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ギルドを追放された支援魔法士は悪魔※とギルドを創る  作者: るちぇ。
第1章:愉快でトリッキーな仲間たちと
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明日から本気出す

最後の方で少し真面目になります。

次から2章になるためです。

タイトル通り、ルークたちは明日(次)から本気を出していきます。

 夜、ルークは宿で1人、エールを飲みながら苦笑いを浮かべていた。


 何を思い出しているのだろう。


 いや、どれでも同じか。


 ギルドを追放になってから今までを振り返って、この表情になれない事の方が遥かに少ないのだから。


「俺……どうなるんだろうな」


 現在のパーティーメンバーは人間1人、ハーフ1人、魔族2人。


 普通ならあり得ない構成だが、なぜか成立している不思議現象。


 それもこれも、いや、ここに至るまでの99%以上はイブリースのせいである。


 ついさっきだってそうだ。


 今夜の宿は2部屋取ったと彼女が言ったときのこと。


「部屋割りをします! とりあえず、男女別ということで!」

「俺は変な気なんて起こさないぞ? みんな一緒の部屋で節約するべきじゃないのか?」

「もう少し頭を使って下さい。アイリスと同室になったらどうなります? 翌朝には子どもが出来ていそうじゃないですか?」

「俺たちは鶏か何かかっ!?」

「ルークとアイリスを別室にするのは確定で、2対2で分かれるとすればどうですか? プルがアイリスと一緒だと、さぞ愉快な事になりませんか?」

「あ、あー……それは酷い事になりそうだ。でもそこはほら、プルだけでも強制的に言うことを聞かせればいいんじゃないか?」

「はぁ、プルを舐め過ぎですよ? 確かに私の命令は絶対です。例えば――プル、透明になって下さい」

「え、えぇっ!? そ、そんな事できな――」


 どういう仕組みなのだろう。


 本人も知らない方法で、プルートの体は透明になってしまった。


「す、凄いな! きつく命じればいい! アイリスには俺から言って――」

「――甘過ぎますよ。元に戻って下さい、プル」


 姿を現したプルートは、どういう訳か、アイリスの目の前にいた。


 荒れた鼻息が胸にかかっている。


「何をしているんだ、お前は?」

「い、いえ、あの、これは……その、違うんです!」


 アイリスすら気付いて尋ねている。


 しかし、プルートは顔をトマトのように赤くしながらも一歩も引かない。


「なるほど、隙あらば行く訳か」

「はい。プルの欲望は底が知れません」

「ち、違うから! 私をむっつりスケベとか思わないで!」

「知っていますよ、がっつりスケベたって」

「ち、違うから! 違うからね、ルークさん! 私は……私は、その、無い物ねだりをする浅ましい女なのっ!」

「お前、それが言い訳でいいのか!? もっと他に無かったのか!? プライドは無いのか!?」


 イブリースよりは遥かにある、いわゆる標準的な胸のプルートは、涙目になりながら否定した。


 どこまで本心なのか、未だにその視線はアイリスの胸で固定されている。


「えー、話を戻しますよ。はい、質問です、ルーク。プルと一緒の部屋で寝られますか? 魔王軍幹部と同室なんて、気が休まらないんじゃないですか?」

「……一理あるな」


 もっと別の恐ろしい理由があるものの、確かにその点も見過ごせない。


 そういう意味でルークは答え、頷いた。


「つまり、男女別が最適なのです。色んな意味で」

「あぁ、今回ばかりは全面的にお前が正しいよ。色んな意味で」


 こうしてルークは1人、月明かりを眺めながらエールを楽しんでいた。


 そう、楽しんでいる。


 これは酒が美味しいからではなく、月明かりが余りに綺麗だからでもない。


 その時だ。部屋の戸を控え目に叩く音がする。


「ルーク、まだ起きていますか?」

「イブか? 開いているよ」


 やって来たのはイブリース1人だった。


 酒を飲んだためだろうか。その頬はほんのり朱色に染まっている。


 トコトコ中へ入ると、ふらついた体を椅子に預けた。


「夜分遅くにごめんなさい、です。大切な話がありまして」

「何だ、罵り足りなかったか?」

「ほほぅ、ルークはそっち系ですか? 良いですよ、お望みとあらばフルコースをお見舞いしてやります!」

「また今度な。それで、一番愉快な組み合わせを残して、一体どうした?」

「ふぅ、最初からそう聞いて下さいよ、まったく」


 イブリースは居住まいを正し、真剣な表情になった。


「大切な事を聞きに来ました。おふざけ無しで答えてくれませんか?」

「突然だな。心配なら、質問だけして心を覗けばいいじゃないか」

「確かにそうですね。でも、こうお願いすれば大丈夫だって確信していますから」

「あぁ、そう。それで?」


 話を促されたイブリースは、深呼吸を繰り返す。


 何度そうしただろう。


 ようやく決心が付いたのか、目を見開き詰め寄った。


「ルークはギルドを創って……その、魔王様を討伐するつもりで間違いありませんか?」

「あぁ……その事か」


 ルークは合点がいった。


 イブリースは追放されたとはいえ魔王軍。


 魔王と敵対するのを嫌がっているのだろう――そう彼は考えた。


「お前には悪いけどな、やっぱり俺は魔王を滅ぼさないといけないんだよ」


 彼は全く淀みなく、本心を答えた。


 イブリースは大きく、満足げに頷く。


「そうですよね。ルークならそう言ってくれると思いました」


 もう満足したらしく、彼女は立ち去ろうとする。


 ルークは腕を掴んで止めた。


「待てよ、イブ。お前はどうするんだ?」

「私は……そう、ですね」


 イブリースは、はにかんだ顔を見せた。


「ルークの覚悟を聞いて、素直に嬉しいと思いました。でも、まだ決心が付きません。ギルドを創設するまでには答えを出すので、待ってくれませんか?」

「……そうか」


 ルークはその頭をなでる。


 これまででは考えられない行動だ。酔ったせいだろうか。


 しかし、イブリースは手で払う。


「何を悠長な事をやっているんですか? カタツムリの親戚か何かですか? 仲間は集まったんです。さっさとギルドを創りますよ!」

「イブ……あぁ、そうだな。ゆっくりし過ぎた。まずは借金をスパッと返そうじゃないか!」

「その意気です! では、お休みなさいっ!」


 閉まるドア。


 その一枚の板を隔てて、どちらも見つめ合っていたのは誰も知らない。

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