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異星界漂流記  作者: 笑わない道化
第二章~帝国革命編~
27/29

エピローグ~新天地へ~


目の前に広がるのは透き通った晴れ渡る青。

時折浮かぶ白い物体は形が無限大。飽きることなく流れていく。

気温は少し高めかポカポカとした陽気。日差しもあってか優しい温もりがこの身を温める。


気まぐれに吹く風が冷たく心地よい。

気温と日差しが与える温度を冷ましてくれて、丁度快適な状態を保ってくれている。


大の字になって寝ころんでいたがそろそろ飽きた。


気晴らしに体を動かし横になる。

目の前にきた色は青から黄色になった。

そう、花だ。無数に咲き誇る花々は全て黄色一色で視界を覆う。

360度周辺は黄色の花、花、花。俺は今、辺り一帯を黄色の花で囲まれた花園の、ぽっかりと奇妙に空いた花が咲いていない草地に寝転んでいた。その花が咲いていない草地は丁度一人の大人が寝転べるくらいの領地を持ち、この地に降り立つにはまさにおあつらえの、都合が良すぎる場所だった。


なぜここだけ花が咲いていない? という至極当たり前な疑問を気にもせず、俺はただボーっと目の前に咲く花を見つめる。

花の独特な香りが鼻腔をくすぐる。悪くない臭いだ。ラベンダーのようなこの臭いはなんだか落ち着き、穏やかな陽ざしも相まって眠気を誘う。


「もうひと眠り、しようかな」


誰もいない、花しかいないその野原で独り言を呟き、再び大の字になって寝転び目を閉じる。

この星にやって来てやっと地球では見られない絶景を拝められたのだ。満喫しない手はない。


この星にやってきたと思えばやれ帝国兵の略奪行為に出くわすわ、やれ革命に参加しなければならなくなったとか、やれ本気の殺し合いを体験するわなかなか忙しかったけど、やっと落ち着いて時間もできた。


あの革命からひと月が過ぎた。バゼットとの相対後日、アデルとバゼットに隔離した残りの帝国騎士団の連中を解放してほしいと言われ、頭がかち割れるほどの痛みを我慢して亜空間の扉を開けて解放した。解放した連中が暴れるんじゃないかと思っていたが、その場にいたバゼットが敗北したことを伝えると全員アデルとマクスウェル陣営の穏健派に大人しく従った。その後、人族至上主義派の残党狩りが始まり、ほどなくしてマクスウェルが皇帝になるための戴冠式が盛大に行われた。帝国市民からは驚きと戸惑いがあったものの反対する者や暴動を起こすものはいなかった。後から聞いたことだが、以前からマクスウェルはその美貌と種族や身分などに対して分け隔てなく接する心を持つ聡明な人物であることから市民から絶大な人気を誇っていたらしい。投獄されていたことは市民には伝わっていなかったらしく、戴冠式に起きた驚きと戸惑いの声のほとんどは彼のやつれた顔のせいであった。

マクスウェルの父にあたる元皇帝は帝都から離れた場所で軟禁生活をおくることが決まった。当初は人族以外の種族を迫害した罪として処刑した方がいいのではないかと息子であるマクスウェル自身が言ったのに対して、意外にも反対したのはエリ達であった。これから帝国が変わるのであれば息子であるあなたが父親を殺す必要はないと・・・はっきりと言った。式典にはハリット大森林の代表者としてエリ達も参列していた。マクスウェルの演説ではこれから帝国は人族以外の種族と融和な道を拓いていくという話も盛り込まれていたことに満足そうにうなずいていた。そのエリ達は帝都で起こったことや革命が成功したことを報告するため、今帝都にはいない。帰りはテレポートで送ったのだが、テレポートは初めてだったのかすごく驚いていた。アデル達は城の復興と内政やらですごく忙しいらしい。俺は・・・行く宛てもないことをアデルに伝えたら活動拠点と資金も提供してくれた。


安定した拠点も確保したことだし、特にやることもないので絶景探しを始めることにした。ここからどんどんこの星を満喫してやる。


そう意気込んだのも束の間。やがて睡魔が俺を襲う。深く、深い微睡が視界を閉ざし、やがて寝息とともに静かに意識を失くした。



__________________________________________________________________________________________



夕刻


空がすっかり青色から茜色に染まり、長い長い夜の始まりを迎える。

今日は帝都から少し離れて周辺を空中散歩するつもりだったが、丸1日昼寝してしまった。

あの黄色一色の花畑は帝都からおよそ100kmぐらい、かなり離れたところにあった。しかし、空中から俯瞰するとその黄色はかなり目立っていたため、遠く離れていてもすぐに目に留まった。


