第6話 妹の力
今回もよろしくお願いします。
体に違和感を感じて目を開けたら、そこには――パジャマ姿の葵がいた。
「おはよう、さっそく昨日の券、使わせてもらったよ。 お兄ちゃん」
僕の体に密着しながら言ってくる。 昨日までとはまったく違う態度になっていた。 これは、許してもらえたようだな。
(竜胆さん。 心からの感謝を、ありがとう)
「そ、そうか。 うん、おはよう葵。 もう僕を許してくれるのかい」
「うん、いいよ。 仕方が無いから許してあげる。 あ、でももう私との約束破らないでよ。 次は――たとえお兄ちゃんでも、容赦しはないよ」
始めは優しい物言いだったのに、後半つれて背中に氷塊を入れられたような寒気があった。 まったくこの妹には敵わない、ただの言葉だけで恐怖を与える事が出来るなんて。
「ああ、胆に銘じてくよ」
「解れば宜しい。 あ! oasisのスイートポテト、とっても美味しかったよ。 ありがとうね、お兄ちゃん。 それに昨日のオムライス私好みで舌が蕩けるかと思ったよ、お兄ちゃんも料理出来るんだね。 また今度作ってね」
ここ最近の僕からの贈り物の感想を言ってくる葵。 確信はあったものの、やっぱり本人の口から言ってもらうのと、態度を盗み見るのとではわけが違う。
あんまり嬉しくなったので、妹を抱きしめ頭を撫でてあげる。 すると葵は、驚愕と戸惑い、嬉しさが入り混じった複雑な顔になっていた。
「も、もう、シスコンお兄ちゃん。 そのうち犯罪に手を染めないか心配だよ」
「なら、そうならないように葵が観ていてくれ」
照れていた葵にそんなことを言うと――ボッ!っと一気に赤面して僕の胸に顔を埋めた。
そんな、数日ぶりの兄妹の触れ合いで普段以上にベタベタしていたら、気がついたら時刻は7時50分。
「ん?! あ、葵!? 時間が、早くしないと遅刻になっちゃう!」
「ふぇ――っ!? え! いっけない急ごうお兄ちゃん!」
2人で慌ててベッドから飛び起き、迅速に身支度をしてドタバタして家を出る。
「「い、いってきます!!」」
いつもは学生がいる道もこの時間だと少ない。 歩いているのは諦めた奴らだけ。 そんな中を僕ら兄妹は全力で駆けていく。
「あぁ、失敗した~。 今日は久しぶりに美味しい朝ご飯用意してあげるつもりだったのに~!!」
「そっか! それは、残念だ。 晩ご飯にその分期待しておくよ!」
平行して走りながらも、話していると、
――キーン、コーン、カーン、コーン
予鈴が鳴っていた。
急いで校門をくぐり、下駄箱で靴を履き替えて、階段を上る。
「うわぁ、間に合うかな!?」
「ギリギリだろうね! それじゃ、頑張れよ葵」
「うわ~ん、お兄ちゃんの裏切り者~!」
葵より学年が2つ上の僕は2階、まだ1年生の葵は4階。 僕は本鈴の1分前にクラスについた。
「はぁ、はぁ、間に合った~
「陽喜が遅刻ギリギリなんて珍しいな」
肩で息する、僕にドアの近くの席に座っている裕吾が語りかける。
「ちょっとね、まったりし過ぎちゃって」
息を調えて自分の席に移動しながら裕吾に言っていたら、担任が入ってきて今日の授業が始まった。
*
放課後になり、裕吾が鞄を持って僕の席に近づいてくる。
「それで、葵ちゃんとは仲直りできたのか? 馬鹿兄貴」
「ああ、一応許してもらえたよ」
教科書などを仕舞いながらそう言う、僕の安堵した表情をみて「そっか」っと歯を見せて笑う裕吾。
「なら、今日はパーッと遊ぼうぜ! ゲーセンとかカラオケに行こうぜ! なぁ!」
「そうだね、たまには良いかな」
家のこともあり普段は断る事が多いが、今回は裕吾にも気を使わせてしまったから一緒に遊ぶことにした。
すると嬉しそうに笑った裕吾は、肩をガッと力強く組んできた。
「話がわかるじゃね~か! ならとっとと行こうぜ! 陽喜」
そうして僕らは笑いあいながら下校した。
取りあえず地元の栄えている駅へ向かっていた、道中の話し合いの結果「騒ぐならカラオケだろ!」と裕吾が言ってそれに賛成したら、カラオケに行くことになった。 すると裕吾が
「だったら、安い店しってるぜ、着いて来い!」
といって、人通りの少ない路地に入っていく――。
「おい、大丈夫なのか? ここ」
「別に何も出てきやしね~よ、こっから行くのが近道なんだ。 それに一応近くには交番もあるしな」
まだ明るい時間なのに薄ら暗い道なので若干不安になって裕吾にそう尋ねると、
――ガタガタッ!!
