第7話 初デート?
遅くなりましたが、よろしくお願いします。
葵のお陰で傷1つ無く、強盗殺人犯の手から救出された次の日――。
世間では『1夜にして粉微塵になった体育館!』 『強盗殺人犯逮捕!』 『夜を切り裂く閃光』 『地上に舞い降りた天使!?』何て事がテレビや新聞でに取り上げられていた。
これを見た元凶である葵は、
「へぇ~、大変だね」
朝ご飯を食べながら、流し見てそう言った。 完全に他人事だった。 何て神経の太い妹だろうっと僕は羨ましかった。
今まで生きてきて【天使】の能力者なんて聞いたことがないから、きっと珍しくて色んな人が捜していて、そのうち家に来るんじゃないかと内心ビクビクの僕だった。
しかし、人の噂も七十五日とはよく言ったもので、当事者である僕と葵、裕吾と強盗殺人グループのリーダーが揃って何もの言わなかったので、自然に風化していった。
―――何故強盗殺人のリーダーが何も言わなかったというと、葵との実力差を身をもって知ってしまい、下手に何かを言って恨みを買い目を付けられたらヤバイっと思ったからだとは、陽喜と葵は知る由も無い。
「お兄ちゃん、お茶のお替りちょうだい」
そう言って葵は僕に笑顔でコップを渡した。
*
騒動から少し経った頃には、僕と竜胆さんはそれなりに仲良くなっていた。
何故かというと、僕は知り合いこそ沢山居るが、友達は裕吾くらいなので、放課後は家事以外にはあまりやることも無く暇していた。 竜胆さんにいたっては特別仲良くしている人が居ない(本人談)、そんな友人の少ない2人で放課後暇しているときにあって、僕の能力のことや、竜胆さんの能力の制御の話なんかを主にしていて、時間を共有することが増えていったからだ。
ある日の放課後、竜胆さんの家での僕の能力で丁度いい暖かさの温度実験兼竜胆さんの能力制御特訓が終った後、休憩中僕と竜胆さんはリビングでまったりソファーに座りお話していた。
「今日もありがとうございました。 息苦しくなかったですか?」
「こちこそ、ありがとう。 もう最近はお互いに慣れてきたみたいで、全然苦しくないよ」
僕の言葉にほっと息をつき胸を撫で下ろす竜胆さん。
――ボァ
自宅ではマスクを外していので、竜胆さんの安堵の溜息で少量だが炎がでた。
不意に炎が出たので虚を突かれた様で「わわ!」っと驚き慌てて口を手で塞いでいた。 それを見ていた僕は何だか可笑しくて笑ってしまった。
「人が驚いている姿を見て笑うなんて酷いですよ。 松葉君はいじめっ子ですね。そうやって私をいじめて楽しんでいるんです」
「ああ、ごめんね。 別に竜胆さんが面白くて笑ったわけじゃないんだ。 何だか今の状況が不思議で可笑しく思っちゃって」
「私が慌てた姿がそんなに面白かったんですか?」
「いやいや、違うよ? 今こうして竜胆さんの家でソファーに座りながら、竜胆さんのちょっと慌てた姿を見ているっていうのが1ヵ月前には想像すらしてなかったからさ。 それが何だか可笑しっくて」
僕と竜胆さんが出会った10月中旬の放課後から、約1ヵ月経った最近はそんなことを思う日があった。
1ヵ月前まではただすれ違うだけの同級生、それが今では相手の家に上がりまったりお話してる仲。 不思議なもんだな、知り合いこそ多い僕はここまで順調な友達付き合いは初めてだった。 大体はクラスや委員会とかで一緒になった人と少し仲良くなり、連絡先を交換してたまにやり取りして、廊下で挨拶や世間話をする程度の仲に落ち着いてしまうのが今までだった。 けれど竜胆さんとは着実に友達レベルが上がって行っている気がする。 仲がいい友達が増えるのは嬉しいことだ。
「そういうことですか、確かにそうですね、私もここまで仲が良い友達が出来たのは久しぶりで……嬉しいです」
そんな台詞を恥ずかしげも無く口にする竜胆さん、同じようなことを思っていたけど実際に口に出されるとこそばゆいな。 僕は竜胆さんから視線を逸らして頬を掻いた。
竜胆さんと話をしながら、1つ思い出したことがあった。
僕は竜胆さんに1つ大きな貸しがあったことを。
「あ、そういえば竜胆さん、この前葵を怒らせちゃった時にしてくれたアドバイスのお陰で、無事仲直りできたんだ。 ありがとう、本当に助かったよ」
「ああ、いえ、あれはただの切っ掛けに過ぎませんよ。 きっと、あの頃にはもう妹さんの気持ちも落ちついていたんでしょう。 ですから、恩を感じる必要はないですよ」
「確かにただの切っ掛けに過ぎないのかもしれないけど、僕にとってはありがたいことだったんだよ。 なにかお礼がしたいんだけど。 竜胆さんは何か欲しいものとかあったりする?」
「え、お礼なんてそんな!」
竜胆さんは両手を左右に振りそう言ってくるが
「それじゃあ、お礼の代わりということで、良かったら今度どこか遊びに行ってくれませんか?」
能力の制御や見た目のことを気にしているのか、一度目を伏せ、少し心配そうに僕の目を見る竜胆さん。
僕は笑顔で答えた。
