現代兵器
ドゴオオオオオオオォォォ-ン!!!
これで何回目の轟音と地響きだろうか・・・?
ルドワたちと地下牢獄で合流した後、囚われた人たちも全て連れて地下牢獄の入り口である一階まで登ってきた。ここまで来るのに何回もはるか上の方からこの音と振動が身を震わす。
まるで、何かと何かが強く何度もぶつかるような音・・・上層階ではいったい何が起きているの?
「エリ! 何をぼさっとしておる! はよこっちへ来い!」
ルドワが私を急かす。でも、もし私の堪が間違っていなければ、この音を発している者はおそらく・・・だとしたら加勢しないと・・・。
「エリ、エリよ。 気になるのも分かる。助太刀に行きたい気持ちもわかる。 じゃが!今儂らが真っ先にすべきことはなんじゃ? 囚われていた同胞たちを連れて危ない場所へ向かうのか? 違うじゃろ!儂らが今すべきことはこの者たちを安全な場所まで避難させることじゃ! そうじゃろ!?」
「・・・ごめんなさい、ルドワ。 そうよね、今私たちがすべきことは多くの仲間たちを避難させること。危うく優先すべきことを間違えるところだったわ」
闘争心は高い方であるルドワが避難が優先だと言っている。もしかしたら私よりも上へ行って加勢してやりたいという気持ちが大きいかもしれない。けど、それを抑えている。その抑えが焦りと苛立ちで表れているのだろう・・・。
「すまないエリよ、声を荒立ててしまって。お主の上へ行きたいのも分かる。じゃが、今は避難が優先じゃ」
「私もそう思います」
誰かが話に割って入ってきた。
声の主はアデルだった。
「私も今は囚われた者たちを安全な場所へ移動させるのが重要だと思います。それに我が主、マクスウェル様は大変疲弊されています。ここは一度体勢を立て直したい所存です」
私たちもまだ余力はあるのだが万全ではない。しかも私たちよりもはるかに衰弱している元囚人たちもいる。
ならば、まずは元囚人たちとアデルの主人を安全な場所に避難させる。そしたらすぐにコウキのところへ行こう。
「急ごう! 早くコウキを助けに行きたい。 アデル、その安全な場所に案内して!」
「分かりました、こちらです。 さあ急いで!」
待っていてコウキ! もう少しの辛抱だから・・・頑張って!
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「ヌウウッリイイイイアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
雄たけびと共に重い一撃が俺に向かってくる。
"反射"!!
歴戦の強者が振るう剣捌きは鋭く、今の俺では避けることができない。その一撃を真っ正面から受ける。
ほんとはテレポートでかわせるようにしたいのだが、テレポートをするとみている景色が変わってしまう。変わると自分の位置を把握するのに一瞬時間がかかる。その一瞬の隙をこの男が見逃すわけがない。あと、テレポートも多用してしまうとすぐ頭痛を引き起こしてしまう。もうすでに頭痛を我慢している今は、攻撃用の創造の方にリソースを回したい。
俺の周囲に纏う不可視のバリアと大きな大剣がぶつかり、火花を散らす。
轟音が鳴り、火花が散れた後相手は後方へ吹っ飛び、壁に激突した。
もう何度目かによる衝突、今回も相手が吹っ飛んでいってくれたがそろそろ限界だ。
ふと周りを纏っているバリアを見る。
光の屈折で一瞬だけその姿が見えるバリアはひどくひび割れていた。おそらく、あと一回ぐらいの衝突で粉々に砕け散るだろう。
これは早々に決着をつけないとやばいかもしれない。しかし、こちらの攻撃も未だ決定打になっていない。
これまで隙があるたびに思いっきり殴る蹴るをしてきたが、その大半があの大盾に防がれてしまった。思い付きで創造した剣や槍で攻撃しても、あの大盾を突破することはできなかった。
というか俺の力と速さ任せの攻撃は全ていなされてしまっていた。
さて、どうするべきか・・・そろそろアレを使ってみる機会なのか――
「どこを見ている、コウキよ。 私はここだぞ?」
「――っ!?」
しまった! 考え込んでしまった!
背後から声がした。バゼット! いつの間に・・・!
