第10話 葛藤
よろしくお願いします。
私は扉を開けて、近くにいた女の子に、
「松葉さんは、いらっしゃいますか?」
そう尋ねると「ひっ! い、今呼んできます!」っと露骨に怯えられてしまった。 久しぶりのその反応に、少し傷ついた。
「何か用ですか? 竜胆先輩」
直ぐ妹さんは来て、手には購買の袋が持たれていた。 どうやらさっきまで購買でお昼ご飯を買っていたようだった。
「昼休み中ごめんなさい、今日の放課後少し時間もらえないかしら? 妹さんに聞きたいことがあるの、貴女のお兄さんについて」
「…………いいですよ。 私に答えられることでしたらお答えします」
妹さんは私のことをじっと見つめてそう言ってくれた。
「今の時期は寒いけど、人の少ない屋上でお待ちしてますね」
「わかりました。 では、また後ほど。 失礼します竜胆先輩」
自分の席へ戻っていく妹さん。
でもよかった、一応は信頼してくれたって事かな? でも何かを観ているような気がしたけど――気のせいかな。
妹さんに放課後の約束を取り付けて私も自分の教室へ帰った。
聞きたい、松葉君になにがあったのかを。
知りたい、私が知らない松葉君を。
助けたい、松葉君を苦しめるものから。
教室で授業を受けながらも、彼の事ばかり考えていた。
ここ最近松葉君の事ばかり頭にあり、授業内容が入る隙間が無い。 来月の期末テストちょっと心配になってくる。
(ん? 待って、私って………もしかして、お、重い女っと言うやつなのかな? ち、違うよね? 好きな人のことで頭が一杯なのは普通の事だって、インターネットさんも、明里さんも言ってたし。 普通だよね、多分)
最近の自分を振り返って、少し不安になったのだった。
*
放課後の屋上で妹さんを待つ。 松葉君と出会った時に一度燃やしてしまった、ベンチに座っていた。
あれから1ヵ月ちょっと経ったけど、不思議だよね、それまでは松葉君ことを好きになるなんて微塵も思ってなかったのに。 今ではこんなに大好きになっている、起きているとき松葉君の事を考えてない時間の方が少ない気がする。
「お待たせしました、竜胆先輩」
私が空を見ながら、考え事をしていたら、妹さんが屋上にやってきた。
「ああ、来てくれてありがとうね、妹さん」
「それはいいですから。 私の兄について何か聞きたいことがあるんですよね?」
妹さんはベンチの横に立ち、腕を組んで言ってくる。 何だか松葉君と一緒にいるときと雰囲気が違う気がする。 気のせいだろうか。
「あ、ええ。 昨日松葉君に何か悩みはないかって聞いたんです、時折見せる悲しい顔を、遠くを見ている、あの空々した眼の意味を。 けれど松葉君は『悩みが無い――わけじゃない。 けど、他の人にどうにか出来ることじゃないんだ。 これは僕の問題だからね』 『僕ももう折り合いがつた頃だと思っていたんだけどね。 そうそう、上手くはいかないね』っと言って悲しそうな顔で笑ったんです。 妹さん、私は松葉君の力になりたいんです、だから、無神経かもしれませんが、松葉君に昔何があったか教えてくれませんか」
妹さんは溜息をついて、一歩私に近づいてきた。
「本当に無神経ですね、竜胆先輩。 貴女が知りたがっていることは、兄の能力が発現する切っ掛けになったことです。 解っていますよね? 後天性の能力は何らかの外的要因が必要なことくらい。 そしてその大半が本人にとってはかなりの精神的、もしくは肉体的苦痛だって。 理解していないはずはないですよね、小学校で習うようなことですから。 貴女はそれを、兄が体験した苦痛を醜い偽善で聞こうというんですか?」
あきらかに妹さんは怒っていた。 当たり前だと思う、もし私が妹さんの立場なら激怒すると思う。 大切な家族の心の一番深いところを教えろっていているようなものだし。 怒気に満ちた視線を向けられるのは仕方の無いことだから別にいいけれど、
「私だって何も興味本位で聞き出そうとしているわけじゃない。 松葉君は私の大切な友達なの、その大切な友達が過去に苦しめられているのなら、微力だけど力になりたい。 私は松葉君の優しい笑顔が好きだから」
私のベンチから立ち素直な気持ちを、妹さんにぶつける。 けれど妹さんは眉毛ひつ動かすことなく、
「だからなんですか?」
そう言い放った。
「高々会って1ヵ月程度の仲で、何を言うかと思えば。 そんなのただの思い上がりじゃないですか。 貴女の力はただ燃やして破壊するだけでしょう? それで力になりたい? お笑い種もいいとこじゃないですか。 貴女はただ今まで通り、兄と能力の特訓をしていれば良いんですよ。 ――――貴女がそこまで深く兄を知る必要は無い」