明日は何をしようか、何処へ行こうかと頭を巡らせながら帝都の方へ飛ぶ。

やがて、答えが出ぬまま帝都の大門前に降り立つ。夕刻とあって商人らしき人、いかにも肉体労働が得意そうな男、馬車がかなりの頻度で行き交う。帝都で仕事を終えて少し離れた街に帰る者、夜から仕事がある者、旅人などなど・・・まさに十人十色だ。

さらに、まだごく少数ではあるが人以外の種族もちらほら見るようになった。今まで、皇帝の勅命の下に迫害されていた彼らだからこんなに早く帝都にやって来て大丈夫なのだろうかと思っていたが、周りの人は特に気にすることもなく行き交っていた。どうやら市民の大半は命令で仕方なく迫害を行ってきてあって、長い期間が種族に対して偏見な目を生まなかったことに俺はホッと安堵する。

俺は帝都へ向かう人々に紛れて大門前の検問所に向かう。並んでいる列が長くなかったのか、手際が良いのか俺の番はそんなに長い時間待たずに来た。

そこでアデルからもらった腕章を検問所にいる兵士に見せる。

一応空も飛べるし、なんならテレポートでもして直接帝都内に入ることもできるのだが、外を出る際、必ず検問所を通ってほしいとアデルに言われた。なんか帝都の防備に穴をついているかもしれないのか俺の動向を知りたいのか・・・。まあ、そんな手間でもないので大人しく従っている。

腕章には銀細工の帝国の紋章が刻まれていた。さらによく目を凝らすと魔力独特のオーラが放たれている。俺が見せた腕章を兵士が一瞥すると、敬礼をした後に速やかに道を通してくれる。どこぞの印籠みたいな効果だ。


帝都の中は夕方にもかかわらず人混みで盛況であった。朝や昼によく目立つ、野菜や果物、肉や川魚、獣の乳などの生鮮食品、雑貨を売る出店の多くは閉められていたが、その代わりに食い物の屋台、酒場、宿泊所がにぎわっていた。酒場の前はテーブルと椅子が置かれ、外でも酒と料理が楽しめるようになり、その多くの席はむさくるしい男たちによって既に占領されていた。人気のある串焼きの屋台には長い人の行列が発生し、お腹を空かせた人たちが自分の番はまだかまだかと待っている感じであった。


俺はこの人混みをかき分けて帝都の中心に向かう大通りの坂をある程度歩き、わき道へ入る。

しばらく行くと見慣れた建物が見えてきた。記憶に新しい革命の前夜も利用したあの宿だ。

革命後、アデル達の厚意によって宿の一室をしばらく俺に貸してくれることになった。しかも食事つきでタダ!


本当ならば城の一室にあるゲストルームに招待されるはずだったのだが・・・その城は半壊状態であり、住むこともままならないらしい。比較的損害が軽微である一階部分にも住める部屋があるのでそこに住まないかという話もあったが・・・半壊させた張本人が住み込みのメイドさんや従者さんを差し置いて住み着くのは非常に申し訳なかったので断った。それに、行く宛てもない俺にってはこの宿でも十分に助かった。


「あ、おかえりなさい!コウキさん!!」


宿に入ると、看板娘が眩しい笑顔で迎えてくれた。

亜麻色の髪で、動きやすいショートヘアー。明るい雰囲気を持ち、胸の膨らみを強調する衣装を着てしかも美人。

ま、まぶしすぎる・・・。


「あ・・・ど、ども・・・ステラさん・・・部屋の鍵をもらえますか?」


顔を少しそむけながら、預けた鍵を要求する。少しは女性にも慣れたと思っていたが、まだまだ経験値不足らしい。俺のこの女性恐怖症みたいな性格はいつ治るのだろうか・・・。


「はい!分かりました! それとコウキさん、夕食はいつもの時間に食堂に来られますか?もし、来られるならもう料理の準備をしてしまっていいですか? あと食後のマッサージなんていかがですか?私かなり得意で評判がいいんですよ?コウキさんの一日の疲れを癒してあげます!」


