第5話 逃走
「おにぃちゃーーん!!!」
夜空を切り裂き俺を呼ぶ声。 その場の全員が空を仰ぎ、葵の突然の登場に驚きを隠せない。
ダリアさんは凄く嫌そうな顔をして、空を睨んでいる。
「できれば、彼女が来る前に終わらせたかったんだけどね」
(彼女の心は何故だか読めない。 何らかの能力の影響だと思うけど。 其れ故に底が知れない、だから相手にしたくはないんだけどな)
ダリアさんが小声で何か言っていた。 けれど葵に気を取られた、俺の耳には入ってこなかった。
(何で直ぐに来られたのか、気になるけど、今はそれどころじゃない)
この袋小路から脱する外からの力。 葵を頼らずしてどうす。 これ幸いとして俺は半歩後ろに下がった。
「いくよ」
2人の肩を小さく叩き、耳元で小さく告げる。
「「……ん、はい」」
流石は双子、声を揃えて小さく頷き、俺の両脇に来て、部屋着のシャツに皺を作る。 俺も2人を抱き留め離れように固定する。
「葵!! 逃げたい!」
「わかった!」
葵着地を待たずに、こちらの求めていることを伝える。 葵もこちらの状況を見て、察してくれたのか脱出の準備を始める。
「チッ、面倒なことを」
ダリアさんがこちらに手を向けて、何かをしようと空に魔法陣を展開する。
すると、咄嗟に俺の右脇から、音も無く飛び出し鬼気迫る様な声で「だめ!」と言いながら魔法陣を殴り
――パリンッ!!
薄い硝子の様に破壊した。
「?!」
ダリアさんが目を見開き驚愕している。 俺も驚いている、何らかの能力者であることがわかったが、なにせいきなりだったので目を見開いた。
葵はダリアさんが驚愕しているところを見逃さず、上空から金の矢をダリアさん周りに牢屋のように放つ。
「そっちこそ面倒、邪魔しないで」
「……っ」
一瞬、ダリアさんが矢を破壊する為に生じた瞬く間に、葵が高急降下し俺を抱えてまた上空へ再び飛ぶ。 俺は2人が落下しないように力を込め、2人も落下する恐怖故か俺にしがみ付く。 葵は去り際にダリアさんへ矢を数10発連続射出していった。
(追撃エグいな〜、しかも「やってくれたな腐れ年増が」ってボソッと聞こえたぞ。 葵は怒ってるのかな?)
見た目によらず葵は力があるのは知っていたので、俺は驚きなかったが、2人は「「え?」」と声を揃えて驚いたの、少し内心微笑ましく思ったのは秘密の話し。に
*
「ここまで来れば暫くは大丈夫かな」
葵はザクトゥルの端にある森林地帯に降りた。 俺の力も限界が近かったのでありがたい。
「ふぅ、葵ありがとう」
「どういたしまして」
俺らを降ろしてくれた葵は、あからさまに普段と違うニコニコと擬音が付きそうな顔をしている。
「それで? この子達は何なのかな?」
背後にゴゴゴッと少年漫画様な擬音が見える。 半歩たじろぎ手から冷ややかな汗が出て、生唾を飲んでしまう。
「どうしたのかな? お兄ちゃん、何で後ろに下がるのかな? 何かやましい事でもあるのかな?」
少し、また少しと近づいてくる葵。 笑顔が怖い、こんこと思うのは久し振りだ。 因みに前回も感じたのも葵だ。
「と、特にやましい事はないよ、まだあの子達の名前も知らないしね」
「へぇ~、名前も知らないんだ。 なんでそんな見ず知らずの子達を助けようと思ったの? 知らないなら放おって置いてもお兄ちゃんには何も支障ないじゃない」
徐々に笑顔が薄れ、真顔になっていく紅く光る眼が眼前に迫ってくる。 けど、俺の中にも譲れない物はある。
「確かにこの子達を無視しても、何の支障もないけど」
「けど?」
「無視したら、俺はきっと後悔する。 毎夜寝る前、ふとした時に、この子達の『助けて』と言う声が頭で反芻して罪悪感で死にたくなる。 俺はそんなのゴメンだ、「あの時こうしていたらよかった」何て一番無駄な考えだと思ってる。 やらずに後悔するなら、やって後悔したほうがいい」
能力が消失してから、俺の中で1つ譲れない物が出来た。 それは「やらずに後悔するより、やって後悔したい」という考えだ。 何故それが譲れない物になっというと「もっと早く能力を消えるように、何か行動を起こしていたらよかった」と考えてしまったからだ。 「あの時こうしていたら」「もっとこうしていれば」などの「たら」「れば」なんて、何も生み出さない、後悔だけが積もっていく考えでしかない。 だから、悩むぐらいなら、やってみようと思うようになった。
葵に真剣な顔で話したら、少し驚いた顔をしている。 普段あまりしない顔をしていたのかも知れない。
「そう、なら仕方ないね。 全く本当に仕方ないんだから。 いつか後悔することになるよ、お兄ちゃん」
そう言いながら能力を解いて、くるりと一回転し、右手の人差し指でおでこをツンツンしてくる。
「ごめんな、付き合わせちゃって」
「いいよ、妹だもん。 それでこれからどうするの?」
俺が葵と話をしている間に、2人は少し離れた所に移動していた。
「取り敢えず、遅くなったけど、自己紹介しようか。 俺は松葉陽喜、こっちは妹の」
「松葉葵よ」
2人はうんうんと真剣に聞いている。 「陽喜お兄ちゃんに、葵お姉ちゃん」と小声で復唱していた。 葵はお姉ちゃん呼びの響きが気に入ったらしく、少し頬が緩んでいる。
「それで、2人の名前は?」
俺から自己紹介振られて「す、すみません」と言って一歩前に出た。
「私は姉の白石華です」
「私は妹の白石雫です」
「「助けてくれて、ありがとうございました」」
パッツンの前髪から覗く2人お揃いのオッドアイが、月明かりで妖しく輝いていた。
最期まで読んでいただき、ありがとうございます!
今後白井姉妹の能力が少しずつわかっていくと思うので、お楽しみに♪
次回予告!
『芽生え』




