エピローグ~出立~
雲一つない青く澄み切った空をポカンと眺めている。時折顔にあたる心地良い風が気持ちいい。
俺、星野 光輝は、いまだに地球にいた。今、とある外国にいる。
何しているのかというと、地球での心残りを一つ一つ消している最中だ。
以前周りきれなかった外国の観光名所を渡り歩いている。そして、今ここが行ってみたかった最後の観光名所だ。
そこは湖であった。
とても広く平たんで地平線が見えそうなほど大きい湖であった。
湖と言うけど水深は浅く足のくるぶしにも届かない塩湖であった。
高低差がほとんどなく平たんであるため、そこに薄く張った水が鏡のように天空を映し出す・・・・・正に自然が生み出した絶景だ。
テレビでは何回か見たことがあるが、やはり映像と実際見るのとでは訳が違う。
心臓の部分から何か込み上げてくるものがあり、全身が鳥肌になる。
地球には美しいものがたくさんある。
それだけならまだここにいたいという気持ちがあるのだが、叶わない願いである。
俺は人間が大っ嫌いだ。
平気で嘘をつき、騙し、裏切り、徒党を組んで一人を貶したり・・・・汚いとこばかりで嫌になる。
地球上の人間を皆殺しにできれば、どれほど幸福なことだろうか。
幸か不幸か、この世には汚い人間だけじゃなく善人も必ずいるということだ。
そんなこと分かっている・・・・・わかっていることなのだが・・・・。
人間のいいところより、悪い部分にばかり目がいってしまう。
だからもう、こんな息の詰まる閉塞した世界から逃げるとしよう。新天地を自分で探すのだ。
どのみち、帰る場所なんてもうないし、外国を転々としていても色々問題が発生するだろう。一番嫌なのは何もせず、ずっと誰かも知らない影に怯えて暮らし続けることだ。
もちろん向かってくる奴、邪魔をする奴は殺せば解決するかもしれない。しかし、それは一時的なものでしかない。また、科学技術が発展したこの世界で、人を殺せば殺すほど、瞬く間に全世界で評判になり、本当にこの星から居場所がなくなる。この星は広いようで狭いのだ。直情的な俺にとって上手くやっていける自信がない。
新たに見つけた星で冒険をしてみたい。漫画やアニメ、ライトノベルで見たあの冒険を。
どんなに時間がかかろうとも、どんなに長い旅になろうとも必ず見つけ出してやる。 絶対にだ!!
覚悟完了
「よし、それじゃあ、まあ、行きますとしますか」
そう言うと、俺はその場で軽くジャンプした。
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夢では何度も空を飛んだことはあった。
それはどんな夢で、自分は何をするために飛んでいたのか詳細までは思い出すことはできない。
でも、あの飛んだ時の心地良い浮遊感や解放感、体全体が風にあたる感覚は今でもずっと覚えている。
”飛びたい”と強く願えばまるで自分だけが重力の方向が逆になったかのように感じ、フワッと体が浮く。
「まさか現実世界で飛べるとは思わなかったな・・・・」
そして、今現在俺は地球の成層圏を漂っていた。
それにしても本当に能力様様である。普通の人間では絶対にできるはずがないことをできてしまえるのだから。特に空を飛べることはとても嬉しかった。
初めて空を飛ぶ夢を見たのはたしか小学2、3年生だったか・・・。そこから今までの間、たびたび夢に出てきては俺を楽しませてきてくれた。成人してもその気持ちは変わらない。
人間が生身で空を飛ぶことは非常に困難である。
飛べるとしたら、スカイダイビングやムササビウイングでの飛行とか、いずれにしても高いお金を支払って装備やらの準備をしなければならない。庶民にとっては一生に一度経験できるかどうかってぐらいだ。
そう思いながら、俺は殺風景で灰色一色の地面に降り立つ。
「月に降り立った人間は、俺で何番目だろうな?」
普通に暮らしていたら絶対に体験することができないこと。
決して生身の人間では生きていくことが不可能な空間。
そして、人類史上初めてのこと。
そう。俺は月にいる。着の身着のままの状態で。
辺りを見渡すと黒か灰色が景色の多くを占めていて、ところどころ光っている粒粒が見てとれる。
とてもつまらない景色に思えるが、目の前には青く大きく、美しい星があった。
どんなに人間が増えて環境破壊が続いても、それは美しかった。言葉でうまく表せないほど感動した。
「本当にこれでよかったかもな」
何のために生きているのか分からなく、ただ毎日を惰性で過ごしていた日々。
将来の目標もなく寝て起きては大学へ行き、頭に入らない勉強をし、帰ってきてはゲームをする同じことを何回も繰り返しているような日々。
まるで隔絶された檻の中で、NPCとして存在していたかのよな自分。
もうそんな日々とはおさらばだ!
見てみろこの景色を!何もかも新鮮で新しい!!檻の中で過ごしていては絶対に見ることができなかった!
外に出てきてよかった!本当によかった!!今俺は生きていると実感できる!!
もちろん不安はある。
本当に地球みたいな生物が住める星はあるだろうか?
見つけられなかったらどうしようか?
ブラックホールに飲み込まれてしまわないだろうか?
不安要素はたくさんある。
せっかく母が俺の将来のためにとお金を出して大学に通わせてくれたのにそれもほったらかしてきてしまった。
後悔もある。
でも、それでも・・・・。
「母さん。ごめん。やっぱりいくよ。好きなことをして好きなように生き、俺らしく存在してたい。社会のマナーとか建前とか嘘も方便とか・・・・・・自分を殺してまであの世界で生きたくないよ。だから、・・・・・・行ってきます」
地球に向かってそう呟き、背を向けそっと月から離れる。
あの美しい湖は別の星にもあるのだろうか?期待と不安を織り交ぜながら思考をめぐらす。
俺はもう後ろを振り返らなかった。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
自分の頭の中の妄想を書いてみようという軽はずみな発想で始めてみたものの、まあ全然うまくいきません\(^o^)/
ストーリの構成とか一日で変化するので、このような展開の遅いスタートとなってしまいました。
もし、万が一、万万が一、この物語を楽しみにしている方がいらっしゃるのならば、とても喜ばしいことで作者冥利に尽きます。
たぶん、今投稿している話以降の更新はすごく遅くなるかもしれませんが、なんとかしてこの物語を完結させたいと思いますので今後ともどうぞよろしくお願いいたします。