「そんなの、お礼にはならないよ。 一緒に遊びに行くことなんて友達なら当たり前だからね。 一緒に遊びに行くのは全く問題ないけど、行く場所は―――遊園地でどうかな! お礼として奢るよ、それでどうかな?」
竜胆さんは僕の言葉聞いて徐々に明るい顔へ変わっていった。 表情がコロコロと変わるから竜胆さんは見ていて面白いな。
少し息を吐いて竜胆さんはいつもの微笑を見せくれた。
「はい、問題ありません」
「そっかそれは良かった、それじゃあ、今週の土曜日はどうかな? 何か予定とかあったりする?」
頭をぶんぶん横に振り、
「予定ありません!」
と言って嬉しそうに微笑む竜胆さん。
「決まりだね。 詳しい時間とかは集合場所はLifeで話そう。 そじゃあ、そろそろお暇させてもらうね、お邪魔しました、また」
竜胆さんに別れを告げて僕は玄関に向かい靴を履く。
「あ、あの、松葉君!」
「ふぇ!」
突然の竜胆さんの声に驚いて、変な声が出てしまった。 玄関で後ろを振り向くと、茜色に輝く空が見えた。 逆光で竜胆さんの表情はよく見なかったが彼女は
「また、明日ね」
そういって手を振っていた。
「うん、また明日」
僕は笑顔で手を振り替えして竜胆家を後にした。
*
「ただいま~」
家に帰るとカレーのいい匂いが玄関まで漂っていた。 素早く手洗いうがいをして、部屋着に着替えてリビングへ行く。
「ああ、お帰りなさい、お兄ちゃん。 今日はカツカレーだよ」
「おお~、良いね。 カレーライスだけでも美味しいのに、そこへカツをトッピングする、何たる贅沢だろうか。 最高だね!」
「ただのカツカレーだよ、そんなに嬉しいの?」
葵はカツカレーをよそいながら言ってくる。 僕は葵がよそったカツカレーとサラダをテーブルに運んで行く。
「嬉しいさ、普段からカツカレーをするわけじゃないだろ? 何だか特別な感じがするのもきっと美味しさに繋がるんだろうな」
「いやいや、特別なだけで美味しくはならないでしょ。 それならシュール〇トレミングも美味しいってことになるよ?」
「あれは実際食べると美味しいらしいぞ、臭いは強烈を極めるそうだが」
「へ~そうなんだ、知らなかったや。 ――じゃあ、いただきます」
「いただきます」
話をしながら慣れた手つきで夕食の準備をしていた僕と葵。 両親の仕事が忙しくなり始めた頃、2人で準備したときは、何が無いとか、これはいらないとかそんなことを言い合いながら騒がしく準備していた頃が懐かしい。
(お、辛過ぎないが甘いわけでもない、中辛より少し辛いトロトロのルーがカツに絡んで凄く美味い。 流石は葵、松葉家のシェフ)
「美味しいよ葵、このカツ葵が作ったの?」
「そうだよ、今日は友達がバイトとかで放課後暇だったからね。 妹手製のカツカレーだよ、しっかり味わって食べてよね」
「そうだったのか、葵本当に料理上手くなったね。
あ、そうだ葵、今週の土曜日は竜胆さんと遊園地行ってくるから、お昼と夜ご飯は用意しなくて大丈夫だからね」
「―――そっか、うん、わかった。 妹を置いてきぼりにして女とデートとはね、いつの間にこんな手の早いお兄ちゃんになってしまったのか。 まぁ楽しんでね、私へのお土産もよろしくね」
ちゃかりお土産をねだってきた。 あの遊園地銘菓とかあったけ?
その後も葵に、ネチネチと「いいな~私も行きたかったな~、友達と遊ぶ約束あったからな~、残念」などを言われ続けた。 それじゃあ、今度は葵と一緒に行こうか遊園地っと言うと、「言質取ったからね、忘れないでよ、約束だからね」っと言って嬉しそうに部屋へ戻っていった。
そんな感じで松葉家の夜は更けていった。
*
そして土曜の朝10時12分、学校の向かい側にある公園で竜胆さんを待つ。
今日は竜胆さんとのお出かけ当日。 空気は澄んでいて気持ちいい程の青い晴天、秋晴れだ。
待ち合わせは10時30分だったが葵に「女の子を待たせるのは一握りのイケメンでけ許されることなんだから、お兄ちゃんは竜胆先輩より前に待ってること!」っと言われたので、早めに来て待っている。
すると、遠くから竜胆さんが歩いて来るのが見えた。 僕に気が付いた竜胆さんは小走りで近づいてきた。
「早いね、松葉君。 遅れてごめんね」
そう言う竜胆さんの口元にはいつものガスマスクではなく、普通のマスクが付けられていた。
「あれ、マスクいつもと違うね。 それで大丈夫なの?」
「ああ、うん。 これね、春菜さんに今日のこと話したら作ってくれたの。 3回までなら防げるって言ってたから、何個か追加で買ったから大丈夫だよ。 折角遊ぶんだもん、普通のマスクの方がいいかなって思って」
少し照れくさそうに言う竜胆さんだった。
「そうだね、僕もそっちの方がいいと思うよ」
「ありがとう」
何だか照れくさくなりお互い視線を外して暫し沈黙のあと、
「……それじゃあ、行こうか」
「うん!」
僕と竜胆さんは並んで歩き始めた。
今回からはヒロイン竜胆司が戻ってきました!
何話か葵に持っていかれていましたが、これからは司の時代です!!
魅力的に書いてくので好印象を持っていただけたら嬉しいです!
次回予告!
『紅葉と遊園地』