第1話 妹のいる暮らし
今回もよろしくお願いします。
ピピピピピピーーー
朝、けたたましく鳴り響くアラームに目を覚まされて、まだ寝ていたい体に鞭を打って起き上がる。
時計を見ると、7時40分。 そろそろ支度を始めないと、遅刻してしまう時間だ。
「…………………………」
体が怠い。 昨日はゲームしてたから、充分な睡眠が取れていないからだろうな。 ゆっくりとベッドから降りて、カーテンを開けた。
「ん、~~ん。 よし!」
燦々と降り注ぐ陽光を浴び、気持ちを切り替えて、パッパッと制服に着替えてリビングへと降りる。
「遅いよ、お兄ちゃん。 早くしないと私が折角作ったご飯が冷めちゃうし、遅刻するよ?」
「おはよう、葵。 うん、わかってるよ。 いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとうね」
「わかればいい。 うん、おはよう、お兄ちゃん」
妹の葵に挨拶をして、椅子に座り用意されていた、ベーコンエッグトーストとサラダにヨーグルトを食べる。 うん、流石は葵だ、卵の黄身だけトロトロに焼けていて、程良い塩コショウの味付けが僕好みだ。 サクサクのトーストと良く合うし、美味しい。
( 美味しい朝食を食べると、なんだか1日頑張ろうって気持ちになるよね~ )
「葵、今日の朝ご飯もとっても美味しいよ」
「もう、いいよそんなおべっか言わなくても。 褒めてくれるのは嬉しいけど、毎日は言い過ぎだよ。 しつこい」
「美味しいご飯を作ってくれたんだから、ちゃんと感想を言わないとね。 僕は感謝なんてものは幾らしてもいいものだと思うけどね」
「はいはい、わかりましたよ~。 どうもありがとうございます、明日も頑張りますですよ」
葵は空の食器を重ねながら、少し照れの入った言い方をして、席を立った。
「ご馳走さまでした。 私が先に歯磨いてるから、お兄ちゃんは先に身支度終わらせなよ。 ネクタイ、表裏逆だからね」
そう言って先に食べ終わった葵は、シンクに食器を入れて水に浸け、歯磨きをしに行った。 少し遅れて、僕も食べ終わり、葵と僕の分の食器をまとめて洗った。 指摘された通り表裏逆のネクタイを直してから、洗面所へ歯磨きをしに行く。
―――松葉家は母と父、僕と葵の核家族だ。 けれど両親は2人とも忙しく家に居ないことの方が多く、主に家のことは僕と葵が分担して行っている。 基本的に料理が得意な葵はご飯と洗濯、僕は洗い物とお風呂掃除にゴミ出しが担当になっている。
「「いってきます」」
委員会の集まりや、日直でない限りはいつも兄妹2人で家を出て、学校へ歩いてい行く。 昔は手を繋いで登校していたのに、いつの間にか恥ずかしがるようになり 「止めてよ、もう子どもじゃないんだから1人で歩けるよ」 と葵が中学一年生に上がったときに突っぱねられてしまった。 それからというもの一緒に登校はするけれどお互いに少し離れて歩くようになってしまっている。
( お兄ちゃん、ちょっと悲しい ……)
朝見たニュースの事を話しながら、歩いていると、少し前にガスマスクをして猫背で歩く女生徒が見えた。
( 相変わらずの見た目だな~ )
女生徒の後ろ姿を見て、そんなことを思っていると、葵が僕のブレザーの袖をつかみ、聞いてくる。
「あれって、確かお兄ちゃんと同学年の竜胆先輩だよね?」
「ん? ああ、そえだね。 竜胆司、隣のクラスの子だよ。 竜胆さんがどうしたの?」
「ん? いや、噂のガスマスク先輩を間近で見るの初めてだから、ちょっと気になっただけだよ」
その割にはちょっとだけ、指が震えていたような気がした。 怖い先輩とでも思っていたのかな?
