第30話 繋がる想い
光に包まれて俺らは元の世界に戻る。
若干の浮遊感と、乗り物酔いのような感覚があったが、無事に戻って来られたようだ。
「お疲れ様だったね。 松葉のお嬢ちゃんに渡しておいた帰還魔法が正常に発動したということは、無事解決したということかな。 おめでとう」
ダリアさんが俺らを覗き見て「うんうん」とうなずいている。
「色々と詳しく話を聞きたいのも山々だが、これでも多忙な身でね。 少し早いが失礼させてもらうよ。 何があったかは今度聞かせてくれたまえ! それではまったね〜!」
俺たちが返答する前に、どこからか取り出した箒に跨がり空へ消えていった。
「嵐のような人だね本当に」
「ただの変人だよ。 考えるだけ無駄だよお兄ちゃん」
「掴みどころがない人ですよね。 今度お礼を言っておかないとな」
学校の屋上に座り込み三人で「ふぅ」と一息ついた。
時計を見るとまだ8時30分。 もっと長くいたような気もするけれど30分しか経っていなかった。
俺は床に寝っ転がり空を眺める。
「あ〜、疲れた」
現実ではなんにもしていないのに、どっと疲れが押し寄せた。
「そうだね。 ちょっと疲れちゃったかも。 ねぇ松葉君」
竜胆さんが砕けた言葉で話しかけて来てくれた、まだ丁寧な言葉のときも多いけど最近は増えてきた様に感じて嬉しい。 竜胆さんの言葉に俺が「ん?」っと短く返事をして、声がする方を見ると、隣に竜胆さんも寝転がっていた。
「感じますか? 私の温度」
隣に寝転がっている竜胆さんが、俺の手を握ってきた。
包むように優しいその手は、とても心地の良い温度だった。
―――俺がとても待ち望んでいたもの。
過去に【能力】と引き換えに失ったもの、そして、2人の力を借りて【能力】と引き換えに取り戻したものだ。
人の温もり、体温、熱、繋がり、自信……。
感覚としては久し振りに捉えた熱に、体の芯まで溶けてしまうかと思うほどだった―――
「うん……温かいよ」
そう言って手を握り返す。
掌から感じる熱をお互いに確かめるように、指を絡めてしっかりと握り合う。 自然と目と目が合って離せない。 何かの能力で引き寄せられように、徐々に近づく―――
「ちょっと、なにいちゃついてんの。 お兄ちゃん達?」
俺の後ろから葵が恨めしそうな声を出して勢いよく抱きついてきた。
一瞬驚いてしまったが、制服越しに伝わる葵の昔と全然変わらず温かい体温が心地よかった。
「お兄ちゃん? どうしたの? いきなり静かになっちゃって」
「うん、葵も温かいな〜って思っててたんだ」
俺がそう言うと、抱きつく葵の力が強くなり、背中に顔を埋めてきた。
「ん? どうしたの葵?」
「ん〜〜〜〜!!!」
唸ってジタバタする葵。 一分程その状態が続き、「ぷはっ!」っと埋めた顔を上げて、そのまま立ち上がる。
「じゃあ、あ兄ちゃん。 私先帰ってるから。 明日から新学期なんだから、早く帰って準備するんだよ〜」
手をひらひらさせて、屋上の後にする葵。
(気を使わせちゃったな。 ありがとう、葵)
突如二人っきりになってしまう。
嬉しいけど困った状況になったが、やることは決まっている。 先日の約束を果たす。
「竜胆さん、今回は助けてくれてありがとう。 本当に助かったよ、竜胆さん達がいなかったらどうなっていたことか。 僕だけじゃどにもならなかった。 本当にありがとう」
起き上がって改めてお礼をする。 僕が起き上がったのを見て竜胆さんも慌てて起き上がる。
「ううん、私がしたくてやったことだから、気にしないで。 松葉君が元気になってくれてよかった」
そういう竜胆さんはとても優しく微笑んでいた。
「え、そんなにすぐ顔に出てるかな?」
「うん、出てるよ。 笑顔がとっても自然になったよ」
そう言う竜胆さんはどこか照れるように頬を赤らめるが、まっすぐこっちを見てきた。 その笑顔に心臓が跳ね上がるのを感じた。