「は、はい・・・お願いします・・・・・・・あ、いやマッサージの方はいいです・・・」


聞き取りやすい、快活で明朗な声でまくし立ててくる。俺はなんとか返事をした後に、受け取った鍵を持って部屋に向かおうとする――。その時


「あ、それといい忘れてました」


ステラさんがおもむろに近寄る。あまりの自然体で反応に遅れた。

ステラさんの口が俺の耳元に近づく。心臓が一瞬跳ねた。


「アデル様から伝言です。明日、城の第三ベイリーにある教会に来ていただきたいとのことです。時間は昼、陽の光が丁度真上にある頃だそうです」


告げられたのは秘密の伝言。ここは元革命軍の宿舎としても使われているからアデルとの繋がりは強い。この宿に来てからアデルからの連絡は音沙汰なしだったのだが、まさかこんな形で来るとは・・・驚いたじゃないか!


俺がポカンとしている間にステラさんは俺から離れる。


「それでは夕飯、腕によりをかけて作ってお待ちしていますね♪」


人差し指を口にあて、意味深な笑顔でそう言った後パタパタと食堂の方へ行ってしまった。

俺はいまだ驚いている心臓を鎮め、やっと自分の部屋へと向かう。


驚いたけど・・・悪くはなかったな。

ちょっといい気分になり、二階にある自分の部屋を目指して階段を駆け上った。




_____________________________________________




夕食は相も変わらず美味かった。

今夜は分厚く切られた獣のステーキだ。

目の前に置かれた熱い鉄板の上にある分厚い焼かれた肉は、今でもジュージューと音を鳴らしている。


添え物としてジャガイモと似たポクトの実をすりつぶしたマッシュドポクト、そして硬く大きな黒パンも出された。


「・・・いただきます」


他の客に聞かれないように小声でつぶやき、そしてナイフとフォークでステーキの解体作業に取り掛かる。

ステーキは脂がのった赤身肉。外はカリカリになるまで焼かれているが、中はきれいな赤色を残した状態だった。決して生焼けではなく、中までしっかりと火が通っており、一見硬いイメージであったがすごく柔らかかった。まずいわけがない! 肉の一切れをソースにつけて口の中に頬張る。カリッ、ジュワ、しっとり―の順でやってきた。噛めば噛むほど肉汁と旨味があふれだす。

マッシュドポクトは口の中に入れると滑らかな舌触りとともにジャガイモ特有の味と甘みが広がる。

スパイスを混ぜているのか時折ピリっとした辛味が顔を出す。味に飽きを出さないような工夫も施されている。このマッシュドポクトは無限に食べられる。

黒パン。何時ぞやの村で食べた黒パンと同じであった。とても硬いのだが、中はもっちりと柔らかく、そして甘い。焼きたての黒パンは口に入れると香ばしさとほのかな熱を味わえる。さらにステーキで残ったソースやマッシュドポクトをつけて食べると更なる絶品に進化する。


至福・・・・圧倒的、至福!


「うめぇ・・・」


元から早食いな性格もあり、食事もがっつくタイプなのですぐに料理を平らげてしまった。

本当は無限に食べられる胃袋に改造してあるが、今の量でも確かな満足感と満腹感はあった。ここらへんにしておこう。


「ごちそうさまでした・・・」


誰にも見られないように静かに手を合わせ、部屋へ戻った。





深夜


しばらく満腹感を楽しみながら部屋のベッドでゴロゴロとくつろいでいると俺の部屋に近づいてくる足音が聞こえた。

その足音は俺の部屋の前で止まると、やがて扉が控えめにノックされる。



コンコン




こんな時間に誰だ?

