幕間4 姑葵
私と松葉君が付き合いイルミネーションデートからしばくたったある日のこと、私こと竜胆司は激しく緊張していた。
(まさか、妹さんに呼び出されるなんて、なんの用なんだろう?)
そう、私は松葉家にお呼ばれしていた。 彼氏にではなく、その妹に。
*
「いらっしゃい、竜胆先輩♪」
インターホンを鳴らして入るとそこには、とても機嫌のいい、いや良すぎる妹さんがいた。
「は、はい、お邪魔します」
「何をそんなに緊張しているんですか〜? 先・輩?」
(今日は私の命日だろうか)
やけに機嫌のいい妹さんの目は、恐ろしいほどに笑っていなかった。
リビングに通されてソファーに座る、妹さんも近くに座ってこちらを見ている。
「きょ、今日は、なんの御用ですか?」
恐ろしすぎて声がうわずってしまった。
「用というほどのことではありませんが、先輩は先日お兄ちゃんとデートをしたようですね?」
「そうですね、はい」
「どうでしたか? どこまで、何を、どんなふうにしたんですか???」
ぐい、ぐい、ぐいっと徐々に近づく妹さんの顔に、ビビってしまい体が反っていく。
「ええっと、お昼ごはんを食べて、ウィンドウショッピングをしてイルミネーションを見ただけです」
「何もしていないんですか? 手を繋いだり、ハグをしたり、キスをしたりとかはなにもなかったと?」
思い当たるフシがあり、冷や汗をかいて視線をそらしてしまった。
「…なにか……したんですね??」
「はい、手を繋ぎました」
そうですか、と言いながら元の場所に戻る妹さん。 すっと立ち上がって、私の方を向き「では、これより、松葉家嫁入り修行を開始します!!」と宣言する妹さんだった。
*
問答無用で始まった、妹さんによる嫁入り修行は矢継ぎ早に行われていった。
「でわ、最初に、お料理!」
「はい!」
「味が薄い! 味見もしっかりしなさい!」
「はい〜」
*
「次は掃除!」
「はい!」
「ホコリがまだ残っているじゃないですか! こんなのは掃除と言いません、撫でているというのです!」
「ごめんなさ〜い」
もう涙目な私。
*
リビングに戻ってきて、ソファーにヘタれる私と、それを見下ろす妹さん。
「とりあえずは、この2つですかね。 今回はこれくらいで勘弁して上げます。 精進なさい、未来のお姉ちゃん」
「はい、がんばります。 ん? 未来のお姉ちゃん?」
予想外の言葉にバッと顔を上げて妹さんの方を見る。 私の視線に気がついた妹さんは、深い溜め息をつき、斜め上を向き少しの沈黙後口を開いた。
「お兄ちゃんはどうでもいい人と、安易に付き合ったりはしません。 先輩にその気があれば、遠い遥かにと〜い未来にそうなるでしょう。 私はお兄ちゃんの決めた人にケチはつけたくないのです」
めっちゃケチつけてたじゃんっという私の視線に「まだ、お付き合いの状態のなので言ってるだけです。 それに、先輩のしたことにケチはつけても、私は……貴女自身にケチをつけた覚えはありません。フン!」といってむくれる。
最後の方言葉が小さくなっていたのは照れ隠しなんだろうか。 けどとても嬉しい。
(妹さんが認めてくれるなんて)
「ありがとう、葵ちゃん」
「!?? 気持ち悪い呼び方しないでください!!」
背筋を震わせ、顔を赤くしながら言う葵ちゃん。
「未来のお姉ちゃんなら”葵ちゃん”って呼んでもいいじゃない」
「ちょーしこかないでください! 可能性を認めただけなんでから!」
「同じことじゃない? 私はこう呼びたいな、葵ちゃんって。 松葉君が好きな女の子同士なんだし仲良くしよ?」
「妹がお兄ちゃんを好きなのは当たり前です! そんなこと言っても仲良くなんかしませんから、調子乗らないでください」
顔を真赤にさせてプリプリ怒る葵ちゃんを見てかわいいなと思った。 これからは”葵ちゃん”と呼ぼうと心に決めた私であった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回で第1章の幕間は最後になります、読んでいただきありがとうございました。
第2章は舞台が変わります、公開日はもう少しお待ちぐださい。
次回予告!
『第1章 登場人物紹介』




