第16話 死の恐怖
今回もよろしくお願いいたします。
Side : 葵
意識なく横たわる兄と先輩を見ていたら、先輩がいきなり目を見開いた。
「……ぁ、ぁ、あ! はぁ、はぁぁああああああああああ!!」
先輩は冷や汗をかき、上半身を起こし震える手で自分の首と左足首をぺたぺたと手で触り、何かを確かめると、自分の体を抱き締め震えている。
「どうしたんですか? 竜胆先輩」
「ぁ、ぁ」
私の声は先輩に届いていなかった。 ただただ、怯えるように震えてないていた。
「多分、今の彼女には何も届かないさ」
先輩を一瞥して魔法使いは言った。
「一応、彼の精神に入ったとき彼女には事が済んだら直ぐに戻れるように帰還用の魔法を掛けておいたんだけど、それが作用せずに精神が帰ってしまった」
「それが、どうかしたんですか?」
「問題も問題、大問題さ。 私の魔法、もしくは彼の本能が内から排除しないと精神世界からの帰還なんてものは出来ないんだよ。
詰まりは彼女の精神は一度、彼に殺されている、と言うことさ。
彼女は足と首でも切られて、死んだんじゃないかな」
淡々と語る魔法使いは、少し口角が上がっていた。
「なにが、可笑しいんですか」
私は予想以上に怒気を帯びた声を出していた。
「ん? ああ、気を悪くしたなら、すまない。 ただ、勢いよく突貫していったものだから、何か策があると思っていたんだけど直ぐにやられてしまったものだからね、ふふ」
「人が苦しんでいるのに何を笑っているんですか!?」
この魔法使いからは人とは違う反応が帰ってくる。 人が死の恐怖に怯え泣いて、もがいている姿を見て、笑っていた。
(いかれてる)
「おっと、すまないね。 そう怒らないで。 それで、どうする? まだ続ける? それも今度は君が行くのかな?」
挑発するように嫌な笑みを浮かべている魔法使いに言い放った。
「今日はもう終わり、先輩がこうなってしまってはね」
「そうかい、それじゃあ、私もここでお別れだね。
また挑むきになったら、竜胆君に連絡するように伝えておいてくれたまえ。 バイバーイ」
魔法使いはやる気をなくした声で伝言を残し、影に身を消えた。
私は兄を起こして、魔法使いと話している間に気を失ってしまった竜胆先輩を保健室に連れて行った。
*
保健室につき、竜胆先輩を寝かせ兄は「ふぅ」と小さく溜息をついた。
「それで何があったんだ? そろそろ教えてくれてもいいじゃないか」
流石の兄も不思議がって聞いてきた。 少し怒っているようにも聞こえる声で。
話していいものか悩んだが、今の竜胆先輩を見て「なんでもないよ」で納得してくれる兄ではない。
「わかった。 話すけど、怒らないで聞いてね」
「ああ、約束する」
兄は不機嫌そうに約束をして黙って私の話を聞いた。
*
Side : 陽喜
目覚めると竜胆さんは涙を流して気を失っていたし、葵は明らかに機嫌が悪い。 竜胆さんを保健室に運んだと、何が起こったのか葵に説明させると。 葵は僕のトラウマを解決しようとしてくれていたらしい。
「なんでそんなことをしようとしたんだ?」
「それは………」
「別に怒っているわけじゃない、ただ単純に何でと気になるだけだよ」
怒っていないといっているものの、不機嫌さを隠せないでいた。 明らかに不機嫌な僕を見てばつの悪そうにする葵。
「竜胆先輩が最初に言い出したの。 お兄ちゃんのことを救いたいって。 私も初めはお節介だからやめるように言ったんだよ? それでも諦めなくて、2人で戦って、私が折れたの。 竜胆先輩は強かったし、最後まで諦めなかった。 この人とならって思った。 ごめんなさい」
葵はベッドに寝てる竜胆さんを見ながら話してくれた。 僕は話してくれた葵の頭を撫でた。
「葵、続きを話してくれ、僕に隠していること全て」
葵は僕の顔を見て無言で頷き全て話してくれた、今日居た不思議な人のことや、どうやって僕のトラウマを解消しようとしたのか、何故竜胆さんは泣いて意識を失っているのを。
「そっか、ありがとう。 僕のためにいろいろしてくれて。 竜胆さんにも起きたらお礼を言わないとな」
にっと笑って笑顔を葵に見せた。
―――ギシ
葵との話が終った後、竜胆さんが目を覚ました。
寝起きで混乱しているのか竜胆さんは周りを見渡して、僕と目があうなり、叫んだ。
「ん? あ、れ、ここは? 私は……………はっ! あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!! 殺さないで! 痛いのはもう嫌っ!!!」
「!? 竜胆先輩! 大丈夫ですよ! もうここは現実です! 誰もあなたを殺そう何てしていませんよ!」
葵が竜胆さんに語りかけてくれるも、聞こえていないようで「いや、いや!」と頭を抱えて泣いている。
「…竜胆さん! 大丈夫、俺は君を殺さない、目を覚まして!!」
僕はそう言いながら竜胆さんを抱きしめた。 暴れる竜胆さんを必死に抱きしめ、落ち着けようとするもなかなか上手くはいかず、振り払おうとする。
「竜胆先輩!! 大丈夫、大丈夫だから!」
「竜胆さん、落ち着いて! 目を開いて見て! 誰も君を狙っていないから! 大丈夫だから!」
*
葵も抱きしめ落ち着かせ、暫く2人で抱きしめながら「大丈夫」と言葉をかけ続けていく間に眠ってしまった。
「………」
「………」
再度ベッドに寝かしつけた。
竜胆さんが目覚めるまで2人で椅子に座って待っていたが、一言も発しなかった。 葵と待っている間とても長い時間が経っているように感じた。
「うぅ」
「竜胆さん? 大丈夫?」
「うぅうぅぅぅ…………………あ、あれ? 松葉くん?! え? 2人とも? どうしたの?」
寝起きで混乱している様だったが、先ほどとは違い、少しでも落ち着いた竜胆さんを見て僕と葵は安堵の表情を浮かべて言った。
「どうしたのじゃありませんよ、まったく心配かけて、この先輩は」
「お帰り、りんど―――
「………ぁぁ―――――――――――――あ、い、い、痛い、いいいたい、あああああ、うぅぅぅぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
また何かを思い出したかのように頭を抱え叫びを上げ、ベッドから飛び出した。
「竜胆さん待って!!」
混乱している竜胆さんを止めようと、僕は慌てて腕を掴んだ。
「は、放して! やめて! やめ………………ぁあ。 っ!!!」
僕の手を振りほどいてた竜胆さんは慌てた様子でベッドから降り、一度こちらを見て走って保健室を出て行った。
この日以来、しばらく僕らは竜胆さんから避けられることになる。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
本当は日曜日に投稿しようと思っていましたが早く出来ましたので投稿いたしました!
次回予告
『12月31日』