この世界に知り合いなんてほんのわずかだ。エリたちは森に戻っているし、アデルは城の修繕やら内政の補佐、マクスウェルの護衛などで忙しい日々を送っている。つまり、訪ねてくる奴なんていない・・・。


一応己の身を纏うようにバリアを展開し、臨戦態勢に入っておく。用心に越したことはない。

恐る恐る扉に近づき、ドアノブに手をかける。

廊下にいたのはこの宿の看板娘であるステラさんだった。


「・・・え? ステラさん? こんな時間にどうしたのですか?」


何しに来たんだこの人は?ここにきてから挨拶を交わすくらいだったのに・・・。

ていうか・・・恰好がヤバい・・・。彼女の恰好は目のやり場に困るスケスケのベビードールだった。


「マッサージしにきました。コウキさん♪」


なんでという疑問と彼女の行動の訳分からなさで混乱しているさなか、ステラさんはこちらの意なんか介さずに笑顔で言った。


「ま、マッサージなんて頼んでいないのですが・・・」


「えー、先ほどマッサージはいかがですかって尋ねた時お願いしますって言ったじゃないですかぁ。せっかく準備までしたんですしやらせてください♪」


いや、やらせてくださいって言われても・・・。ちゃんといいですって言ったのに・・・。このまま任せてしまうとまずい気がする。なんというか本当にマズイ気がする。何とかして断らないと。


「え、こ、困りますステラさん・・・あ、あの」


「さぁさ、遠慮なさらずに♪ 失礼しまぁす♪」


あっさり部屋への侵入を許してしまった・・・。

くっ!! ステラさんを押し返そうとその体に触れようとするもできなかった。だって彼女は今下着も同然の姿でいる。どこに触れようとしても肌に触るのと大差なかった。結局彼女に触れもできず、体で塞いでた入り口を難なく突破されてしまった。


「ベッドでくつろいでてくださいねぇ。今リラックスできるお香を焚きますから・・・」


くつろげるわけねえだろおおおおお!!

俺は内心に思っていることを心の中で叫びながらベッドに両手を膝に置いた状態で腰掛ける。

え、なんで?どうしてこうなった???俺、彼女になんかしたっけ???彼女の好感度を上げるようなこと、したっけ???なんで彼女はあんなエロい格好しているんだ???俺を誘っているのか???もしかして・・・何か企んでいるのか???


チラッと彼女の方を見る。

彼女がテーブルで何か作業をしている後ろ姿が見えた。  そして、輪郭が丸見えのお尻も見えた。


すぐに目をそらし、視線を下にして俯く。

やばいやばいやばい!どうしよう! こんな事態初めてでどう対処すればいいか分からん!

どうする?眠らせるか? 眠らせて・・・そうだ!針を使って眠らすついでに記憶を改ざんすればいいんじゃね?でもあの針はあまり使いたくないんだよなあ・・・一般人の脳をいじくるのはやはり抵抗があるしやっぱ止めとくか・・・いやいや、いやいやいや!やっぱり使おう!この場をしのぐ緊急事態だ!申し訳ないが、今の俺にはどう立ち回ればいいか分からん!悪いが許してくれ、ステラさ――。


「えい♪」


突然、背中にとんでもなく柔らかいものが押し付けられた。いくら女性に対して経験がない俺でもどういう状態で何があたっているのか瞬時に予測できた。


「ん~? コウキさん、緊張しているんですかぁ? ふふ、かわいいですね♪ ほら、もっとリラックスしてください・・・。 すごぉい・・・コウキさん、かなり鍛えていますね・・・とぉっても硬くて・・・たくましいわ・・・」