「剣技、エンドスラッシュ!!」
強烈な衝撃が横っ腹に来た。
ピキ・・・ピキピキ・・・パリ―――――ン!!
ついにバリアが砕けてしまった。
吹っ飛ばされるものの、なんとか大勢を立て直す。迷っている暇はない。今こそ使う時だ。
俺は創造する。
「何をぼさっとしているコウキよ!! 初めの威勢はどうしたああああああああ!!!!」
叫びながらバゼットは神速でこちらに詰め寄る。その刹那、俺は創った物の引き金を引いた。
パァン! パァン! パァン!
乾いた音が三度鳴る。
そう、俺が創ったのは片手で持てる黒色の拳銃であった。
銃に関してはあまり詳しくないが、形は映画とかでよく見るオートマチックのハンドガンであり、弾は俺が想像できる限り、尽きないようになっている。
さらに撃つ時、貫けと念じている。これならば奴の大盾も鎧も貫ける!・・・っと思っていたのだが
「なんだその妙な物は? 魔道具か?」
鎧どころか大盾も貫けなかった。発射された弾丸は空しく大盾にめり込んでいた。
さすがに浅はかだったか・・・。てか、あの一瞬で防ぐかよ普通!
「それが貴様の奥の手だったのか? ならば、とんだ肩透かしだな・・・もう何もないのか? ならばこちらは奥義をみせてやる!!」
バゼットが腰を低くし、大盾を前に出す構えをとる。何をするつもりだ?
「いくぞ!!」
いつの間にか俺の眼前にはあの大盾が迫っていた。バカな! 奴の動きに反応できなかっ――。
脳に衝撃がくる。視界が揺らぐ。俺の見ている世界がグニャグニャと歪んだ。
「終わりだ・・・。帝国剣術、奥義――デッドリースマッシュ!!」
歪んだ世界で見た光景は大きな体が煌めいた刀身を縦に振り下ろす姿であった。
・・・。 ・・・。 ・・・。
あれ? 意識がある・・・。
まだ俺は死んでいないのか。
どうやら俺は仰向けに寝転がっているようだ。すぐに起き上がろうとする・・・が、できない。
視界はいつの間にか安定していた。辺りを見渡す。
大きく開けた場所だ。記憶からこの場所を推察するとここは城の一階の大広間だろう。
ふと、自分の身体を見る。
そこには左肩から腹までパックリと裂けた胴体があった。これだけ裂けているはずなのになぜか出血はしていない。自分の身体、相当弄ったもんなあ・・・。これは自分が人外であると証明する明らかな状態であった。
変な感傷にひたるのは止め、とりあえず修復と念じる。しかし、傷がかなり深いため、なかなか元通りになってくれない。
ドオオオオオオオオオン!!!
何かが空から落ちてきた。
「馬鹿な・・・まだ、息があるのか・・・?」
落ちてきたのはバゼットだった。こちらを驚愕した目で見ている。
「やあ・・・とりあえず起き上がるまで待っててくれないかな?」
思わず軽口を言ってしまった。だってそうなっている自分自身でさえ驚いているし、信じられないもの。
「・・・随分とおかしな体をしているのだなコウキよ・・・。悪いが我はこれからやることがたくさんあるのでな・・・今度こそ引導を渡してくれる!」
バゼットはそう言うとゆっくりとこちらに向かって歩を進める。それは俺にとってすごく好都合なことであった。
人は勝利を確信すると必ず油断する。それは帝国騎士団長であっても例外ではなかったようだ。
まあ、分からなくもないよ。だって俺の身体、縦に割れちゃってるもん。見るからに瀕死の状態だし、現に動けないし。
でも、動けなくても創造はできる。油断したなバゼットさんよお。そんなにゆっくりしてて大丈夫かあ?
俺は創造する。
そして、俺の側の空中空間からそれは突如出現した。それは渦巻いた円形の物体で何かのゲートのようにも見える。青白く今はただグルグルと渦巻いている。
「なっ!? 貴様、その状態でまだ何かするつもりか!」
こちらが何か企んでいることに気づいたバゼットが慌てて一気に近づいてくる。が、もう遅い!
