うわ、問題だらけの昼下がり
次の日、再びギルドに集合した3人は絶望していた。
借金、100万G
アイリスが背負っていた額である。
この返済を終えるまでギルド申請は受け付けないと言われてしまったのだ。
「あ、あの悪魔めっ! なんて憎らしい手を打って来やがるんですか! ルーク、これはもう狩っていいですか? いいですよね、よし、行きます!」
「落ち着け、イブ。本格的に居場所が無くなる」
「で、では黙って見過ごせと言いますか!? 新手のお預けプレイですか!? 私がそんなので悦ぶド変態に見えやがりますか!? 上等ですよ、かかって来んかい!」
頭に血が上っているらしい。
お言葉に甘えて、ルークは無視する事にした。
「すまない、旦那様。やはり私の事は放っておいても――」
「――もうお前は仲間だ。他に理由は要らない。まずはクエストを見に行くぞ」
「旦那様……!」
良い雰囲気になる2人だが、これにイブリースが待ったをかける。
「お、おい、ちょっと待て、そこの変態調教師! 本当にお預けプレイをしないで下さい!」
「願ったり叶ったりだろ?」
「む、むむむ……うがーーーっ! なんて賢しい変態なんですかっ!」
完全敗北を悟って転げ回るイブリースを尻目に、ルークは歩き出した。
「手間をかけるな、旦那様」
昨日と同様、頬をほんのりと染めたアイリスが斜め後方へ付く。
「あのさ、一応聞いておきたいんだが、旦那様っていうのは?」
「ははは、旦那様は冗談もお好きか。プロポーズしてくれたではないか」
「「プ、プロポーズ!?」」
昨日と同様だ。
光の速さでイブリースがルークを見て、彼は負けじと首を振った。
「ねぇ、ルーク? 人間の求愛行動って隠れてひっそりやると聞いたことありますが、だからって私の目を盗むの上手すぎませんか? あれですか? サブ職は盗賊か詐欺師ですか?」
「いやいや、ほぼお前と一緒に行動していただろ!? それこそ、夜はおやすみから朝はおはようまで!」
そう、2人は昨夜、同じ宿に泊まった。
経費節約のため同室である。
「おっ、奥さんを前に何て事を! 私は軽い女じゃないです! 悪魔は契約にうるさいので純愛以外あり得ませんから!」
「事実認定するな! 浮わついてないから! 身に覚えがないから!」
「ははは、旦那様は本当にご冗談がお好きなようだ。言ってくれただろう? 私を貰い受けると」
ルークは思い出した。
あの男にムカついて、精一杯の嫌味を込めてカッコいい台詞を吐いたことを。
「私の心は既に奪われている。どうか如何様にも使ってくれ」
「あ、え、えーと……」
ルークは目のやり場に困った。
アイリスはどこを見ても美しく、「使ってくれ」などと言われては、男として黙っていられないだろうに。
「そうだ! クエストを受けよう!」
「あ、逃げた。意気地無しですね」
「ほほぉ、じゃあ剥いてやろうか? この大衆の中で、美少女と自称するお前の全てをさらけ出してやろうか!?」
「な――っ!?」
イブリースは赤面したのも束の間、プルプル震えながら高圧的に言い放つ。
「つ、つつ、遂に私の魅力に気付いたのですね!? いいでしょう、やってみなさい! そんな度胸があるのなら、さぁ、裸にひん剥いてしゃぶり付いてみせなさい!」
「ぐ……くっ! まさか、自らを出汁にして来るとは――無念っ!」
「ふ、ふふ、今回は勝ち!」
「旦那様、このクエストなんてどうだろう?」
クエストを受けよう。
その発言に従ったアイリスは、掲示板からいくつかの羊皮紙を持って来た。
2人のやり取りなど全く見ていないし、気にしてもいなかった。
「そ、そうだよ、クエストだ。どれがいっかなー」
「あ、あーっ! 負けも認めず話を反らしましたね!? 許せません! 男らしく参ったと言いなさい!」
「元はと言えば、話を反らしたのはそっちだろ? むしろ時間を浪費した罰を受けて欲しいところなんだが?」
「う、うぐぅ……な、なんて姑息な男なんですか!」
何はともあれ、ルークはクエストを確認する。
この手の目利きは得意なのか、アイリスは難易度的に丁度良い3枚を選んでいた。
「流石は元ギルドの職員だ」
「うむ、任せてくれ。各部署を転々とする度にマニュアルやら何やらは全て覚えたからな。管理者より精通しているつもりだ」
「な、なんて健気なんだ……っ! イブ、お前も見習え」
「見習う? 一体、何をですか?」
「口を開けば自分は美少女だの、俺は変態だのしか言わないだろ? もっと前向きな事に時間を割けってことだ」
「ふふん、私は認めて貰うまで諦めませんよ! 事実を隠匿するような汚い人間とは違うのです!」
言っている事や指を突き付ける仕草はカッコいいが、内容が明らかに見合っていない。
ルークは盛大に溜め息を吐いた。
「なぁ、旦那様。この方はひょっとして残念なタイプ――」
「みなまで言うな。話が進まない」
「それは旦那様のせいでもあるが?」
「おっと、これは辛口だな」
協議の結果、低難易度のゴブリン討伐クエストを受注した3人であった。




