第17話 12月31日
今回もよろしくお願いいたします。
時は流れ、期末試験が終わり、冬休みになり、12月31日。
「あれ以来、竜胆先輩学校に来なかったね」
そう、あの日以来竜胆さんは学校に来ず、家に引き篭もってしまったんのだ。 因みに期末試験は別日に1人で受けたらしい。
「Lifeにメッセージ入れてるけど、返事が返ってこないし。 大丈夫かな竜胆さん」
「大丈夫なわけないでしょ、バカお兄ちゃん」
松葉兄妹はリビングのソファーに座りながら話していた。
(あんなに意思の強かった竜胆先輩が、兄の前に顔を出さないとか。 相当メンタルにきてるわね。 それもそうか、人間誰でも死ぬのは怖いよね。 早く顔出しなさいよ。 あんたのせいで兄の顔は2割り増しで暗くなてるっての)
暫くの沈黙を破ったのは僕の一言。
「なあ、葵」
「なぁに、お兄ちゃん?」
「もう一度竜胆さんの家に行ってみない?」
「え? 本気? この前行っても居留守きめられてたじゃん」
「まあ、そうなんだけどさ、この前は学校に誘ったけど、今日は初詣に誘おうかと思って。
一緒に来てくれないか?」
葵は目をパチクリさせて、ふぅと静かに溜息を吐いた。 ソファーから降り立ち上がってから、葵はその場で背伸びをした。
「なにやってるの、お兄ちゃん? 行くんでしょ?」
葵は僕の方に手を差し出してきた。
(葵はかっこいいな)
葵の手をとり、ソファーから降りて軽い身支度をして、竜胆家へ向かった。
*
Side : 司
自室の毛布に包まってぼんやりと窓から空を眺めている。
(今日って何日だっけ? ああ、そうか。 今日は大晦日か)
結局あの日以降私は、松葉君と妹さんを避けている。 どうしても松葉君を見ると殺された時のことがフラッシュバックしてしまう。 好きなのに。 大好きなのに。 助けるって決めたのに、逃げてしまっている。
(どうしたらいいんだろう、どうすればよかったのかな。 助けて松葉君)
助けると決めた相手に助けを求めてしまっている時点で、ダメだ。 もう私に何かをする力はない、心が折れてしまっている。 自分ではどうすることもできない。
陰鬱とした空気が自室を満たしていく。 何をしてもうまくかない、何も出来いない。 そんな気持ちばかりが、私の中に渦巻いている。
ベッドに転がって目を閉じる。 動かず思考を止めていると、自分とベッド、毛布の境目が曖昧になって、深い海にでも沈んでいくよな感じになっていく。
(ああ、このまま、消えてなくなってしまいたい。 あの痛みを、あの気持ちをもう一度味わうくらいなら、泡となって消えてしまいたい)
涙が頬を伝い、ベッドに染みていく。
(松葉君に会いたい。 声が聞きたいよ)
自分ひとりではどうすることも出来なくて、何も出来なくなってしまった私は、明里さんに助けを求めた。
『プルルルルルルル~~~~~~~』
(明里さん、助けて)
少し諦めかけていたとき
『司? どおしたのこんな時間に電話かけてくるなんて、何かあったの?』
慌てた声音で明里さんが出て、まだ何も言っていないのに、私の異変に気が付いてくれることに、嬉しくなった。
「ぇっとね、そ、その………」
いざ明里さんに助けを求めようとすると、何をどういったらいいのか、わからなくなってしまった。 頭が真っ白になってしまった私が暫く黙っていると、明里さんは何かを察してくれた様に『そっか』と言い話し始めた。
『何か、悩んでいるのね。 私は司が何に悩んでいるのかはわからないけど、これだけは伝えておくわね。
悩んでもいいし立ち止まってもいい、なんだったら戻ってしまえばいい、どれだけ時間が掛かってしまても、何をしてもいいわ。 けどね、諦めちゃだめよ。
悔しくても、怖くても、何も出来なくても、足掻きなさい、司が納得のいく答えを得るまで、諦めないの。 諦めなければ、きっと最良に手は届く、私はそう信じているわ。 頭の片隅にでも置いておきなさい。
今日は水でも飲んで落ち着いて沢山寝ること。 じゃあ、おやすみなさい。
こんな時に側に居てあげられなくて、本当にごめんなさいね。 今年も一年間ありがとう、来年もよろしくね』
「………」
(ありがとう、お母さん)
電話の後、私は涙を浮かべ布団の中で眠りについた。
*
(ん、今何時だろう? …………少し風に当たってこようかな)
寝ぼけた頭を少しでもスッキリさせるために、毛布をどかしてベッドから降り、ベランダに出る。
冷たい風が頬を撫でる。 涙が流れて濡れているところがとても冷たい。
なにやら楽しげな声が聞こえたので、下を見てみると初詣に向かう人が大勢いた。
(もうこんな時間になってたのか。 ああ、もしかしたら、松葉君を避けずにいたら、一緒に初詣に行けたのかな。 もしそうだったらとっても嬉しいな)
目を瞑り、松葉君の精神に入った時のことを考えていた。
―――本能として僕の中に無断で侵入してきた者、詰まりは外敵を排除する役割がある。 防衛本能と言うやつさ。 だから、ごめんね竜胆司さん、個人的に怨みとかは無いけれど、これが僕のやらなきゃいけないことなんでね―――
―――痛めつけるつもりはなかったのですが、ごめんなさい―――
(あれが本当の松葉君じゃないことはわかってるし、あの彼も気乗りしない顔をしていた。 本当は彼も優しいのだろう。 頭ではわかっているけど、まだ会うのは少し怖い。 矛盾しているし、これが我がままだとわかっている………でも叶うことなら)
―――表の僕とも仲良くしてあげてくださいね―――
「松葉君会いたいよ」
好きな人を想い、目に涙を溜めながら、私は夜空を見上げた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
誤字脱字などありましたら、すみません。
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次回予告!
『それぞれの思い』




