決着
まさか戦艦の主砲すら効かないとはな・・・
もう驚きを通り越して感嘆の意を相手に捧げるくらいの境地まできていた。
威力は申し分なかったはずだ。現に城は半壊状態、俺のいたエントランスホールには壁や天井というものは既になく陽の光が直に当たる状態。いつ崩れてもおかしくはなかった。
それなのに、一番爆心地から近かった対象が傷一つなく俺の前に立ちふさがっていやがる。
化け物かよ・・・
先ほどの創造でかなり脳に負担が来たのだろうか頭痛がひどい。もうアドレナリンで我慢とかできる範囲のものではなくなったのだ。眩暈もする。フラフラな状態で今すぐにでもぶっ倒れて寝てしまいたい気分だ。
だが、奴がまだ生きている。
帝国騎士団長バゼット! あいつを倒さない限り、この革命は失敗に終わってしまう。そしたらエルム族のみんなやあの森に住む人たちがひどい目に遭う。
そんなことはさせない させてたまるか!
ズキンズキンと痛む頭を無視して創造する。
ここら一帯を消し飛ばせるくらいの力をもっと・・・もっと!!
創るはミサイル。今度こそ、確実に相手の息の根を止められるよう、威力は最大に、この城も木端微塵になるくらいに・・・
右手部分は光に覆われ、ミサイルの原型が創られていく。
そして光が収束すると同時に、ミサイルが完成した。
標的に当たるか壊れると起爆するように創った。右手で胴部分を掴みながら振りかぶろうとした、
その時
「デザイアああああああああああああああああああああああああ!!!!」
バゼットの雄叫びが半壊した城のなかでも響いた。
なにか魔法の名前なのだろうか・・・まあいいや、今更知るか!
この一撃で決着がつく。もう頭痛や眩暈で創造はできない。視界はぼやけ始め、立ち眩みで今でも立ってるのが不思議なくらいだ。
この攻撃も防がれたらもう諦めるしかない。この攻撃が今の俺の全力。防がれたら潔く負けを認めよう。
だが、負けは認めても無抵抗で首を差し出すつもりはない。最後まであがいてやる!
バゼットがなにか魔法を叫んだあと、変化が生じた。
バゼットの体から光輝くオーラのようなものが湧きだし。右手に持っている大剣の刀身からも輝きが出始める。
「認めよう・・・貴様は、強い!」
バゼットは左手につけていた大盾を外し地面に放り投げた。
「ここまで我を追い詰めたのはコウキ、貴様が初めてだ」
両手で握った大剣をゆっくり振り上げる。いわゆる、上段斬りの構えだ。
「貴様を我が最大の好敵手と認め、我が最強の一撃をもって葬るとしよう」
振り上げた大剣から輝きが増す。倍近く刀身が伸び始め、振り下ろしたら俺を真っ二つにできるくらいまで伸びた。
大気が震え始める。身体が小刻みに震える。
これがあいつの奥の手か・・・・・・・・・・・・いいだろう、かかってこい
「「勝負」」
俺は再度右手に力を入れ、ミサイルを鷲掴み、振りかぶる。
「くったばりやがれえええええええええええええええええっ!!」
バゼットに向かっておもいっきりぶん投げる。
ミサイルの燃料に関しては考えていなかった。そのため、ミサイル自体に推進力はない。
しかし、俺の強化した腕力ならば十分な速度で飛ばせる。
俺が投げたミサイルはまっすぐバゼットの方へ飛んで行った。
どうだバゼット! この攻撃ならどうだ? この攻撃なら弾くことはできないし、壊しても爆発する。さらに威力も申し分ない! 防ぐことはできないぞ!
