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第26話 対面

 カラオケに行った次の日の朝。

 いつも通り朝食を食べ、玄関で靴を履き後ろを振り返る葵。


「行こうか、お兄ちゃん」

「うん、今日はよろしくね葵」

「誰に言ってるの、当たり前でしょう」


 何て男前でかっこいいのだろうか。 兄として誇らしいやら、寂しいやら。


(けど、葵には負けられない、僕も頑張らないとな)


 初めての事で寝起きから鼓動が速くなっているが、深く息を吸い、軽く吐く。


「行こう」


 葵には聞こえない小さな声で自分を鼓舞し、家の扉を締めた。



 *



Side : 司


――ピピピッ! ピピ、カチ


 いつもより少し速い時間に起きて、カーテンを開ける。 窓の前で軽い伸びをして体の緊張を解す。


「ん~~、はぁ。 よし」


 私は、今回そこ負けない。 前回とは違い松葉君も妹さんも一緒なんだから、負ける気がしない。

 朝食もきちっと食べて、エネルギーを補給し、片付けをして、着替える。

 いつも松葉君に会うときは緊張してるけど、今日はまた違う緊張が凄い。

 前回の敗北の感覚が、私の脚に絡みつき「行くな」「やめておけ」「また負けるぞ」と引っ張るようだ。

 松葉君はもう怖くないけど、松葉君の内に潜るのは……まだ怖い。

 約束の時間が迫り身支度を済ませ玄関に向かい歩いていると、ふと目に入った自室の姿鏡を見た。 そこに映る私は、酷く情けない顔をしていた。


――パシン!


 もう一度鏡を見る。 両頬はほんのり赤く、紅葉のようになっている。


「ふふ」


 気合を入れて、緊張も少し取れ、自然と笑顔がこぼれた。 今日は大一番、二の足を踏んでいる暇はない。 彼を前にしてそんなことをしていた、あっと言う間に意識は刈り取られてしまうだろう。


「よし!」


 鏡の中の自分にもう不安の表情はなく、目や頬に気合が見て取れる。

 松葉君と出会う前の自分は思えばいつも暗く不安で何かに怯えているような顔をしていた。


(松葉君に出会えて本当によかった。 今の私があるのは松葉君達のお陰、その恩を少しで返すんだ)


 姿鏡の縁に掛かっているガスマスクを一瞥し、


「いってきます」


 と言って学校へ向かった。



 *



sade : ●●●


 薄暗い部屋で電話をかけている少女がスマホを片手に電話をかけている。


「ええ、わかってるいるよ。 貴女からの仕事もきちんとしているわ、この前も一人男の子を確保したわよ。

大丈夫よ、私特製の薬なんだから、あの子達が気がつくことはないわ。 私は貴女のような【鑑識】はないから探すのだって一苦労なんだから、お小言ばかりじゃなくて、少しは労ってくれてもいいじゃない。

 今度美味し紅茶でも用意しておいて、今回の報告も兼ねてお邪魔するわ」


 電話を切り、スマホを机の上に置いた少女は、カーテンの隙間から射す光を眺め、舌なめずりをした。 好物を前にした子どものように、獲物を狩る前の猛獣のように。


「ふふ、今日はどんな一日になるかしら、とても楽しみね」

「あんまりはしゃぐと、また足元掬われますよ」

「そうだぜ、李の時だって痛い目あったろが」

「………」


 はしゃぐ少女に忠告をする、華奢な女の子と筋骨隆々の大男、彼らを俯瞰するローブを被った人物。 そんな彼らに面倒くさそうな目を向ける少女。


「うるさいわね、今回私は戦わないからいいの、あくまでお手伝いさんなんだから!

 彼らがどんな結末を迎えるのか楽しみだわ〜」

「玩具にされて可哀想」

「だな」

「もう、無駄口叩かないで、あなた達は訓練にでも行ってらっしゃい!」


 少女に言われ、渋々といった表情で移動する彼等を尻目に、小粋なステップでクローゼットに移動し、今日着る服を選ぶ少女。


「今日は何を着て行こうかしら。

 ああ、楽しみで仕方ないわ、ふふ、ふふふふ」


 誰もいなくなった部屋の中で少女の笑い声がこだましていた。




 *



side : 陽喜


 学校の屋上に僕と葵が着くと、すでに竜胆さんが到着していた。


「来たんですね、竜胆先輩」

「うん、もう逃げないよ」


 お互いの目を見て、意思の硬さを再確認しているように見えた。


「松葉君、今日はよろしくね。 あの姿を見せるのはちょっと恥ずかしいけど、頑張るよ!」

「うん、こちらこそよろしく(恥ずかしい姿ってなんだ??)」


 少し頬を染めた竜胆さんを見て、トキめいていると、それを察したのか葵に足の爪先を踏まれた。


「いた!」

「ふん、これからってときにデレデレしない!」


 葵がそっぽ向いて怒っていると


「まぁ、まぁ、そうかりかりしないの、お嬢さん。 可愛い顔が台無しだよ」


 葵の影からダリアさんが出てきて、頭をポンポンした。 突然のことに葵も驚き「ひゃ!」っと可愛らしい声を出していた。 そして「私の頭をポンポンしていいのはお兄ちゃんだけなんだから!」っと言って、手を振り払った。


「ふん、怒られてしまった。 まぁいいか。

 さぁお待てせしたね、君たち。 困難に立ち向かう、覚悟と準備はできたかな?」


 とんがり帽子をとローブをなびかせ、僕らの前にたったダリアさんは頬を緩ませ問いただしす。 僕がダリアさんの格好を見ていることに気がつくと「ん? この姿かい? 前回君たちにあったときはローブだけだったからね、帽子と杖も持ってきて、魔法使いっぽい雰囲気を出してみた。 どうだい、似合うだろう」とその場で一回転してローブをなびかせた。


――カッ!


 ダリアさんが杖を床につけた。


「おっと、少年の純朴な瞳で衣装を見られて、ついつい披露してしまった。 すまない、話がそれたね。 で? どうなのかな、やるのか、やらないのか」


 先程とは違い真剣な声で聞いてくるダリアさんを前に、少し緊張するが、一歩前に出て


「やります。 僕に力を貸してください、ダリアさん」


 ダリアさんはニヤリと笑い、いつの間にか手に持っていた、大きな本を開き「了解」と短く言葉を返した。


「我は人の心の奥底へ無断で踏み込む開拓者なり、深淵を覗くものよ我を導け―――『迷宮への篝火』」


 ダリアさんの杖の上に炎の玉が出現した。


「術式凍結。 使用者改変”リンドウ ツカサ” ”マツバ ヨウキ” ”マツバ アオイ”使用権限の譲渡、使用者改変――成功。 術式凍結解除」


 炎の玉が三つに増え、僕らの前にゆっくりと来て、炎が糸に変化していく。 糸は僕らのことを包み大きな繭になる。 繭から炎の糸が僕の小指に巻き付いて、前回と同じように強烈な睡魔が襲ってくる。


「試練を乗り越え、勝利を見事勝ち取っておいで。 失敗は”死”を意味すると心に刻んで、行ってらっしゃ〜い!」


 最後に聞こえたのは、ダリアさんの楽しそうな声だった。



 *



「――――――……ん、ここは?」


 目を覚まして起き上がった僕が見にしたのは、自宅のリビング。

 そこにいるのは、()だけだった。


「はじめまして、()

最後まで読んでいただきありがとうございます!


1章の終わりが近づいてきています!

これからも是非、読みに来ていただけると嬉しいです!


次回予告!

 『僕と僕』

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