試合会場へはマイクロバスで向かいます
夜中から午前中にかけて激しい雨が降った。しかし昼過ぎには太陽が顔を出し、5時近くの今でも、まだまだ頑張っている。
明子は手で顔を扇ぎ、キョロキョロと周りを見回しながら、マイクロバスの横にひとり立っていた。
「まだまだ何だか蒸しっとするわね」
そんなことをつぶやいていると、手を振りながら植村拓也が駆け寄ってきた。その後を小走りに植村美貴が追いかけている。
「タッくん、何だかうれしそうね」
明子がかがんで言うと、
「だって、くまさんのパンチパンチみにいくんだもん」
拓也がかわいいこぶしを交互に突き出した。
「そっかー」
明子は笑顔でうなずいた。
「こんにちは」美貴が笑顔で軽く会釈をし、明子も「こんにちは」と笑顔で答えた。
「すいません、チケットをいただいたうえに、車にまでお邪魔しちゃって」
「いいのよ。マイクロバス、人が少なくてスカスカだから。本当はワゴン車か何かで十分なんだけど、ひとりだけ変にこだわる男がいて、俺たちは立見商店街が誇る〝応援団〟だぞ。 だから、せこいことは言わずにバスで行く。レンタカー代も俺が出す、って言うから、それならお願いします、って感じでマイクロバスなのよ。どうせ見栄を張るなら、大型の観光バスでも借りてこいって話なんだけどね」
「おいっ、明ちゃん! なんか言った?」
明子の後ろの窓が開き、マイクロバスから大きな顔が現れた。
「べつに、たいした事は言っていません。ただ、タケちゃんのおかげで、バスで応援にいけて助かります、って話していたの」
「あっ、そうか」
池田武史はニッコリ笑顔を作ると、美貴に軽くお辞儀をし、バスの窓を閉めた。
「あれが変なこだわりを持つ男。昔からあんなんなのよね」
明子が苦笑いしながら言っていると、また窓が開き
「なんか言った?」
大きなまんまる顔が現れ、明子の「何も言っておりません」という言葉でニッコリしながら消えていった。窓が閉まると「この地獄耳が」と明子はつぶやいた。
そのやりとりを美貴が楽しそうにニコニコしながら聞いていた。
明子は高校の同級生である池田武史とはいつもこんな調子だ。ついでにいえば、幼馴染である大作に明子を紹介したのが武史だった。
「みんなで一緒に行くのは、なんだかんだ言っても楽しいわよね」
明子はウキウキした気持ちで、美貴と拓也をマイクロバスの中へ案内した。
バスに乗り込むと、運転手の淳史から順番に紹介していった。そして、大人たちとユイを紹介し終わると、今度は美貴と拓也をみんなに紹介した。
大人たちに緊張したのか、美貴の後ろでモジモジしている拓也に、ユイが一番後ろの席から立ち上がり近づいてきた。
ユイは拓也の手をとると「おいで」と優しく微笑み、後ろの席へと連れて行った。
マイクロバスが会場に着くころには、一番後ろから楽しそうな2人の笑い声が聞えていた。
試合場となる会場があるビルに、続々と人が流れ込んでいく。入口近くでバスを降りた明子の目に、そんな光景が飛び込んできた。
全員降ろし終えたマイクロバスは、淳史とともに駐車場へと走り去って行く。
「昔はメインでもない亮の試合の時なんて、ガラガラで人が全然いなかったのに、今じゃ……本当にうれしい」
明子は会場に向かう人々に胸を熱くし、言葉が自然ともれていた。
「そうだな。亮、頑張っているからな」
突然の声に振り返ると、同じように前の光景を見つめ、しみじみとつぶやく武史の姿がある。
武史は微笑むと、「ほーら、明ちゃん。行かないとみんなに置いていかれちゃうよ」と言いながら、両手で明子の背中を押しながら歩き出した。
その前には、楽しげに歩く商店街の人たちの姿がある。
彼ら手には同じ〝青いもの〟がある。




