この人は超〇〇故に最強のタンク
「いらっしゃい。おやおや、元<宵闇の竜>幹部のルークじゃないか。今日はどうしたえ?」
鑑定士は老婆だった。
水晶に手をかざして、それっぽい動きを見せる。
「アイリスのステータスを鑑定して欲しい」
「おい、旦那様。話が見えないのだが」
「いいから、ここは言う通りにしてくれ。今後の人生に大きく関わるぞ?」
「な、なんと! それは一大事ではないか! どうかより良い未来を頼むぞ、ご老人!」
アイリスは元気よく椅子に座り、老婆と対面する。
「うむうむ、では見せてもら……こ……これはっ!?」
水晶を覗き込んだと思ったら、老婆はひっくり返って腰を抜かした。
「どうした、何が見えた!?」
「し……信じられん……この子は……この子は……」
ルークに起こされた老婆は全身をガクガクと震わせ、ようやく声を絞り出す。
「超不幸じゃ」
「……なんだって?」
「だから、超不幸だと言った。もはや因果律を捻じ曲げるレベルでのう」
何を思ったのか、イブリースは小首を傾げて文句を言う。
「えーっとぉ、それっぽい難しい単語で煙に撒くのはぁ、やめて欲しいんですけどお?」
「何じゃ、この子は。頭の中にカビでも生えとるんか?」
「そういう病気なんです。気にせず続けて下さい」
「ち、ちょっと! 私の悪評を広めるのはやめてくれますか!?」
「だったら大人しくしていろ。それで、鑑定士さん。どうなんですか?」
「うむ、戦闘に限った話じゃが、この子は全ての攻撃を吸収すると思って良い。味方に当たるもの、見当違いの方向へ放たれたもの、たまたま設置されていた罠に至るまで、全てのう」
ルークは合点がいっていた。
戦闘における幸運とは、身体能力やスキルとは別に、敵に標的にされるか、攻撃が当たるか、といった運要素を判定する。
それが超不幸なのだとすれば、先ほどの珍事の説明も付くのだ。
「つまり、最強のタンクという事か? 私は旦那様の盾になれると?」
「有り体に言ってしまえばそうじゃな」
ルークは迷った。
女の子のタンクがいない訳ではない。
しかし、アイリスはまだレベル1の冒険者だ。
相応の職ですらないのに、今後、パーティーに向けられる攻撃全てを受けるなど――
「何という行幸だ! 今、夢が叶おうとしている!」
「ど、どういう事だ?」
思わず聞き返したルークに対し、アイリスは目をキラキラさせて答えた。
「私の夢は愛する者を守る事だ! 一体どんなスキルを取ろうかと、冒険者の本を夜な夜な読んでは想像していてな! それがどうだ、こんな素敵な力を持っていたとは! 最高ではないか!」
「お前、分かっているのか? 今後、全ての攻撃をその身で受ける事になるんだぞ?」
「あぁ、任せろ! 旦那様とイブ殿は、私が命に代えても守ってみせる! あぁ、こんなセリフをもはや吐けるとは!」
「そ……そうか」
ルークの心配は杞憂だったようだ。
幸か不幸か、彼の職は支援魔法士。
むしろ守る対象が彼女だけとなれば楽であり、確実な生還の保証ができるというもの。
「うわぁ……この男、奥さんを肉壁にするつもりですか。私の目を盗んで、一体どんな調教を施したのか」
「そこ! 根拠のない妄想はやめて貰おうか!」
「結果には必ず過程がありますっ!」
「お前、因果律の話がわかりそうじゃないか! お馬鹿キャラの振りをしやがって!」
「な、何を言うんですか!」
ズイ、と身を乗り出すイブリース。
悲しきかな、余り胸が無いためルークはさして脅威に感じていなかった。
「あ、アイリスは見た目だけでインパクトが凄いじゃないですか! そこに、あの話し方に旦那様まで言って! これじゃあ私が霞んでフェードアウトしかねません! ご飯をくれるんですか!? 契約があるんですよ!? 忘れたら化けて出てやりますよ!?」
「お、お前より濃い奴がいてたまるか! それに、お前の貧相さはいつの時代だってある程度の人気を得られるんだ! どうやったって忘れられないっての!」
その発言に、イブリースはとても驚く。
まるで全身を電流が駆け抜けるような衝撃に襲われていた。
「こ、この体でも一定の支持層がいるんですか!? な、何て事でしょう! ファンは嬉しいはずなのに、そこはかとなく悪寒がします!」
「安心しろ、アブノーマルな奴らだから」
「よ、余計に駄目じゃないですかっ! うぅ、これも美少女の宿命というやつなんですかね?」
「受け入れろ。仮にも美少女を自称するんだろう?」
「そ、そうですね。正真正銘の美少女ですから、ケダモノたちの情欲をこの身で受けるのはもはや使命です。負けませんよ、アイリス!」
「うむ、よくわからんが、一刻も早く戦力になれるよう努力する所存だ!」
まとまりがあるのか無いのか。
何はともあれ、これで有能なタンクが加わったと判明し、パーティーは更に強化されたのだった。