俺が投げたミサイルは真っ直ぐバゼットの方へ向かうと同時に
「帝国剣術――最終奥義、旧式 ”桜” !!」
倍以上に膨れ上がった刀身が上から降りてきた。光輝く粒子を散らしながら。
不覚にも綺麗だと思ってしまった。太く伸びてる刀身は大樹の幹のようで、散っている光の粒子達はまるで花びらのようだった。
だが、それの正体は向けた相手をこの世から消し去ることができるほどの力を持つ攻撃だった。
以外にも、絶望感はなかった。だって自分の攻撃に自信があったからだ。俺の力はこの攻撃にも打ち勝つはずだと自負している。
「どちらが強いか白黒はっきりつけようじゃねえか・・・」
ミサイルがバゼットに迫る。
煌めく刀身がミサイルと俺に迫る。
ミサイルと刀身がまさに接触しようとした――その刹那
「そこまでよ!! 二人とも!」
聞き覚えのある声が近くから聞こえてきた。
声のしたところに視線を向ける。
エリがいた。
なぜエリがここに? いやそんなことはどうでもいい。ここにエリがいるとまずい!攻撃に巻き込まれてしまう!
何している!? 早く逃げろ!
口に出す暇はなかったがその意を込めてエリを睨みつける。が、そこでエリが手にしている物に気づいた
エリは片手には弓ではなく、木でできた杖のようなものを持っていた。
「二人ともやりすぎよ! 少しは周りを見なさい!!」
木でできた長杖を前に掲げると、エリの周りで風が吹き荒れ始める。そして
「رياح عاصفة ، عاصفة !!」
・・・今なんて言った? 分からない・・・。 意思疎通の能力で言語の壁はなくなったはずなのに・・・。
エリの発した言葉?は俺の脳では理解できなかった。
それよりもエリがその言葉を発した瞬間、身体が吹き飛ばされそうになるほどの突風が俺とバゼットを襲った。
なんだこの風は!? 足にいくら力を入れても、重心を下げようと腰を低くしても、気を抜いたら吹っ飛ばされそうな力を持っている。普通の風じゃない!
完全な受け身大勢になり、嵐が過ぎ去るのをただ待つ。
やがて風が徐々に収まり、ようやく辺りを見渡すことができた。
周囲はさっきと変わらず半壊の城の大きく開けた場所だった。周囲の景色に変化はなかった。
・・・あれ?俺のミサイルは・・・・? バゼットの攻撃は? 爆発は?――
現在の状況に理解が追いつかず、頭が混乱する。
同じような思考をグルグル繰り返しながらバゼットの方を見る。
バゼットも何が起こったのか分からず、驚愕した面持ちでただ、ただ自分の振った大剣を眺めてた。
「コウキ!」
エリが俺の方へと大股で歩み寄ってくる。
「エリ・・・どうしてここに――」
「このおバカ!」
「いてっ!」
俺の頭頂部に衝撃がくる。別に痛くはないが無意識にそう呟いた。
どうやらエリに拳骨をくらわされたようだ。
「やりすぎよ! 一番大変なことをたった一人で任せてしまった私たちの方が悪いけど、少しは加減を知りなさい!!」
「い、いや、だ、だって・・・そうしないとバゼットに勝てな――」
「あなた、この城もろとも消し飛ばす気だったでしょ!? 昨夜の話忘れたの!? 城にいる人たちは殺しちゃダメよ!! 忘れているでしょ!?」
城にいる人たち? 人・・・人・・・メイドさん、執事・・・・。
・・・。・・・。あっーー!!!!!!
「ああああああああああしまったああ!! エリ!!大変だ!! 城にいる人たちを巻き込んでしまった! どうしよおおお?!!」
やっべえええええ! 一般人の存在をすっかり忘れてた!! 闘いに没頭するあまり、周りのことや作戦のことをすっかり頭から抜けてた!
