第10話 強襲
「2人ともシャワー浴びてきちゃいなさい」
「そうだな、2人ともちょっと臭うぞ」
――――バシッ!
葵に背中を蹴られる父さん。
「デリカシー!!」
「すまん」
「もう、お父さんったら」
葵はそそくさと、シャワーを浴びに行った。
父さんと母さんは身支度をしてた。 そう言えばと思い、父さんに近づき「ねぇ」と声をかける。
「目一杯楽しむのはいいんだけどさ、どこに行くかは決めてあるの?」
「あぁ、言ってなかったな、今日は舞台を観に行くぞ」
「舞台か〜、しばく行ってないな。 嬉しいけど、予約とか大丈夫なの?」
「心配するな、飛行機のチケット取ったときにな、おまけで貰ったんだよ」
スマホの画面に映るデジタルチケットを見せてくる。 「無能な王子様」と記されていた。 「無能は王子様」能力が発現してから出来た有名なお話で、無能な王子様が苦難を乗り越えて、無能なままに偉大な王と呼ばれる様になる王子の短い生涯を描いた作品だ。 ラストは悲しい結末だが、王子の勇敢さに心打たれる人が多い。
「へぇ〜、いいね、舞台で見るのは初めてだから楽しみ」
「だろ、お前はこういう所自分じゃ行かないからな、葵もあまり自分で行きたがる所じゃないしな。 若い内に色んなモノを見るのはいいことだぞ」
俺の行動パターンをよく理解している父はいつものように笑う。 それにつられて、俺も頬が緩む。 父さんといると、いつも楽しい気持ちにさせてくれる、きっと母さんが父さんを好きになったのもこういう自分だけではなく、その周りさえも明るくさせる所なんだろう。
「そうだね」
「だろ? 陽喜も葵がシャワー上がったら入ってくるんだぞ〜」
父さんは振り返り、部屋のドアへ向かう。
「わかった、どこか出かけるの?」
「ん? 少し電話をしてくるだけだ、気にするな」
少し普段より冷たい感じの声で廊下へ出ていった。
「どうしたんだろう?」
「……なんでもないんじゃない? それよりシャワーから上がったら直ぐにお出掛けできるように準備しちゃいなさい」
「うん……わかった」
父の態度に違和感覚えるも、母に促され支度を始める。
電話から戻ってきた父はいつも通りに笑っていた。
*
「どうだったよ、舞台は」
「うん、やっぱり本と舞台とでは迫力が違うね〜」
「はは、そうだろう! 陽喜が気に入ったようでよかった! 葵はどうだった?」
葵は上映終了後、少し物悲しそうな顔をしていたが、父に話しかけられていつもの顔に戻った。
「よかったよ」
「……それだかけか?」
「うん、それだけ」
もっと喜んでくれると思っていた父は「そうか」と少し方を落としていた。
(あの舞台で何か、思う所があったのかな?)
家族みんなで近くにある、炎の能力を使ったパフォーマンスをしながら、眼の前で調理してくれるお店に入りパスタやお肉を食べた。
普段食べ慣れない料理なので、無難に「美味しい」とか「凄い」「綺麗」などの言葉しか出てこなかった。
(もう少し語彙を増やして行きたいな〜、そのうち竜胆さんとちょっといい料理食べた時用に)
みんなで歩いている時に満腹のお腹を擦りながら、ぼんやりと考えていた。
*
「行きたかったところは大体行けたし、昨日の夜出来なかったゲームでもやるか、息子よ!!」
ホテルの部屋につき、洋室の椅子に腰掛けながら父さんが俺に向って口を開く。
昼も過ぎ、時刻は14時、腹を満たされ温かいお茶を飲んで、睡魔がチラつく俺には丁度いい申し出だった。
「うん、いいよ、丁度さっき、お菓子とか買ってたからそれ食べながらやろう」
「おお、準備が良いな! 流石我が息子♪」
父が慣れた手つきでゲームの準備をし始めた。 俺はお菓子を紙皿にだし、飲み物の準備する。
「よし、準備できたぞ〜、そっちはどうだ?」
「うん、こっちも終わった」
父は「よし、ならやるか♪」と子どものように笑い、僕にコントローラーを渡してくる。 葵も隣に座り、一緒にゲームをしていく。
夕方過ぎまで家族三人で、テレビゲームで対戦をして過ごした。 因みに父親は惨敗、葵と俺で1位を争い、トータル結果はギリギリ俺の勝利で終わった。
*
「さぁ~て、そろそろ寝ようかしらね」
母が照明のスイッチに触れながらみんなに語りかける。 時刻は23時になり、確かに眠くなってきていた。
「そうだな、そろそろ寝るか」
「私も寝る〜」
「俺も歯磨いてこよ」
皆でゲームやお菓子のゴミ等を片付けをして、寝る支度を各々済ませ、それぞれ布団に入る。
「おやすみなさいお兄ちゃん」
隣のベッドに入っている葵が俺の手を握って言った。
「おやすみ葵」
俺も葵の手を握り返して、短くそう口にすると直ぐに眠りについた。
*
時刻は深夜2時、トイレに行きたくて目を覚まし、寝る前に水分補給をしている。
「ジュース飲みすぎちゃったかな~」
麦茶を飲みながら考えていると、後ろから口を塞がれる。
いきなりのことでパニックになる。
「ん!?~~~~!?」
「静かにお兄さん」
「ごめんだけど、ちょっと眠ってもらうね、大丈夫悪いようにはしないから、私達と1つになろう」
俺の後ろには、姉妹がいた。
口を塞いでいるのがどちらかわからないが、口を塞いでいる子とは別の子がパジャマの襟を掴み俺の頚動脈を圧迫する。 酸欠状態になり俺の意識は沈んでいった。
*
sid 葵
「ん……? お兄ちゃん? トイレかな?」
何かの物音で目を覚まし、すぐ隣で寝ているはずの兄を見ると、そこには誰もいなかった。 私もトイレに行こうとベッドから降りて移動する。
「ん? お兄ちゃん?」
目の前に立っている人影が見えて目をやると、そこには ”双子” と横たわる兄の姿があった。
「!? お兄ちゃん!!!」
「「?!」」
私の声に気が付いた姉妹は兄を抱えて、壁に空いている穴から外に逃げる。
「待ちなさい!」
すぐにその後を追うも、廊下に穴を開け、外に飛び降り姿が見えなくなってしまった。
「クソが……」
私は消えた双子を追うために、穴から飛び降りた。
投稿すっごい久し振りになってしまいすません。
次のお話も楽しんでもらえたら嬉しいです!
次回予告
『双子の想い』