渦巻いたゲートの中心から何かが出てくる。それは、内径120㎜の大きな筒であった。
堪のいいバゼットはそれが先ほど見せたハンドガンと同じで物体を高速で飛ばず物だと即座に察したのだろうか接近を止め、盾を前に構える。が、その判断は間違いだったようだな。
さっきの豆鉄砲とは威力が違うんだよ!
「120㎜対戦車砲――発射!」
俺の号令とともに耳をつんざくような轟音と衝撃波が襲来。
ズンっとした衝撃は体内の骨にまで伝わり、埃を捲き上げ、砲弾はまっすぐバゼットの方へ向かう。
バゼットぐらいの超人だったら避けられそうでもあったが、そうでもなかった。
あえて受けるつもりだったのか、バゼットは正面から盾で砲弾と接触、受け止めた。そして、金属と金属がぶつかり合う独特な音を鳴らし、砲弾を横にはじいた。
「ふっ、ふふ、フハハハハハ! どうやら私の勝ちのようだなコウキよ!! 貴様の奥の手をはじいてやったぞ!! これで貴様もなにもできまい! おとなしく観念し・・・ろ・・・」
まあ、お前くらいの超人だったら俺の強化ハンドガンを防いだ時から対戦車砲ぐらい楽々しのげると思ってたよ。思っていたから・・・次の創造はもう完成しているぞ。
今のは前座。ここからが本番だ。
バゼットを四方から囲むように大きなゲートを4つ創る。
生み出すは戦艦の主砲。
「46㎝三連装砲4基12門、展開」
ズキンズキンと頭がかち割れそうな痛みがくるが知ったことか。
巨大な戦艦すら轟沈させるようなエネルギーを持つこの攻撃をどうやって凌ぐか見せてみろよ。
・・・これ撃ったらこの城吹き飛んじゃうかなあ・・・・。
・・・。
まあいっか
「消し飛べ」
今度の発射は音が聞こえなかった。
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我の奥義をくらったコウキは、その衝撃で城のエントランスホールにまで落ちていったようだ。
コウキの生死を確かめるため、我もエントランスホールへ落ちる。
案の定、コウキはまだ生きていた。
胴体が縦に割れた状態でも平気な顔をしていた。
もしかして、こ奴は魔族なのではないだろうか・・・。並の人間なら普通に死んでいるはずだ。
しかし、どうやら動けない様子。さすがに致命傷ではあったか。
ならばさっさと引導を渡してしまおう。
我はゆっくりと歩を進め、コウキに近づく。それが誤りだった。
コウキの近くに突然ゲートのようなものができた。一瞬の出来事であった。もう何もしてこないだろうと油断していたので、面をくらってしまった。
長く、戦場を離れてしまっていたせいなのか、戦闘の堪がかなり鈍ってしまっていた。以前の我なら、動けない敵でもさっさと首を刎ねていただろう。
油断、慢心、怠惰。それらがこの状況で歩くという選択肢に導いてしまった。
己の不覚を改め、すぐさまコウキのもとに近づこうとする。が、やはり後手に回ってしまった。
ゲートから出てきたのは大きめの黒く、長い筒であった。その形状だけで我は先ほどコウキがもっていた高速で物体を飛ばす魔道具と同じものだと推測した。
我は咄嗟に盾を前にだす。
あの筒の直線上に立てば飛来する物体に当たるのだろう。ならば、その直線上から外れるように横に避ければいい話。
しかし、我はそれをせずに受け止めようとする。これも全ての攻撃を防御できるという我の自信の現われなのか、もしくは慢心なのか。
ただ、これだけは思う。やつに勝ちたいと。ただ勝つのではない。やつの奥の手を全てしのぎ、完全なる勝利を我は欲していた。
ここまで我と相対できたのはコウキ、お前が初めてだったのだ。今までの戦場では貴様のような好敵手には巡り合えなかった。我が前に出れば、敵は恐れおののき、逃げていった。蛮勇な奴はもちろんいた。だが、たいしたことなかった。我がこの大盾で防がずとも向かってきた槍が、剣が、斧が、矢が全てこの鎧の前では無力であった。我が剣を一振りするだけで皆倒れ伏していった。
全てが退屈だった。本来戦いとは緊張があるべきはずなのに我にはそれがなかった。戦場になければ、他の場所にあるわけがない。他の場所にいっても退屈ならば家のために城で護衛する仕事につき、機会を待っていた。待ち続けた。
ようやく会えたぞ好敵手。
貴様の拳や脚が我に初めて衝撃を伝えた。貴様が出した剣や槍や魔道具が今まで傷つかなかった新品同様の鎧と盾に初めて傷をつけた。そして、我の一太刀をあびても初めて生き残った。
全てが初めての出来事で新鮮で楽しいぞ!
