第13話 兄に似ている人
(これは、避けきれない!)
*
昨晩。
「こんばんは、私です。 ええ、貴女に用意して欲しいのですが、出来ますか?」
『早々に電話をしてきた思ったら、なにかな藪から棒に』
「協力してくれんですよね? なら、周囲や相手の怪我を気にせずに戦闘ができる、場所を用意してほしいんです、出来ますか?」
電話越しに得意げに、ふふんっと笑った魔法使いは
『ええ、お安い御用さ。 私がするのはその怪我や周囲のことを気にする必要の無い空間だけでいいのかな?』
「いえ、あともう1つ――――――」
*
「白銀の翼を広げて、空間を翔よ―――『瞬間移動』!!」
私がそう叫ぶと、手の甲に書かれていた魔方陣が薄青く発光し、私の背中に輝ける白銀の翼が出現して、閃光と羽ばたきと共に私は、妹さんの背後に瞬間移動した。
「えッ!?」
一瞬で目の前から私の姿が消えたことで、妹さんは驚愕して、背後からの攻撃に気が付くのが遅れた。
高速で妹さんの背中に頭突きをして、前方に吹き飛ばされた妹さんの背中を手で押さえて床に叩きつける。
「ぐはッ!! な、何が起き、たの!?」
「はぁ、はぁ! ただ緊急用に魔法使いから貰っておいた簡易魔法です! 私の勝ちです。 これで、どうですか、私のこと少しは認めてくれましたか」
息をきらして妹さんの背中に乗っかり、右手の爪を喉にあて勝利宣言すると。
「っ、確かに先輩は強い。 自分だけでは勝てないと踏んで、他者と協力して知恵を練り、私を組み伏せた。 だけど、まだ認めるわけにはいきません!!!」
妹さんはその小さい体からは考えられない力で、私を背中に乗せたまま立ち上がり、翼で私を払い飛んだ。
「竜胆先輩、私の最大最強の攻撃を受けても生きていたら、認めましょう。 そして、そこまでする先輩の話を聞いて力を貸してあげます」
そう言った妹さんは右手を振り上げて、その美声で叫ぶ。
「今此処に汝の罪は定まった!! 神の使いたる私の平穏な日々を犯し、破壊せんとするその意思は万死に値する!! 故に、汝をこれより処刑する―――」
白牢の壁、床、天井から、蛍のように輝く小さな光球が出現して、妹さんの近くに集まっていく。 徐々に形を成して行き、その光球は目算で全長約7メートル以上の一本の巨大な黄金の矢へと姿を変えた。
絢爛にして優美、矢には細部にまで文様が施されており、思わず見惚れてしまうほどのものだった。
『神矢・必滅の断罪矢!!』
振り下ろされる手と共に、その巨大な矢もスピードこそ今までの矢よりは数段遅いがこちらに迫ってきた。 その巨大さ故の圧迫感、神々しく荘厳な迫力に少したじろいでしまう。
(これを避けるわけにはいかない! この矢を全部燃やし尽くして、妹さんに認めてもらうんだ!!)
恐怖はある、しかしそれでも挑まなければならない。 松葉君を救う上で必ず通らなければならない関門。
妹さんに認めてもらうために、私も負けじと、高らかに叫ぶ。
『形態変化・竜化!!』
―――松葉君を救うために、眼に映るモノ全て、塵へ還れ!!
私の思いを込めた、過去最大級の【竜の息吹】は、私の視界を黄金から真紅へ変えていく。
けれど流石は妹さんの最大最強の攻撃、竜化した状態のブレスでも全ては覆いつくせない。
(矢が長すぎる! 全部は厳しいかも!)
「ふん!!」
―――ガン!!
息を限界まで絞りつくし、酸欠気味で目の前がチカチカするけれど、何とか残っていた矢を尻尾で叩き落とした。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっ…た………」
*
―――暗い。
――――――寒い。
―――――――――疲れた。
全身を襲う倦怠感と寒気、視界を覆う暗闇。
(此処は? どこだろう。 うん? 誰かが、私を呼んでいる気がする。 誰?)
(あなたは、だれ?)
「--------------------------------------------------」
(え、なに? なんて言ったの? よく聞こえない)
「-----さん、あ----」
暗闇の中薄っすらと見える女性はどこか嬉しそうに見えた。
暗い空間の中、彼女が何を言ったのか聞こうと私は手を伸ばした
*
「……い……りん……んぱい。 竜胆先輩!」
いきなり耳元でした大きな声にびっくりして、目を開けると眼前に妹さんの顔があった。
「わぁ! い、妹さん? あれなんで?」
(何で私、松葉君の妹さんに膝枕してもらってるの!? え、どういう状況なのこれ?)