大きな音と共に、僕の真横から突然人が出てきた。
「――ッ!? んだガキじゃねーか。 はっ、丁度いい!」
黒い目出し帽を被った3人組の先頭にいた男が、僕に向けて拳銃を向けた。
「動くんじゃねぇぞ! 下手に動けばお前を殺す!」
そう言って、後ろの2人が素早く出てきて、僕は瞬く間に囲まれて羽交い絞めにされてしまった。
(え、え!? 裕吾の嘘つき! ヤバイ人達出てきてるじゃん!!)
「おい! 何してんだ! ダチを放せ!!」
裕吾は僕を助けようと前に出るが――。
リーダーだと思われる拳銃の男の反対の手のひらには、蒼い――火柱が立っていた。
「動くなって言ってんだろが、――消し炭にするぞ!」
ドスの利いた声を出して、裕吾の足を止める。
「こいつには逃亡の人質になってもらうだけさ、ちゃんと退路の確保が出来たら返すさ、だから――ここは引いとけガキ。 能力者の大人3人相手にして戦って、尚且つこっちのガキを救えるか? 考える頭があるなら、わかるよな」
目出し帽の上からでもわかるほどに歪んだ下卑た笑みを浮かべて、男は裕吾に言った。
さすがの裕吾も自分の絶対的不利を悟り、動きを止める。
裕吾にも【発煙】の能力はあるが、煙を出すだけの能力で逃げるには最適だが、現状においては無力。
僕もリーダー格の能力だけなら多分大丈夫だが、他の2人の能力がわからないし、拳銃には敵わない。 ここは大人しく相手の言うことを聞くしかなかった。
「ふん、わかればいい。 下手に動こうとするなよ、何かモーションを見せたらお前は骨も残さず灰になる。 行くぞ」
男の声で他の2人も動き僕はそのまま路地裏の闇へ消えた――。
*
路地裏に残された裕吾は、自分の無力さに打ちひしがれていた。
(俺は、ダチの1人も満足に助けられないのかっ!!! 情けない、情けない!)
裕吾は膝を折り、地面を何度も叩いた。 自分の無力さを呪い。 自分の能力の弱さを憎んだ。
もっと自分が強ければ。 もっと自分の能力が戦闘に向いていたら、もっと、もっと――。
するとそこへ警察官達がやってきて、声を上げ項垂れている裕吾を発見した。
「どうした!? 君! 何があった!」
「ダチが、俺のダチが。 俺の大切な親友が――攫われた!」
裕吾の言葉に驚愕した警察官は裕吾に写真を見せてきた。
「なんだって!? それは、この目出し帽を被った3人組みじゃなかったかい!?」
警察官が出してきた写真を見て――。
「こ、こいつらです! こいつらが俺の、俺の! 親友を!!」
「落ち着いて! 君の友人は私たちが必ず助けるから! 教えてくれ少年、どっちへ逃げて行った」
裕吾は3人組が逃げていった方向を指差す。
「あっちか、ありがとう少年。 捜査の協力感謝する。 おい、お前は少年を連れて署に戻れ」
「はっ! お気をつけて」
そういって、数人の警察官は走って行った。
残った警察官が介抱しながら裕吾を署へと連れて行く。 裕吾は警察署で経緯を話して、帰宅した。
無気力、脱力。 警察から「あの3人組は強盗殺人の実行犯なの。 だから決して自分が何とかしようなんて思わないで、わかったわね」と釘を打たれた。 普段の裕吾なら「知ったことか」っと言って突っ走るが、今はそんなやる気が沸いてこない。 目の前で親友を助けられなかったことのかつてない程のショックを受けていた。
警察署から家へ帰る途中、買い物袋を両手に持った、葵を見つけた。
