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第8話 紅葉と遊園地

今回もよろしくお願いします。

 竜胆さんと合流して駅の方向へ歩き出してから数分後、僕らの目の前には見事に夕焼けと同じ色をしている綺麗な紅葉の木などがある公園を見つけた。 時期が少し遅いため色付いた葉っぱはかなり落ちてしまっていた。


「凄く綺麗ですね」

「そうだね、紅葉を見ると秋になったなって感じがするね。 もう少し早い時期に来れたらもっと綺麗だったんだろうな」

「確かにそうですね。 でもこれも十分素敵です」


 微笑む竜胆さんを見て、確かにこれも悪くないなと思い竜胆さんと一緒に見上げた。

 紅葉とイチョウやドウダンツツジなども植えてあり、ここの公園の中だけ夕方になったかのようにさえ観えて来る。

 ドウダンツツジは公園の周りをぐるっと寄せ植えしてあり、鮮やかに赤やオレンジの色に色付いておりなかなか見応えがある。

 イチョウのはその扇形の葉が緑から黄色へ変わり、揺ら揺らと風邪に揺られて舞い落ちてくる。

 紅葉は公園の入り口からも良く見える位置に植えてある。 葉っぱが5~7つに大きく裂けることから、イロハニホヘトの文字を当てた伊呂波紅葉と呼ばれている種類のものだった。 紅色に紅葉した葉はヒラヒラ風に靡いて散っていっていた。

 僕と竜胆さんは伊呂波紅葉の下にあるベンチに座って舞い散る紅葉やイチョウ、ドウダンツツジを見ながらお話していた。


「やっぱり紅葉はいいですね、この地域に生まれて良かったと心から思います」

「確かにね、こんなに綺麗な光景がそこらの道や公園で観られるのは嬉しいよね」


 かつてここは極東の島国・日本と呼ばれていた場所だ。 第二次世界大戦時に超新星国による大規模能力行使によって大陸同士の結合と移動、変形で日本はユーラシア大陸に混ざった。 僕らが暮らすのは欧亜連邦の新日区。 ここには日本の名残が多いのだとか。


(日本はもっといっぱい紅葉とかあったのかな)


 そんな半世紀以上前のものに思いをはせていた。

 話をしているものの僕らの視線は上から下へを繰り返し、眺めている。 気が付いたら11時になっていて30分程ぼ~っと紅葉を眺めていたことになる。 時間の無駄とは言わないが、少し贅沢な使い方をした感じはするな。


「紅葉はこの先でも観られるし、そろそろ移動しようか」

「そうですね、遊園地行くのなんて数年ぶりだから楽しみです」


 僕らはベンチに張り付いていたお尻を上げて、駅へまた向かい始めた。 言っていた通り、道中はイチョウや紅葉やそれ以外も色々な木の紅葉が楽しめた。


 電車に乗って30分強、目的地のあまり大きくはないが、それなりの知名度はある遊園地に着いた。

 到着して入場し直後、


 ――ぐぅ~


 僕の隣を歩く竜胆さんからそんな音が聞こえてきたので、乗り物に乗る前に何か食べようかと提案すると、


「――ッ! こ、これは、朝ご飯を頑張って私のお腹が消化したり、腸のお掃除をている証であって、決してお腹が空いたわけではないのです!」


 相当に恥ずかしかった竜胆さんはお腹を両手で押さえて、赤面し必死にそう言ってくる。


「そうなんですか? でも、僕はお腹が空いたので良かったら食べに行きませんか?」

「妙に丁寧な言い方が気に入りませんが、そ、そういうことでしたらご一緒させていただだきます」


 2人で売店まで行って、僕は醤油ラーメンとたこ焼き、竜胆さんはホットドッグと焼きそばを頼んで、空いてる席に座り食べ始める。 竜胆さんの注文したモノを見る限り、やっぱりそれなりに空腹だったようだ。


「こう言うと何だけど、遊園地の売店のご飯系って絶賛するほど美味しいわけじゃないのに、何故か美味しく感じるよね」

「確かにちょっと失礼ですけどね。 お祭りの屋台なんかと同じなんでしょうね。 その、お、お友達と楽しい気分で食べるからきっと本来よりも美味しく思うんじゃないかなって」