「大丈夫だよ、確かに見た目は奇抜だけど、悪い人では無いはずだよ。 ね?」
袖を掴んでいた葵の左手をそっと、手のひらで優しく覆い安心させてあげる。
「…………ありがとう、お兄ちゃん。 …………もう、大丈夫だから離して」
葵は恥ずかしそうに俯いて、袖を掴んでいた手を離して言った。
するとそこへ、良く知った声が聞こえてきた。
「ひゅ~、見せつけてくれるね。 陽喜」
冷やかすよう言いながら、近づいてきた僕の友人・鶴間裕吾は屈託のない顔をして肩を組んできた。
「いつも言ってるだろ、僕らは兄妹で裕吾が羨むことなんて何もないよ」
「チッチッチッ、わかってないな~陽喜は。 実際の兄妹はお前ん所みたいに、2人並んで登校とかまずしないから。 俺たち兄妹が生き証人な」
裕吾は約100メートル先を歩く妹を指差して言った。 確かに裕吾と結城ちゃんはそこまで仲良くないな。 バラバラに登校して、会話をしてる所なんて滅多に見ないもんな。
「鶴間兄妹の仲が悪いだけじゃないのか?」
裕吾は、はぁ~とわざとらしい溜息をついて頭を左右に振る。
「いやいや、逆だよ逆。 お前ら松葉兄妹が仲良すぎるんだよ。 周りの男子がこぞって嫉妬するほどな。 ほれ」
見てみろよと、言わんばかりに顎を登校中の生徒の方に動かす。
「朝から見せつけんなよ、リア充が」
「あんなに可愛いことくっついて…………羨ましい」
「ケッ! また、あいつらかよ」
本当だ、登校中の生徒に嫉視されている。 あの目ちょっと怖いな。 明日から気を付けよう。
「………………そうみたいだね」
依然として肩を組んだままの裕吾が、だろっと言ってドヤ顔してくる。 眼前のドヤ顔はむかっ腹が立つな。 デコピンでもしてやろうかと思っていると
――――――クイ、クイ
裕吾が組んでいる肩たは逆側の袖を葵が軽く引っ張ってきた。
「ねぇ、お兄ちゃんは周りの目を気にして、大切な妹をぞんざいに扱うの?」
袖を掴んだまま、上目遣いでこちらを見て言ってくる ( 背が低いから自動的に上目遣いになってしまうだけ ) 。 流石に兄妹とはいえ、上目遣いはドキッとしてしまって質問の返事をするのが遅れてしまった。
「……………ふ~ん、そっか。 お兄ちゃんは今日から3食お麩でも食ってればいいよ。 私と仲が良すぎると困っちゃうんでしょ」
葵は袖から手を離し、頬をリスのように膨らまして、ふて腐れて腕を組みそっぽ向いてしまった。
怒った葵も可愛いけれど、放っておくと本当に3食お麩になりかねん。 美味しいご飯は日々の活力源だし、このままだと話もろくにしてくれなくなるやもしれんな。 葵と会話できないのは正直辛い………。
「ああ、葵さん、さっきのは嫌だったから黙ったんじゃなくて、葵の上目遣いが可愛くて目を奪われちゃってね。 そんな可愛い妹の美味しい料理が食べたいな~お兄ちゃんは」
裕吾の腕を退けて、葵の頭を優しく撫でながら言うと、満更ではないといった表情でゆっくりと振り返ってくれた。
「………ふ、ふん! 本当にしょうがないシスコンお兄ちゃんなんだから。 妹のご飯食べれないからってちょっと必死が過ぎるんじゃない? 恥ずかしいなぁ」
「必死になるのも当然だよ、葵のご飯は僕の命の源だからね」
「あっそ、煽ててないで、さっさと学校に行くよ。 お兄ちゃん」
「確かに、急ごうか」
隣に居た裕吾は「やれやれ、見てられんよ」っと呟き肩を竦めていた。
3人一緒に少し早歩きで学校へと向かった。
*
放課後になり、教科書やノート、筆記用具を鞄に入れて帰宅の準備をしていると
「失礼します。 あ、居た。 …………お兄ちゃん、一緒に帰ろ」
珍しく葵が教室にまで迎えに来てくれた。 葵から来たってことは今日はどこかの特売日かな? もしそうなら、荷物持ち兼人数確保ってとこかな。
「うん、いいよ。 今日は特に用事も無いしね。 今日は何が安いんだい?」
「既に分かっているとは、流石はお兄ちゃん。 今日はねトイレットペーパーの特売があるから一緒に来て」
ささっと身支度を終え、並んで歩きながらお喋りをして、ドラッグストアへ足を進める。
葵に変わって僕がドラッグストアでの奥様達との特売戦争を勝ち抜いて、会計を済ませて店を出る。 帰宅途中、並木道を歩いていたら、落ち葉を巻き上げる突風が僕と葵を撫ぜていく。
「うゎ、風強いな、落ち葉も増えてきてるし、もう冬が近いな~。 そろそろ衣替えしようか。 葵はもう衣替えしたか?」
「ううん、まだだよ。 今週末に衣替えしようかな~って思ってる。 手伝って欲しいな、お兄ちゃん」
わざとらしく可愛い子ぶって言ってくる葵、どうせ衣替えするのは僕なんだよな~。 まあ、やることなんてないから良いけどね。
「わかった、わかった。 週末までに仕舞う服出しておいてね、洗濯しちゃうから」
舞い上がる落ち葉を見て、季節の移りを感じる。
( 後数ヶ月で卒業………か )
4月から通う大学も決まり、学校ですることなんてもうほとんど無くなった。 授業に出席して、赤点を取らず、問題行動を起こさなければ何事も無く卒業できる。
僕が通う大学は、今通っている高校とは校舎は逆方向だが同じ学院内の大学。葵とこうして一緒に登下校することもなくなるだろう。 少し寂しいけど、いい加減妹離れしないとな。 進学はいい機会かもしれないな。
( もう葵には心配させたくないしね )
視線を落とすと、並木道を歩く僕らの影が細長く前へと伸びていく。
影は平行に伸びていて、交わることはなかった。
揺ら揺らと舞い落ちる落ち葉が、何故だか普段よりもゆっくりに見えた。
お話書くのって難しい!!
って思うけど、それ以上に楽しいしワクワクしますよね♪
まだまだ拙い文章ですが、邁進して行くので見ていてくれると嬉しいです!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
<次回なんとなく予告>
ヒロイン登場! やっとラブコメっぽくなっていくと思います!