「あ、裕吾さん。 こんばんは。 今お帰りですか?」
「あ、ああ」
裕吾は迷った、この子に陽喜が誘拐されたことを伝えるべきか、否かを。
伝えれば、間違いなく葵は悲しむ。 裕吾は親友の妹が悲しみ泣く姿なんて見たくなかった。 しかし、葵は――
「聞いてください裕吾さん、お兄ちゃんったら私が買い物に行くから手伝って~ってLifeに送ったのに未だに返信どころか、既読すらついていなんですよ。 酷くないですか」
葵は可愛らしく怒っていた。
そんないつも通り過ぎる葵をみて、裕吾の目からは涙が止め処なく溢れてきた。
「え、ええ!? ゆ、裕吾さん、どうしたんですか?」
「ご、ごめん。 ごめん! ごめん!」
突然涙をこぼしながら謝ってきた裕吾に戸惑う葵。
「どうしたんですか? 何に謝っているですか? 頭でも強く打ちましたか? 大丈夫ですか?」
膝から崩れ落ち、土下座をする裕吾を見て本気で心配になった葵は今一番聞きたくない名前を耳にする。
「ごめん! ごめん! 葵ちゃん、俺は陽喜を救えなかった! 助けてやれなかった。 俺はあいつを見捨てたんだ!!」
世界で一番大事な人の名前を聞いて声のトーンが下がり裕吾の肩に手を乗せて聞いた。
「――裕吾さん、兄になにかあったんですか?」
裕吾は重い口を開けて話し始めた――。
*
Side : 葵
裕吾さんは申し訳なさそうに、すべてを話してくれた――。
私は頭がどうにかなりそうだった。 全身の血液が沸騰して、憤怒で体が爆発しそうだった。
裕吾さんにではない、私の最愛の人を拉致したとかいう、強盗殺人犯達にだ。
「裕吾さん、話してくれてありがとうございました」
裕吾さんにお礼を言って私は歩き始めた、が――
「だ、駄目だ! あいつ等は学生じゃない、拳銃だってもってる犯罪者なんだ! 葵ちゃんが行った所でなにかどうにかなるわけじゃない!」
裕吾さんが私の肩を力一杯掴んで離さない。
「大丈夫ですよ、私実は強いですから。 だから――――離してくだい」
もしこれ以上邪魔をするなら殺すっという本気の眼で、怒気の篭った声で裕吾さんに言い放つ。
一瞬たじろいで手の力が緩まったが、
「……いいや、それでも、行かせるわけにはいかない。 1人では」
さっきまでの廃人の様な、なにもかも諦めた様な、負け犬の眼ではなかった。 決意とやる気に満ちた、いつもの裕吾さんらしい力強い眼に戻っていた。
「後悔、しても知りませんよ? 何が起こるか、起こすかわからないですから」
「構わないさ。 今度こそ俺は陽喜を救う」
兄が以前言っていたっけ「裕吾は馬鹿で阿呆で助兵衛だが、いざって時は誰より頼りになる男だよ」って。
(確かにね。 ただのヘタレかと思ったけど、違うみたいだね)
「なら、協力してください、裕吾さん。 私は廃校の辺りを、裕吾さんは倉庫区画をお願いします。 見つけ次第お互いに連絡入れましょう」
「ああ、気を付けてな、葵ちゃん」
そういって、私と裕吾さんはお互いに背を向けて走り出した――。
いつかの時の様に私は全力で走った、兄の姿を捜して。
動悸が激しい。 心臓が痛い。 兄を思うと頭が白くなっていく――もし、間に合わなかったらどうしようっと。
そでも私は脚を止めず、夜道を走り。 人混みの中を駆け抜けた。 そして人通りのすくないところで、私は高く飛んだ。
久しぶりの能力使用で上手く飛べないが、今は格好なんてどうでもいい。 ただ早く、誰よりも速く! 兄の処へ――!!
