続けているのが心配だった。

 記者会見の後に現れた眼鏡の男性と何処かに消え、戻ってきてから伝次郎の様子が明らかに変わっていたから……。


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