おぞましい取引の幕開け
4人は呪われそうな一軒家に招かれていた。
「この度は突然お伺いさせて頂きまして申し訳ありません、メフィスト様」
同じ幹部として、しかし新人のプルートが深々とお辞儀する。
これは過剰な礼ではない。
なぜなら相手は魔王軍幹部の中でも指折りの実力者、魔神メフィスト・フェレスなのだから。
「うむ、息災なようで何よりじゃ。そこにおるのは……ふむ、ハーフか」
「何か問題でもあるのか?」
アイリスが普通に尋ねると、プルートはあたふたする。
「な、ななな、何を言うのっ!? に、人間ですら知っているレベルの御方にっ!?」
「はっはっは、構わん。その美貌に物言い、むしろ気に入ったぞ。じゃが――」
メフィストは笑った。
ただ、それでは済まないと言うように言葉を続ける。
次に視線を向けたのはルークの方であった。
「ワシが最も興味を持つのは貴様じゃ、人間」
「こ、これは……ご、ご丁寧にどうも」
ルークは終始ガチガチ。
メフィストはケラケラと笑う。
「はっはっは! うい奴よのう、固くなっておるわ。これは下の方も期待できそうかのう?」
「お、お任せ下さい」
下ネタにも呆然と反応してしまうルーク。
無理もない。メフィストが本気を出せば、一晩で世界は滅びうるとさえ噂されているのだから。
それにも関わらず、勝手にシャワーを借りて風呂場を泥だらけにする暴挙。
更に礼儀など知らないような口ぶりで、イブリースは文句を言う。
「ちょっと、メフィスト様!? いくら私がピッチピチの18歳だからって、妬みであんな事をするのはやめてくれます!?」
「な、い、イブ!? し、しし、死んじゃう! 死んじゃうから! ごめんなさい、メフィスト様! この子は頭にカビが生えているので、どうかお慈悲を――ひっ!?」
ギロリとメフィストが目を向けると、プルートは腰を抜かして座り込んでしまった。
それを見て、メフィストはニヤリと笑う。
「相変わらず面白い奴よのう。気に入った。殺すのは最後にしてやる」
「ひ、ひぃっ!?」
「なんてのう、軽いジョークじゃ」
プルートがホッと安堵したのも束の間、
「ちょっと、私との決着がまだなんですけど!?」
イブリースはまだ怒っていた。
再び凍り付くプルート。
「ふふん、ワシの見てくれは6歳、お主は12歳。どっちが年増か、世の男どもに問うてやろうか?」
「わ、私は18歳なんですけどっ!?」
「大切なのは実年齢ではなく見た目じゃ。そこの人間とて、この姿だからこそガチガチのギンギンなのじゃぞ?」
「ま、まさかルークがド変態ロリコンだったなんて!?」
言われたい放題だったルークだが、流石に聞き捨てならずにイブリースの肩を掴む。
「おいこら、そこの幼女」
「やーい、メフィスト様! 幼女って言われていますよ!」
辺りが静まり返る。
イブリースは何を察したのか。
右を見て、左を見て、自分を指さした。
ルークは無言で頷く。
「わ、私ですかっ!? 節穴ですか!? 見えてますか!? あっちを私と誤認してませんか!?」
「他所は他所、お前はロリッ子。これは揺るがない」
「揺らぐ前に大間違いですからっ!」
「外面ばかり気にして、窮屈ではないのかのう?」
口を挟んだメフィストに、イブリースは涙目で睨み付ける。
「確実なロリッ子は黙っていて下さい!」
「ふむ、ではワシの方がピッチピチじゃな。おい、年増。腰を揉んでやろうか?」
「あ、あーっ! 卑怯ですよ! 2人揃って……この悪魔めっ!」
「はっはっは!」
メフィストはまた大笑いすると、コホンとひとつ咳払いしてルークに目を向けた。
「どうじゃ、緊張は解れたかのう?」
「は……はぁ、お陰様で」
「それは何よりじゃ。では、本題に移ろうかのう」
その言葉にまた身を固くしかけたルーク。
メフィストが待ったをかける。
「待て待て、別に取って食おうと言うのではない。取引せぬか?」
「と、取引……?」
いくらお茶らけても相手はメフィスト。
イブリースとは明らかに別格の相手。
そんな人が「取引」を持ちかけるのだ。
ルークはゴクリと喉を鳴らす。
「あのゴーレムを見て欲しいのじゃが――」
メフィストが指さした先には、薄い布一枚で体を覆っただけのイブリースが――
「――粉砕!」
何ということだろう。
突如発生した黒い手によって胸元から貫かれ、木っ端になってしまった。
その元凶たる人物は、背後に無数の黒い手を出現させながら問う。
「ルーク、見ました? おっと、先に忠告です。不適切な発言は死に直結します」
「見えなかった。あぁ、残念だなぁ。本当は見たかったのになぁ」
「棒読みなのが気になりますが、まぁ、いいでしょう。それよりも――」
イブリースは製作者を睨み付けた。
「私をどうするつもりですか?」
「じゃから言った、取引だと。そう残念がらずとも型はある。望むなら何体でも製作してやるぞ?」
「ば、馬鹿を言わないで下さいっ! いくらド変態鬼畜野郎のルークでも、まさかそんな人道を逸脱した事は望みませ――いったぁっ!?」
「紳士な対応をしただろっ!?」
脳天にチョップを炸裂させ、ルークは前へ出た。
「それで、取引とは何ですか?」
「その型をのう、1000万Gで売ってくれぬか?」
「いっ、1000万――!?」
皆、驚愕した。
2018年8月21日 誤字を修正しました。