私は空を飛び、風を切り、町外れにある廃校へ向かった。
そこまで時間はかからなかった、裕吾さんと分かれて精々10分程度だろう。 廃校付近に着地して身を潜めて学校へ侵入する。
(さて、どこから捜そうか)
最初に校舎の中をくまなく捜した。 しかし、兄の姿どころか犯人の姿も見当たらなかった。
「ここはハズレだったのかな」
私は校舎以外のとこを捜し始めた。
プール。
(いないな)
別館。
(ここもいないい)
購買。
(ここにもいない)
体育館。
(ここで最後。 居るよね、お兄ちゃん。 ―――見つけた)
体育館の舞台の袖に人影が見えた。
確証を得るために、じっと身を潜めて、裕吾さんに連絡を入れておき、観察すること約20分。
奴らが動いた。
ようやく尻尾をみせた用心深い犯罪者共をどう料理してあげようか。
兄に怪我を負わせず、あいつ等だけを痛めつける妙案を思いついた。
(初めってだけど、多分大丈夫。 私の力を信じよう)
目を瞑りやつ等の油断がもっと顔を出すまで待つ。
*
時は満ちた。
奴等は油断しきって舞台の上でその間抜け面を晒していた。
(哀れな人達、攫う相手が兄じゃなかったら、別になにもなかったのにね)
私は体育館の入り口から少しずつ離れていく。
約50メートル離れた位置で留まり、能力を使用する。
私の能力は【不老】と周りには伝えてあるけど、真実は別にある。
―――10歳の誕生日に各都市でにある『世界能力機関(Wold Ability Organization)』の支部に能力鑑定に行く決まりがある。 しかし能力鑑定に用いられる人口白鉄球には抜け道がある。 それは【偽心者】や【鑑定無効】などの能力である。 このどちらかの能力があれば他の能力は鑑定できない。 【偽心者】は隠蔽に長けた能力で私はその能力用いて【不老】の能力しかないこにしたのだ。 なぜかと言うと能力ばれるのは面倒だから。
けれど【不老】が嘘ではない。 しかし全てでもない。
私の能力は――【天使】
******に登場した天使【***】。 迷える霊魂を導く者。
天使は神の使い。 神は永遠、その使いもまた然り。 故に天使に老いは不要、寿命も不要。 天使は不老にして不死。
天使は神の使い。 神は強靭無比、その使いもまた然り。 何人も天使の邪魔は出来ず、そして何人にも敗北してはならない。 故に使いには障害を打ち砕く力が備わっている。 私の持つ力は――光の矢。
矢は邪悪を砕き、善を救う。 今の場合。邪悪は『奴ら』。 善は『兄』。
目標は定まった。
私は兄を助けるために、左手で体育館上空を指差して、声高く天へ叫ぶ――!
「蒼天よ! 偉大なる天の支配者よ! 我が声に耳を傾け御力を御貸し下さいませ!」
体育館上空約100メートルの位置に夜闇を照らさんばかりの、幾重もの輝ける光の矢が、体育館へと矛先を向けて出現していく。
「一切の障害を粉砕し。 我が愛しき者を救い、邪なるものを滅せよ!!
彼等に慈悲を――――『救済の福音』」
*
Side : 陽喜
葵の声が聞こえた気がした。
僕は突然人質として誘拐され、町外れの廃校に連れて行かれた。
体育館の中でただただ、時間が流れて、それと共に恐怖が支配されていく。
下手に動けば殺される、従っていても用済みなったらズドンッといかれるかもしれない。
いつ殺されるかわからない恐怖が僕の心を蝕んでいった。
(葵のご飯を最後にもう一度食べたかったな。 竜胆さんにもお礼を言いたかったな。 あああああああ、あああ、怖い、怖い死ぬのが怖い。 怖いよ。 誰か、誰か、助けて………)
その時、一瞬体育館の周りが昼間の様に明るくなり、そして僕の視界が黄金に染まった――。
激しい閃光と、凄まじい轟音に僕の意識は飛んだ。
*
次に目を覚ましたときには僕は地面に横たわっていた。
僕の前には犯人たちがボロボロになって倒れている。
なにが起こったのかと思い辺りを見ると、一面砂だった。 その奥に学校の校舎が見えた。
(いったい、何が、起こったんだ?)
