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君は秋の空に煌めく流星に似ていた  作者: 双葉 紡
二章 恋とライバル?
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第7話~夕焼けと君のフォトグラフ

 遊園地からの帰り道。

 俺は、理沙と少し長い橋の上を歩いていた。夕焼けが川に映っている。彼女は、ギターを背負っている。目の前には、2人分とギターの影がのびていた。


「大丈夫なの?」


 彼女は、覗きこむようにして、心配そうな顔を浮かべた。


「ああ……いや、ちょっと大丈夫じゃないかもな」

「ちょっとじゃないでしょ?」

「…………」

「よく頑張ったわね。えらいえらい」


 幼稚園児をあやすような言葉。だけど、今の俺にはそれが効果抜群で、ふつうに泣きそうになる。でも涙を見られたくなくて必死にこらえた。


「悠太は、優しいから。応援したくなるのよ」


 彼女は優しい笑顔を浮かべた。夕焼け空とその笑顔のセットは、一枚の風景写真のようだった。その幻想的な雰囲気に少しだけ見とれた。


「どうしたの?」


 きょとんとした顔まで意識を吸い込まれそうになる。

 俺は慌てて、なんでもないと手をふり、顔をそむける。心臓がバクバクしていた。少し深い呼吸をする。

 冷静になると同時に先ほどケンカしたばかりの彼の顔が浮かんだ。

 今回のことは、全く予想できない結果になった。つらくないと言えば当然、嘘になる。


「悠太、あのね、今日のことなんだけど……」


 彼女は、気まずそうに口を開いた。気を使って、慰めてくれようとしてるのかもしれない。


「おまえが気にすることじゃない。巻き込んで悪かった」

「そうじゃないの! そうじゃなくて!」

「ん? もしかして樹に惚れたのか?」


 俺は、あえて話をそらした。彼女には笑ってほしいと思うし、これ以上迷惑はかけたくない。


「ち、ちがうわよ! なんで、そうなるのよ!」


 予想通り動揺した彼女は、腕をピンと伸ばし、手をグーにして抗議してくる。


「違うのか。まぁ、お前が樹と仲良くしてるのを見るのはモヤモヤするからな。勘違いで良かった」

「へ? な、何言い出すのよ!急に」


 彼女は顔を赤らめて、クネクネしていた。クネクネとしか表現しようがない動きだから、クネクネだ。


「なんだよその動き。めちゃくちゃ気持ち悪いな」



 彼女の顔が途端に真顔になる。そしてすぐさま怒りの表情に変わった。本当に変幻自在だ。

 なんだか、不思議とからかいたくなるのだ。それが彼女の魅力かもしれない。


「前言撤回。もう少し早く登場しなさいよ、危なかったんだから」

「悪い。ちょっとトラブってた」

「女の子?」

「は?」

「女の子でしょ」

「……よく分かったな。具合悪そうだったから、ベンチまで運んで、彼氏が来るまで付き添いしてた」

「ふーん」

「なんだよ」

「可愛かった?」

「は?まぁ可愛い子だったな」


 彼女はグーパンチを俺の腰にしてきた。けっこうみぞおちに食い込んできて、普通に痛い。少しからかいすぎたかもしれない。


「普通に痛いんだが」

「うるさいわね。だっこしなさい」

「は?」


 全く話のつながりが分からない。彼女は、いたって真剣な表情だ。


「だっこだっこだっこだっこ」


 手をバタバタと太ももに当てて、わがままモードになる。こうなるとなかなか言うことを聞かない。


「子どもかよ」

「子供扱いすんな!いいから黙っておんぶしなさい!やりたいことリストなの」

「今作っただろ絶対」

「ぐちぐちうるさいわね」

「足くじいたの、早くしなさい」

「一瞬でバレる嘘つくなよ………はいはい、仰せのままに、お嬢様」

「ふふん」


 俺は敗けを認め、身体をかがめる。

 機嫌を取り戻した彼女は、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 人通りが少ないとは言え、恥ずかしいことには変わりがない。


「うおっ」


 理沙が飛び乗ってきた。軽い。こんな小さな身体のどこに、溢れるようなエネルギーが隠されているんだろうか。

 華奢ではあるが、背中のあたりに確かな質量を感じた。顔色はもちろん変えない。


「えっち」

「別に何も考えてねぇよ」

「それ白状してるのと一緒よ? 悠太はバカね」

「…………」


 少し失敗した。


「少しかっこよかったから、サービスだと思いなさい。さぁ! 悠太号発進よ! 全速前進!」

「勘弁してくれ。疲れてる」

 

 やりたいことリストに、悠太号。彼女は、相変わらずのレベル0のネーミングセンスだ。

 文句を言いつつも、俺はできる限りの速度で走った。後ろから、やっほーとか、さいこーとか、いけいけーとか、楽しそうな声が聞こえてきた。

 理沙は彼女じゃない。でも俺を救ってくれた大切な恩人だ。彼女の声を聞いていると、色んなモヤモヤが少しだけ消えていった気がした。


***


 俺は帰りの飛行機で樹のことを考えていた。

 彼の本音を聞くのは始めてだった。

 あのときは勢いで、やり直したいと言った。でも、本当にそれが可能なのだろうか。そう思えるほどに俺たちの作った溝は大きい。

 あいつは何を悩んで、苦しんで、あんな行動をとったのかは深い部分までは分からない。

 でも、やっぱり悩んでいるなら助けてやりたいと思う。

 少しだけ時間がかかるかもしれない。

 それでもまた、一緒に笑って話せる日が来るといい。


──君は漫画を描ければ満足なの? 漫画家になりたいの?


 樹の言葉が何度も脳内で繰り返された。

 俺が漫画家になる。正直、想像がつかない。本当になれるんだろうか?


──僕は仕事としてやってる。当然プレッシャーだってある。


 彼はもう実際に働いている。

 それに比べて俺は、高3の夏休みだと言うのに、進学も就職も決めてない。漫画家どうこうの前に、1人の人間として、社会でやっていけるんだろうか?

 進学するなら、今から猛勉強しなければならないだろうし、働くにしても考えなければならないことは山ほどある。仮に漫画のアシスタントをできることになっても、それだけでは食いつなげないだろう。

 どんどん深い沼にはまっていくような感覚になる。


「ゆうた……だいじょうぶらよ」


 驚いて横を見ると、理沙はスヤスヤと寝息を立てていた。こうやってみると本当に子どもだと思う。

 以前、買ってやったギターをぎゅーっと抱きしめている。

 寝言かよ。一体、どんな夢を見ているのだろうか。

 夢の中まで応援してくれてのかと思うと、単純にうれしかった。そして彼女は、すごいやつだと思った。

 俺はわがままなのかもしれない。

 俺は欲張りなのかもしれない。

 理沙の隣にいたい。

 樹ともまた友達に戻りたい。

 でもそれ以上に2人には幸せになって欲しい。

 樹とは結局、相容れないカタチになってしまったけれど、またいつか友達になれたらいいと思う。

 隣の少女の寝顔を見ていると、それがなんだができそうな気がするから不思議だった。


ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。作者都合で一旦、執筆を休止させていただくこととなりました。早ければ4月からまた連載をスタートします。勝手な都合で申し訳ありません。ではまた、作品を通して再会できることを願っています。ありがとうございました

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