 友達と遊園地に来るのがそんなに嬉しく思ってくれていたなんて、僕も何だか嬉しくなっちゃうな。 友達とご飯と言えばやっぱり、


「ねぇ、竜胆さん、良かったらたこ焼き食べる? タコが大きくて美味しいよ」


 シェアだろ。 美味しいと思うモノを共有して幸せを分かち合ってこその友情だと思う。

 そう言って僕はたこ焼きを付属の串に刺して竜胆さんの前に差し出す。


「コレって……か、かん――――っ!」


 竜胆さんは赤面させてゆっくりと手を伸ばし、僕の手からたこ焼きを受け取る。 そのまま受け取ったたこ焼きを凝視して、


「よし」


 ――パクッ


 熱さに耐える気合を入れるような声を出して、竜胆さんはかぶりついた。 それなりに熱かった、たこ焼きを1口で食べてしまった。 案の定竜胆さんはハフハフ言って手で口元を隠して、熱がって涙目になっていた。 時折指の隙間から炎がシュボシュボ漏れてる。


「はは、何やってるんだよ、出来たてでまだ熱いに決まってるじゃないか」


 笑う僕を潤んだ目で恨めしそうに視てくる。


ほんらの(そんなの)しひゃらかっらろ(知らなかったよ)!」


 竜胆さんはこう言って口元を覆っている方とは反対の手で机を叩いて抗議してくる。


「……やっぱり、松葉君はいじわるです」


 たこ焼きをようやく飲み込んで、涙目のままそう言って、僕から視線を逸らして焼きそばを黙々と食べる竜胆さんだった。


 腹ごしらえをした後に、最初に何乗るか話し合うために、机にパンフレットを開いてお互いに視線を落とす。


「竜胆さんは何か乗りたい乗り物とかある?」

「そうですね~、やっぱりジェットコースターとかフリーホールやバイキングですかね」


 何という事だろうか、竜胆さんが口にした乗り物は僕が苦手なモノしかなかった。 絶叫マシーンは全般苦手と言うか、嫌いなんだけど、ここで「ごめん、それ全部僕が嫌いなんだ」とか言ったら間違いなく、竜胆さんは遠慮してしまう。 ここへは竜胆さんへのお礼で来たんだ、彼女が楽しめる様にしてあげよう!


(男は度胸だ――っ!)


 決意を胸に絶叫マシンに乗り込んだ―――




 *




 全ての絶叫マシーンに乗った僕は真っ白に燃え尽きた。


「ぜ、絶叫マシーン苦手だったんですね、ごめんなさい!」


 ベンチに腰掛けている僕に、頭を下げてくる竜胆さん。 こんなこと言わせるために我慢したんじゃないのにな。


「竜胆さんは楽しかった?」

「それは、はい、遊園地に来るのも久し振りなのもあって、とっても楽しかったです。 隣の松葉君の状態がわからなくなる程に。 ごめんなさい」

「いや、楽しかったなら良いんだよ。 ただ、謝らないで欲しいな、出来ればもっと違う言葉が聴きたかったよ」


 僕の言葉に、はっとした様な顔をする竜胆さんは前髪で右目を隠し微笑んで、


「ありがとうごさいました、松葉君」


 そう言ってくれた。 やぱり謝罪されるよりも、感謝された方が嬉しい。 僕も竜胆さんに視線を合わせて「どういたしまして」っと今出来る最高の笑顔で返した。


「でも、流石にこれ以上は厳しいから、ゆいる感じの乗り物にしてくれと助かる」

「はい、勿論です!」


 それからはコーヒーカップやメリーゴーランド、子ども用の短いジェットコースター何かを乗ってまったり楽しんでいった。



 *



 夕刻を過ぎて辺りが暗くなった頃、遊園地は煌びやかな数億という数のLEDライトで彩られていた。


「わぁ、これは凄いですね! とっても綺麗です!」

「ここを選んで良かったよ、この遊園地はこの辺りでは1番豪華なイルミネーションだからね」


 キラキラと七色に色を変え、通る人の足を止めるトンネルの中を、ゆっくりと周りを視て楽しみながら歩いて行く。 子どもの様に目を輝かせている竜胆さんはクルクル回ったりして流れるライトの残像を楽しんでいた。

