第6話 芽生え
ザクトゥルの外周森林地帯に降りた立った、俺たちは取り敢えず、市街地に戻るのを避けるために、夜を明かせる場所を探していた。
「この時期の夜の森は、ちょっと寒いね」
「そうだね、なら、風邪引かないようにくっつかないと」
そう言って葵は俺の左腕に抱きついて来た。 2歩後ろくらいの所で、白石姉妹も手を繋いでいた。
「仕方ないな、葵は。 2人は大丈夫? 寒くない?」
「「は、はい」」
2人共ビクッてしてから、返事をしている。
(そんなにビックリすることかな? まぁ、知り合ったばかりだし仕方ないか)
そんな感じで、ゆっくりと森の中を歩いていくと、大きな岩場に出た。 森林中に隠れた大きな岩、それに手で触れて、葵に質問をぶつける。
「なぁ、葵、この岩掘れるかな?」
「うーん、壊すなら出来るけど、器用に掘るのは難しそう、かな」
葵が駄目だとなると、どうしものか。 2人で岩の前で悩んでいると「あの」と白石姉妹の1人が手を挙げる(外見、声が同じな為、まだ見分けることができない)。
「多分、私、掘れると思います」
「雫ちゃん、大丈夫?」
「ありがとう、お姉ちゃん。 大丈夫だよ」
どうやら、手を挙げたのは妹の雫ちゃんらしい。
「そうか、さっきダリアさんの魔法陣を殴り壊したのは君なんだね。 怪我だけは気ををつけてね」
「は、はい、そうです。 私の能力です。 お気遣いありがとうございます」
丁寧な言葉遣い。 しかしどこか違和感を覚える。
「それでは、いきますね。 石が飛び散るかもしれないので離れていてください」
軽く深呼吸をして
――――ゴッ!
岩を殴る。 殴った部分と、拳一回りくらいの周囲が粉々になり下に落ちる。 これを暫く繰り返していく。
*
「大丈夫、雫ちゃん? もう10分くらい経つけど」
――――ゴッ! パラパラ
「う、うん、まだ大丈夫、それにあと少しでいけそう」
拳は止めずに答える雫ちゃん。 大体3人分くらいのスペースが岩の中に出来つつある。 俺達は粉々なった岩を袋に入れたり、足で集めて外に出していく。 絶え間無く岩を殴り続ける雫ちゃんは汗をかきながら掘り進める。
「ごめんね、雫ちゃん。 力になれなくて、無理はしないでね」
「は、はい、ありがとうございす」
声をかけられる度に、ビクッと反応する。
「あと少しなので、大丈夫です」
「わかった、何かあったら直ぐに言うんだよ」
「はい」
葵は少し離れたとこで、砂を持っていたエコバッグに入れて外に運び出しながら「ばか」と陽喜の耳には入らない声で呟く。 兄の頼れる姿を見て嬉しい気持ちと、自分以外の女に優しくしている嫉妬が混ざった複雑な顔をしていた。
*
「これでどうでしょうか?」
「「「おお〜」」」
岩を掘り進めていた雫ちゃん以外の3人は、ものの20分程度で出来たら洞穴に感心していた。
「雫ちゃん凄いね♪ ありがとう。 たまに石が飛び散っていたけど怪我は、大丈夫なの?」
我が身のように喜び、心配するお姉さんの華ちゃん。 傍から見ていね微笑ましい。
「ありがとう……雫ちゃんでいいのかな? 呼び方」
「は、はい、苗字だとお姉ちゃんと一緒になってわからなくなってしまいますから」
雫ちゃんは俯いて答える。 前髪で目が隠れてい表情がわかりにくい。
「わかった、それじゃあ雫ちゃんって呼ばせてもらうね。 お姉ちゃんは呼び方どうしたら良い?」
突然声を掛けられたから肩をビックとあげて、「わ、私も名前でお願いします」と姉妹同じ髪型なので表情は分からないが、声的に照れている感じがする。
「うん。華ちゃん、よろしくね」
「は、はい、よろしくお願いします」
華ちゃんは動作に出やすいのか、少しもじもじした感じだった。
「それじゃあ、折角出し中に入ろうか」
「そうね」
「「はい」」
4人で洞穴に入っていく。 洞穴の中は真っ暗だったので「火って起こせない」と葵に聞くと、「うーん、できるかな」と言いながら光の矢を出して、外にあった木片と擦り合わせていく。 少しすると煙から炎が出てくる。 流石葵と口にすると、ドヤ顔で胸を張っている。
生木を焚べて、炎を大きくしていく。 洞穴の中にパチパチと心地よい音が響く。
――――ぐぅ〜
制御を離れた腹の虫が洞窟に響く。
食いしん坊な虫の飼い主は静かな俯き、恥ずかしそうにしている。
「お腹へったよね、コンビニで夜食色々買ってあるから、よかったらみんなで食べよう」
俺は持っていたコンビニ袋から、菓子パンやお菓子を出していく。
――――ぐぅ〜
もう1人腹に虫を飼っている子がいるようだ。
白石姉妹は2人でお腹を押さえながら俯いて、耳が赤くなっている。
「ほら、2人とも好きなの選んで食べよう」
「私は?」
「勿論好きなの選んで食べな」
葵はメロンパンを選んで食べていく。 一口一口を幸せそうに食べいてく葵を見て、こちらも幸せにな気持ちになっていく。
それを見て、ゴクリと生唾を飲む白石姉妹。
「ほら、好きなの選びな、何でもいいよ」
2人は顔を見合わせて。
「「本当に、いいんですか?」」
「遠慮しないで、食べたりなかったら俺ものあげるから。 沢山食べてね」
「「ありがとうございます」」
そう言って、ソーセージパン、焼きそばパンを取って食べていく。
元々父と俺、葵用に買っていた菓子パンや惣菜パン、お菓子が入っているので、それなりの量がある。 それぞれ好きなパンを選び、袋のお菓子はパーティー開けをして食べていった。
俺も葵も気が付かない振りをしていたが、白石姉妹はパンを食べながら大粒の涙を流していた。
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次回予告!
『慕情』




