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第9話 愛の鞭

「ふぁ〜、ん〜〜」


 硬い床で寝ていたからか、背中や肩が少し痛い。 身体を伸ばして、脱力する。 少しは楽になったので、周りを見渡す。 昨夜とは違う顔の洞穴、朝日が入ると真っ暗だった洞穴も、なんとなく見られるようになった。

 ふと、昨日とは違う事に気が付く。


「あれ? あの子達は?」

「あの2人は私が起きる前には居なくなってたよ、お兄ちゃん」 


 身体から血の気が引くのを感じる。 あの弱々しい子達が、一度は助けを求めた俺たちを置いて居なくなってしまった。

 青ざめる俺の顔を見て葵は「大丈夫じゃない?」と口にした。


「どうして、そう思うんだ?」

「だって、自分達が追われてる身だって知っていて、居なくなったわけだし、何とかなる目星でもついたんじゃいかな?」


 葵は俺を気遣ってそう言ってくれた。


「……たしかにそうかもね。 なにも無いと良いけど。 仕方ないか、探そうにもここの地理に詳しい訳でもないし」

「そ、私達に出来るのはここまで、さぁ起きたなら、ホテルに帰ろう。 お母さんたちきっと待ってるよ」


 ああ、そうだった。 きっとカスチームポッドみたいになっているだろう父が目に浮かぶ。


「そうだね、早めに帰ろう」

「うん」


 これから起きることを考えると、一気に身体が重く感じる。 仕方ないかことだけど、怒られるの嫌だなと思いながら、服に付いた砂を払って、洞穴を出る。

 朝日が入っきたが、薄暗い洞穴から出ると、太陽の暖かな光と共に少し寒い風が肌に触れる。


「まぶ」


 俺の背後に隠れながら葵も外へ出た。 俺を日除けにしながら出てきたので、サッと横へ移動すると、葵の顔面に日光がクリティカルヒットした。


「ぐぁ!! ちょっと、お兄ちゃん! いきなりいなくならないでよ、眩しいじゃん!!」


 顔を咄嗟に手で覆いながら、横にズレた俺へ文句を言ってくる。


「あはは」

「笑い事じゃないってば、もう」


 声を出して笑う俺と、文句を言いながらも少し頬が緩んでいる葵。 これから怒られに行くのだ、少しくらい楽しいことがあってもいいだろう。

 葵と俺は何でもない会話をして、時折笑いながら、両親の待つホテルへ向かった。



 *



「……一先ず、おかえりなさい。 怪我も無さそうでよかったわ」


 家族で泊まっているホテルの部屋の開けると、いつもは優しい母の目は据わっていた。


 「少しはしっかりしてきたと思ったが、まだまだ子どもだな」


 父はというと、呆れ半分、嬉しさ半分といった感じの声音で話す。 その声音を母を聞き逃さない。


「お父さん、何を喜んでいるのかしら? もしかしたら、もう二度と我が子に会えなくなるかもしれなかったんですよ?」


 そんなことを普段温厚な母から言われ、父は「た、確かにな、そうかもしれん、駄目だぞ、お前達」と言って母から目に見えない速さの攻撃を食らって床に膝を付いた。


「ぐぉ! ……能力使うのは酷くない?」

「貴方が真面目に言わないからですよ。 真面目に子を諭す気がないなら、少し黙っていて下さい」


 どうやら母派能力を使って父へ攻撃したようだ。 そして、母が父へ暴力を振るう時は、ヤバイ。 ガチなやつだ。


「あなた達、何故2人揃って、しかも無断で夜遊びなんてしていたのか、きちんと理由を説明しない。 嘘をつけば、お父さんの様に床に膝を付くことになりますからね」


 葵は久し振りのガチギレの母を前に怯えていた。 俺の後ろに隠れてい袖を掴んでいる。

 生唾を飲む俺は、浅く息を吸い母に理由を説明た。 コンビニの帰りに、知らない子達が助けを求めてきたので、逃げるのを手助けしたこと。 俺を探しに来た葵を巻き込んで、遠くまで逃走したので帰りが遅くなってしまたことを。


「……そう、誰かを助けたのは良いことね。 そこは罰したりしません。 けど、陽喜、あなたその助けた子達はどうしたの? 姿が見えないようだけど」

「えぇっと、起きたら居なくなってました」


 母はため息をつくと、俺の腹にも父よりはゆっくりな拳からの打撃を放つ。


「う……なんで、素直に話したのに」

「助けるなら最期まで助けなさい、何が「朝起きたら居なかった」ですか。 あなたをそんな子に育ててた覚えはありませんよ? 困っている人がいたなら、助ける。 そこは大変素晴らしいですが、途中で投げ出すなど――――

「母さん、ここは職場じゃないし、陽喜達はまだ子どもだ、そこまで求めるのは酷だろう」


 母さん言葉を遮るように、さっきまで(うずくま)っていた父の言葉に母は「あ」と小さい声を漏らした。


「ごめんなさい、確かにそうね、あなた達は仕事でしているわけじゃく、ただ一般人として人助けをしたのよね。 痛かったわよね陽喜、ごめんなさい」


 少しいつもの母に戻り、俺の背中を擦る。


「けど、心配していたのは本当よ。 何かあってからでは遅いことは世の中とても多いわ、あなた達に何かあったらと思うと、不安で仕方ないの」

「心配かけて、ごめんなさい」


 俺の言葉に続き葵も「ごめんなさい」と言った。 俺達の言葉を聞いた母、俺と葵を抱き締めてくれた。


「普段家にあまりいない、私達が言えたことではないけれど、あまり心配かけないで。 2人とも本当に無事でよかった」

「全くだ、バカ息子。 あまり妹をトラブに巻き込むなよ、自分で何とかできるよう強くなれ。 そしたらお前が多少何かしても俺達は安心していられる」


 母と父の温かくも棘のある言葉を聞いて、嬉しく思うと同時に「確かに、もっと俺が強くあれば、あの時葵に手を貸して貰わなくても大丈夫だったかもしれない。 強く、なりたい」と心のなかで思った。


――――パンパン!


父が手を叩き、家族の注目を集める。


「さぁ、お説教タイムはおしまいだ! 今日も家族旅行を楽しむぞ! もし、お前達が今回のことで申し訳ないと思うなら、その分、お前達の笑顔を俺達に見せてくれ、目一杯楽しもう!」


父が俺と葵の背中を軽く叩いて、ニカッと笑った。 不思議と今はこの笑顔に救われた気分になる。 申し訳ない気持ちは沢山ある、だから母さんと父さんに家族旅行を目一杯楽しんで貰わないと。 父の笑顔に心を軽くしてもらった俺は「うん! わかった!」と父に負けない笑顔で答えた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

言葉で諭してくれる親って稀有ですよね。

愛を感じますね♪


次回予告

  『拉致』

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