第22話 伝わる想い 1
一生ゲームを終えた頃には夕方になっていたので、竜胆さんと葵で晩ごはんを作ることになった。
2人は台所にへ向かい、袖をまくったり手を洗いながら何を作るのか話し合っていた。 何を作るのかが決まると二人はそれぞれ動き出した。 トントンっと野菜を切る音心地よい音が室内に響く。 竜胆さんが主に作り、葵は手伝いをしていた。
(なんか、変な感じ。 だけど、やっぱりいいね)
料理を作る2人をソファーから覗いてそう思った。 葵も根は優しい子だから、本来は誰とでも話せ会えるし仲良く慣れる子だ。 このまま竜胆さんとも仲良く慣れるといいなと思いながら、ソファーに座り料理の完成を心待ちにしていた。
なんのトラブルもなく、程なくして料理は完成した。
「松葉君、出来ましたよ」
「おお、お鍋かいいね。 いい匂。 ありがとう、2人とも美味しくいただくね」
「そうね、一口ずつ感謝を念を私達に送りながら食べなさい、お兄ちゃん」
つみれ鍋を竜胆さんが持ってきて、葵はお皿を並べる。 鍋を机に置き3人でつついて食べ始める。
「「「いただきます」」」
「「……」」
2人が鍋に手をつけず僕の方をじっと見つめてくる。 どうやら感想を待っているようなので、僭越ながらいただくことにする。
「…ん、ん〜! 美味しいよ、2人とも!!」
僕の言葉を聞いて安心したのか、ほっと胸をなでおろす竜胆さんと、満足そうな顔で「私が作ったんだから当然でしょ」と思っているであろう葵が無言でうなずいている。
竜胆さんと葵も食べ始め、3人で世間話をしたりしながら箸を進めていった。
*
「「「ごちそうさまでした」」」
「とっても美味しかったよ。 竜胆さん、葵、ありがとうね」
「どういたしまして。 私も美味しく食べてくれて、嬉しかったです。 妹さんとも一緒に料理が出来て楽しかったですし」
「ふん」
微笑む竜胆さんに見られて、視線をそらす葵。 葵の反応を見て嬉しそうにし、食器を持って席を立った。
「私は楽しかったですよ」
「……悪くは、なかったかな」
小さく言葉を漏らしてシンクに食器を置き、そのままトイレに行ってしまった。
「素直じゃなくてごめんね。 でも楽しんでいたと思うよ」
「そうだと、嬉しいな」
僕と竜胆さんは一緒に食器を下げて洗い物をした。
二人で肩を並べて、竜胆さんが食器を洗い、僕が水で流していく。 竜胆さん家のシンクは広いから二人で作業をしていてもぶつかったりすることはなかった。
「ありがとう、松葉君。 松葉君が手伝ってくれたから早く終われました」
「どういたしまして。 早く終わっちゃたけどどうしようか? テレビでも見る?」
「う〜ん、妹さんと少し話してみたかったんですけど、戻ってこないですし、そうですね、テレビでも見ましょうか」
敬語はまだ完全に無くならないものの少しずつ砕けた感じに話せるようになってきている。
(いい機会だし、竜胆さんともっと仲良くなりたいな。 何話せばいいかわからなけど)
ソファーに腰掛け、テレビを付ける。
『時刻は20時、明日の天気をお伝えします。 明日の新日区の天気は晴れ時々曇りです。 午前は晴れますが、午後15時から激しい雨が予想されています、外出される方は大きい傘を持っていくと安心でしょう』
「明日は雨か午前中に帰らないとな……。
竜胆さん、泊めてくれて、ありがとうね。 すっごく楽しかったしいい思い出になったよ。 今度は僕の家に泊まりに来てね。 葵と一緒におもてなしするからさ」
「ぇ! は、はい、どういたしましてです。 そ、そのときは身を清めご厄介になりまする」
竜胆さんは顔を下に向けて、変な日本語を話した。
『次のニュースです。 三柱への視察へ向かった、米帝国の帝王、ジョージ・レイ・オールブライト氏は会見で「三柱に以上はなく、劣化も見られない」と語っていました』
