ウェルカム王城! ウェルカム王城!
4人は王城へ招かれた。
国王と王女を前にして、冷や汗ダラダラのルークである。
「なぜか出現したデッド・ニーズヘッグだったが、偶然にも通りかかったお主たちのお陰で討伐できた。ひとまず感謝しよう」
「あ……あはは、それはどうも」
余りにも出来すぎな話。
悪行がバレたと冷や冷やする場面かもしれない。
しかし今に限っては違った。
「まぁ、そう固くなるでない。ところで、ギルドを創設したいそうだな?」
「は、はい、恐れながら」
「うむ、ならば実に良い話があるぞ」
国王の背後には“ウェルカム王城“と書かれた上りが乱立。
側の従者たちはペンと何かの書類を多数所持。
一方、後ろの扉の前では完全武装した憲兵が隊列を組んでいる。
まさにウェルカム、絶対に逃がさない意思表示である。
「幸運なことに、王国ギルド長の籍が空いておる。どうだろうか?」
普通なら悩む話かもしれないが、ルークに限ってそれはない。
このパーティーは人間1人、他は魔族とハーフ。
どうして受けられるだろう。
「え、えーと……その、申し訳ありません」
「な、なぜだねっ!?」
「お父様、無理を言ってはなりません」
食ってかかりそうだった国王。
それを、隣の王女が嗜める。
「どうでしょう? 私たちが婚姻を結び、王家に迎え入れるというのは」
嗜めるとは一体。
「お……おぉ、流石は我が愛娘。なんと名案だろう。これで強い冒険者を逃がさな……んんっ、口が滑った」
「あらあら、本音がポロリですよ、お父様」
イブリースは思わず、ルークに耳打ちする。
「ねぇ、ルーク。人間ってこんなに積極的なものなんですか? 慎ましさが美徳って聞きましたが」
「まぁ……うん、基本的にそうだな。でも中にはアイリスみたいなのも――」
その危険に気付いたルークは、恐る恐る目を向ける。
どこ吹く風の様子だ。
「あれが正妻の余裕ですかね?」
「待てこら、決まった訳じゃない」
ところで、ヒソヒソと話しているためだろう。
何かを察したらしい王女が確認してくる。
「なるほど、唐突な申し出のため受け入れられないと?」
「は……はい、そう解釈して頂けると」
「そうですか、では仕方ありませんね」
――国王は終わっているけど、王女は”まだ”まともで助かった
ルークが安堵しかけた次の瞬間、
「では妥協案として、私と新たな国を作るのはどうでしょう?」
更に突拍子のない話が飛び出した。
イブリースですら目を丸くする。
「わーお、カエルの子はカエルですねぇ。どうするんですか、ルーク?」
「逆に聞きたい。どうすればいいんだ、この状況」
「受け入れちゃえばどうです? 私のご飯はより確実に、より豪華になりますし」
ルークは苛立ち、反撃に出た。
「確認したい。お前は美少女だよな?」
「え? えぇ、勿論ですよ! 遂に私の魅力に気付きましたか!」
「あぁ、たぶん王女様も同じように思うだろうよ。さて、聞こう。普通に考えて、夫の傍に美少女がいることを良しとするか?」
「き、危険ですっ! こんな美少女がいたら発狂しますっ!」
即答である。
なんと厚顔無恥なのだろうと頭を抱えつつ、ルークは付け足す。
「いきなり追い出されなくても、素性は調べられるだろうよ。お前が何者かバレたら終わりだと思わないか?」
「ぜ、絶対絶命じゃないですか! どうするんですか、ルーク!?」
「だから最初に聞いただろ、どうすればいいかなぁって」
「私が知るもんですか! でも何とかして下さい!」
無意味にマウントを取り終えて、さて、どうしたものかとルークは考える。
結果、逃げることにした。
そろりと後ろへ一歩、動く。
「逃げられると思いますか? 空気読めます?」
直ちに見抜かれた。
恐るべし、女の目。
「さ、さぁ、何のことか――」
ルークが背後へ目を向けると、
「早く頷けよ」
「別にいいじゃねぇか」
「こんな謎任務はさっさと終えたいんだよ」
憲兵たちが殺気立っていた。
仕方なく視線を戻すルークだが、
「王女様、こちらになります」
「はい、ご苦労様」
いつの間にか、メイドたちが湧いていた。
手にはタキシードや白い靴、指輪ケースなどなど。
挙句、牧師まで登場する。
「永久の愛を誓いますか?」
「気が早過ぎるだろっ!」
突っ込んでしまったルークと目が合った王女は、
「善は急げと言うでしょう?」
ニッコリとほほ笑んだ。
この流れを脱するのはほぼ困難だろう。
ルークが絶望し、諦めかけた時だった。
「ねぇ、イブ。私、気になる事があるんだけど」
「……そ、それです! やりますね、プル!」
何かを思い付いたらしいプルートが耳打ち。
イブリースは王女に提案する。
「王女様、ルークなんかよりも優れた冒険者がいま――」
「――聞き捨てならん」
それを遮り、仁王立ちするアイリス。
憐れ、イブリースは涙目になってしまう。
「旦那様こそ最強だ。嘘だと言うなら……分かっているな?」
「な、何なんですか、この妙に恐ろしいプレッシャーを放つレベル1はっ!?」
「ふぅ……仕方ない、ここは私に任せて」
イブリースを庇うようにして立つプルート。
強キャラ感を放つものの、それは果たして誰のためか。
熱い視線を向けているのは言うまでもない。
「と、とにかくです! 強い冒険者が欲しいなら、勇者ニルスが適任ですよ! この人はやめておくといいです!」
これに難色を示したのは国王だった。
「勇者は我が愛娘を要らんと断言しおった。それに痛過ぎる」
「あぁ……なるほど」
これには同意してしまうルーク。
「その点、お主の評判は聞き及んでいる。実力はあるのに永遠に独り身だと」
「喧嘩を売っていますか?」
これには怒りを覚えたルークだった。
こうして激論は続き、そして――大変な事態になった。
2018年12月1日 表現を修正しました。物語に影響はありません。