幕間2 恋人初デート
恋人になってから早くも1ヶ月が経った、2月のある日のこと。 俺と竜胆さんはデートに来ている。 今回はショッピングとイルミネーションが目的のデートだ。
時刻は11時、天候に恵まれ快晴だ。 まだ2月で気温は上がらず10℃ほどなので、冬用の上着とマフラーと防寒もしっかりしてきた。
「寒な〜」
上着のポケットに手を入れて寒さを凌ぐ俺は、近くの時計を見る。
(30分前は早かったかな〜。 どっか店にでも入ろうかな)
寒さのあまり足を店に向けて一歩踏み出すと、後ろから声を掛けられた。
「ま、松葉君、お待たせしました。 早いんですね? まだ、30前ですよ?」
私服姿の竜胆さんだった。 ロングコートに赤チェックのマフラーを巻いている。 凄く似合っていた。
「そう言う竜胆さんだって30分前に来てるじゃん。 楽しみだったからね、昨日はあんまり寝付きが良くないし早く起きちゃってやることないから早くきちゃったんだよ」
「松葉君もそうだったんだ。 楽しみにしてもらえて嬉しいよ。 私も楽しみにしてたよ、前日から沢山準備したからね!」
少し恥ずかしそうにけれど、それ以上に嬉しそうに語る竜胆さん。
「そうだったんだ、ありがとう。 私服も可愛いし似合ってるよ」
竜胆さんの服装をもう一度見直して、素直な感想を伝える。 竜胆さんはポットのように顔を赤面させて前髪で顔を隠す様に下を向いた。
「そんなに、面と向かって『可愛い』とか言わないでくださいよ」
恥ずかしさからか言葉遣いが以前の様になっている。 恥ずかしがっている姿を見て「可愛いから『可愛い』って言っただけだよ」と追い打ちをかけると、「そ、そんなに、か、かわいいんですか?」と前髪の隙間から覗かせる期待と不安な眼差しを向けてくる。
「うん、可愛いよ。 とっても素敵だ」
「あ、ありがとう」
嬉しそうな声でお礼を言って熟れたトマトの様に真っ赤な顔を上げて、真っ直ぐ俺を見つめ「松葉くんもカッコいいよ。 す、素敵」と言って微笑んだ。
「見て見て、あのカップル初々しいわね〜」
「爆発しろ……」
「寒いのにお熱いね〜」
天下の往来で、バカップルみたいなやり取りをしていたらそれは目立つに決まっている。 俺と竜胆さんは顔を見合わせて、頬を羞恥の色に染め上げて小走りでその場を離れた。
「は、恥ずかったね」
「そうだね、しばらくあそこには近寄りたくないかな」
二人で肩で息をして近くにあったファミレスの前に避難した。 ファミレスの前で息を整えると「ここで少し早いけどお昼ごはん食べます?」と言ってくる竜胆さん。 俺の心情は羞恥から焦りと不安に変わる。
(恋人になって初デートでファミレスはありなんだろうか。 ネットでは「デートでファミレスはクソ」とか書いてあるのを見たぞ!? どうすればいいんだ!?)
「松葉君? どうかしましたか? あ、あ〜、デ、デートでファミレスはないですよね……。 ごめんなさい、配慮がたりなくて」
止まっている俺に話しかけて、段々と顔を青ざめていく竜胆さん。
「ち、違うよ、竜胆さんさえ良ければ俺はファミレスでもラーメンでもどこでも大丈夫! ……ただ」
「ただ?」
「俺も同じこと思ってたんだ、初デートでファミレスは大丈夫なのだろうかって。 ネットではありえないみたいに書いてあったから、不安で」
そういう俺を見て竜胆さんの顔入りは普段通りになり、少し嬉しそうしている。
「そっか、松葉君私のこと考えてくれてたんだ。 嬉しい。 私もね、松葉君とだったら何を食べても美味しと思うし、何処でも嬉しいよ」
「そっか、ありがとう。 ならここにしようか」
「うん」
2人でまた頬を赤らめる、傍から見たら恥ずかしいやり取りをしてファミレスに入っていく。
ファミレスではお互いに好きな物を頼んでシェアして、楽しく話をしながら食べていった。
「ごちそうさま〜、竜胆さんが頼んだラム肉のスパゲッティ美味しかったね」
「ごちそうさまでした。 はい、松葉君が頼んだチョリソーにアボカドとトマトのサラダもとっても美味しかったです!」
お腹を満たして、気分が高揚している俺達は次に行く場所を決める。
「竜胆さん、イルミネーションの時間までに、どこかショッピング行きたいからとかある?」
「うーん、そうだな。 特には決めてないですけど、まずは文具店でもいい? 高校でよく使ってたペン失くしちゃって。 大学に行く前に新しいの欲しいかなって」
「うん、大丈夫だよ。 じゃあ行き先が決まったし、お会計して見に行こう」
伝票を持って立つ俺に、竜胆さんは「合計何円?」と聞いてきたので「1600円くらいだよ」と伝えると800円丁度渡してきた。
