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第18話 それぞれの思い

今回もよろしくお願いします。

 竜胆家へ向かう道中。


「お兄ちゃん、家に行ってまた居留守きめられたらどうするの?」

「う、それは、うん。 困るな」

「何も考えてなかったのね」


 妹に冷ややかな目で見られてしまった。 はぁ、と葵は溜息を吐いた。


「竜胆先輩の家につく前に決めておいてよね。 バカお兄ちゃん」

「わ、わかった」


 葵にわかったと言ったはいいものの、さてどうしようか?

 今まで何度か竜胆さんの家に行き、インターホンを鳴らしたりしてみたが完璧無視だった。 そのことを踏まえて、今回はどうするか。

 出るまでインターフォン押しまくる? 外から声をかけるか?


 (う~ん………あ、いいこと思いついた)



 *



Side : 司


「松葉会いたいよ」


 そんなことを言いながら私は夜空を見上げた。

 すると、下から突然目の前の人影が現れた。


「呼んだ? 竜胆さん」

「へ?」


 予想もしていなかったことに、下から翼の生えた松葉君が、いきなり現れ話しかけてきたからつい変な声が出てしまった。


「初詣に行こう、竜胆さん」


 空から家のベランダに入ってきて、松葉君はそう言った。 また嫌なことを思い出す前に逃げようとすると


―――ぱしっ!


「逃がさないよ、先輩」


 意地悪そうな顔で妹さんが手を掴んできた。


(あの翼は、妹さんの能力だったか! いや、見ればわかるけどさ)


 妹さんに手を掴まれて動けず、松葉君にも手を掴まれてしまう。


「もう、逃がさないから」


 そう微笑んで手を握ってきた。 さっきまで松葉君に会えばきっとまたフラッシュバックが起きてしまうと勝手に決め付けていたけれど、今の私を支配しているのは、どうしようもない位の恋心だった。


「行かない、家にいます」


 前髪で右目を隠して視線を逸らしながらそういうと


「いや、行きます。 嫌というなら、このまま葵の力で家の外に連れ出します」


 なんて強引な、普段の松葉君からは聞けない言葉に少しときめいてしまった。


(こいつ、いまちょっと、きゅんとしたな)


―――ぎゅう


 妹さんが私の顔を見ながら手の甲をつねってきた。

 痛みに少し顔を歪めていると、松葉君が今の強引さの影も無いほど、弱々しい声で聞いてきた。


「それとも、まだ、僕が怖い?」


 正直まだ、あの時の事を毎日のように思い出し、夢に見て、寝汗と涙でベッドを濡らして起きている。 怖い、今すぐ能力でドラゴンになって逃げ出したい。

 だけど、今私の目の前には友達で大好きな人、戦いを経て分かり合えた子がいる。 家に訪れたら居留守をし、チャットでは返信しない、そんなことをし続けても、まだ歩み寄ってくれる人達がいる。

 ならば私も少しは恐怖に挑まなければ、この人達と一緒にいられなくなってしまう。


 それは嫌だ。


 一緒にいたい、言葉を紡いで同じ時を過ごしたい。


 笑いあって過ごしたい、松葉君に心から笑って欲しい。


「やっぱり、まだ少し怖い。 だけど、一緒に、いたい」


 俯き、消えてしまいそうな小さな声で私は素直な気持ちを伝えてみた。


―――ぎゅ


 二人の手を握る力が強くなり、顔を上げると。


「「わかった」」


 真面目にただ一言答えてくれた。 真剣な顔つきの2人を見て、心が揺れて私は泣いてしまった。 年甲斐も無くわんわんと。 2人は膝をついて泣く私を泣き止むまで抱きしめてくれていた。



―――とても暖かい。





 *



Side : 陽喜


 竜胆さん僕たち兄妹の腕の中で泣いたあと、部屋に入って、妹と一緒にシャワーを浴びている。

 何故かというと、ここ2日ほど風呂に入っていなかったらしいのだ。


(どうりで、汗とシャンプーの混ざった匂いが濃いわけだ)


 何故に竜胆さんの匂いを知っているかというと、泣いている彼女を抱きしめているときに偶然香って来たのだ。 毎度嗅いでるわけではないのを知っていてくれ。


(まったく、誰に言っているのやら)


 耳を澄ませばシャワーの水が流れる音が聞こえてくる。


―――ピッ、ピッ!

