何か急に国が滅びそうな件
前半は雰囲気作りのため、やや真面目モードです
王都はパニックに陥っていた。
超ド級の凶悪なモンスターが突如現れ、暴れ出したからだ。
「逃げるぞ、早くっ!」
「押すなよ、この!」
「あぁん、お化粧の途中だったのにぃ!」
「お前は男だろうがっ!」
着の身着のまま逃げ惑う民。
入れ替わるようにして、王国親衛隊が現着。
しかし奴――いや、その脅威も含めて視認した途端、多くの者は腰が引けた。
「隊長、何なんですか、あれは!?」
「地面が黒く……真っ黒くろくろ……っ!」
「うろたえるなっ!」
隊長のアレスは声を張り上げる。
しかし膝は震えてしまっている。
「あ、あれを王都に入れたら国が滅亡する! 何とかして食い止めるんだ!」
「で、ですが、奴に触れたら……っ!」
デッド・ニーズヘッグは地を這う腐敗した神竜だ。
奴の禍々しい体に触れたら最後。
大地も大河も動植物も、瞬く間に腐ってしまう。
ただ移動するだけで甚大な被害が出ていた。
「やるしかない! 第一班、突撃!」
「く、くそ……っ! お前ら、死ねとのご命令だっ!」
剣士たちが攻撃をしかける。
だが、無駄。
皮膚に刃が触れた瞬間、一瞬で剣士は腐り絶命する。
「ひ、ひ――っ!?」
剣士は盾で身を守ったものの、触れれば終わり。
直ちにどす黒く変色して崩れ落ちた。
「だ、駄目だ!」
「勝てる訳ないだろ、あんな化け物にっ!」
「お前たち、背を向けるな! 誰がこの国を守る!?」
「じゃあ、あんたが行けよ!」
「俺たちはごめんだっ!」
もはや成す術もなく国は滅びるしかない。
誰もが死を悟った時だった。
「アレス、親衛隊を下げろ」
「る、ルークさん!?」
ルークの一行が駆けつけた。
「ここは俺たちが引き受ける」
その登場、そして発言。
どれほどアレスたちには頼もしく、格好よく見えただろう。
例え内心では、
――お願いします、引き受けさせて下さい
と、申し訳ない気持ちでいっぱいだったとしても。
「そうそう、手柄を横取りされたらドロ被り損ですから――いったぁっ!?」
おもむろに自供し出したイブリースの頭に、ルークの鉄拳が振り下ろされた。
「な、何をするんですかっ!?」
「……いいか、よく聞け」
イブリースの耳元で、ボソボソと言うルーク。
「あれが俺たちのせいとなれば天下の大逆人だ。まず間違いなく処刑される」
「へぇ、御愁傷様です。でも知ったこっちゃないですね」
「分かっているのか? 俺が死んだら飯は無い――」
「――あ、あー、知らない。ワタシ、ナニモ、シリマセーン」
意思統一が図れたところで、ルークはアレスたちに向けて言葉を発する。
「俺たちは王都を守りたい。ただその一心しかない」
「さ、流石はルークさん!」
アレスだけじゃない。
「あぁ、宵闇の竜の幹部が来てくれたんだ!」
「元幹部じゃなかったか?」
「どっちでもいいだろ! あの人の強さは折り紙付きだ!」
親衛隊の剣士たちも一様に歓喜する。
「旦那様、愛している! 一生付いて行くぞっ!」
なぜか事情を知っているはずのアイリスまでノリノリである。
一方、和解したはずのイブリースは白い目をしていた。
「うわぁ……白々しいですねぇ」
「え、えっと……うーん、私たちにどうこう言う権利は無いと思うよ?」
とにもかくにも、ルークたちはこの場を任された。
王都に向かって一直線のデッド・ニーズヘッグをどうにかしなくてはならない。
「みんな、非常に言いにくい事があるんだが……」
ルークは頭を抱えながら言った。
この発言が余りにも馬鹿らしいからだ。
でも他に表現しようがなく、仕方なく思いついたまま話す。
「みんな、頼む。何か急に国が滅びそうだから力を貸してくれ!」
これに、いの一番に声を上げたのは、
「是非もない! このような戦場に立つことこそ、私の夢だった!」
レベル1の冒険者である。
「あ、あの、ルークさん」
難色を示すプルート。
「物凄く自信満々だけど、どう見てもレベル1だよね?」
「まぁ……そうだな」
「確かに夢だろうけど……夢のままにした方が良くない?」
「ごもっとも。でも言って聞く奴じゃないからな?」
「そ……そうだよね、わがままボディだもんね」
「……はぁ?」
意味が違うし、何より場違い。
でもこれを好機と、プルートはアイリスの体をガン見し出した。
「おーい、プルート? 駄目だ、聞いちゃいない」
まとまりに欠ける状態だが、やらなければ王都は滅亡する。
ルークは早速、指示を出した。
「アイリス。一度、あいつの視界に入ってくれないか?」
「うむ、任された! 皆の盾になろう!」
意気揚々と駆け出すアイリス。
効果はてきめんだった。
これまで猪突猛進に進行していたデッド・ニーズヘッグが急速旋回。
アイリス目掛けて動き出す。
「我が名はアイリス! 皆を守る盾で――」
彼女の姿が消える。
デッド・ニーズヘッグは急ブレーキをかけ、周囲を見渡す。
「――ある! む、臆して逃げたか? 笑止なり、デッド・ニーズヘッグ!」
彼女は王都からより離れた所に出現。
そして煽る。
デッド・ニーズヘッグは雄叫びを上げて走り出した。
狙いは変わらず彼女。
「よし、狙いはバッチリだな!」
これはルークの策略だった。
超不幸なアイリスにテレポートをかけて、奴を釣り出そうというのである。
「あの、ルーク」
「なんだ、イブ?」
「仲間を餌にするとか、本当に人間ですか?」
「お前よりはな」
こうして、熾烈な戦いが始まった。