「覚えていないんですか? 竜胆先輩はブレスを出し切って、私の渾身の一矢を打ち落としたんですよ。 その後すぐに倒れてしまったんです」
「ん~? あ、あ、そうだ。 そうだったね! で、どうかな、私のこと認めてもらえるのかな?」
体を起こして、正座をしている妹さんに聞いてみると、「はぁ~」っと少し呆れたような溜息をして私の顔をジッと見つめてきた。
「今回は私の負けです。 私は先輩を本気で殺そうとしていました、けれど、竜胆先輩はそれでも生き残った。 完敗です。
先輩が本気で兄を助けようとしていることがヒシヒシと伝わってきました、絶対に負けられないっていう気持ちも」
「そっか~。 よかった、本当によかった。 ありがとう妹さん」
妹さんに認めてもらえたことの喜びと安堵に、少し涙が滲んできた。
「ただ認めてもらえた程度でいちいち泣かないでくださいね、大切なのはこれからですよ。 それで、どうやって兄のトラウマを克服させるおつもりなんですか? その辺り、詳しく聞かせてくだいね、でないと協力もなにも出来ませんから」
クールな妹さんの言葉をきいて涙を拭い、これからのことを妹さんと放課後の屋上でじっくり話し合った。
*
「なるほど、ほとんど決まっていないわけですね。 ただ話して解決しようと思ってたとか、考えが適当すぎますよ。
それならまずは、兄が能力を発現させることとなった切っ掛けをお話しすること以外は特に協力できることは少なそうですね。 方法についてはまた後日考えましょう」
「ごめんなさい、よろしくお願いします。 教えてもらえますか? 松葉君に昔何があったのか」
妹さんは当時のことを思い出すように目を瞑り、ゆっくりと口を開いた。
「あれは、まだ私と兄が小学生の頃、兄は死にかけたの。
その日は両親の仕事が長引いて遅くまで帰ってこなかったから、私は寂しくて泣き出してしまった、そんな私を見た兄は私の好物のホットケーキを作ろうとしてくれた。 けれど、ホットケーキを焼こうと火をつけてコンロの奥にある油を取ろうとしたら、袖口が燃え上がったの。 着衣着火っていうやつね、しかもその日兄が着ていた服は綿素材だったのが良くなかった、炎は一気に燃え上がり小学生だった兄の体を包んだ。 兄は床を転がり悶え、苦しんだ。 近くにあった金魚の水槽に当たりその水を被ったことで鎮火できた」
妹さんは苦虫を噛み潰した様な顔をして語る。
「あの時の私はただ慌てふためいていただけで、兄に何もしてあげることが出来なかった。 もう少し大人だったら、もっと、早く火を消せて上げれていたら、兄は……兄は………っ!」
徐々に声が上ずってきて言葉に詰まってしまった妹さん。
私はそんな彼女を見て思わず抱きしめてしまった。
「ありがとう、話してくれて、もう大丈夫。 大丈夫だから」
体を抱いて、頭を撫でてあげる。
「大丈夫、松葉君は妹さんのことはきっと恨んでいないよ。 嫌われてもいない、とっても大切に思ってると思う。 じゃなきゃ1回兄妹喧嘩しただけであんなに困ったりしないよ」
「ん、そんなのわかってる」
少し落ち着いた様で、私の胸に手ついて上体を起こし涙を拭う。
「妹さんから話を聞いた以上、後は私がなんとかしないとね。 大丈夫! きっと松葉君を救ってみせるから!」
私は笑顔でそう言って、妹さん頭を撫でた。
(この人、どことなく、お兄ちゃんと似てる。 この人になら、お兄ちゃんに何処か似ている竜胆先輩なら、もう少し信用してもいいかもしれない)
頭を撫でられて気持ちがいいのか目を細めて、頬を少し緩ませた妹さんを見て、より一層頑張らなきゃっと思いながら撫で続けた。
葵と司の戦いも終わりました。
戦闘シーンって凄く難しいですね(;´Д`)
もっと上手くかけるように精進します!
最後まで見ていただき、ありがとうございました!
次回予告!
『心象世界へ』




