第29話 決着
「な、な、何を……!!? 離れろ!」
「いや!! 絶ッ対に離さない!!!」
そして背中に大きな翼を広げ、真紅の鱗を纏った竜胆さんは腹の底から息を大きく吸った。
*
side : 司
私の頭の中には只々、松葉君に伝わって欲しいという想いだけ。
温もりの心地よを、私の熱い熱い、身を焦がすほど燃え上がるような想いを。
(そのすべを、ありったけをこの一吹きに込める!
【竜人化】!!)
背中の翼を音聞く広げて、辺の空気を根こそぎ吸い尽くす勢いで肺に溜め込む。
竜人化状態は身体も頑丈になり、肺の膨らみも普段より段違いで大きいため、能力を発動した。
(限界までお腹に空気を溜め込み、一気に、放つ!!!
私の熱を受け取って!!!)
ありったけの熱を吐き出す。
松葉君を包むだけでは収まらなかった私の炎は、松葉君の家を焼き尽くした。
*
side : 陽喜
人外の力で抱きしめられながら、俺の視界は赤く、紅く燃えていった。
振りほどこうと思えばいくらでもやり方はあった。 しかし、それができなかった。 多分、僕の影響だろう。
本来この空間に存在する、松葉陽喜は一人だけ。 それを珍妙な方法で超えてきた。 俺らは本来一心同体、役割は違えど、その俺らが互いに影響されあうのは仕方のないことだろう。
僕が来てから戦う気力、対抗する意思が少しづつ削がれていってはいた。 そして、この赤い炎を見た瞬間、わかってしまった「俺は負けたな」と。
(ああ、知っている。 俺はこの温もりを知っている。 以前感じたことのあるものだ。
なんて、温かいんだろう)
いつしか俺は、体を温めてくれる、その熱に身を委ねていた。
心地の良い温度だった。
何かが溶けていくような、そんな感じがした、悪くない感覚だった。
能力が発現する前までは当然のようにあったものだ。
懐かしさのあまり、気がついたら俺は―――泣いていた。
目頭から溢れた雫は、俺の頬を伝うことなく炎の中に消えていった。
(よかった、泣いている姿なんて見られたくないからな)
もう少し続いてほしいと思った竜胆さんのブレスは止んでしまった。
目を開けて、辺りを見ると家は燃え鉄骨だけになっていた。
「どうでしたか、私の炎は」
「ああ、悪くなかった。 あんなものを受けてしまったら、もう、認めざる負えないな」
凛々しい顔にどこか不安を隠しきれなかった竜胆さんに俺の言葉で自信が宿り、抱きしめたまま言葉を紡ぐ。
「それは良かった。 私達の勝ちです」
「ああ、俺の負けだ」
脱力した竜胆さんは能力を解き普通の姿に戻るが、先ほどの炎で消し炭になった制服が勝手に戻るわけもなく全裸になっていた。
「わぁ!?!」
「!? 全く、世話が焼けるな」
指を鳴らし服を着させる。
真っ赤な顔で隠すように前髪の下から、こちらを覗き見る竜胆さん。
「み、み、見ましたか」
「見てません」
「なら、なんで顔をそらすんですかっ!!」
「お〜い、先輩」
「竜胆さん無事!?」
葵の能力でさっと、この場を離れていた僕が葵にお姫様抱っこされて近づいてくる。
「は、はい大丈夫でし」
「めっちゃ噛んでるじゃん」
「き、気にしないでください。 それよりも」
竜胆さんは葵の前に握りこぶしを突き出す。 一瞬驚いた表情を見せた葵も、何かを感じ取りニヤリと笑い、拳を突き合わせた。
「勝ったよ、松葉君。 私達の勝ちです」
「え、え、本当に勝っちゃたんだ」
「はい!」
満面の笑みで肯定する竜胆さんを見たあと、僕の視線は流れるように僕に移った。
「負けたの?」
「ああ、完敗だよ」
「そっか、僕らはこれで同じ方向を見れるのかな?」
「そうだな、俺も僕と同じ意見になったよ。 もう僕達には【耐熱】は必要のないものだ。 世間の目は厳しく、辛いこともあるだろうけど、今の僕には能力よりも強い味方がいるからな」
僕は安心したような、少し寂しいような顔をしていた。
「俺らが能力はもう不要と認知してしまえば、いずれ能力はなくなるさ。 まあそう滅多に起こることじゃないけどね」