現状を認識して、あたふたしている俺を見たエリはため息をした後に続けてこう言う。
「安心してコウキ、城にいた人たちは無事よ」
エリの言葉を聞き、理解するのに一瞬かかり、ガバっとエリの方を向く。
「それは本当か、エリ!」
勢いあまり、エリの肩を掴み、嘘ではないかと問い詰める。
「いたた・・・ほ、本当よ!本当だから!・・・ちょ、痛いから離して!」
「あっ・・・ご、ごめん。 つ、つい、うれしくて」
「もう! 本当にしょうがない人なんだから・・・」
エリは掴まれてた右肩の部分をさすりながら俺から少し距離を取る。
俯いてて分からなかったが、今わずかに頬を赤らめていたような・・・いや、気のせいか。そんなわけない、気のせいにきまってる。
「貴様、何者だ・・・。どうやって我が一撃を止めた?」
今まで自分の体験を呆然と見つめ黙っていたバゼットが、ようやく口を開いた。
「あなた、誰? まさかアデルが言ってたこの国の騎士団の人?」
「いかにも我はバゼットという・・・貴様の名前は何と言う?」
「エリよ! エルム族のエリ!! 覚えておきなさい!」
「むう・・・エルム族であるか・・・かの一族は古の時代、風の魔法を得意としてたと聞く」
「そうよ! あなた、なかなか勉強してるじゃない!」
「先ほどの我が一撃を止めた風魔法・・・あの威力と聞きなれない呪文・・・古代魔法であるか」
古代魔法?現代魔法となにか違いがあるのかな?
俺はそう考えながらエリの方を見る。
エリはその言葉を聞くとニっと口の端を上げ笑う。
「正解よ、バゼット。 エルムに伝わる古の風の詩よ。まだ、闘いを続ける気ならもっと見せてあげるけど・・・どうする?」
エリは杖をバゼットに向け挑発する。意外と好戦的だ。
・・・いや、ダメだダメだ! 確かにエリのあの魔法はすごかったし、バゼットの奥の手や必殺技なら止められるかもしれない。だけど、盾を持ったバゼットの脅威は一撃による攻撃力ではない。何をも通さぬ防御力の高さと、その体躯に似合わないスピードだ。現に俺の速度についてきたのだから。
かのスピードで迫られたら魔法使いであるエリはひとたまりもないだろう・・・ていうか俺には闘いを止めろって言ったのに自分はいいのかよ!
エリの矛盾している行動に若干憤りながらも、俺はエリを隠すようにバゼットとエリの間に入り込む。
「ちょっとコウキ!」
「エリ、ダメだ! バゼットは強い。 俺に任せてくれ」
「あなたに任せるとまた周りのこと忘れて大規模な攻撃をするでしょ?」
「こ、今度は大丈夫! 大丈夫だから・・・」
エリと押し問答を続けていると。見かねたかのように別の声が助け舟を出す。
「もう闘う必要はありませんよ、お二方」
声のする方へ向く。
アデルであった。
「それは本当ですか?アデルさん・・・でもあなたがここにいるってことは――」
「お察しの通り、無事に囚われた者たちの救出には成功しました。コウキさんが時間を稼いでくれたおかげで全ての作戦が終了しました。革命は成功といっていいでしょう。この場を治める方法ももうあります」
「え、それは本当ですか?」
「安心してください、策はあります」
アデルは俺たちにニコリとイケメン笑顔でそう言うと、バゼットの方に向き直る。
「マクガフィム卿! 闘いは終わりです! 投降してください!!」
「む・・・貴様は・・・シスフォニアのアデルか・・・。我はまだ敗北しておらぬぞ・・・」
「いいえ、貴殿たちの負けです。現皇帝の身柄を拘束させて頂きました! 皇位簒奪はなしえました!! この革命は我々の勝利です!」
いつの間に皇帝を捕まえていたとは・・・。当初の作戦だとアデル達の主である・・・マクスウェルさんだっけ?・・・その人の救出がメインだったはずなのに。
本当にあの数で革命を成功させるとは・・・すげえなこの人達。
「むう・・・」
バゼットは低く唸った後、天を見上げる。
「そうか・・・我は負けたのか」
時刻は丁度昼になるころ。陽の光が容赦なく俺たちを照らす。
「主を守れなかった騎士団にこれ以上の抵抗は無意味・・・投降しよう。我々の負けだ」
バゼットの握る手が緩み、大剣を地面に落とす。
こうして、後にフューアの革命と呼ばれたこの騒動は激しく、そして静かにあっけなく終わりを迎えた。