 割と出会った頃から思っていたけど、竜胆さんは明らかに猫を被っている。 それは多分、下手に近寄って火傷なんかをさせないための彼女なりの優しさなんだろう。 もしくはただ単に人付き合いが苦手なだけか。 僕個人の予想だと両方な気がする。

 凛としてクールなイメージで固まってしまった彼女の印象は、僕の制服が塵にされたその日に、見事に粉砕されたんだけどね。

 イルミネーションにはしゃぐ竜胆さんをボーっと眺めていて、彼女の背後にある乗り物が目に入った。


「ねぇ、竜胆さん、次はあれに乗ろうよ」


 竜胆さんに近づいて、彼女の真後ろにある乗り物を指差す。


「え? あ―――飛行機。 良いですね、高い位置からイルミネーションが綺麗に見えそうです」


 彼女の背後にあった乗り物――飛行塔と呼ばれる、飛行機やヘリコプターの形をした乗り物(ライド)が回転しながら上昇していく、タワータイプのアトラクションへ向かっていく。

 運が良いことに、待ち時間はほぼゼロで、飛行機形の赤いライドに乗ることが出来た。

 2人で乗り安全装置を下ろして、開始を待つ。


「飛行機なんて久し振りで、なんだかドキドキするね」

「はい、私もです。 それに高い位置から見る景色がどんななのかとっても楽しみ」


 ――ピ~ッ! 『これからライドが出発します。 それでは皆様、良い空の旅を。 行ってらっしゃい!』


 準備完了の音と女性係員のアナウンスがかかり、グウォンっと音を立てて徐々に動き始める。

 竜胆さんはレバーをゆっくり上下させて、ライドを嬉々として操縦している。 ライドの速度・高度共に最高値に達したであろう時、そこから観える景色は―――



 光輝で彩られた、満天の星空の様だった。



「観る位置が違うとこんなにも変わって観えるものなんだね」

「……凄く綺麗」

「そうだね」


 レバーを上げて出来るだけライドの位置を高くして、僕らはただただ友人と観る美しい景色を目に焼き付けていた。

 楽しい時間はあっと言う間で、ライドが少しずつ減速し始めた。


「あ、下がり始めちゃった」


 名残惜しそうな声をだた竜胆さんに、


「竜胆さん、次はもっと高い位置からゆっくり見に行こうよ」


 回転するライドからみえる、大観覧車を指差す僕。


「はい!」


 そう言ってライドを上下させて、嬉しさを表しているかのようだった。

 そしてライドは完全停止してアトラクションは終了した。 ドア側に座っていた僕から降りて、少しだが段差があったので竜胆さんへ手を差し伸べる。 何故か驚いた表情をした竜胆さんは一瞬動きが止ま前髪で右目を隠しながら、直ぐに僕の手をとりゆっくりライドから降りる。


「……ありがとう」

「どういたしまして」

「……」


 照れてる竜胆さんが可愛かったからつい何か言って、いじりたくなってしまった。


(葵のがうつったかな)


 飛行塔で観えた景色の感想なんかをいいながら、大観覧車へ移動する。

 大観覧車の前には少し列が出来ていたけど、10分程で僕らの順番が来た。

 僕が先に入り飛行塔の時の様に竜胆さんに手を差し出す、今度は赤面しながらも余裕の風貌を装い手をとる。 それを見ていた僕が、ふっと吹いてしまってキャビンに乗り込み赤面している竜胆さんに鋭い目で見られる。

 僕らは向かい合うように座り、ゆっくりっと進むキャビンの中で少し話していた。


「今日は遊園地に一緒に来てくれてありがとうね。 お友達と遊ぶの自体久しぶりでとっても楽しかったよ。 松葉君が友達になってくれてよかったよ。 ちょっと意地悪なのは直して欲しいところだけどね」