「D?KFR@*%&*T'%RDS~~~~~!!!!!」


背中から抱き着かれ、耳元でそうささやかれた瞬間、言葉に聞こえない悲鳴を漏らした。

さっきから動悸と息切れがやばい。まるで限界まで走り続けた後のようだ。体が・・・熱い。

ステラさんの声は今まで聞いてきたものとはまるで別人のような声だ。今まで快活ではきはきとした明るい声だったのに、今はねっとりとした・・・艶めかしいエロい声だ。

そんな声を抱き着かれた状態で、後ろから耳元にささやかれたのだ。脳に一瞬電流が走ってショートして思考停止状態である。


甘い香りが漂う・・・。この臭いを嗅ぐとさらに頭の回転が鈍くなるような気がする。


「はぁい、じゃぁあ・・・マッサージしますので上の服をぬぎぬぎしましょーねぇ・・・」


彼女のなすがままにされ、いつのまにか上にきていた服を脱がされ上半身裸になってた。

そして、彼女の誘導によりうつ伏せにさせられる。


「まずは背中にオイルを塗りますねー」


背中に冷たく少し粘度のある液体が俺の背中に落ちるのを感じた。

ステラさんは落ちた液体を薄く広げるように手で伸ばしていく。冷たい液体がステラさんの手の温もりを引き立ててすごく気持ちいい。



・・・。もうどうにでもなーれ



抵抗する気が完璧に削がれてしまったので、もうステラさんに身をゆだねることにした

それにしても日中、あれだけ寝たのにすごく眠い。頭がボーっとして何も考えたくない気分だ。このまま寝てしまいたい。よし、このまま寝てしまおう。


ゆっくりと睡魔に意識をゆだねようとしたとき、


「コウキさんは今日何していたんですか?」


背中のマッサージをしながらステラさんは尋ねてきた。

俺は意識をなんとか保ちながら答える。


「今日は帝都の外に出て花畑があるところまで行ってました」


「花畑・・・もしかして、そこは黄色の花だけが広がっているところですか?」


「え、ええそうですけど・・・」


「すごぉい、そんな遠くまで行かれたのですね・・・。馬を使って急いでも一日はかかる距離なのに・・・どうやって行かれたんですか?」


「そ、空を飛んでいきました」


「ええー、コウキさん浮遊魔法をお持ちなんですか? かなり熟練の魔術師しかできない魔法ですよ。 いいなぁ、私も一度は空を飛んでみたいなあ」


「は、はは・・・」


話していくうちに眠気がどんどん遠ざかってしまう。眠たかったこともあってすこし残念な気持ちになったが、ステラさんからの問を無視することはできない。


しばらく無言の空間でマッサージが続けられた後、また唐突に会話が再開する。


「ところでコウキさん、この宿に住んでいただいてかなり経ちましたが帝都の散策はしましたか?」


「は、はい・・・。あ・・・結構、周りましたよ」


「そうですか・・・どなたかお知り合いとかできましたか?」


「いえ・・・あいにく、人見知りな性分でして・・・。一人で散策していましたね・・・」


「コウキさんはここら辺では珍しい黒髪なので、珍しがって話しかけてくる人がいると思ってたんですが・・・誰も話してこなかったですか?」


「そ、そうですね・・・話しかけられたことは・・・く・・・なかったですね・・・」


「・・・意外、ですね・・・。コウキさんはとてもかっこいい人なのに」


「え、ええ!? そ、そんな・・・それほど・・・でも・・・」


「コウキさん・・・」


突然、背中のマッサージが終わると、最低限の力で俺の体勢はうつ伏せから仰向けに誘導された。

ステラさんの目と目が合う。茶色をベースとした綺麗な瞳だった。


「私・・・コウキさんを見たときから素敵だなあって思ってました・・・。いわゆる、一目ぼれです・・・。 好きですコウキさん・・・。 もし、コウキさんがよろしければここから特別なマッサージもできますけど・・・どうしますか?」


いきなりの告白。さっきから思考停止状態だった俺にスマートな回答がはたしてできるのか・・・・・・・・・・できるわけねえだろ。


特別なマッサージ・・・無意識に生唾を飲み込む。

つまりあれだろ?大人の階段上れるやつだろ?これ誘ってるんだよな・・・?俺がOKを出せば――。


激しかった心臓の鼓動がさらに加速する。体温も上昇し、体が熱くてたまらない。

ついに俺も童貞から卒業できるんだ。今まで自分の顔と体型と性格を鑑みて、こういった経験は訪れることはないだろうと諦めていたがついに・・・!


すごく興奮してきた・・・もう抑えられない!


俺は欲望のまま手を伸ばし、ステラさんに触れようとする・・・・・・・・・・が、途中で手を伸ばすのを止めてしまった。





・・・・・・・・・・・・・悲しいかな、長年人間不信に陥っていると自分に対する相手の言動、行動、行為全てを勘ぐってしまう。そう、好意ですらも。


この人はなぜ急に俺に好意を寄せてきた?なぜ大切な体をこうも簡単に許せる?・・・なにか企んでいるのでは?


