悪魔に言われた悪魔より悪魔な
女性は何度も何度も頭を下げるが、男の怒りは収まらないらしい。
「お前はクビだ! 書類仕事もこなせないんだ、文句は言わせない!」
「ま、待ってくれ! 私は働きたい! お金を貯めて冒険者になって――」
「黙れ! こんな簡単な業務もこなせないで、何が冒険者だ!」
「ちょっと、そこの貴方」
ルークは努めて冷静な口調で男に声をかけた。
「あ? あぁ、ギルド創設の受け付け申請をしに来た方ですね。申し訳ありませんでした、うちの馬鹿が大変なご迷惑を」
「お客人、誠に申し訳ない!」
後ろで歯ぎしりする音が聞こえたルークは、一度振り返って首を振った。
そして男に向けて言葉を発する。
「本当に申し訳ないと思っているのか?」
「え、えぇ、そりゃもう」
「だったら、代わりにギルド創設の申請書を出してくれ」
「え? いやぁ……しかし、ご覧の有様でして」
受け付け内は酷い状況だ。
棚という棚をひっくり返したため、ありとあらゆる書類が散乱している。
「ここはギルド創設の受け付けだろ? なら、あの中に必ず申請書があるはずだ。なんなら、俺たちが探してもいい」
「い、いやいや、冒険者様にそのようなお手間をかける訳には」
「そうか? なら貴方でいい。あの中から探し出して来てくれ」
「し、しかし私は担当部署が違いますから」
「あー、もう、じれったい!」
痺れを切らしたイブリースは、ツカツカと男に詰め寄る。
「この人はクビなんですよね!? つまり、この後は自由って事なんですよね!?」
「え、は、はい。その予定ですが」
「だったら話は終わりです! 貴女、私たちと一緒に来て下さい!」
突然振られた女性は目を白黒させた。
「え、えっと、私がか?」
「そうです! 貴女を私たちの仲間として迎え入れて、冒険者として働いて貰います! いいですよね、ルーク!?」
本当はもっと追い詰めてやりたいところのルークだったが、あのまま喧嘩になっても誰も得しない。
むしろこの流れに乗った方が遥かにマシと考えた。
「貰い受けたいな、貴女を」
「わ、私を……!? わ、わかった。不束者だがその……どうぞよろしく。管理人、今までお世話になった」
「あ? あぁ、それは別に構わないが……」
3人は元いたテーブルに戻った。
心なしか、女性の頬はほんのりと朱色に染まっている。
その表情を見て、ルークは何と言ったものかと悩んだ。
「まったく、人間のくせに悪魔より悪魔に見えましたよ。あの悪魔め、悪魔に悪魔って言われたぞ、やーい、バーカ。この悪魔―」
「落ち着け。悪魔、悪魔って言い過ぎてもはや意味がわからない」
そう言いながら、ルークは心から感謝していた。
イブリースのお陰で、一気に話しやすくなったのである。
「あのさ、その、名前を聞いてもいいだろうか?」
「む、これは失礼した。旦那様に自己紹介もまだだったとは」
――旦那様?
イブリースが光の速さでルークの顔を見た。
これに対し、ルークは負けじと首を横に振る。
「改めて、私はアイリス。その、後で失望されたくないから言うが、私は人間と悪魔のハーフだ」
「なるほど、ハーフか。だからあんな扱いを受けていたんだな」
ハーフは人間界、魔界ともに肩身の狭い思いをする。
出生率が低く、彼らだけの集落を作るのもままならず、大抵はアイリスのように扱われて死ぬとされていた。
これには何度も何度も頷くイブリースであった。
「あー、そういう事ですか。同じ美しい者としてわかります。美人薄命というやつですね」
「お前……よりによってアイリスと比べたのか? 正気か?」
「なっ!? アイリスはどう見ても美人ですよ!? ルークの目は節穴ですか!?」
――そっちにいったか
ルークは頭を抱えた。
アイリスはナイスバディの美人である。
エルフのような金髪、白い肌、青い目、そして長い耳が特徴的だった。
一方、イブリースの体は何と貧相なことか。
「あぁ、そういう事ですか。私と行動を共にする内に、美少女に対する免疫が付いてしまったのですね。美少女とはかくも罪深いものでしたか」
「おい、イブ。どう見ても軍配は向こうに上がるぞ?」
「な、なぜですか!? 胸ですか!? それとも尻なんですか!? えぇい、男という生き物はやれ胸だの、やれ尻だの、もっと顔で勝負したらどうなんですか、こん畜生!」
「それを俺に言うか!?」
「美人薄命ならブス幸運って言いそうじゃないですか! いい加減、私という悪魔的美少女を隣におけることを喜んで――い、イタタタッ!? ぼ、暴力反対! 美少女に嫉妬しないで下さい! こ、この、やめろーっ!」
ルークが頬を引っ張り、イブリースは涙目になる。
それを見て、アイリスはとんでもない発言をした。
「なんと男らしい旦那様だ……」
「「――え?」」
こうして、新たにアイリスというハーフの者が加わった。
後に軍神と謳われる彼女だが、その片鱗はまだ見えない。