 

 テレビの音量を上げて考えないようにしよう。 そうだそうしよう。


「…………………」


 やっぱり気になるよね。 けど兄として、友達として覗きに行くなどそんなことはしない。


「早く出てこないかな」


 テレビのお笑い芸人を見ていても全く内容が入ってこないし、面白くない。 楽しい番組も、人気のお笑い芸人も1人で見てもつまらないな。


 さっき握っていた竜胆さん手を思い出して、掌を見ていた。



―――竜胆さんの手は暖かいんだろうか、冷たいのだろうか。



 僕にはやっぱり



 わからない






Side : 葵



「何で妹さんも一緒に入る必要があるんですか?」

「別に理由は無いですよ」


 私は先に体を洗い湯船に浸かっている。

 竜胆先輩はむかつくことに、スタイルがいい。 初めて見たときは猫背で良くわからなかったが、最近は気持ちが前向きになっていたからか、姿勢が良くなってきていた。


(いいな~、私もあれくらい胸があればな………)


 能力で勝てても容姿で負けている気がする。 自分の胸を揉みながら考える。


「そういえば、最近ガスマスクしてませんね。 ガスマスク先輩」

「う、嫌な呼び方するね、妹さん。 能力が進化してから上手くコントロールできるようになたの、だからもうガスマスクをつける必要はなくなったんだよ」

「そうですか」


 この人欠点と言えば無骨なガスマスクだったんのに、それがなくなるといよいよ欠点がなくなってくる。 ムカつく。 欠点が無くなったのがほぼ自分のせいなのがまた、ムカつく。


―――バシャ


「………ごめんね。 今まで避けていて。 妹さんにはあれだけ大見得切ったのに」


 髪の毛を流し終わった、竜胆先輩は俯いたまま口を開いた。


「本当はね、まだ松葉君が怖いの。 松葉君は何もしてないし、知らない。 だから松葉君は悪くないのはわかってる。 頭ではわかっているけど、心が追いつかない。 彼に会うことを拒否している自分がいるのが、とても辛い」


 ため息が自然と出てしまう。


「甘ったれないでくだい。 この戦いを始めたのは、誰ですか? 最初に兄を救うと豪語したのは誰ですか? 言いだしっぺが何言ってるんですか。 私を負かした時のあなたはもっと強い信念を持っていたと感じていたから、力を貸したのに、これじゃあまるで無駄じゃないですか」


 浴槽に立って能力を行使し、光の矢を竜胆先輩の喉元に向けて続けて言う。


「今の先輩にはこれっぽっちも負ける気がしません。 もし、仮に先輩がまだ兄を救う気があるのなら、この矢を取ってください。 心が折れてもう兄のことなんかどうでもいいのなら、それでいいです。 どちらかというと諦めてくれたほうが清々するからその方が―――



――ぱし



 弱音を吐いて涙を流しているくせに、まだ目は死んでないじゃないですか。 本当にムカつく人ですね。


「妹さんはスパルタだね」

「ふん」


 矢を消して、ジャボンっと湯船に入る。

 体を洗い終わって、湯船に入ってくる先輩はどこかすっきりとした表情になっていた。


「笑顔でこっちを見ないでください」

「なんで? 一緒にお風呂にはいってるんだからいいじゃない」


 落ち込んでるときも面倒だけど、元気でも面倒な人。 放置すればよかった。




―――この人の視線はどうして兄と似ていて、暖かいのだろう




 この人と兄が似ていることに



 

 腹が立つ

最後まで読んでいただきありがとうございました!

それぞの視点で書いてみましたがいかがだったでしょうか?

わかりにくくないか、読みにくくないか心配です。

何かご意見ありました、教えていただけるあいがたいです。



次回予告!

  『初詣』

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