「お金の管理はきちっちりしたいですから」
「うん、ありがとう」
竜胆さんから貰ったお金を手にお会計を済ます。 2人でお店を出て、近くに文房具を売っているお店がないか探しながらゆっくり歩いていると竜胆さんから声をかけられた。
「どうしたの? 何か良いことあった?」
「ん? 何かって?」
「何だかとっても優しい顔になってたから、花を慈しむ様なそんな顔」
何か特別なことをしているわけじゃない、二人で歩いている今がとても幸せに感じていた俺の頬は、自然と緩んでいたようだった。
「いや、幸せだな〜って思ってたんだ」
「ふふ、なんにもしてないのにね。 けど、私もだよ」
二人で微笑みあって文具店に足を運ぶ。
少し離れたところの文具店に入り、いろいろなボールペンを試し書きして書き心地や持ちやすいか等見ていった。 10分ほどでいいものが見つかり、お会計を済ませている竜胆さん。
「おまたせ」
「おかえり、いいの買えた?」
「うん、とっても書きやすくて色もキレイでね、寄ってくれて、ありがかとう松葉君」
気に入った物が見つかって嬉しそうにしている竜胆さんを見ると、俺も何だか嬉しく感じるので不思議だ。 それから近くにあったお店に入った。 雑貨屋や服屋などを転々としながら二人で話して過ごしていたら、あっという間に辺りは暗くなりイルミネーションが始まっていた。
「あ、もうすぐイルミネーション貼っじまってるね」
「本当だ、竜胆さんと二人で話してたらもうこんな時間になってたんだね。 それじゃあ、行こうか」
(どうしよう、手とか繋いだ方がいいかな、俺は繋ぎたいし。 よし、行け! 行くんだ俺!)
勇気を振り絞り、そっと手を繋いでイルミネーションが行われる場所へと足を向ける。 握った竜胆さんの手が一瞬強張ったが直ぐに力は緩み、優しく握り返してくれた。 イルミネーショが行われている長い一本道まであまり時間はかからないけど、早く着いてほしくないなと思ってしまった。
*
イルミネーション会場はカップルや家族連れ、友人同士で来た人はなどで溢れていた。
「すごい人混みだね」
「うん、はぐれないようにしないとね」
そう言ったあと少しだけ握る力を強めた。 それに答えるように竜胆さんも握り返してくれた。 竜胆さんの方をちらっと目線だけ動かして見ると、同じように目線を動かしてこちらを見ている竜胆さんの視線とぶつかった。
「「……」」
恥ずかしくなり目線を外して、ゆっくりと足を前に進めた。
色とりどりの電飾が施された木々に、その植え込みを彩る綺羅びやかな光を放つ動物たち、人混みは嫌いだけれど、この景色を好きな人と一緒に見られるのなら、たまには人混みの中に足を踏み入れるのも悪くないなと思った。
道なりに歩いていくだけなので数分で見終わってしまった。
「きれいだったね〜」
「うん、また来年も見に来ようね松葉君!」
「うん、そうだね! また来ようね」
また来年も来ようと竜胆さんが言ってくれたのが嬉しくて、頬が緩んでしまう。 たった一言、言われただけなのにどうしてこんなに嬉しい気持ちになるのか不思議なくらいだ。
ゆっくりと二人で過ごすこの時間を惜しむように駅に向けて足を運ぶ。 しかし、すぐに付いてしまい、同じ電車に乗る。 電車に揺られながら、今日あったこと、楽しかった嬉しかったことなど二人で話し合う。 俺の最寄り駅のほうが竜胆さんの最寄り駅より一駅手前、徐々に迫る別れの時間に俺たちは名残惜しさを感じていた。
「もうすぐ松葉君の最寄り駅だね」
「ようだね。 なん一緒にいると時間がすぎるのがあっという間だね」
「うん、また来週も学校で会えるのに、すごく寂しい」
「確かにね、どうしてだろう」
二人で話していると最寄り駅に到着した。
「また来週、今日はありがとう、楽しかったよ」
「うん、また。 私もとっても楽しかったよ、ありがとう」
ずっと繋がれていた手を離して電車から降りた。 手を降って竜胆さんに挨拶をして改札へ向かう。 いままで繋がれていた温かいぬくもりがなくなってしまい、より一層2月の寒さが肌にしみた。
楽しかった、嬉しかった初デートも帰りはちょっと寂しいなと思いながら、来週は何をして過ごそうか、何をしたら喜んでくれるかなっと考えながら、家族が待っている家へ帰った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
更新が遅くなりすみません(汗)
しばらくは週一更新できます!
次回予告!
『ブラコンシスターズ』




