現実なんてそんなもんです。
どうにも最近、“異世界召喚”なるものが流行っているらしい。唐突にファンタジーな世界に呼び出されては都合がよい力が与えられ、可愛いヒロインといちゃつきながら剣や魔法でモンスターを倒して行き、遂には魔王的存在を倒してめでたしめでたしというおめでたい話。と、大抵の♂であるならば一度は妄想に耽ったことがあるのではないだろうか。
アオは持病である中二病を克服しているが、代わりに現実逃避と暴言のパッシブスキルをマスターしている。
「はぁ...いろんな世界で何度も人類救ってきたんだけどなぁ...現実は何故思う様にいかないのか。」
「おーい。お前の勇者力がみるみる低下してるぞー。シャキッとせんかいシャキッと!」
と、前の席から軽くいなしてきたのは十歳年上の上司。彼は今も昔もゲーマーらしく、その手の話題に躊躇いもなく乗っかってくる。
「だいたいですよ、この会社の人たちも含めて日本人働きすぎなんですよ。その癖仕事終らない、終わらないって。は効率悪すぎ!無能か!はよ帰れ!俺が上に上がれれば抜本的に意識改革してやるのに。もうこの世界(会社)辞めて転生(転職)しようかな。」
「なにアホなこと言ってんの。まぁ、実力あっても最終的には人間関係とタイミング次第だけどなー。大人の世界は汚れてるからね~というかそれ、上司である俺への当てつけ?」
年下の暴言に対してヘラヘラしながら答えるあたり、この人は課長止まりだろうと思うアオ。その後帰路につくのであった。
まぶしい日差し、とはいっても遮光カーテンで何も見えない。
「だるい。」
いつもと変わらない朝。変わらない街。この”第二素“東京エリアで今日もまた変哲のない日常が始まる。
――――数百年前から何も変わらない、“魔法”が日常化している現実世界で。――――