劣情で忘れていた疑問を思い出す。しかし、その疑問を解消させるにはたったひとつの方法しかない。いや、それしか思い浮かばなかった。



俺は一回、目を閉じ、相手の心を覗くと念じながら再び目を開ける。



これは言語の壁を突破させた”意思疎通”の力をさらに引き出し、相手の考えていること、心を理解しようと思い、密かに練習してきた能力の一つだ。これが習得できると戦闘において次に相手がとる行動を予測できると考えたからだ。まさか、最初の実践がこういう場面になるとは・・・・。


意識を集中し、ステラさんの目を・・・というより目の先にある頭部を見つめる。今現在で相手の心を全て理解することはできないが、思っていること、考えていることを断片的にとらえることはできた。


アデル様、指令、情報、接触者、能力、篭絡・・・・・・・


だいたい、そのような言葉が俺の脳裏に浮かびあがった。それだけで十分であった。全てを察してしまった。


この人は俺の事を好きでもなんでもないことに・・・。


あれだけ熱かった体の体温が急激に冷めていくのを感じる。それと同時に今までボーっとしていた意識も覚醒した。

正直、かなり期待してたんだ。けど、やはり現実は・・・リアルは俺に厳しかった。こんな美少女が顔もスタイルも微妙な男に突然好意を寄せてくるわけがない。くるとしたら、それは間違いなく、十中八九、裏がある。なんだか悲しくなってきた。


「コウキさん、どうしたんですか?」


手を伸ばそうとしているところで硬直している俺を不思議に思いながらステラさんは問いてくる。

今彼女の姿を見ても目を背けることはなかった。


「いいえ、なんでもありません。すみませんステラさん。もう寝たいので今日のところはお引き取りください」


「え・・・で、でもコウキさん。 私はあなたのことが本当に好きです。あなたにだったらこの体を許しても、い、いいくらいに・・・」


熱のこもった声、彼女の迫真の演技に舌を巻く。心が読めていなかったら絶対に騙されていただろう。このままステラさんの身体を押しのけて出ていかせる方法も考えたがすぐに止めた。

ここできつく拒絶すると今後ステラさんと顔合わせるたびに気まずくなるし、帝国とも仲良くしておきたい。なんとか自分の足りない脳をフル回転し、この場をしのぐ言葉をひねり出す。


「・・・ごめんなさい・・・・。こ、故郷にもう生涯を共にすると決めた伴侶がいるんです・・・。妻を裏切るわけにはいきません」


伴侶を残して一人旅?っというツッコミどころ満載の言い訳をしてしまい、少し後悔しているがまあいいや。嘘がばれようとばれなくてもどっちでもいい。拒絶の意味が伝われば。


俺はただジッとステラさんを見つめる。


ステラさんはというと


「・・・そう、ですか・・・。 ごめんなさいコウキさん、困らせるようなことを言ってしまって・・・。そうですね、今日はも遅いですしこれで終わりにします」



こちらの意を察したのかどうか分からないが、ステラさんは体を状態横にすらし、俺にまたがるような状態をやめ、ベッドから降りた。そして、テーブルにおいたランタンをもちこの部屋から出ていこうとする。


「もし・・・もし、コウキさんの心が変わったのならいつでも声をかけてくださいね。 あなたをお慕いしているのは本当です。 お待ちしております」


背を向けたままそう言い、彼女は扉を開けていなくなった。


しばらく俺は扉を見つめ続け、やがて大きく息を吐く。

ベッドで大の字になって寝転がり、今さっきまでの出来事を思い出す。


よくよく、よくよく考えてみる。


「惜しいことを、したかもなあ・・・」


あのまま身をゆだねても良かったかもしれない。こんな機会、お前には人生で一回あれば御の字なのに。

少しだけ後悔の念を胸に、目を閉じて寝ようとする。


その日は眠ることはできなかった。




_____________________________________________




翌日


ステラさんの伝言通り、城の内部にある教会までやってきた。

言われた通り、日が頂点にある時、教会の扉を開ける。

そこにはアデルさんとマクスウェル陛下がいた。


「あ、お久しぶりです。 コウキさん」


「お久しぶりです。 アデルさん、とマクスウェル陛下。 内政の方は大丈夫なのですか?」


「はい。やっと一区切りつきまして時間にも余裕ができました。 こうして英雄である貴方と会うことができました」


「英雄だなんてよしてくださいよ・・・。 それで、今日はどういったご用件ですか?」


「それは私から話させていただきます」


声を上げたのはマクスウェル陛下だった。


「・・・陛下が私に? それはなんでしょうか?」


俺は救った恩人の一人であるとはいえ、相手はこの国の王の立場である人。本人は公の場以外では礼をきにしなくていいと言っているが、口のきき方には気をつけないと・・・。あと、一国の主が俺に何の用があるんだよ。こええよ。

無意識に身構える。


「実はですね、この前の戴冠式の時に魔法学院からの使者から案内を頂きまして、以前コウキさんは魔法について興味があるとエリ殿から聞きました。 どうでしょう。入学してみませんか?」


魔法学院・・・なにそれめっちゃ面白そう。あらたな景色にも出会えそうだし、どんなものが待ち受けているのか・・・。魔法って言うんだから、絶対前の星では見れなかったものが見れるはず。行かない手はない!