(く、苦しい。 かわいい。 さっき不意にいい雰囲気になったけど、どうしたらさっきみたく自然にいい雰囲気がつくれるのか……)
小難しく考えたが、無理そうだ。 元々そんなに器用じゃないし、女の子と付き合ったことも告白したこともないのに、いい雰囲気もなにも作るコツとかしらないし、自然にいこうと思った。
(雰囲気も作りたかったけど、いつもどおりにいこう、きっとその方が伝わるモノもあるはず、きっと)
意を決して口を開く。
「竜胆さん、待たせてごめんね。 この前の話を聞いて欲しい」
息を飲む竜胆さん。 緊張のためか、胸元で両手を握って緊張しているような、期待しているような面持ちになった。
「僕は君のことが好きになっていた。 竜胆さんのことが大好きだ、笑顔が可愛い、声が綺麗だ、艶のある黒髪も魅力的で、ええっと、こんなにいろんなところを見てしまうようになるくらい大好きだ! だから、俺と付き合ってください!!」
いろいろ余計なことも言っていまった気もするが、緊張のあまり何を口走ったか正確には覚えていない。 普通にいこうと思ったが、まあ、無理だった。 告白だ、緊張するのは仕方ないだろう。 以前「好きですよ」と言ってもらったけど、この数日で気持が変わってしまったかもしれないし、怖くなり腰を直角に曲げて右手を竜胆さんに突き出す。
「はい、もちろん。 前に言ったように、私は松葉君のことが好きですよ。 そして好きは日に日に大きくなり、今ではただ好きなだけじゃ収まらない、大好きだし、松葉君が欲しいって思うほどに気持ちが膨れ上がってます。 待たせて膨れ上がった気持ちの責任取ってもらいます。 もう離しませんからね」
両手で俺の手をぎゅっと力を入れて握りしめてくれる竜胆さん。 その目には薄っすらと涙が見えた。 俺は考えるより先に溢れてこぼれだしそうな涙を左手で拭った。
「うん、離さないでね。 案外竜胆さんって泣き虫だよね」
「そうみたい。 また泣いたら、今みたいに涙を拭いてくれる?」
「もちろん」
俺が肯定すると、竜胆さんは「嬉しい」と言って抱きついてきた。
さっき感じた竜胆さんの手の熱よりも熱いモノを感じる。
(ハグってこんなに気持ちいいんだな)
さっき葵に抱きつかれた時とは明らかに違う。 竜胆さんが抱き締めてくれて、それを受け止めるように俺も竜胆さんの体を抱き締める。 お互いがお互いを抱き締め合うハグはとっても温かくて気持ちがいい。 この状態がずっと続けばいいのにと思ってしまうのは仕方のないことだ。 こんなに大好きな人を感じることができるのだから。
「これからよろしくお願いします。 あ」
「また丁寧な言葉になってたね。 こらこそ、よろしくお願いします」
竜胆さんの真似をして丁寧に言った俺の言葉を聞いて、頬を緩ませて笑う竜胆さん。 そんな竜胆さんを見て俺も自然と笑みが溢れる。
とても幸せだ。 こんなに晴れやかな気持ちはいつぶりだろうか、それとも初めてだろうか。 心の霧が晴れて、そよ風が吹いているようなそんな気持ちだ。
屋上をさろうとする時、自然と手を繋いでくれた竜胆さん。 指を絡めて深くつなぐ、少し力が強くなり、自然と重なる視線。 瞳と瞳が近づきそして接触するまえにゆっくりと閉じられた。 重なる唇は表面は少しひんやりしているけど、内側からは温かい熱を感じる。 少しの交わりだったが、今の俺達にはこれで十分だった。 離れる唇に名残惜しを感じながら、また合う視線。 お互い気恥ずかしく、頬を染めながら微笑む。 いつもよりゆっくりと歩きながら帰路についた。
これから楽し毎日になりそうな予感がする。
竜胆さんと葵がいる毎日が楽しくないわけがない。 どんなことがあってもきっと乗り越えられる気がする。 未来を楽しみにしながら、俺は一歩を踏み出していった。
最後まで読んでいただき、ありがとございます!
陽喜と司が結ばれましたね♪
書いていて私も嬉しいしドキドキしてしまいます!
次回も読んでいただけると嬉しいです!
次回予告!
『卒業式』