さあ、今度は何を見せくれるのだ? 何を感じさせてくれるのだ?
いつ我に勝利を実感させてくれるのだ?
轟音と衝撃をだしながら大きな筒から物体が高速で我に向かってくる。
我はそれを一瞬後ろにさがりながら受け止める。
今までに体験したことがない衝撃が我に伝わる。衝撃を抑えたはずなのに全くその意味がなさなかったような衝撃だ。気を抜けば、この大盾が貫かれる。そんな気がした。ぶつかってきたこの物体は無機質なはずなのにまるで生きているかのようにこの盾を、鎧を、我を貫こうとしている。
だが!
この程度ならばいなせる!
我は大盾を持っている腕に力を入れる。
飛来した物体と盾が衝突している点をずらすように盾を動かし飛来した物体の射線軌道を変える。
上手く盾ではじくことができた。
勝った!
我は確信した・・・が、その矢先に
我を囲むように先ほどとは比べ物にならないほど大きなゲートと筒が姿を現した。
黒く重厚な筒は3つに連なっており、それが四方から我に穴を向けている。
驚くべきはその大きさ。人の顔など悠々と入りそうな穴からいったいどれだけ大きな物体を飛ばせるのだろうか。
死
その一文字が我の脳裏によぎった。
初めて感じた
まずい
死ぬ
脳がそれを感じた瞬間、我はたった一つの行動にでた。
大盾の神命を解放することだ。
今使わなければ確実に死ぬ。
我の直感がそう言っている。そう警鐘を鳴らしている!
大盾を掲げながら言葉を結ぶ。
「おお、神聖なる鉄血皇女よ! 数多の厄災を退けるその力で今こそ! 我らと我らの国を守り給え!」
”鉄血の花よ、咲き誇れ!!”
我から半径1メートル内にドーム状の領域が展開される。
この盾を初めて賜った時以来に見たドームは、相も変わらず美しく、そして神々しかった。
金色に輝き、流線形の魔法陣が埋め込まれたドームの四方に、帝国式魔法言語で形作られた帝国の花とされているアイシャの花が飾られ、この帝都を完全に覆いつくすまで展開ができる。
このドームの効果はドーム外からのあらゆる攻撃を防ぐ。魔法も物理も全て、攻撃と判断されたものはどんな事象であれ無効化する。
建国時、隣国と隣国が土地を奪い合う騒乱の世で初代皇帝、いや女帝が己の莫大な魔力を全てなげうって創ったとされる大盾。あらゆる厄災からこの地の民を守ってほしいという願いが込められている。
本来であるならば、戦略級魔術や厄災級モンスターからこの帝都を守るために使用されるが、今回はドームの範囲を極限まで縮めた。そうでもしないとコウキの攻撃をドーム外で発生させることができないからだ。
相当の魔力量と精神力がないと発動できない。かなりの負担になるが仕方ない。
これを使わないと確実に我は死んでいた。
鈍った勘ではあるが、それでも信じて正解だった。
ドーム展開からわずか数瞬後、コウキの攻撃は始まった。
閃光とともに一瞬周りの音が全て消え去った。閃光から視界を取り戻すと、そこはもう我の知っている城のエントランスホールではなかった。
城を支えるはずの内柱がほとんど消し飛び、エントランスホールだったところはだだっ広い空間になってしまっていた。天井や壁のいたるところにひびや穴があり、外の景色が見えてしまっている。
城は半壊、今にでも崩れそうな状態だ。
だが、防いでやったぞ!
コウキ、貴様の奥の手に何度も打ち勝ってきた。もう何もあるまい。
今度こそ、その首を刎ねてこの闘いに終止符を打ってやる!
コウキがいるであろう目の前の煙が舞っているところを睨む。
煙が晴れていく。
そこには
胴体が縦に割れてたはずのコウキが元通りの状態で、右手に円柱のようなもの掴んでいた。