「そうなんだ」
「当たり前さ。 先天性能力の場合はそもそも消えることない。 そして後天性能力は本人が強く望んだ時、危機が迫ったときに発現するもの、それをわざわざ不要と思う人はいないさ」
「そうなんだね」
僕は「ふ〜ん」といったあまり興味なさそうな顔でいった。
「まあ、何はともあれなくなって良かったんじゃないか? 後天性能力を身に宿したモノは早死するからな」
俺の言葉を聞くと「え!?」と三人は驚いた顔をしていた。
「知らないのか? 後天性能力は体の負担が大きいんだ。 本来収まりきらなかったモノを無理やり押し込むんだ、普通の人よりガタが来るのが早くて不思議じゃないだろ」
「「「へ〜、知らなかった」」」
三人は目を見開きうんうんとうなずいて話を聞いていた。
「まあ、そんなことはいいんだよ。 もう勝負はついたんだ、そろそろ帰りな」
「え、ああ、そうだね」
「わかった」
「はい」
三人は少し寂しそうな顔をした。
(たく、さっきまで殺し合い紛いなことをしていた相手に向ける顔かね。 世話が焼けるね)
内心苦笑しながらも、悪い気はしないのが不思議だ。
「ほら、ささっと帰りな。 そうだ、僕」
「うん、なに?」
「そろそろ一人称変えたらどうだ? いつまでも僕のままじゃカッコつかないだろ」
「そ、そうかな?」
「ああ」
俺は僕に腕組をして顔を引き寄せ小声で言った。
「それによ、もう自信は取り戻しろ?」
「っ!」
「何驚いてるんだよ。 俺は僕だぞ、知らないわけないじゃないか」
僕は能力が発現してから、人の温もりを感じられなくなり、人との繋がりを感じにくくなってしまった僕は自信を徐々になくしていった。
学年が上がるごとに一人称を変える子が周りに増えていく中で、僕はどうしても”俺”と言えなかった。 勝手な思い込みだが、”俺”とい一人称は自分に自信がある人が使うものだと当時の僕は思っていた。 今は流石にそんなこと思っていないが、自信がない僕は一人称を変える勇気すら無くなっていた。 「今更一人称を変えたら変に思われるんじゃないか」とか、うだうだと考えてしまっていた。
「もう、大丈夫だろ。 俺らには心強い仲間がいる。 今のお前の周りにいる奴らはそんな程度のことでお前を笑ったりしないさ。 それは僕が一番よく知ってるだろう」
僕は一瞬目を閉じて考え、目を開けて力強く頷いた。
「そうだね、今回のことで少し自信も取り戻せた、それに能力が消えたらみんなをもっと近くに感じられる気がするんだ。 もう一人じゃないんだもんね」
「なに言ってるんだよ、俺らは元々一人じゃないだろ? いつだって俺らの周りには誰かいたはずさ。 そうだろ?」
腕をどかして、僕を葵や竜胆さんの方へ軽く手で押す。
「さあ、新しい俺の誕生だ! ここから俺は変わるぞ、そして俺らの周りもだ。 きっと大変なこともあるだろう、けどな周りを見渡せ! 力を貸してくれる奴らは直ぐ側にいる!」
「うん! 俺も変わってみせるから! 側で見てろよ! 俺!!」
僕の一人称の変化を耳にして脇の二人が少し驚いた顔していた。
いいものが見られた。
「ああ、特等席で見るさ! 頑張ろうぜ!」
俺の突き出した拳にもうひとりの俺も拳を合わせる。
(あぁ、拳を伝って能力が消えていくのを感じる。 そして目覚めるモノも。 大変になるのはきっとこれからだな俺)
三人は光に包まれ消えていった。
最後に見せたのは最高の笑顔だった。
「……行ったか。
俺らが分離することももうないだろう。
魔法使い、か。 この体にまで干渉できるなんてな、あんまり関わりはない方がいいのかもな。
念でも送っておくか、警戒しとけ〜ってな」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
自分対自分という戦いが終わりました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
次回予告!
『繋がる想い』