「でも学費とかあるのでしょう?」


「大丈夫です。私どもが費用を出します」


アデルが言う。


「でもお高いのでしょう? さすがに気が引けます」


「大丈夫です。帝国の財源を舐めないでいただきたい。コウキさん一人くらいの学費なら私どもが自由に使える財源から余裕で支払うことができます」


アデルが付け足す。


「でも俺には魔力の才能のなんてないし・・・」


「安心してください。才能がないと分かってもそこでいくらでも学べるよう私が推薦状を書きましょう。思う存分楽しんできてください」


マクスウェル陛下が言う。


「じゃあ行こうかな!」


こうして二人にのせられたかのように、俺の魔法学院への入学は決まったのだった。



_____________________________________________



「上手くいきましたね」


コウキ殿がこの教会を去った後、アデルと私の二人だけとなった。


「はい、マクスウェル様。これでコウキさんをこの国から離れてくれることができます」


「コウキ殿には本当に申し訳ないことしました。私たちにとって命の恩人であるあの方に・・・」


「マクスウェル様。 これは仕方のないことです。 人族至上主義派の残党をいまだ掃討することができず、貴族にも我々穏健派をよく思わない者もいます。 接触者はまだいませんがいつコウキさんを手中におさめようとする者も出てくるやもしれません」


確かに。戴冠式も終わり、現在私たちがこの国を治めているがまだ始まったばかりで盤石ではない。

皇帝の座を虎視眈々と狙う輩はこの国にはいくらでもいることは私が物心つくときから理解していた。コウキ殿はあのバゼットとも渡り合った強者。その力があれば、この国を揺らすことなんて容易い。万が一でも、他の者に旗頭にされて敵対されてしまったら私たちに勝ち目はない。


「今は一日でも早く現体制を整え、この国の内部を固めることが大切です。それまでコウキさんは、比較的安全な場所に避難していただくということで・・・・・・これは絶対に厄介払いということではありません!」


「そう、ですね・・・。私たちにとって都合のいい口実ではありますが、真実でもあります。アデル。ここからは一日も無駄にすることはできません。コウキ殿がこの国に戻ってくるまで何としても力をつけておきましょう。ついてきて、くれますね?」


私は幼い時から仕えてきてくれた従者であり騎士であり友人であり、そして恋人でもある者に向かって言う。


「ええ。ええ! もちろんですマクスウェル様! いつまでも御身の側に・・・我が一生をかけてお供させていただきます!!」


いつまでも変わらぬ忠誠心を示してくれる彼を愛おしく思いながら、私は扉に向かって歩き出す。

父を蹴落としてまでこの国の皇帝になったのだ。この国に住む全ての種族、全ての民。絶対に皆が幸せになれる国を。我が理想郷をなんとしても完成させてみせる。






そう、絶対にだ。











ここまで読んでくださっている方がいれば本当にありがとうございます。


更新がかなり遅めですが、なんとか一つの区切りまでたどり着くことができました。

これもこの作品でも読んでくださる読者の皆様のおかげです。

当初、まさかブックマークを付けてくれるとは思いませんでした。ブックマークがついたのをはじめて見たときは驚きとともにこんな作品でも読んでくれる人がいるのだととても嬉しい気持ちでした。

それと同時に大きな勘違いをしていました。

当初はポイントとか評価が見たくなく、受け付けない設定でしたが、ブックマークがついただけでもポイントが付くことは付いた時初めて気づかされました。

そこで、せっかく見てくださる方もいるし、ブックマークもしてくださる方もいるので丁度区切りがいいここから評価ポイントも受け付けることに致しました。

もし、御手隙であるならば1ポイントでも5ポイントでも入れてくださると幸いです。


ここからも更新はかなり遅めで続きます。(頭の中ではストーリーが組まれているんですけどねー)

この頭の中の妄想が続く限り、この物語を作り続けていきたいと考えています。

よろしくお願いします。

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