血塗られた面接
メイジ職を迎え入れるための面接が始まった。
確認するがこれは面接であり、断じて実技は含まれない。
「1番、オズマ! 得意なのは炎系の魔法とちょっとした格闘技であります!」
「そ、そうですか」
ルークの表情は引きつり、視線はオズマの手元で固定されていた。
赤い液体がベットリと付着し、ポタリ、ポタリと滴り落ちているのだ。
鉄臭さが漂っていることもあり、予定を変更した質問から始まる。
「あの、何があったのでしょう?」
もはや面接ではなく、憲兵の行う事情聴取である。
しかしオズマは全く気にする素振りを見せず、ビシッと敬礼して答えた。
「はっ! 面接の順番について話し合ったのであります!」
「は、話し合った? 本当にそれだけですか?」
「誠に遺憾ながら我が弁及ばず、武力により解決されたと報告致します。ただ、これだけは言わせて頂きたい! 私はこの失態を一生の恥とし、言葉による解決も図れる人材になる所存であります!」
「な、なるほど……」
ルークはチラリと隣の様子を伺った。
あれだけ意気揚々と臨んだのに、俯いたまま何も語らないからだ。
「おい、イブ? どう思う?」
「……――か」
「え?」
「却下ですよ、却下! は、早く次の人を呼んで下さい!」
「わ、わかった! わかったから、暴れるなっての!」
椅子を振り回す凶行に走るイブリース。
これを何とか落ち着けたルークは、次の人と面接を始める。
「俺は名門の出でね、魔法とルックスに関しては絶対の自信がある」
原型が全くわからないくらいボコボコになった顔の男が、何か自慢げに言っていた。
「俺はこの力で魔王を討ち、家の名を世間に広めたいと考えている」
「どう思う、イブ?」
「却下です、次!」
テーブルをひっくり返すイブリースを宥めて、ルークは次の人と面接する。
「僕は世界平和のために魔法を覚えて努力して来ました!」
「イブ、この人は――」
「駄目に決まっています! 次っ!」
更に過激になっていく暴走を止めつつ、面接をしつつと、ルークは大忙しだった。
そうして無事に面接できたのは12人中9人。
残り3人は知らない内に血溜まりの中で眠ってしまったようだ。いつか起きるだろう。
さて、そんな面接の結果、イブリースのお眼鏡に叶う人はいなかった。
一仕事を終えたルークは、渇いた喉を潤すためにお茶を一気に煽り、
「その……大丈夫か、イブ――?」
流石に心配した口調、表情で尋ねた。
無理もない。
イブリースは微動だにしないのだから。
疲労のためか?
否。虚ろな目をして、まるで呪詛のように呟いている。
「ロリコン、変態、ロリコン、変態、ロリコン、変態――」
「お、おい、イブ?」
「ロリコン、変態、ロリコン、変態、ロリコン、変態――」
「どうしたんだよ、大丈夫か?」
「ロリコン、変態、ロリコン、変態、ロリコン、変態――うがーーーっ!!」
「う、うぉっ!?」
周囲の痛い注目を集めるのも気にせず、イブリースは雄叫びを上げたかと思うと、ルークに食ってかかる。
「どうなっているんですか、この街は!? 右から左までエロスケベしかいませんよ!? ルークが聖人レベルって、もういっそ滅んだ方がマシじゃないですか! 魔王様! ここです、ここを滅ぼして下さいっ!」
「お、落ち着け。何が見えたらそんな物騒な話になる?」
「あの人たちは狂っていますよ! わ、わた、私が頭の中で何度ひん剥かれたのかわかりますか!? しかも面接中にですよ!?」
「お前、美少女の役目は男どもの情欲を受け止めることだとか何とか言っていたじゃないか」
「時と場所を考えて下さいっ! 陰ではぁはぁ言われるのとか、パンツを盗まれるのとか、盗撮されるのとかなら良いですよ!? なんで面と向かって真面目な話をしながらなんですか!? あり得ないですから!」
「いや、それを受け入れられるなら、むしろ嬉しいんじゃないのか?」
「冗談は顔だけにして下さい! まったく、人間には呆れましたよ! 下には更に下がいて、また更に下がいたんですよ!? 底辺はどうなっているんですか!? はっ、まさかそれを地獄と言うのですか!? 汚物は生き埋めにしてやりますっ!」
「じゃあ、どうするんだよ? 借金を返すためには高難易度のクエストの受注が必須だ。そのためには何としても魔法攻撃力を得ておきたいのは変わらないんだぞ?」
ルークの言い分はもっともで、それはイブリースもわかっている。
人間をもっと罵らないと気が済みそうにないものの、イブリースは言葉を引っ込める代わりに、深い溜め息を吐いた。
「はぁー……こうなったら仕方ありません。私の友達を呼びます」
「へぇ、お前って友達がいたのか?」
「ふっふっふ! チビらないで下さいね――って、おい、私をボッチとした件について詳しく聞こうじゃないか。死にたいならそう言ってくれないと」
「悪いな、仕返しついでに本音が出ちゃった」
「なお悪いじゃないですか! はぁ……まぁ、今は疲れたから勘弁してやります。じゃあ、ちょっと待っていて下さい」
よほど堪えたらしいイブリースは、ふらふらとした足取りでどこかへ向かったのだった。