最後に非情な眼差しで妹さんは私を観て、屋上を去って行った。
私はベンチに力なく座りこんで、震えていた。
(なに、あの眼)
あの金色に輝いた眼で観られたら、心の奥底から恐怖が溢れてきた! 私の本能があれには勝てないっと悟ってしまった。
私は寒11月の寒空のした、気温にではなく、2つ年下の女の子の眼光に震えて、暫くは歩けそうになかった。
30分ほど経った頃、私は帰路についた。
足取りは重く、胸が痛い。
妹さんが言っていた通り”偽善”なんだろうか。 私は何かを満たしたんだろうか、松葉君を使って。 そんなこと思ってもいないけど、心の何処かでそう思っていたのかもしれない。 私は松葉君をこんなにも好いて、救おうとしているっと誰かに見てもらって言われたかったのかもしれない。 良く頑張ったねっと、凄いじゃないかっと、誰かに認めて欲しかったのかもしれない。
私の能力は先天的なもので、生まれて直ぐ使えてしまったんだろう、超高温の息を吐く子どもなんて要らなかったようで、私は1歳を迎える前に、施設の前に捨てられていた。 ゴミ捨て場に捨てられていなかっただけ、まだ情はあったんどろうし感謝しているけど、私は本当の両親の顔も名前も、自分の本当の名前すら知らない。 ”竜胆 司”の名前は当時暮らしていた施設の人が付けてくれた名前なのだ。 私はこの名前とっても気に入っているけれど、やっぱり本来どんな名前で暮らすことになっていたのかは気になってしまう。 施設はとっても良い所だったし、そこのOGの肥後明里さんに出会えて、今では養子にしてもらって良くしてくれている、そこに不満は微塵も感じていない。
しかし、やっぱり心のどこかで、『私は生まれてくれ事が間違いだったのよ』っと思っていたのかもしれない。 顔も知らぬ親に捨てられたあの時から。 だから私は、認めて欲しいのかもしれない”私”を。 松葉君を救って、私のいる意味を作りたいのかもしれない。 全部が予想で確信はない、けれど予想できるということは、可能性があるということ。 絶対なんて事はこの世に存在しない。 だから、絶対偽善で言っているわけじゃないとは言えなかった。
どうしたいいの? 助けたいのは本当、出来る限り力になりたいのも、でもそれが偽善なのか善意なのかがわからない。 私にはもう判断が出来ない。 何が正しいのかなんて、もう解らないよ――。
考え事をしながら歩いていると、見知らぬ路地にいつの間にか入っていた。
「いけない、早く帰らないと」
「―――まぁそう焦りなさんな、お嬢さん」
私の背後からいきなり女性の声が聞こえて、びっくりしてつい「ひゃ!」っと変な声が出てしまった。
声をかけてきたその女性は目測170センチ位の長身で、黒いフード付きのマントに身を包み、手には杖と分厚い本を持っていた、声からして、20代から30代前半くらいだろう、その女性はまるで御伽噺に出てくる――
「魔女のよう、だろ?」
「――っ!?」
まるで心を読まれたかのようなタイミングで声がかかってきた。
「偶然じゃないさ、君が悩んで事も知っているし、ね。 町で偶然なにやら思い悩んでいる女の子を見つけたから、心を読みながら後を着いて来たのさ」
「え? え、読めるんですか。 というか、さっきまでの考えが読まれていた――――っ!」
もしそれが本当なら恥ずかしい! 顔から火が出そう!
「まあ、そう恥ずかしいことじゃないさ。 恋の悩みなんて、乙女には付きもだろう? 私で良ければ力を貸そうか? 依頼ならお金を取るんだけど、今回は私から声をかけたからね、タダでいいよ」
女性は機嫌のいい声を出して言って来た。
見た目からして胡散臭い、怪しい彼女に身構えながら問いかける。
「…………貴女は何者なんですか?」
私の質問に「待ってました」っと言って、くるくる回りながらフードを外しながら、青く艶のあるショートヘアを出し、宝石の様に綺麗な紅の瞳を輝かせながら不敵な笑みで一瞥した後、杖を地面にカッと突き立てこう言った――
「私の名前はダリア・アダモフ。 魔法使いさ」
最後まで読んでいただき、ありがとうごさいました。
今回は1日で2話更新して疲れました~。
けれど、とっても有意義な休日の使い方でした!
話しの最後に登場した、謎の自称魔法使い、ダリア・アダモフ、彼女は今後の物語にどういう影響を与えるのか、楽しみにしていてください!
次回予告!
『魔法使い』