さっきは変な日本語を言っていた竜胆さんも、よく聞く懲りないニュースを聞いて「ふふ」と笑った。
「また三柱に行ってるよ。 行ったて何も無いのはわかっているだろうに帝王も馬鹿だね」
「滅多なこと言うものじゃないですよ? 帝王の部下には諜報に長けた人が居るって都市伝説があるんですから。 もしかしたら聞かれているかもしれませよ」
冗談交じりに僕らは顔を見合いながら話した。
僕らはそのまましばらく世間話をして過ごした。
話を重ねていくうちに、くだらない話も積み重ねれば、意味ある時間になると思った。
夜になり、それぞれシャワーを浴び寝床についた。 僕と葵は竜胆さんの布団を借り、竜胆さんはソファーベッドで寝ることになった。 僕は竜胆さんにベッドを貸してもらうのは申し訳ないから、替わってっと言ったが、竜胆さんは頑なにそれを拒み、部屋に押し込まれた。
僕と葵は仕方ないのでベッドの上で横になり、向き合う。
「意外と強情だよね、竜胆さん」
「そうだね、とっても強情だよ」
「やっぱり、葵もそう思うよね」
「うん、前に戦ったときも中々諦めなかったよ。 しぶとくて諦めが悪い、心の強さで言うなら私よりきっと強いと思うよ。 不本意ながらね」
葵は少しの間の後、その戦った時のことを思い出して苦笑している。 葵も竜胆さんのことを認めているのだろうと思うと不思議と僕は嬉しくなった。
(何でだろう? 別に葵が認めなくても僕がどう思うかが大切なのに。 何でだ?)
悩む僕を見ていた葵は優しいデコピンをして、「女の子の前で別の女の事思ってたでしょ」と意地悪そうな顔で言ってきた。
「まったくお兄ちゃんはデリカシーが無いよね〜、こんなに可愛い女の子がいるのに、別の女の事ばっかり話すんだから」
「え〜、葵だって話ししてくれてたじゃないか。 いきなりどうしたの?」
頬を膨らました葵は不服そうな顔をして、丸まってしまった。
どうしたらいいのかわからなかったから、取り敢えず頭を撫でておく。 くすぐったいのか身を少し捩る葵。 数分そうしていると、葵は顔上げ「バカ」と短く言うと、一度目を閉じて僕の顔をじっと見つめる。 葵は真剣な眼差しで問いかけてくる。
「お兄ちゃんはさ、竜胆先輩のことどう思ってるの? ただの同級生? それとも友達? 一緒に能力のことをどうにかする仲間? それとも、なんとなく放っておけない人?
お兄ちゃんは竜胆先輩とこれからどうなりたいの? 私にはお兄ちゃんが戸惑っているように見える。 竜胆先輩とどう接すれば仲良くなれるのか……とか」
突然の問いかけに面食らってしまった。 まさか、葵からこんなことを言われるとは思わなかったから。
「葵には敵わないな」
そう言って僕は葵の頭を撫でて目を閉じた。
僕は竜胆さんに徐々に惹かれつつある。 いや、好きになっている。 一緒に特訓をして少しずつ話すようになり、初詣に行き、お泊りをして学校では見られない姿を見れてドキドキしていた。 ドキドキしていくにつれて”好き”は大きくなっていった。 好きが大きくなると段々どう接していけばいいのか、どうしたら仲良くなれるのかが、わからなくなってしまった。 今までそんな相手はいなかったんだ、仲良くなるのが先なのか、告白をするのが先なのかさえもわからない。
葵は僕に優しい目を向けると頭を二度撫でた。
「突然変なこと言ってごめんね、悩んでも仕方のないこともあるよ。 もう今日は寝よう、お兄ちゃん。 また明日ね。 おやすみ、お兄ちゃん」
「うん、そうするよ、おやすみ、葵」
二人で目を閉じて眠りについた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
投稿が遅くなりすみませんでした(汗)
次回も読んでいただけると幸いです!
次回予告!
『伝わる想い 2』




