おぞましい魔族の取引とは
「ロリッ子の型を1000万Gで売ってくれぬか?」
借金を返すどころの額ではない。
しかし、相手も魔族ということか。
相応(?)の対価を要求して来たため、被害者がまず怒りの声を上げた。
「な、なななっ、何を言いやがりますか、メフィスト様!?」
これに頷いたルークも加勢する。
「そうですよ! このロリッ子を身売りするような真似をして、採算が取れるんですか!?」
「そうそ――待てこら。それは聞き捨てならない」
加勢とは一体。
ところで、メフィストはやれやれといった様子である。
「確かに、そこのハーフのようなモデル体型ならばいざ知らず、こやつでは元を取れぬリスクは大いにある」
「ほほぅ、メフィスト様も命をドブに捨てると仰る?」
敵意むき出しのイブリース。
しかし、メフィストはニヤニヤしながらこれをスルー。
「人間の欲望は底が知れぬ。黙って素敵な体にハァハァしておれば良いものを、うぅむ、何がどう捻くれたのか。パンツだの糞尿だのに興奮する奇特な奴もおる」
人間の抱える闇は、魔王軍大幹部すら唸らせるらしい。
「では、ロリコンとは果たして罪なのじゃろうか?」
「え、あの、そういう話でしたか?」
「黙って聞くがよい。いいか、この世には身の毛もよだつ悪魔染みた情欲が溢れ返っておる。ゆえに、あえて言おう。ツルペタ娘とはいえ、人を愛する者はむしろ健全じゃと!」
どうやら結論に達したらしい。
メフィストは指を突き付け、決めポーズを取った。
「理解できたか?」
「えーと……とりあえず、人を何だと思っているんですか?」
「いやいや、私を何だと思っているんですかっ!?」
涙目になりながら食い付くイブリース。
これに対し、メフィストは満面の笑みを浮かべて、
「天性のロリッ子」
そんな事をのたまった。
「だから私は違いますっ!」
「では魔王軍幹部の権限において、お主をロリッ子と認定しよう」
「う、うぅ、うがーーーっ!」
魔王軍幹部と出されては歯向かえないらしい。
イブリースの中で何かが壊れ、叫び、うずくまった。
「私は美少女、私は美少女、私は美少女……っ!」
「だ、大丈夫、イブ?」
「ノーロリッ子、イエス美少女! そうです、私は美少女――って、何ですか、その胸は?」
ギロリとした目付きが、プルートの胸を捉えた。
流れるような動作で、イブリースは鷲掴みにする。
「そうです、格差社会の根源はこいつでしたね。えぇ、私には全く非などありません。悪いのはこいつでした!」
「い、痛たたたっ! ち、ちぎれる! ちぎれるからぁっ!」
「ふはははっ! 真の平等はここから生まれるのです!」
もはや手の付けられない状況ながら、事態は更に悪化する。
それはアイリスの呟きだった。
「小さい方が何かと良いだろうに」
「今、何と……何と言いましたか!?」
「い、いひぃいぃぃぃっ!? い、イブッ! 手を、手を離してから怒って! 憎しみを込めないでぇっ!」
この様子を見ていたはずのメフィストは、真面目な顔をしてこう言った。
「人の業は深い。魔族とはまた別のおぞましさに、ワシは興味を持っておるのじゃ」
「あの、魔族も十分におぞましく見えてならないです」
「はっはっは、そう褒めるな」
ルークは閉口した。
「さて、自己紹介も済んだところで……どうじゃろう? ロリコンを布教させてくれんか?」
「あの、本気でそういう話でしたっけ?」
「うむ、端的に言うと人間と友好関係を築きたい。それには手向けがいる。そこで、あの至極健全なロリッ子のゴーレムを人間どもに配りたいと考えておる」
「え、えー……」
ルークは返答に窮した。しかし。
――流石に可哀想過ぎる
壊れてご乱心のイブリース、またその被害を一身に受けるプルート。
2人を見て、ルークは決意した。
「恐れながら、お断りします」
「なぜじゃ? もう一桁増やしてやろうか?」
「金額の問題ではありません。イブは仲間です。守ってやりたい」
「ほぅ……面白い。貧困者の発言とは思えぬな」
メフィストはどこまで把握しているのだろう。
しかし、ルークには関係ない。
「確かに困っています。でも、それと仲間を売るのとは話が別です」
「る、ルーク……!」
イブリースがいたく感動して涙する。
プルートは解放され、負けじと涙する。
アイリスは何ともない。
「ほほぅ、なんと殊勝な奴よ。ますます気に入った。では、こういうのはどうじゃろう? お主、金が欲しいのは山々じゃろう?」
「それはまぁ、そうですが」
「では近場に高額賞金の……そうじゃな、1000万相当のボスモンスターを召喚してやったぞ。それを狩り、金にするがいい」
ルークは固まった。
意味がわからなかったらだ。
「え、えーと……どういう意味ですか?」
「言葉通りじゃが? あぁ、そうじゃ。名前は腐敗神竜デッド・ニーズヘッグ。聞いたことはあろう?」
「で……デッド・ニーズヘッグ……っ!?」
ボスモンスターの中でも極めて凶悪とされる不死属性モンスターだ。
宵闇の竜クラスのギルドが総力を挙げて、ようやく倒せるかどうかのレベルである。
そんなのがこの近く――王都近郊に出現したと言うのである
「ふっふっふ、これで遊んでばかりと後ろ指を指されることもない。一石二鳥じゃ」
「あぁ、一石二難だよ!」
ルークは駆け出した。