いまいち状況が掴めず混乱していると、少し離れた処からこちらを見下ろして近づいてくるモノが目に入った。
それは、人の形をしていて、白銀の翼を背に生やし、その頭上には煌々と輝く輪が浮いている。 見下ろす瞳は黄金色に妖しく揺らめいて見えた。
目を凝らして良く見ると、その顔つきは、
「葵」
いつも僕の傍にいた妹――葵とは様子が違っていた。 具体的に言うと、物凄く憤怒に顔を歪めていた。
「な、何が起こった、ん、だ?」
犯人のリーダー格が目を覚まして辺りの異様さに目を剥いた。 そして直ぐに葵の存在に気がつく。
「何もんだテメェ! 俺らに何しやがった!!」
上空を浮遊して徐々に近づいている葵に銃口を向ける。
けれども葵は微動だにせず、こちらにゆっくり近づいてくる。
「何したって、聞いてんだろうが!! この糞尼!」
男は蒼に向けて発砲して、全弾命中した。
しかし、葵の体には一切傷がついていない。 確かに一瞬穴が開いたように見えたが、血の一滴も出ることなく、何も無かったように塞がった。
「ど、どうなってやがる!?」
男は動転し弾を撃ちまくるも、葵には掠り傷1つついていない。
全弾使い切った男は、銃を捨て能力を使って攻撃してきた。 蒼い炎は葵の体を覆い燃え上がる。
「―――――」
葵は口元歪めるも、止まることは無かった。
観れば葵の服も全くの無傷、弾痕も無くなっていた。
「まったく、救えない人ですね。 もう慈悲は与えません」
蒼い炎に包まれながら、そう言った葵は何も持たない手で弓を構えるポーズをする。 すると葵の手には美しい白い揺らめく矢が現れた。 瞬く間に葵は男の太ももを射抜いた。
「がっ!!?」
男は悶えて、その場にうずくまりやがて自分と葵との絶対的な力の差を痛感し、涙を流して葵に土下座していた。
「ゆ、ゆしてください。 命だけは、どうか!」
そう言った男の前に葵は着地して、男の顔面を思いっきり蹴っ飛ばした。
男は鼻血を撒き散らして失禁した。
「お兄ちゃん!!」
葵はいつの間にか普通の姿に戻っていて、僕の方へ走って、抱きしめた。
「ちょ、あ、葵? 痛いよ、力強い」
いつの間にこんなに頼もしくなったんだか。 僕は葵の背中を軽く叩いて、ギブギブっと訴えるも一向に腕を緩めてくれない。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」
僕は諦めて身を任せることにした――。
*
数分間に亘り抱き寄せられていた僕はようやく解放された。
色々とあって疲れた、僕と葵はその場に座り込んだ。
すると葵は、
「心配したんだから!! バカお兄ちゃん!」
「ご、ごめんね葵。 それと、ありがとう」
涙目の葵の頭を撫でてあげる。
まったく、信じられないくらい強い能力があるくせに、泣き虫は倒せないんだな。
色々聞きたいことはあるが、一先ず――
「葵、帰ろうか。 家に」
「うん!」
軽く後始末(サッカーゴールのネットを切って、犯人を豚肉の様にグルグル巻きにして、警察へ匿名で通報)をして。
僕と葵は数年振りに、兄妹で仲良く手を繋いで家に帰った。
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その頃、裕吾は――
「何じゃこりゃ~!!」
跡形も無く消え去った体育館があったと思しき場所をみて、叫んでいた。
程なくスマホに陽喜から「心配かけえたね、ありがとう」っと連絡が入り、トボトボ1人で夜道を歩く裕吾だった。
「切ねぇ………」
いや~、超能力バトルシーンが書けると思っていたら、まさかの葵無双だった!
もし期待していたらすみませんでした!!
最後まで読んでいただきありがとうごさいました。
次回予告!
『初デート?』