「そこはどうにもならないかもね、無意識の内に葵に鍛えられてたみたいだから」

「妹さんになんだね。 松葉君と妹さんは仲が良いんだね」

「そうだね。 でも仲が良すぎて、裕吾、友達からはシスコン兄貴とか言われてるけどね」


 ちょと照れくさかったので竜胆さんから顔を逸らして窓の外を眺める。

 僕にとって葵との仲の良さはちょっとした密かに自慢だったりする。 他の人からはシスコン、変態、ロリコンとか言われたりすけど。 自分よりも大切で、大好きな家族である葵との仲を良く言ってくれるのは素直に嬉しかった。


「松葉君はわかりやすいね。 今妹さんのこと考えてたでしょ? とっても優しい顔になってたよ」

「う、顔に出てたのか。 ずばり言われると恥ずかしいね」


 もう暫くは竜胆さんの顔をまともに見れそうにないな。 気恥ずかしくて赤面してしまいそうだ、男の赤面とか需要ないでしょ。

 ぼんやり外を眺めていると気が付いたときには、天辺に近い位置にまで来ていた。


「竜胆さんこっちに来てみなよ、遊園地全体が良く観えるよ」


 僕の言葉に反応した竜胆さんが僕が眺めた方の窓へ移動してくる。

 そのこには、爛漫の花のように美しく、かつ丁寧に装飾された木々やアトラクション。 遊園地全体が夜闇を照らす絢爛な花畑のようだった。


「凄く綺麗だね。 ね! 松葉君」


 満面に喜悦の色を浮かべて、僕の方を見て来る竜胆さん――中央の大きな窓で見ていた僕と彼女の距離はかなり接近していた。 お互に仰天して「わぁ!」っと声を上げて直ぐに窓へ視線を戻した。

 ふぅ~っと息をしていた竜胆さんの方を盗み見ると、マスクが燃えていた!


「あ、竜胆さん! マスク、マスク!」

「へ?――うぁ!」


 慌ててマスクをとって床に捨てる竜胆さん。 僕は燃えているマスクを手で叩きどうにか鎮火させる。

 僕らの迅速な判断と行動で大事には至らず、2人で安堵の溜息をついたら、


 ――ボァッ!


 まだマスクをしていなかった竜胆さんの口から炎が出てきて、慌てて手で塞ぐが時既に遅く、鎮火後立ち上がっていた僕の服のお腹部分に大きな穴が開いてしまった。

 それを2人で眺め見て、目が合わさってからなんだか可笑しくなった。


「「あはははっ!」」


 揺れるキャビンの中で僕らの朗笑が響いていた。



 *



 程なくして地上に着いたキャビンから、僕はお腹を押さえて出て行く。

 大観覧車から少し離れたベンチに座り、イルミネーションを眺めていた。


「今日は色々あったね、とっても楽しかったよ。 もう少しイルミネーションを観ていたい気もするけど、そろそろいい時間だし、このままアトラクションに乗るわけにはいかないから、帰ろうか」

「私も凄く楽しかったよ、ありがとう。 そして、ごめんなさい」

「いいよ別にわざとじゃないのは解ってるから」

「ありがとう」

「いいってことさ、じゃあ行こうか」


 微笑む竜胆さんにちょっとだけカッコつけて返事をした。 ベンチを立った僕らは名残惜しくも遊園地の入退場口へと足を進め帰路につく。

 遊園地を出た後も、道中のコーヒーショップで飲み物を買って話しながら、足を進めていく内に段々と僕らの家までの距離がなくなっていた。

 街灯で照らせたイチョウの並木を歩く、僕と竜胆さんの歩幅は遊園地を出た時に比べると、少し狭くなっていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうごさいました。m(_ _)m


今回は普通にお友達として遊園地遊び行ってただけですけど、この2人を見る限り、これはもうデートではないのだろうか!

そんなことを思ってました(笑)


今回はTwitterにて『連れて行って欲しい、連れて行きたいデート場所を教えて下さい!』とツイートしてある人に意見を頂きまして、それを基にお話しをつくっていきました。 質問を帰してくれた人にSpecial Thanksです!ヾ(o´∀`o)ノ


次回9話は主にヒロインの司視点になります!



次回予告!


   『竜胆司の乙女心』

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