幸せとはこういうことです
明子は奈津子とともに最後まで残り、後片付けと戸締りを済ませた。そして、奈津子が帰っていくのを見送っていた。
その後ろ姿を見つめながら、亮が美貴たちを送りにいった後のことを思い浮かべていた。
明子が冗談めかしに、「あれは、惚れちゃったかもね」と言うと、周りからも「ありうる、ありうる」と言う声が返ってきた。
笑いも起こって盛り上がっている。
そんな中、ふと、明子の視界に入った姿。
奈津子は真剣な眼差しで2人が出て行ったほうをじっと見つめている。
明子は、慌てて大声で「そんなわけないか」と言ったが、酔っ払いたちの言葉は止まらない。
奈津子が、明子の視線に気付いたのか、目が合った。でも、それは一瞬で、逃げるように目はそらされ、決まりの悪さを隠すように、話の輪に入っていった。
「そうそう、昔から亮はあーいう清楚でおしとやかな美人タイプが好きなのよ。ほら、淳史。なんっていったっけ、亮が高校の時に付き合っていたラグビー部のマネージャー。あっ、そうだ。いずみちゃんだ。あの子もきれいでお嬢さんって感じだったもんね」
何だか言葉を押しだしているようで、明子の胸は痛んだ。
「あぁー、そういえば亮ちゃん、きれいな子と学校から帰ってくるとこよく見たっけ!」
文房具屋の奥さんが言うと、「俺もよく見たよ」と靴屋の老店主も続いた。
その場は益々盛り上がっていく。
酒に強いはずの奈津子が、顔を赤く染めながらカラ元気を出して、はしゃいでいる。
そんな姿に、亮に文句のひとつも言いたくなる――亮! しっかりしなさい。
明子は心配であり、なんだかもどかしかった。
家に戻ると下には誰の姿もない。大作も寝てしまったようだ。靴があるから、亮も戻っているようだが、寝てしまったのかもしれない。
居間へと入っていくと、座卓に置いてある物が目に入った。
小さな箱を持ち上げて、ちょこんと頭を下げた。
亮、いつもありがとう。
腰を下ろして、中の物を取り出した。
ふたを開け、一緒に置かれていたスプーンですくい、口に運ぶと、何とも言えない甘さとほのかな苦みが広がった。
久しぶりの抹茶プリンが体にしみていく。糖分に体がはしゃいでいる。
亮が減量中の間は、明子も糖分を断っていた。もちろん、そのことを本人に言っていたわけではないが、試合後には、大好物である抹茶プリンが置かれるようになっていた。
どこか照れ臭いのか、亮は何も言わず、気付けば、そっと置かれている。
明子はゆっくりと味わい、幸せな時をかみしめていた。




